諸行有常記   作:sakeu

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贔屓の野球チームが連勝して、ご機嫌です。

後、広島の呉市に行ってまして少し投稿が遅れました(精一杯の言い訳)

いやぁ…………46cm砲は本当、大きかったです。


第95話 復帰の日の青年

寺子屋から賑やかな声が聞こえる。

 

今は昼頃だろう。

 

人里自体賑やかなのだが、ここの寺子屋も負けずと賑やかである。

 

寺子屋の外観は、まさに江戸時代などにありそうな木造建築で、知らぬ人は時代劇のセットと勘違いしそうである。

 

廊下から授業を行う部屋に行けば、机を囲む形で、フランと天子とチルノの姿が見えた。

 

 

「あ!先生だ!」

 

 

真っ先に明るい声を発したのは、フランである。その後に続く様にチルノと天子がこちらに目をやった。

 

机の方に目をやると、将棋盤が目に入った。驚いた事に天子とフランが指しているようだ。

 

 

「ふっ。随分とやられている様だが、天子」

 

 

そんな俺の声に、天子は盤上を睨みつけた。

 

 

「わ、私は大人だから子供には手加減してあげてるのよ!でも、意外だわ。フランが将棋が指せるなんて」

 

「いや、お前も指せるのは意外だぞ」

 

「ふふ、私は先生に教えてもらったからね!」

 

 

確かにフランに少し教えたが…………ここまで強いとは…………子供は吸収が早いと聞くが、フランは中でも別格だろう。

 

 

「でも、天子は最初っから、手なんて抜いてなさそうだったけど?」

 

 

とチルノが悪気のない顔で、フォローのしようのないセリフを吐いた。天子はバツの悪そうな顔になり、盤上をさらに睨みつけた。

 

まぁ、チルノが将棋のルールを理解しているのかは怪しいがみんな、仲良く過ごせている様で何よりだ。…………なんだか、自分がおっさん臭く見えてきた。まだ、未成年なのに。

 

不意に、フランは立ち上がり

 

 

「慧音先生に勇人先生が戻ってきたって伝えてくる!」

 

「あら?敵前逃亡かしら?これだと、私の勝ちよ?」

 

「なら、天子が勝ちでいいよ。勇人先生が戻ってきたことを伝える方が大事だもん」

 

 

と満面の笑みとともにそんな事を言って、パタパタと駆け出していった。一方の天子は戸惑いがちに盤上を見つめて、やがて、フランのいた場所を指差した。

 

 

「しょうがないわ。貴方が代わりに相手なさい。フランに教えた貴方に勝てばフランに勝ったのも同然よ!」

 

 

いささか、強引な介錯だが、俺は言われるままに腰を下ろした途端、

 

 

「身体は大丈夫なのかしら?」

 

 

不意の言葉が降ってきた。思わず、顔を向ければ、天子は相変わらず盤上に目をやったままである。驚きで何も言えない俺に

 

 

「人間は脆いんだから、気をつけなさいよね」

 

「そ、そうだな。それにしても、お前が人の心配をするとは…………明日は地震か?」

 

 

気がつけば、チルノは横でスヤスヤと眠っていた。天子もそのチルノを見、

 

 

「私は心配はしてないわ。チルノ達が心配しているのよ」

 

「はは……………………先生失格、だな」

 

 

おれが苦笑まじりに言うと、天子は歩を進めながら言った。

 

 

「珍しいのよ?妖怪が人間にここまで信頼しているのは」

 

 

駒を進めようとした手が、思わず止まる。

 

 

「自分達のせいで、貴方が倒れてしまったなんて思ってるのよ?このままだといつか死んじゃうんじゃないかって」

 

「……………………」

 

「言っておくと、貴方はこの中では最年少よ?妖怪と人間じゃあ、色々とわけが違うのよ」

 

「……………………」

 

「時間切れよ」

 

 

と言い、天子は勝手に俺の飛車を前に進めた。

 

呆気にとられてた俺の前で、その前に出した飛車を角行で奪い取った。

 

それからようやく顔を上げ、ニヤリと笑った。

 

 

「そんなんじゃ、いつまでも心配させたままよ?」

 

「…………随分と言う様になったな」

 

「今までのお返しよ」

 

 

肩の荷が下りた様な気がした。

 

天子はさらにニヤニヤと笑っている。

 

 

「折角、休んでもいいと言われているのに、いつまでも全力疾走してるのが今の貴方よ。時折、他人の言う事を聞いて手を抜かないと長く持たないわ」

 

「お前に正論を言われるとはな…………まぁ、いつも手を抜いてるお前は逆に全力疾走を覚えないとな」

 

 

俺が皮肉を込めて言えば、再びニヤリを笑う。今回ばかりは天子のペースに飲まれているらしい。

 

 

「大丈夫よ。貴方から教わったから」

 

「へぇ…………俺から、ねぇ…………」

 

「そんな事を言ってる場合かしら?見なさい、王手よ」

 

 

天子が強引に桂馬を進めた。無論、桂馬の単独突撃は意味を成さず、俺はその桂馬を粉砕した。

 

今思えば、休日2日と言えども、寺子屋は全部バカ真面目に授業をしていた気がする。休日の日も頭の中にあるのは、授業の事であって、さらに天子の加入によってさらに考え込む様になった。今日も今日で頭の中を占めているのは、休んだ分の授業をどうするかという事なのだから、笑えない話である。

 

 

「天子、ありがとうな」

 

「ん?何か言った?」

 

「さぁ…………」

 

 

王手、と歩を進めた。

 

 

「感謝してくてる割には、容赦ない一手ね」

 

「聞こえてたのか」

 

「よく聞こえなかったのよ。もう一度言って」

 

「くだらない事を言わないで、早く王を逃がしてやれ」

 

 

アホな問答をしていたら、いつの間にか衣玖さんがおりこちらを眺めていた。

 

 

「ふふ、すっかり、勇人先生の色に染まりましたね。総領娘様」

 

 

相変わらず、空気を読んでるのか読んでないのか分からないタイミングで出てくる。

 

 

「どんな色、とは聞きませんが、何をしに?」

 

「様子見ですよ」

 

「それは結構な事で。でも、一方的な試合展開の将棋しかやってませんよ?」

 

 

と王を避難させた天子の飛車を取る。あっ、と天子は若干悔しそうな声を出す。すかさず、俺から奪い取った飛車を置き、こちらの玉将を狙う。

 

 

「それでも見る価値があるんですよ。前の総領娘様なら、将棋で負けそうな時はすぐに放り出してどこかに行ってたんですから」

 

「何よ、私が負けるとでも言いたいの?」

 

 

角行を取られている天子がそんな事を言ってもイマイチ説得力がない。

 

 

「それにしても、容赦ないですね」

 

「天子曰く、俺は常に全力疾走なので」

 

 

「まぁ、手を抜く事も大事だと言われちゃったんでね。明日は授業を無しにしようかと」

 

 

再び桂馬を強引に前に進める天子だが、今度はそれを無視して奪い取った角行で

 

 

「王手」

 

「ふーん、じゃあ明日は何をするの?」

 

「チルノ達がしたい事をやらせるさ」

 

「弾幕ごっこかもよ?」

 

「構わん。兎に角、俺が授業の事を頭から無くせばいいんだから。それに身体が鈍ってるから久しぶりに弾幕ごっこをするのも、悪くない」

 

「なら、総領娘様のリベンジマッチでもしたらどうでしょう?」

 

「成る程、いい案ね」

 

 

と王を逃がしたが、俺は飛車を置き

 

 

「王手。まぁ、2つのリベンジになるな」

 

「え?…………ああ!もう!」

 

「その様ですね」

 

「いいわ!明日、貴方を打ち負かせてあげるわ!覚悟なさい!」

 

 

と言い、部屋から出て行った。苦笑する俺に衣玖さんは一礼した後、天子に続く様に出て行った。

 

取り残された俺は夕焼けの空をただ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

次の日の朝、俺は珍しく自力で目覚めた。時計に目をやれば、まだ7時。

 

普段、朝は滅法弱く、目覚めても身体がだるい日が多い。頭の回転も悪く、ひどい時は何をしてたかさえ忘れてしまうぐらいに。だが、今日はやけにスッキリとした目覚めである。

 

身体は軽く、頭もスッキリとして、今からでも数学の問題を解きまくれそうな気がする。

 

ベッドからでて、洗面所に向かい顔を洗う。そして、普段は時間に余裕がないせいで無頓着な寝癖をしっかりと直す。

 

簡単に朝食を作り、一息ついたところであることに気づく。

 

 

「あれ?俺、もしかして1人で全部やった?」

 

 

何をバカな事を、と思うかもしれない。だが、普段の朝は早苗や妖夢におんぶに抱っこの俺が自力で目覚め、自分で朝食を作ったのである。自分のやった事に自分が一番驚いている。

 

 

「お邪魔します」

 

 

すると、玄関の方から早苗の声が聞こえる。いつもの様に俺を起こしにきた様だ。よくよく考えたら年頃の女の子が男の子の家に勝手に入れる事なんてそうはないだろう。

 

 

「おはよう、早苗」

 

「おはようございます、勇人さ…………ん!?」

 

 

流れる様に挨拶するかと思えば、驚いた様な声を出す。

 

 

「どうした?そんなに驚いて」

 

「い、いえ…………いつもはまだ寝ているはずなのでつい…………」

 

「うむ…………やはり、早起きをしっかりと習慣にする様にするか」

 

「えっ、それだと寝顔を見るチャンスが…………」

 

「ん?」

 

「い、いえいえ!何でもないですよ!早起きは大事ですからね!」

 

「お、おう…………」

 

 

今日は早苗の様子が少し変だ。しかし、早起きが珍しがられるのも良くないな。

 

 

「それにしても、今日は身体が軽いな…………」

 

 

所謂、絶好調と言うのだろうか。調子が良くない事は多々あったのだが、ここまで調子が良いのは初めてだ。病明けだと言うのに。

 

 

「そうですね。思いの外、雰囲気も普段より明るいですし」

 

「明るい…………?」

 

「ええ。いつもは明るいと言うよりは寧ろ、暗い雰囲気が…………目の隈も合わせてさらに…………」

 

「うっ…………やはり、そう言う印象を与えてしまったか…………」

 

「で、でも、勇人さんを知ってる人なら大丈夫ですよ!!」

 

「あ、ありがとう…………それにしても、本当に絶好調だ。身体が軽いと気分もいいな。今なら弾幕ごっこだってしてもいいぐらいだ!」

 

「程々にしといてくださいよ?」

 

「問題ない。その辺はちゃんと見極めるさ。よし、時間も時間だし、早速寺子屋に行くか!」

 

「行ってらっしゃい、勇人さん」

 

「おう!いってくる!」

 

 

と戸を勢いよく開け、寺子屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます!勇人さん!」

 

 

空を気持ちよく飛んでいると上から声が聞こえた。声の主からして射命丸文だろうか。

 

 

「おはよう。何の用だ?」

 

「いえ、少し取材を…………」

 

「いいぞ」

 

「そうですか。今回もダメですか…………えっ?」

 

 

勝手に落ち込んだかと思えば間の抜けた顔をこちらに向けた。

 

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ」

 

「本当ですか?」

 

「くどい。取材を受けないぞ?」

 

「い、いや、普段は拒否するので…………どんな心変わりで?」

 

「今日は機嫌がいいんだ。その機嫌が変わらないうちにしないと、知らないぞ」

 

「あやややや、これは珍しい。最近、良い事が?」

 

「それは取材か?」

 

「ええ、で何かあったんですか?もしかして…………早苗さんともう、大人に…………」

 

 

ふざけた事を抜かす文に軽く頭を叩いた。あいたっ、といった後

 

 

「それは、まだ、と言う事ですね」

 

「そもそも、お前は何を書いてんだ?」

 

「そうですね…………最近は勇人さんの性事情を、と思ってたんですが…………何もないんですよね」

 

「……………………」

 

「ヒィ!ごめんなさい!ごめんなさい!謝りますからその銃をしまってください!や

 

「はぁ…………何を書いてくれようとしてんだ」

 

「あれは嘘ですから。本当は勇人さんの好みを」

 

「ほう…………」

 

「えーっと、最初はロリがお好み「ちょっと待て」なんですか?」

 

「俺はロリコンではない」

 

「はい、だから"最初は"と。貴方がフランやチルノを見る姿はロリコンというよりかは父性的ですからね。その線は消しておきました。で、妖夢さんからの取材で、貧乳がお好みと」

 

「オイ!」

 

「あれ?違いますか?」

 

「い、いや、その…………確かにスレンダーな方が好みとはいったが…………」

 

「じゃあ、貧乳が好きなんですね」

 

「まず、その話題をやめろ!」

 

「うーん、でも、早苗さんからは大きい方が好きなんじゃないかと聞きましたし…………」

 

「早苗まで何を…………」

 

「大丈夫ですよ!勇人さんだって男の子ですから!」

 

「いい加減に…………」

 

「で、どっちが好みで?」

 

「は?」

 

「貧乳か巨乳か」

 

「は?」

 

「だから、きょ「分かってる!」…………なら答えてくださいよ」

 

「も、黙秘権を…………「取材を受けると言ってくれましたよね?」…………お、俺は…………」

 

 

 

 

 

「やっぱり、ダメだ!」

 

 

と、俺は全速力で寺子屋へと向かった。

 

 

「あ!逃げるのは無しですよ!」

 

 

ガシッ!

 

 

「ぬぉ!?」

 

「速さで私に敵おうだなんて、人間では一生無理ですよ?」

 

「むぅ…………」

 

「さ、答えを!」

 

「ぐっ…………俺は…………」

 

 

 

 

 

 

次の日の文々。新聞は様々な人が注目したとかしなかったとか。白髪の剣士が大いに喜び、緑髪の巫女が衝撃を受けたとか受けなかったとか。


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