目が覚める。軽い吐き気と頭痛がする。周りを見てみれば一面紫色の花弁によって埋め尽くされていた。
ぬぅ…………何があったんだ?
えーっと…………
〜回想〜
「大丈夫か?フラン、立てるか?」
倒れているフランに声をかけ、手を差し伸べた。もうこの時にはチルノ達は居なかったけな…………
「う、うん…………」
若干戸惑いながらもその手をつかむ…………そうそう、掴み上げた後フランよりも目線が低くて軽くショックを受けたな。
「ほ、本当に勇人先生なの?」
「ああ、さっき言った通り、薬のせいでこの有様だ」
「本当に小さいねぇ…………」
自分よりも小さい俺が新鮮なのか、頭を撫でるフラン。そんなに頭を撫でるのが楽しいか?
「えへへ、弟ができたみたい」
「ハハ、やっぱり俺って小さいか」
「うん!」
満面の笑みでそう言われてるとなぁ…………
「それじゃあ、帰ろう?先生」
「ああ、帰ろうか」
とフランは俺の手を握る。あまりにも自然な動きだったのでそのまま帰るところだった。
「…………なぁ、手を繋がないとダメか?」
「え?いいじゃない!」
「お、おう…………」
結局は繋ぐことになったんだけどな。で、そのまましばらく歩いたら…………
「なぁ、こんな所通ったけ?」
そう、一面黄色だった場所から一転、一面紫色の草原と変わっていた。
「う、うーん、迷子かも…………」
「マジか?そもそも、歩かずとも空を飛んだ方が速かろうに…………」
さっきの幽香との戦いのせいか物凄く眠い。小さい体はすぐ眠くなるからなぁ…………
「ちょっと疲れたかな…………何だかとても…………眠…………い…………」
バタッ
「先生?先生!……せい!」
そこで記憶は途切れている。何で倒れたんだ?
「あ、本当に目覚めた。人間の子のなのにスーさんの真ん中で目覚めるなんてタフね」
目の先にはフランと同じ金髪のウェーブのかかったショートボブの女の子が。頭には赤い蝶リボン、服は赤と黒を基調としている。
んー…………どうなったんだ?
「あー…………ここはどこかな?」
兎に角場所を聞くことにした。はっきり言って今どこであるのか皆目見当もつかない。
「スーさんの咲いているお花畑よ」
「スーさん?」
まさか、俺は釣りバカの世界にでも迷い込んだのか?釣りの仕方知らないぞ?
そんな、アホな事を考えてるのがバレたのか
「スーさんってのは鈴蘭の事よ」
「あぁ…………成る程ね」
何とも子供らしい事だな。
とりあえず、立って周りを確認する。今気づいたのだが彼女はとても小さいようだ。今の状態の俺よりも背が低いからな。
周りを見れば、一面鈴蘭…………そういえば鈴蘭には毒があったな。確かコンバロトキシンだったかな?
先程の発言が気になるがこの毒は摂取さえしなければ問題ないはずだ。
「ところで貴方はなんて言うの?」
「碓氷勇人だ。貴女は?」
「私はメディスン・メランコリー!貴方は何処から来たの?」
「ん?それは向日葵ば…………」
今思い出した、フランは!?どこに?
「ふ、フランはどこだ!?」
「あの娘の事?」
と指差す先にはフランが倒れていた。
「ふ、フラン!」
「しっ!今は寝てるのよ?」
「お、おう…………悪りぃ」
それなら良かった。
「で、貴方はこれからどうするの?」
「ああ…………」
今の場所が分からないこの状態では…………元の体なら空を飛んでどうにかなるだろうが…………防衛の手段が無い今、フランを抱えて歩くのは無謀だ。
「うーん、どうしたものか…………ところで君はどこに住んでるんだ?」
質問を質問で返す。テストなら0点の回答だな。
「ここに住んでるわ」
「ここに…………?」
いや、ちょっと待て。こんな所に住んでいる、それに格好が里の人達とは違うし…………それに俺の事を"人間の子"と呼んだ。と言うことは…………
「君は人間か?」
「人間と一緒にしないでくれる?私は妖怪よ?」
「はぁ…………。俺を喰う気は?」
「?何で貴方を食べないといけないの?」
「何でも無い。さっきの言葉は忘れてくれ」
「変なの。でも、いいわ。どうせなら私とお話しましょ?」
うーん、できればお話の前に人里に戻る方法を教えて欲しいのだが…………然りとて、今の俺では彼女に勝てない。ここは素直に言う事を聞くとしよう。
「ああ、いいぞ」
「やったー!スーさん以外とお話しするのは久し振りね」
と言うことはずっとここに1人なのか…………
「…………でね、人形の地位向上をしようとしたんだけど閻魔様に『人形が解放されたら、誰が人形を創る?貴方以外の人形が、貴方の小さな心に付いてくると思っています?そう、貴方は少し視野が狭すぎる』って言われちゃって。それだと典型的な人間と同じだって。だから、たまにここから離れて視野を広げようとしてるんだけどよく分からないわ。貴方なら分かる?」
メディスンの経歴や俺が来る前に起こった異変の事云々…………
メディスンは元々は捨てられた人形だったらしい。
それにしても閻魔様はこの娘に中々小難しい事を言うんだな…………
あ、ちなみに彼女が積める善行は『人間に対する憎しみの念を消す』らしい。
「俺もよく分からないが…………まぁ、よく知らず勝手に人を判断すべきでは無いと言う事なんだよな?」
「そうなの?」
「君の話を聞くと確かに人間を恨む気持ちも分かる、が、君が人間を判断する材料はその捨てた人間のみなんだろ?人間が全員その捨てた人間のようなわけが無い。もっと人間の事を知ってから判断すべきなんじゃ無いかなぁ、と思うけど」
「へぇ…………貴方、意外と頭いいの?」
「さぁな。それにしても人間を恨んでるとか言ってる割には俺を襲わないんだな?」
「だって、知らない人を急に攻撃するのも…………」
「なんだ、分かってるじゃないか」
「そう、なの?」
「ああ」
「そうなんだ…………エヘヘ」
こうやって喜ぶ姿は妖怪と言えども普通の子供と同じだな。
「それじゃあ、私の事は話したんだから今度は貴方の番ね」
「俺か?別段面白い話は無いぞ?」
「…………で、こうなってしまったと言うわけだ」
「へぇ…………先生だったんだ。だから、なんか難しい言葉を使うのね」
「ありゃ、難しかったか?」
「うーん…………でも面白かったわ」
なら、話した甲斐があったと言うもんだ。
すると、先程まで寝ていたフランが目を覚ました。
「ふぁあ…………先生は…………?」
目を擦りながら俺を探すフラン。ここだと言うと目はすぐに開かれ
「先生!起きたんだね!良かった〜…………」
「ハハ…………迷惑かけたな」
「本当だよ!急に倒れるからビックリしたんだから!」
と俺の左腕を掴み胸へと引き寄せる。
「帰りましょ?先生」
すると右腕も引き寄せられる。その方を向けばメディスンが引っ張っていた。
「ねぇ、もうちょっとお話しましょ?勇人"先生"?」
今の構図的には人形を取り合う子供の様なのだが…………2人とも人外である。つまり、2人がその気になれば俺の体は引き裂かれる事は必須である。
「先生は私とこれから帰らなきゃいけないの!」
「まだ先生と話し足りないのよ!」
「「ぐぬぬ!」」
や、やめてくれ!このままでは本当に引き裂かれてしまう!
「あら、小さくなってもモテモテね。勇人」
「え、永琳さん!」
な、なんと言う事でしょう。火に油を注ぐ事には定評のある永琳さんじゃないですか!
「あ、永琳。また、毒を?」
「ええ、そうよ。まぁ、彼の為に必要なのよ」
「そうなの?ならいいわよ」
解毒剤かな?ならありがたいな。永琳さんのお陰か2人の拘束も解けているし。
「もう貴方がここにいるならここで完成させちゃいましょうかね」
「じゃあ、元に戻れるのですか?」
「ええ、それよりも貴方がこの場所に平気でいられる事に疑問があるけど…………これも私の実験の成果かしら?」
「良かった…………これで元の体に……………………は?」
今、実験の成果とか言わなかったか?
「はい、この毒でいいのかしら?」
「ええ、これで完成するわ。ちょっと待ってなさい」
「それじゃあ、もう少しお話できるね!」
「うぅ…………」
なんとまぁ正反対の反応をするなこの2人は。
「それにしても永琳さんと知り合いとはな」
「永琳には毒をあげてるの」
「ふーん…………ふぁっ!?毒をあげる?!?」
「うん、私はね『毒を操る程度の能力』を持ってるの。後ねここはスーさんの毒が蔓延してて普通の人間なら死んじゃうはずだけど、勇人先生なら大丈夫ね」
いやいや、勇人先生は大丈夫じゃないです。毒!?じゃあ倒れた原因は明々白々じゃねぇか!毒にやられてんじゃん!
「そうよ、彼は私のじっk…………自信作の薬によって色んな耐性がついているから」
言い直しても滲み出るマッドな医者臭は消せてない。人の体に何してくれとんじゃ。
「それなら、鈴仙の薬の耐性がついてたら良かったんですけどね」
「そうなんだけど、ウドンゲ意外と成長してるのよ。よし、できたわ。ほら、これを飲んだら元の体に元どおりよ」
「やっと戻れるのだな…………」
永琳さんから試験管を受け取り一気に飲み干す。
「うぇ…………マズッ…………」
「"良薬は口に苦し"よ。文句なんか言わないの」
と体から煙が…………出て…………
PON!
「よし、これで戻った…………はず…………だが?」
「あれ?先生小さいままだよ?」
「あら、効かなかった?」
え?え?ええ!?元に戻ってない!?ありゃりゃ、ナンデ!?
「…………鈴仙の薬は相当強力だったのね。いつの間にここまで上達して…………師匠としては鼻が高いわね」
「そんな事で弟子に感心しないでください…………」
ああ、折角元に戻れると思ったのに…………
「私の毒役に立たなかった?」
「そんな事は無いわ。今回の事でさっきの毒じゃダメだって分かったんですもの。大きな進歩よ。また、別の毒を頂戴ね?」
「はい!」
「そうなればいつまでもここにいられないな…………妖怪に襲われたりでもしたら…………どうすることもできん」
「なら、早く帰りましょ?」
「おう」
帰ろうとしたが振り返るとメディスンが寂しそうに俺の事を見つめていた。
俺はメディスンの元に駆け寄り、頭を撫でた。
「体が元に戻ったら、ここにまた訪れてもいいか?」
「え?う、うん!また、お話しよう!」
「ああ、次会う時は元の体に驚くなよ?」
「うん!楽しみにしてるね!」
こうして、鈴蘭の咲き誇る丘を後にした。
帰ったら帰ったで、早苗が泣きながら抱きついて来て
「何時まで遊んでたんですか!心配したんですよ!?」
と言われた。完全に子供扱いである。ご飯も用意され、さらにはお風呂まで一緒に入ろうとして来たが流石にこれは拒否した。
「もう、これでいつ子供ができても大丈夫ですね…………」
とか言ってた気がするが多分空耳だろう。