諸行有常記   作:sakeu

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第83話 戦闘の日の花師

フラン達に花畑に行かないかと誘われて承諾したのはいいものの…………

 

 

「ゼェ……ゼェ……ま、待ってくれ……」

 

「むー…………ハヤト君おっそーい!」

 

 

この有様である。いや、だって空飛べなくなってたんだもん!

霊力は出るんですよ?でもね、その量が雀の涙程でして、俺の体を浮かせるには全くもって足らないのです。

 

つまり、空飛ぶ皆んなを走って追いかけているわけなんですが、この体での体力は高が知れているわけでして、この有様になってるんです。

 

 

「い、急がなくても、私がついてますよ?」

 

「あ、ありがとう…………」

 

 

大妖精の優しさが心に染みる…………皆んなもこのぐらい気遣いができてもいいだろうに。

 

 

「それなら…………」ガシッ

 

「ふぁっ!?」

 

 

フランが後ろから迫ってきたかと思えば肩を掴み、

 

 

「それ!」

 

「お、おお?」

 

 

そのまま宙に浮いてしまった。た、確かにフランは吸血鬼なので俺ぐらいの大きさなら持ち上げるのは造作にもない事だろう。

 

 

「んー…………君軽いね!」

 

「そ、そうか…………」

 

 

そうさ…………彼女は吸血鬼なんだ…………だから、軽いって言うんだよ。俺が軽いんじゃない…………

 

 

「そういえばさー、あんたって勇人せんせーにそっくりだよね。それにそのリストバンド勇人せんせーのとそっくり」

 

 

し、しまった…………護身用の銃やナイフ全て早苗に没収されたからせめてこの仕込みリストバンドだけでもっと思ったのだが…………

 

 

「ふぇっ?し、知らないなー勇人って人は…………」

 

「別にあんたが勇人せんせーを知ってるか知らないかは聞いてないわ」

 

「おぅ…………」

 

 

や、やけに今日のチルノは鋭いな…………周りからは頭が弱い子扱いされているが時折こうやって核心をついた事を言う。

 

 

「ん?もしかして…………」

 

 

き、気づいたか?俺が勇人だと言う事を…………

 

 

「兄弟ね!きっと、勇人せんせーの弟なんだわ!あたいったらサイキョーね!」

 

 

気づいてないようだ。鋭くても詰めが甘かったか。

 

 

「そんなわけないじゃん。勇人先生は外来人なのよ?」

 

「え?そうだっけ?」

 

「ねぇ、お花畑ってどんなのかな?」

 

「んー…………えっとね…………一面黄色のお花畑よ!」

 

「え?向日葵畑はまだ咲いてないよ…………それに…………幽香さんもいるだろうし…………」

 

 

向日葵って…………季節は夏だろ。今はまだ咲かないだろ…………

 

 

「え?でも、昨日見に行った時は咲いてたよ?」

 

「み、見に行ったの!?よ、よく無事だったね…………」

 

「フフ…………なんたってあたいはサイキョーだからね!」

 

「何がサイキョーよ、半殺しにされて私がいなかったらやばかったじゃない」

 

「そ、それでまた行くつもりなのか?」

 

 

半殺しにされといて懲りずに行くつもりなのか?

 

 

「今回こそあたいがやっつけるから大丈夫よ!」

 

「フッ、本当は勇人先生を頼ろうとしたくせに」

 

「い、いなくても大丈夫だもん!」

 

「む、無理はしないでね?」

 

 

幽香…………ああ、風見幽香か。噂で聞いた事がある。

 

なんでも、純粋な身体能力と妖力はトップクラスでその圧倒的な力を使い問答無用で滅ぼしにかかるとか人間ではまず倒す事は出来ないからどんなに腕の覚えのある者でも戦ってはいけないとか花が大好きとか…………最後のは可愛い噂だが…………総じて幻想郷でも最強クラスに分類されるようだ。

 

いや、ちょっと待て

 

 

「お、俺ってついて行って大丈夫なのか?」

 

「まぁ、フランちゃんがいるし大丈夫かな?」

 

「え?私任せ?チルノがやりなさいよ!」

 

「あたいはリベンジしないといけないの!」

 

「じゃあ…………大妖精?」

 

「えぇ!?わ、私!?」

 

 

いざとなったらこの仕込みリストバンドでどうにか…………ならんか。せいぜい糸と針を発射するだけの物だからな。緊急脱出用ぐらいにしか使えないか…………

 

そもそも、俺をそんな地獄に連れて行こうとしないで欲しかった…………

 

 

「お?向日葵畑が見えたきたわ!」

 

「お、おお…………本当に一面黄色だ…………」

 

 

とお目当の向日葵畑が見えてきた刹那、どこからともなく花の弾幕が高速で通過した。ヒュンと風切り音がする。

 

いやいや、なんで!?

 

 

「ほら、チルノ!あんたのお目当が来たわよ!私はハヤト君を下すから先に戦っておきなさい!」

 

「ま、任せなさい!」

 

 

と、漸く地に足がつきフランは大妖精に俺の護衛を頼むとチルノと共に弾幕の放たれた方へ向いた。

 

 

「はぁ…………また貴女達?懲りないわねぇ…………」

 

 

声をする方を見れば、弾幕を放った主が現れた。

 

白のカッターシャツにチェック柄のベストにロングスカートを身に纏い、首には黄色いリボンをつけ、日傘をさした緑髪の少女。

 

幻想郷の女性は美人が多いのだがこの人もとても美人だ。

が、その顔は笑顔なのだが…………目が笑ってねぇ…………笑顔が多い人は怖いと言うのは本当のようだな…………

 

 

「フフ、今回はフランちゃんもいるんだからね!絶対にあんたに負けないわ!」

 

「1人でやるんじゃなかったの…………」

 

「ふーん…………あの吸血鬼の妹…………ね。貴女の言ってた『先生』と言う人は来てないのかしら?」

 

 

『先生』と言うワードが出てきて一瞬ドキッとする。チルノ何を話しているんだ!

 

 

「今はいないわよ」

 

「あら、噂じゃあ相当な手練れだって聞いてたから楽しみにしてたのに…………残念ね」

 

 

いやぁ…………本当、この体でよかった…………今回ばかりはあの2人に感謝しといてやるか。

 

 

「先生じゃなくて、私がコワシテアゲルヨ」

 

「あらあら、怖い怖い」

 

 

口ではそう言うものの、怖がるそぶりを見せない。フランも相当強いはずなんだろうけどなー…………

 

 

「じゃあ、いくよ!」

 

 

と開幕早々、チルノとフランは弾幕を展開する。フランが物凄い量の弾幕を放てるのは知っていたが…………チルノも負けず大量の弾幕を展開する。

 

それにしても、弾幕ごっこだなんて久し振りに見るな。いやぁ…………それにしても美しいもんだねぇ…………他人事だから言えるのだけど。

 

 

「それだけ?」

 

 

と幽香が言い、全ての弾幕が幽香の弾幕により相殺され消える。

 

こりゃあ、噂通りの強さだなぁ…………元の体でも勝てる気がしないぞ。

 

 

「んー、こっちからいくわよ?」

 

 

と先程とは比べ物にならない量の弾幕が展開される。

 

 

「「!?」」

 

 

一気に2人は劣勢となり防戦一方の弾幕ごっことなる。

それに対し幽香は…………笑顔で容赦無く弾幕を放つ。

 

その笑顔()()を見れば、男なら惚れてしまいそうなぐらいだ。しかしだな、今の2人を攻める姿を見てこの笑顔を見ればサドっ気溢れる表情でしかない。

 

それにしてもフランまで劣勢を強いられるとは…………やはり、フラワーマスターの名は伊達じゃないか。名前だけ聞けば可愛いのにな。

 

 

「さっきの勢いはどこにいったかしら?逃げ回ってるだけじゃ勝てないわよ?」

 

「ぐっ…………」

 

「むぅ…………!」

 

 

しばらく経っても2人は近づく事すら叶わず、ジリ貧の戦闘となる。次第に二人の息も合わなくなり、チグハグな動きが目立つ。

 

そして、糸が切れたかのように連携がもつれ、

 

 

ドンッ!

 

 

「きゃッ!?」

 

「ちょっ!?」

 

 

二人はぶつかってしまい、動きが止まる。そして、そのまま地面に落ちる。

 

 

「これで終わりね」

 

 

傘を閉じ、先を二人に向ける。

俺は直感的にヤバイと感じとり、仕込みリストバンドから針を発射し向こう側の木に刺す。

そして、糸を巻き取る事によって高速でチルノとフランの二人に迫り

 

 

「「きゃっ!?」」

 

 

二人の体を掴み倒れこむように着地する。

 

 

ドゴォン!

 

 

その後すぐに極太のレーザーが通過し、地面に大きなクレーターを作る。

 

 

「あ、危ねぇ…………大丈夫か?」

 

「え、え?だ、大丈夫だけど…………え?」

 

「う、うーん…………」

 

「チルノは気絶したか…………大妖精!チルノを頼む!フランは牽制しながら退避しろ!俺もなんとかする!」

 

「うぇ!?わ、分かったわ!」

 

「あら?貴方…………」

 

 

俺の姿を見るなり動きを止める幽香。なんだなんだ?顔に何か付いているのか?

 

 

「これでもくらいなさい!」

 

 

弾幕が止んだのを機に一気に弾幕を放ちつつ近づくフラン。

しかし、それは幽香の傘によって簡単に薙ぎ払われる。

そして、その傘でフランの脇腹を殴る。

 

 

「なかなかやるようだけど…………まだまだ青いわね。ま、もう少し痛ぶられてちょうだいな」

 

「うぐぐ…………」

 

 

や、やばい!あのままじゃあ消し炭にされる!何か策は…………何か…………

 

 

「こっちを見ろ!」

 

 

そこらへんにあった石ころを拾い投げつける。が、幽香は首を少し動かすだけで避ける。

 

今の俺の姿は遠吠えする負け犬のように滑稽に見えるだろうな。

さりとて、俺には銃もねぇナイフもねぇ、あるのは仕込みリストバンドのみ。

 

 

「んー…………見間違いのようね…………人間の子供には興味が無いの。とっとと消えなさい」

 

「あー…………そうするさ…………フランを助けたらなッ!」

 

 

仕込みリストバンドの糸を巻き取る。すると、先ほど投げた石が戻ってきて…………

 

 

バゴッ!

 

 

「…………ッ!」

 

 

投げた石には糸を巻きつけといていたのさ。あとは微量ながらも霊力を込めてある。軽く目眩なら起こってるはずだ。

後はフランを抱えてっと。

 

 

「よし、逃げる…………ッ!?」

 

 

ドゴォン!

 

 

「また、外したわ。そこの子供…………ただの子じゃ無いわね…………」

 

「危ねぇ…………フラン、大丈夫か?」

 

「え、ええ…………」

 

「さ、逃げるぞ!」

 

 

と逃げようと思った瞬間、再び弾幕が飛んでくる。辛うじて避けるが元の体よりも反応が遅い。こりゃあ、厳しいな…………

 

 

「ねぇ、貴方って『碓氷勇人』でしょ?」

 

「は、はぁ!?」

 

「何言ってるのよ、この子が先生な訳ないじゃない!」

 

 

それが碓氷勇人なんすよ…………ここでは言わないが。

 

 

「でも、噂だと死んだ魚のような目で、切れ者って聞いてるわ。まさに貴方じゃない」

 

「HAHAHAHA!俺はまだまだガキだぜ?」

 

「それにしてはこの状況に対して怖がらないじゃない。普通の子供なら今頃泣いているのに。こんな状況に慣れてるんじゃない?」

 

「そういえば…………先生と同じようなリストバンドしているし…………糸が出てきたところも一緒…………」

 

「で、でも、子供じゃないよな?勇人って」

 

「永遠亭とかの薬でも使って小さくなったんじゃないのかしら?」

 

「ギクッ…………そ、ソンナワケナイヨー…………」

 

「そうなの?」

 

 

こ、これは…………もうダメですね★

 

 

「ああ…………永遠亭の薬でこうなったんだよ。正真正銘碓氷勇人だ」

 

「あら、本当だったの?テキトーに言ったのに」

 

「え!?これが子供の先生?」

 

「なら、お手合わせ…………「待て」何かしら?」

 

「今の俺は銃もナイフもない丸腰の状態だ。それに体も小さいから実力なんてほとんど出せない」

 

「それで?」

 

「そんな状態の俺と戦っても楽しくないだろ?だから、元に戻ったら存分に戦ってやる。だから、待ってくれないか?」

 

「そうね…………子供のを虐める趣味もないし…………いいわ、待ってあげる。その代わりに戻ったらすぐにここに来るのよ?」

 

「ああ、約束する」

 

 

こうして、フラワーマスターこと風見幽香との戦いを約束によって危機を乗り越えた。

 

やはり、この体は不便だ。先ほどはあの二人に感謝すると言ったな…………あれは嘘だ。絶対に許すまじ。

 

 

 

 

 

 

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後に戻った時にはそんな事を忘れていたのだが、いち早く幽香が駆けつけて戦いになったのは別の話。


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