諸行有常記   作:sakeu

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第82話 授業の日の教師

人に教えるという事はとても難しい。それは教師をやっていく中で痛感せざるおえなかった。

 

幻想郷に来る以前は寧ろ教えられる側であり、教える機会があるとするならば弟に教える事ぐらいだった。弟はまだ物覚えのいい方だったので教えるのに苦労はしなかったが、いざ幻想郷に来て、教師としてたくさんの人達に教えるという事になると上手くいかないものである。

 

基本的に算術いわゆる算数を主に教えているのだが、基本的には楽しく授業を受けてくれてるらしい。

 

だからと言って全員が完全に理解していると言うわけでもない。また、少々難しい所になれば授業中に寝てしまう子達までいる。テストをしてみれば理解していない事が浮き彫りになる。

 

そういう時は自分の授業に自信が持てなくなる。また、寝ている子を見ると少々傷つくものである。

 

それは慧音さんも同じのようで

 

 

「どうやら私の授業は難しくて面白くないらしい…………」

 

 

と嘆いていた事も何回か聞いた。

 

歴史の編纂を使命とする慧音さんは歴史はとても大切な物であり、それ故歴史を知る大切さは誰よりも知っている。

 

俺こそ数学や算数に命をかける程の熱意はあるわけでもなく、得意だからという理由で教えてるのだが、それでも生徒達がつまらなさそうに受けていると傷つく。それなら、慧音さんはより落胆してしまうのだろう。

 

当たり前だが幻想郷には教育免許状を取る必要は無い。という事は先生となる為に勉強する機関が無いのだ。この寺子屋がある以前ではそもそも教育機関が無かったのだ。この寺子屋もできてまだそれほどの年月が経っていないらしい。そんな中でやってきたのだからしょうがないと言えばしょうがない。

 

"教うるは学ぶのなかば"という言葉があるように教える事の半分は自分にとっても勉強になっているわけだ。こちらも勉強しながら、生徒と教師の双方が向上すればよい。

 

とここまで教える側の事について考えてたわけなのだが…………今回は"教えられる側"として寺子屋にいる。というわけでしっかりと慧音さんの授業を受けてどのようにしていけばいいか学ぼうじゃないか。

 

 

「で、俺はどの授業に出ればいいんですか?」

 

「ああ、この後の授業は…………しまった、後はチルノ達の所の授業しかない。そこでいいか?」

 

「ええ、問題ないです」

 

「よし、それなら教科書は貸そう。後は書くものか…………」

 

「それならいつものノートと筆記用具があるので大丈夫です」

 

「そうか、なら後5分後には始めるから準備してくるといい」

 

「はい」

 

 

慧音さんから教科書を借り、教室へと向かう。今回ばかりはこの体に感謝するか。もう、教えられる側には立てないだろうと思っていたからこの機会は貴重だ。しかし、あの2人には感謝しない。

 

 

「…………早苗もついてくるのか?」

 

「え?もちろんです!」

 

「…………そうか」

 

 

授業参観か何かか?もう俺の保護者みたいじゃないか…………

 

扉を開け、教室に入るとそこにはいつものメンバーがいた。

 

授業が近いせいかみんな着席しており、隣同士でペチャクチャ話している。

 

そして、俺の姿を確認すると一同は急に静かになり

 

 

「あれ?新しい子かな?」

 

「でも、人間だよ?」

 

「話しかけたら?」

 

 

とコソコソと話し始めた。すると、その中から代表してチルノがこちらに歩み寄り

 

 

「あんた、新しい子ね!あたいはチルノ!サイキョーだからしっかり覚えてなさい!あんたの名前は?」

 

「お、おう…………俺はゆu…………」

 

 

あれ?これって俺が碓氷勇人である事を言ってもいいのか?別にいいか。もう、慧音さんには話してあるし…………

 

とその慧音さんが教室に入ってきた。すると、チルノはすぐに自分の席に戻ってしまった。

 

アルェ?俺の授業の時は注意するまで騒いでいるのに…………てか、みんなちゃんと着席している事が俺の授業ではあまり無かったぞ。

 

 

「よし、全員いるな。よし、授業を始めると言いたい所だがまずはみんなが気になっているだろう新しい子の紹介をしよう。君、前に来なさい」

 

「は、はい」

 

 

と呼ばれたので前に出る。すると慧音さんは俺に

 

 

「今回は君が勇人である事を伏せといてくれ。彼女らが君が勇人だと分かったら授業に集中できないかもしれないからな」

 

 

と耳打ちをした。確かに授業に支障をきたすのはよくない。

 

 

「彼の名前は…………ハヤトだ。みんな仲良くしてやってくれ」

 

 

成る程、勇人(ゆうと)だから、勇人(はやと)か。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「ハヤトって人間なの?」

 

 

といきなりフランが質問する。そうそう、今までフランドールと呼んでいたのだがお気に召さなかったようでフランと呼んでくれと頼まれた。

 

 

「そうだが?」

 

「じゃあ、たb「ダメだ」

 

 

とルーミアが出しかけた言葉を遮るように慧音さんは却下した。ルーミアは人間だったら食べてもいいと思ってるのか?

 

フランの質問を皮切りにみんな段々と騒がしくなってゆく。

 

 

「静かに。もう十分だろ?今から授業を始める」

 

 

そう一喝しただけで教室はしんと静まりかえる。俺の時とは全然違う。うーむ…………流石慧音さん。

 

 

「じゃあ、今日はこの時代について話すぞ」

 

 

こうして、慧音さんによる歴史の授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

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「今日はここまで。きちんと復習をしとくのだぞ?」

 

『はーい』

 

 

ふぅ…………もう終わりか…………慧音さんの授業は退屈ではなく、寧ろとても興味深いものだった。

 

まぁ、授業を受けているのと同時にチルノ達の様子を見させてもらったのだが…………こちらは退屈だったらしい。チルノとルーミアは爆睡。フランも時折ウトウトし、他の子達も皆眠そうに授業を受けていた。

 

 

「んー…………××年に起こったのがこれだっけ?」

 

「違うよそれは⚪︎⚪︎年だよ」

 

「ち、チルノちゃん、今日は何を習ったか覚えてる?」

 

「え?なんだっけ?」

 

 

子供達は先程の授業の復習をしているようだが…………様子から見るに難しかったらしい。皆んなうーんと唸りながら復習をしている。

 

 

「どうだったか?やはり、私の授業は難解だったか?」

 

 

と慧音さんが聞いてくる。多分、チルノ達の会話を聞いたのだろう。教師としてあまり、理解させてやれなかったのが悔しいのだろうか。

 

 

「いえ、難しくなったですよ。寧ろ丁寧に説明していて分かりやすかったです」

 

 

元いた学校の歴史の先生よりずっと分かりやすかったと思う。年順も整理しやすくてとてもいい授業だったと思う。

 

 

「そうか、少し君の学習帳を見せてくれないか?」

 

「そんなに綺麗にまとめれてないですよ?」

 

 

と慧音さんにノートを渡す。

 

 

「いや、とても綺麗にまとめているじゃないか。それにしても…………たくさんの色を使っているが…………」

 

「まぁ、それぞれ人物とか出来事を種類分けをするために使っているんですけどね」

 

「見返しても分かりやすいな…………しかし、どうして子供達は頭を抱えてしまうのだろうか…………」

 

「うーん…………少し事細やかに説明し過ぎな気がしますね…………」

 

 

確かに慧音さんは丁寧で分かりやすいのだが…………細か過ぎる。子供達には与える情報量が多過ぎるのかな。俺ぐらいの歳なら楽しく受けれるのだが…………

 

 

「相手は子供達ですし、もう少しその辺を考慮すれば…………」

 

「成る程、ありがとう。次回から少し情報量を減らしてみよう」

 

 

はっきり言って俺よりも全然授業をするのが上手い。俺も見習うべき所が多々あった。

 

 

「へぇ…………勇人さんってとても字が綺麗なんですね…………」

 

「ん?まぁ、汚い字のノートを読み返す気はしないからな。あ、そうそう、早苗は慧音さんの授業を聞いてどうだった?」

 

「とても分かりやすかったですよ。流石慧音さんって感じでしたね」

 

「そうか…………」

 

 

うん、やっぱり俺の思った事は間違いないらしい。現に早苗は分かりやすいと言った。ただ、子供向けではなかっただけ。

 

 

「ねぇねぇ、君"ハヤト"って言うんだよね?」

 

「ん?あ、ああ。そうだよ」

 

 

急に声をかけられた。振り返るとかけた主はフランだった。

 

 

「私はフラン。よろしくね!」

 

「よ、よろしく…………」

 

 

う、うむ。なんだか新鮮だな。フランと同じ目線にあるだけでこんなに景色が違うものなのか。

 

あ、俺の方が小さい…………いやいや、そこはいいとして、俺もここは子供らしく振る舞わないと。

 

 

「ねぇ、これからチルノ達とお花畑に行くんだけど…………一緒に行く?」

 

 

お花畑…………うん、女の子らしくていいが…………俺は男だぞ?しかし、普段フラン達がどのような事をしてるか知るいい機会だし…………早苗に聞いてみるか。

 

 

「早苗…………ゲフンゲフン、早苗姉ちゃん。フランちゃん達と一緒にお花畑言ってもいい?」

 

「ひゃい!?え、ええ、もちろんいいですよ。でも、気を付けてね」

 

「はーい」

 

 

もう、俺に羞恥心なんてものは無い!

 

 

「じゃあ、決まりだね!ついてきて!」

 

フランに手を引かれ花畑へと行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

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後に慧音さんの授業は子供達にも分かりやすくなり好評となった。その事によって、より一層寺子屋の人気が上がるのだった。


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