〜玄関にて〜
「「……………………」」
ぐっ…………視線が痛い…………てか、なんで早苗は無言で俺を見ているのだ?確かに小さくなってしまったのだが…………何か反応を示して欲しい。このままではこの空気に耐えきれない。
「……………………」
な、何か言ってくれよ!え、映姫さんのようにさ、「ゆ、勇人さんの子供!?」的な感じで。
もう、この空気には耐えきれないのでこちらから声をかけよう。
「お、俺は勇人の息子じゃなくて本人だぞ?」
「……………………」
スタスタ…………
む、無言で近づかないでくれ!こ、こえーよ!
俺の目の前まで近づくと顔を近づけてきて…………
ヒョイ
「What!?」
「…………」ジー
あ、あのー…………どうして俺は抱えられて見つめられているのだ?
「あ、あのな早苗、これには田沢湖よりも深いわけがあってだな…………」
「…………」ギュー
「フゴォッ!?」
いきなり俺を抱きしめ始める早苗。
お陰で視界は早苗の白い巫女服で埋め尽くされ、なんと言いますか…………こう…………ね?2つの…………ね?柔らかいので呼吸が困難なんだ。
「ギ、ギブ!ギブだから!」
「あ!ご、ごめんなさい…………」
軽く酸欠状態になったところで早苗は離してくれた。ちょいと残念とか思ってないから!
「ふー…………助かった。で、早苗何の用だ?」
「…………は!そうでした、最近勇人さんが姿を見せなくて心配で…………」
成る程、ズバリ的中だな。どっかの蓬莱ニートとウ詐欺さんらがやってくれたからな。許すまじ。
「でも、杞憂だったようですね!むしろ、こんなに可愛らしくなって…………フフ」
「か、可愛いだと?おいおい、冗談はやめてくれよ嬢ちゃん」
「いえいえ!とっても愛くるしいですよ!」
勇人は精神ダメージを999食らった!
「お、俺が愛くるしい…………だと?」
「はい!」
Over kill!
「ハハ…………オレッテカワイイノカ…………」
あれ?雨が降ってる?おかしいなぁ…………屋内のはずなのに…………
「あら?早苗ではありませんか。結局、家に来たのですね」
「映姫さん!」
「トニカク、アガッテクレ…………」
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〜居間〜
俺のメンタルがきっちりOver killされた後、早苗に俺がこうなってしまった過程を話した。まぁ、終始俺は早苗の膝の上に乗せられていたのだが…………
「それにしても…………5、6歳ぐらいに戻るとは思わなかった…………たまに童心に帰りたいと思うが…………ここまでは求めないぞ」
「いいじゃないですか、勇人さんがその姿の間は私がしっかりサポートしますから。気を落とさないでください!」
ありがとう…………早苗…………それしか言う言葉が見つからない…………でもな、気を落としたのは君が俺のメンタルを完膚なきまでに粉砕したからなのだよ。
「ふむ…………それにしても、貴方は体格が小さいですね。キチンとご飯を食べてたのですか?」
「小さいと言わんといてください。泣いちゃいますよ」グスッ
「と言いながら泣かない」
だ、だって、小さいて…………今まで気にしてた事なのに…………5、6歳の時はだな、周りのことも比べてもとても小さくて、背の順に並ぶとか屈辱以外の何者でもない。
「ゆ、勇人さん大丈夫ですか?」
「あ、ああ」ウルッ
「…………ッ!!」ギュー
「イデデデデ!」
「あ!ごめんなさい!可愛くてつい」
「可愛いて言わないで……………………そうだ、もう永琳さんなら元に戻る薬を作ったかもしれんな。行ってみるか」
「え、まだこのままでもいいのに…………」
せめて、本心は心の中にしまって欲しかったな。もうチビという屈辱は受けたくないのだよ。
あ?大きくなっても変わらんだろ?あんたはだーっとれい!
「でも、1人で行くのは危ないのでは?」
と映姫さんが冷静な意見を言う。
「大丈夫ですよ、俺には愛用のこの銃が」
と常に携帯している銃を取り出すと早苗に取り上げられた。
「そんな、危ない物を持ってはいけません!今の勇人さんはか弱いのですから、銃を使って怪我でもしたらいけません!」
「そ、そんな…………」
「永遠亭までは私が連れて行ってあげますから、ね?」
「ふむ、それなら安心でしょう。用も済んだことですし私はこれで」
「じゃあ、私達は永遠亭へ」
俺は言われるがままにするしかできなかった。子供って無力だなぁ…………
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「…………もうヤダ」
「だ、大丈夫ですよ!一週間だけですから!」
永琳さん曰く「あと一週間はかかるわ」だそうです。
もう、何にも言えねぇ…………不幸中の幸いと言うのなら鈴仙がいなかったことか。この根本的な原因は鈴仙が薬を作ったからだ。出くわして何をされるのかは想像もしたくない。
しかし、輝夜とてゐの煽りには怒ってもいいと思う。わざわざ赤ちゃん言葉で話しかけてくるあたり俺をストレスで殺しにかかってると思う。本当にあいつらは人をイラつかせるのが上手い。
元に戻った時があいつらの命日だな。
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〜勇人宅〜
我が家に戻ってきた。行きも帰りも早苗が手を繋いでいたのは少々気がかりだがこの際どうでもいい。今の問題はそんな事ではない。
「あー…………どうすっかなぁ…………仕事。最近はずっと休んでばっかだしなぁ」
皆さんご存知のように人里で慧音さんが開いている寺子屋で教師として働いている。明日からには流石に行かないとなと思う反面、こんな姿で教師が務まるのか疑問である。
「教師なら知識さえあればどうにかなるのではないのでしょうか?多分、勇人さんのような人なら姿が変わっても授業を聞いてくれると思いますよ」
「それもそうだな…………あと、もう膝から降りてもいいかな?」
家に帰ってくるなら俺を抱き抱えて膝の上に乗せてきた。その速さといったら、「お、俺は部屋に入ったと思っていたらいつの間にか早苗の膝の上に座っていた!な、何をいってるか(ry」状態になってしまうレベルである。
「もう少しだけ…………」
「…………分かった」
早苗曰く「ちょうどいいサイズです!」だそうだ。冷蔵庫に牛乳あったかなぁ…………
「よし!明日からキチンと仕事に行くか!姿が変わろうともサボりは良くないからな!」
「あ、でも今の勇人さんは運動能力が低く、霊力もかなり少ないので妖怪格好の的ですよ」
「…………仕方がない、ここは封印していた自転車を…………」
「あの大きさだと勇人さん乗れませんよね?」
「……………………空を飛んで」
「だから、霊力は少ないと。むしろ空を飛ぶと目立ってかえって危険です」
「…………どうしよう」
「安心してください!私が護衛しますから!」
「そ、そうか…………しかし、早苗も忙しいだろ?」
「そこは諏訪子様になんとかしてもらいますから大丈夫です!さぁ!肩車で送ってあげましょう!」
「いいから!そこまでしなくてもいいから!」
「遠慮せず、さぁ!」
「…………//」
「フフ…………幸せです♫」
いい歳して(見た目は幼いのでそれ相応に見える)肩車とか…………恥ずかしい…………
「どうですか?こう言うのも幼いからこそ出来るのですよ?」
「これ、人里の人達に見られたらめっちゃ恥ずかしいって…………」
「大丈夫です!はたから見れば、姉弟にしか見えませんから!いえ、母と息子ですね!」
「やめてくれ…………元に戻った時に問題が発生するから…………」
「私はいつでも構いませんよ?」
「俺が構うの!はぁ…………もうそろそろ降ろして」
「お邪魔します!勇人さん!」
ガラッ
「えっ!?さ、早苗さん…………そ、その子は…………?」
「よ、妖夢さん!?」
「ああ…………どうしてこのタイミングで…………」
「え?え?いつの間に早苗さんは勇人さんとの子を…………?」
と妖夢は背中にある刀に手をかけている。
「せ、折角あちらの咲夜さんにアドバイスを貰って良いところまで来たのに…………もう、子供ができてしまってはチャンスが…………幽々子様も師匠も応援してくださったのに…………わ、私はどどどどどうすれば?」
大量の冷や汗とともにガクガクと震える妖夢。様々な感情が入り混じり身動き取れずにいるのだろう。しかし、こっちからしたら手にかけた刀が脅威である。
「お、落ち着け!俺は碓氷勇人だ!こんな姿だが勇人だ!だから落ち着け!」
「そ、そうですよ!妖夢さん!落ち着きましょう!」
「あ、ああ、私は…………私はどうしたらいいの?そ、そうだ、私も勇人さんとの子供を…………!」
ヤバイヤバイ!目をグルグルに回しながらついにはぶっ飛んだことまで言い始めたぞ!
「だ〜か〜ら!俺は碓氷勇人だ!早苗の息子ではない!少しは話を聞け!」
「はっ!そ、そうなのですか?」
「そうですよ、妖夢さん。そもそも、仮に息子だとしても勇人さんは幻想郷に来てまだ1年近くぐらいしかいませんからありえませんよ」
「そ、そうですね、はぁーー…………」
ど、どうやら落ち着いてくれたようだ…………しっかし、この体になってからはまともな事が起こらねぇ…………やっぱり、輝夜とてゐは許さん。
ともかく、妖夢は事情を話してから、今後の事について考えるか。