諸行有常記   作:sakeu

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第8章 青年、童心に返る(物理
第78話 勘違いの日の閻魔


私、四季映姫は閻魔です。日々、死者を裁き、罪人達へ刑罰を下すーーそれが私の仕事。

その職柄上、畏怖の対象とされがちですが私とて鬼ではありません。

刑罰を少しでも軽くするために私は暇があれば幻想郷へ赴き、善行を積むようにと教え回ります。

時折、嫌な顔をされたりもしますがこれは相手の為であり、やめようとは思いません。

さて、今日も幻想郷の方へと向かいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、何しにここに来たのかしら?」

 

 

最初、向かったのは博麗神社。もちろん、お目当はここの巫女である博麗霊夢です。

 

 

「先程も言ったでしょう。貴女がしっかりと善行を積めているか見に来ました」

 

「そんなもの見に来なくていいわよ。ちゃんと積んでるから」

 

「その割には毎日怠惰な生活を送っているようですが?妖怪退治もろくに行なっていないようですし」

 

 

この博麗霊夢は善行を積む気があるのでしょうか?こちらは浄瑠璃の鏡で全てお見通しだと言うのに平気で嘘をつく。少しは反省でもしてもらいたいものです。

 

 

「私、もうそろそろお暇したいのですが…………」

 

 

そう言うのは守谷神社の巫女である東風谷早苗です。この巫女コンビは揃いに揃って肩を大きく露出した装い。全くもって寒々しいです。

 

 

「兎に角!貴女はその怠惰な生活を直しなさい!それが貴女の積める善行です!」

 

「はいはい分かったわよ」

 

「本当に分かってるのですか?全く…………碓氷勇人を見習って欲しいものです…………」

 

「え?映姫さんは勇人さんを知ってるのですか?」

 

「ええ、もちろん。教師として毎日仕事を勤勉にこなし、時には異変解決も行う。もちろん、あの城の事件の活躍も知っています」

 

「彼のお陰では異変解決しなくて楽なのよね」

 

「貴女は自発的に行動しなさい」

 

「はいはい…………」

 

「あっ」

 

「どうしたのよ?」

 

「そういえば最近勇人さんを見かけませんね…………私が家に尋ねる機会もなかった訳ですが…………寺子屋でも見ませんでしたね…………」

 

「ふむ…………」

 

「また、例の如く働き過ぎて倒れてるのじゃない?」

 

「!!それなら早く行かないと!」

 

「待ちなさい」

 

「え?」

 

「その役目私が引き受けましょう」

 

「い、いえ私がしますから…………」

 

「貴女はこれから人里に用があるのでしょう?」

 

「そ、そうですが…………」

 

「大丈夫です。最初から彼の元に訪問する予定でしたから」

 

「し、しかし」

 

「大丈夫と言ってるでしょう。彼の家は把握済みです。貴女は自分の仕事をしっかりとこなしなさい。それが貴女の積める善行です」

 

「は、はい…………」

 

 

渋々ですが了解してくれたようです。早苗の彼に対する好意も把握済みですが今回は1対1で話したいと思っているので、彼女には悪いですが私だけで訪問させてもらいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、碓氷勇人の家ですが妖怪の山の麓にポツンと家を建ててるようです。どこかの怠惰な巫女とは違い、この幻想郷では指折りの若さながらも自立した生活をし、また教師として子供達に教え、はたまた人里を守るために奮闘する。まさに善行のオンパレードです。

 

しかしながら、彼にも悪い所はあります。少々1人で抱え込みがちな所です。先程の霊夢の発言にもあったように仕事をやり過ぎて倒れたりと人を頼らず、自分だけで苦しんでしまいます。

 

そこで私が彼に教えてあげようと彼の元に向かっている訳です。さあ、彼の家が見えて来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、私四季映姫は非常に困っています。

常日頃から不測の事態や未曾有の危機などを想定し最悪に備えている私ですが…………これは流石に想定外です。

 

 

 

「うーん…………」

 

「…………」

 

 

私を見つめる目がそこに。いえ、睨み尽きてるのでしょうか?

私よりも低い位置にある瞳。相手は男性です。私もそこまで大きくないと思いますが…………

 

 

流石にこのサイズは小さ過ぎます。

 

 

なんせ、私が見下ろしてしまうぐらいに。

 

 

 

 

 

「…………えっと、ここは碓氷勇人の家でしょうか?」

 

 

と、とりあえず、確認をとりましょう。もしかしたら、間違えたのかもしれません。

 

 

「ええ、そうですよ(まぁ、なんて言ったって"俺"の家だし)」

 

 

あってるようです…………という事は、この子は…………………………………………は!

 

 

「(はぁ…………永琳さんの訳の分からん薬のせいでこの体になってしまって2日目か…………)」

 

 

ま、まさかとは思いますが…………しかし、それ以外は考えられません。

 

 

「(混乱を避けるためにこの事を知られないように人との接触を避けたいんだがなぁ…………)」

 

 

碓氷勇人の顔は一応確認しています。その顔の特徴としては目が挙げられるでしょう。基本的に瞼が落ち気味であるせいで瞳に光入らないーー所謂、死んだ目が特徴的です。

そして、この子は…………その特徴をそのまま持っています。。というか、ほとんど瓜二つです。

 

 

「(早苗とかが来たら困るし早く帰ってくれないかなぁ…………)」

 

 

そこから得られる答えは…………ズバリ、勇人の子であるという事です!

 

そうとなれば、母親は誰でしょうか?あまりにも彼に似過ぎて誰が母親なのかが全く推測できません。

まぁ、兎も角本命は彼の子供ではなく、彼自身であるので不在かどうか聞いてみましょう。

 

 

「えっと、今ご両親は?」

 

「ああ…………(幻想郷に)いないよ」

 

「そうですか…………(留守で)いないのですね…………」

 

 

 

「確かにお父さんは忙しそうですからね」

 

「え?」

 

「え?」

 

「は、はぁ…………確かに忙しそうでしたからね…………(な、何故このお方は俺の親父の事情を!?)」

 

 

「あ、申し遅れましたね。私は四季映姫、閻魔です。今日は幻想郷に善行を積んでいるのか見に回っています」

 

 

「そうですか…………と、とりあえずどうしますか?家に上がるか、お帰りになるか…………」

 

 

ふむ…………ここはあえて息子の視点からの勇人の姿を聞いてみるのもいいかもしれません。お邪魔になるとしましょう。

 

 

「上がらせていただきます。それにしても貴方はまだ幼いのにしっかりとしているのですね」

 

「あ、ありがとうございます…………(あ、俺、今は小学低学年並の容姿だったな…………)」

 

 

 

 

 

 

流石、彼の息子と言ったところでしょうか?お茶とお茶受け用の菓子類を取り出し、キチンと接待をしています。勇人という人は礼儀をしっかりとするタイプでしょう。忙しく準備する甚平姿の子はとても愛くるしいものです。

 

 

「それで、善行についてのお話をするのでしょうか?」

 

「いいえ、今回は貴方のお父さんのお話を聞きたいのです」

 

「お、俺の…………?」

 

「ええ、貴方から見てお父さんはどんな人ですか?」

 

「(親父か…………いつも仕事ばかりで平日だなんてほとんど顔を合わせた事がなかったなぁ…………でも、休日は休みたいはずなのに家族と過ごす事を優先してくれてたなぁ…………)…………まぁ、尊敬できる人、ですかね」

 

「そうですか…………それはいい事です」

 

 

息子から尊敬される父とは素晴らしいものです。もう、彼には説教は必要ないかもしれません。

 

 

「…………母は誰なんでしょう?」

 

「え?」

 

「あ、独り言です。貴方の父は素晴らしい人です。これからも貴方の父を尊敬しなさい。これが貴方の積める善行です」

 

「…………そうですね」

 

「それでは、私は貴方の父に会って来ます」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「ちょっと待ってください。俺の父に会うのですか?」

 

「ええ、彼の功績を労うのと同時に説教を…………」

 

「いや、俺の父は幻想郷にいませんよ?」

 

 

「えっ!?」

 

「え?」

 

 

「もしかして、まだ宴会から帰って来ていない?」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「すいません、少し整理しましょう」

 

 

何かがおかしいです。話が噛み合ってないような…………

 

 

「貴方の父は幻想郷にはいないと?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「そもそも、幻想郷に住んでは…………?」

 

「住んでませんよ」

 

 

「ええっ!?」

 

「え?」

 

 

「それでは寺子屋で教師をし、幻想郷の異変を解決して来たというのに幻想郷に住んでないと?」

 

「ちょっと待ってください」

 

「ふぇ?」

 

「貴方が言う、俺の父の名前は?」

 

「碓氷勇人ですが?」

 

 

 

 

「あー…………その碓氷勇人って言うのは…………俺ですよ」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「貴方が碓氷勇人なのですか…………?」

 

「はい」

 

 

「えええ!?」


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