諸行有常記   作:sakeu

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第76話 儚い蟲達の夢の日の青年

魔王は消滅した。即ち、今回の目標は粗方達成という事である。いや、そもそもただの調査のはずだった様な気がするが…………まぁ、いいっか。

 

 

早く京谷と達の元へ行って俺は大丈夫だと教えないとな。それに、消滅した魔王様との約束もある訳だし。

 

 

俺が突き破って来た床の所へと向かう。ふと思ったのだが俺の体は大丈夫だよな?ーーーお腹がまだ痛い様な気がするがそこは我慢我慢。

 

 

「よっ…………と」

 

下の階へとジャンプし、着地する。

しかし、それと同時に拳がすぐそこまで迫る。

 

「ぬぁ!?」

 

「チッ、まだ寝てなかったか…………今度こそ寝てろ」

 

「ちょ、ちょっと待て!勇人だ!俺は勇人だ!」

 

「あ?もう少しはまともな嘘をつきやがれ!」

 

う、うーむ…………簡単には信じてくれなさそうだ。それもそうか…………とか考えてたら、スタンドの攻撃が迫る。

信じてもらうには…………

 

 

ベキィ!

 

 

 

「ッ!?」

 

「グゥ…………い、痛い…………これで信じるか?」

 

手荒だが何もせず攻撃の意思が無いことを示すしかあるまい。

 

「本当に勇人だな?」

 

「あ、ああ…………嘘じゃない。勇人、嘘つかない」

 

「その様だな…………手間のかかる奴だ」

 

「ハハ…………すまない。もう大丈夫だ」

 

 

よし、大丈夫と言えたぞ…………後は妖夢にも…………

 

 

「勇人さん!」

 

「お、妖夢。色々迷惑かけたな…………」

 

「勇人さんなんですよね?本物の勇人さんですよね?」

 

「ああ、正真正銘俺は勇人だ」

 

 

すると、妖夢は俺に抱き付く。

 

 

「よかった…………本当に…………」

 

「…………すまない」

 

「謝らないでください。気づけなかった私も悪いんです…………」

 

「いや、勝手に抱え込んでた俺の方が…………」

 

 

「はい、そこまでじゃ。どっちかが悪いとか言っておったら日が暮れるわい」

 

「そ、そうだな…………ところであの3人は?」

 

「それなら、もう京谷が始末してしまったわよ」

 

「ああ、無限の回転エネルギーを撃ち込んでやった」

 

「容赦無いな…………」

 

 

よりによって絶対殺すマンとは…………

 

 

 

「ぅぅ…………こ、こんなところでぇぇ!」

 

「まだ、死なないとは…………しぶとい奴だ」

 

ハキムは内部が切り裂かれながらもこちらに向かおうとしていた。

 

「まだ、まだ、やられるわけには…………!」

 

すると、ハキムの姿が変わり、巨大な昆虫へと変化した。

 

「スカベラか…………だが、無限回転エネルギーからは逃げられない」

 

「…………そうですねぇ、この回転という奴はどう足掻いても私達を殺す様ですね。まぁ、これを止める方法とすれば逆の同じ回転をまた撃ち込んでもらうしか無さそうですね…………」

 

「へぇ…………そこまで分かるのか」

 

「伊達に長生きしてませんよ…………」

 

「それが分かったところで取引でもするつもりか?」

 

「そうですねぇ…………これだけ長生きしたのですから生き延びるコツは知っているつもりですよ」

 

「何事にも本気を出さず責任を取る立場にならない事。気軽に意見を言える側近の立場でいざとなったら逃げるか裏切る。それが生き延びるコツです…………今回の事も面白半分で参加したのですがね…………」

 

「こんな大層な事をしておいて面白半分だと?」

 

「はっきり言ってしまうと、魔王が現れたからって世界が必ずしも大きく変わるとは思ってないのですよ」

 

「なら、なんでこんな事を?さっさと逃げ出せば良かったものを」

 

「でもねぇ、なんと言うか…………グフッ」

 

 

ソネの口から血が出る。飄々としているが実際は瀕死なのだろう。

 

 

「ただ生き延びてるだけでは生きてるとは言えないと思いまして…………まぁ、たまには私もカッコつけたくなったんですよ。ハキムやシアンの様にね…………」

 

「不器用な奴らだな」

 

「ハハ…………まったくです。だから、ただでは死にませんよ!」

 

 

ソネの体は巨大なサソリとなりその巨大な尻尾にある毒針を撃ち出す。

俺は素早くそれを躱し、銃弾を数発撃ち込む。

 

全ての弾は命中し、ソネは力尽きる。

 

 

「ハハハ…………やはり、真面目にやるとロクな結末になりませんねぇ。でも、こういうのが生きているという感覚なんでしょうね…………」

 

 

そして、ソネは穴に引きずり込まれる。

 

 

「お前らァァア!」

 

 

ハキムは内部が切り裂かれながらも攻撃をしようとするが、

 

 

「無駄ァ!」

 

 

京谷の一撃でハキムも穴に引きずり込まれる。

 

 

2人の引きずり込まれた穴から怨念の様な魂が出てくる。

 

 

「おい、京谷もう1人のあれは偽物じゃないか?」

「は?…………あれは…………ゾンビか?」

 

 

そもそも、シアンの体は虫の群れである。その場合は回転エネルギーは群れ全体に効果があるのだろうか?ともかく、仕上げをしないと…………

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…………」

 

 

暗闇の向こうから既にボロボロの状態のシアンが出てくる。

 

 

「シアン、後はお前だけだぜ」

 

「ソネとハキムがやられたか…………魔王誕生計画は大失敗だな…………」

 

「どうする?降参するか?」

 

「ハハハハハ!降参?ふざけないでくれ。私は魔族の未来の為に最期まで計画は続ける!」

 

「また、虫の大群でくるか?そうだとしても全て燃やし尽くしてやる」

 

「舐めないでくれ、魔族は進化するのだ。貴様ら蠱毒の儀式と言うのを知ってるか?」

 

「「コドク?」」

 

「東洋の呪術だよ。大量の虫を狭い部屋に閉じ込めて共食いさせる。最後に残った一匹には死んだ全ての虫の怨念と魔力が結集する」

 

「何を言ってるんだ?」

 

 

ま、まさか?

 

 

「私の体を構成する数百万の虫で蠱毒の儀式をとりおこなった。さらにはハキムとソネの分まである」

 

「今の私は虫の群れではない!…………最強最後の一匹のみ、だ」

 

 

シアンは巨大な蝶となる。赤を基調とした蝶は大きさも相まってか、美しいと言うより恐ろしい姿となっている。

 

 

「グッ…………凄い風圧だな…………」

「あいつの相手は俺がする」

「そうか、じゃあ任せたぞ勇人」

 

 

俺は一歩前に踏み出し、シアンと対峙する。

 

 

「よし…………魔王の力、早速使わせて貰うぜ」

 

 

「魔族の力を思い知れ!」

 

 

羽から紫色の鱗粉がばら撒かれる。恐らくは毒素を含んでいるのだろう。しかし、鱗粉が俺より後ろに回ることは無い。

俺は魔王の魂の力を借り、意識をシアンの方へ集中する。

 

 

「これから起こるのは"絶対"であり、それ以外は起こりえない…………」

 

「ハァァァァ!」

 

 

鱗粉を突風に乗せて嵐の様に放つ。しかし、それも無意味だ。

 

 

「お前の羽は5秒後に両方とももげる」

 

「は?何をいってる?」

 

「後3秒…………2秒…………1秒…………」

 

 

すると、メリメリと羽がいきなりもげて落ちる。

 

 

「グァァァ!?は、羽が!?」

 

 

飛ぶ手段を失ったシアンは地へと叩きつけられる。

 

 

「な、何が起こった?」

 

「急に羽が取れたわ!」

 

「ゆ、勇人さんは動いてませんよ?」

 

 

フフ…………どうだ、凄いだろ?この仕組みは後で教えるとしよう。

 

 

「羽がないと何もできないな」

 

「ウグ…………やはり、私ではどうしようもないか…………」

 

「ああ、そうだな」

 

「フッ…………すっかり忘れてたつもりだったが…………お前はあいつにそっくりだ…………」

 

「あいつ?」

 

「私は元は人間だった。普通に暮らしていた。普通に恋愛をした。普通だとしても私はその相手をとても大事だと思っていた。そして、結婚へと至った。あの時は嬉しかったよ。だがな、村が傭兵どもに襲われた。結婚式の日にだ。傭兵が襲った理由が国家が金を払わなかったからだと。目の前で家族が村の人たちが私の大切な人達が殺されたよ。もちろん、夫となる人も…………私はその日には死ななかった。数日間生きながら虫に食われ続けた。そして、気づいたら私は魔族になっていた」

 

「…………そうか」

 

「同情はいらない。魔族になって私はハキムやソネの様な者に出会えたのだからな」

 

「お前は…………いや、何も言うまい」

 

「そうしてくれ…………さぁ、その手で終わらせてくれ。私は少し疲れた…………」

 

 

俺は再びシアンに意識を集中させる。

 

 

「後、5秒後にお前の体は消滅する…………」

 

「…………」

 

 

シアンの体は次第に半透明になり、やがて消えた。

 

 

 

「はぁ…………終わったァァア!」

 

本当、長かった…………

 

「ようやく、ね」

 

「いや、まだ真のラスボスがいるかもしれないぜ?」

 

「それはもう勘弁な」

 

「ハハ、冗談だ。ほら、とっとと戻ろうぜ?」

 

「ああ、早く布団に戻りたいぜ」

 

 

俺らは帰路へと歩を進めた。


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