乾いた音が鳴り響く。高速回転しながら飛び出した弾丸は京谷の目へと命中した。しかし、弾丸は京谷の頭を貫かなかった。
カランカランと何かが落ちる音がする。その何かは先程、京谷に命中した弾丸と命中された眼球であった。
普通なら発狂してしまいそうな悍ましい光景だが、状況が状況でよかったと安心する。と言っても未だに体は言う事を聞かない。
「……………フッ」
京谷が笑う。相手を見下すような笑い方。
「フフフフ………ククク………ハァ………」
「アーハッハッハッハッハッ!!!」
今度は高笑いを始める。少しながら不謹慎だ。
今、思ったのだが、俺は魔王の魂の記憶によって新たな人格が作成されていて、二つの人格が混在している状態にあるようだ。何故、分かるのかっていうと…………意識を共有してるからだ。もう1人の人格が何をしようかなどこちらには筒抜けである。だからと言って動く事は出来ないが。
「『このDIO以外に能力は使えない時間』を決めた」
「ハッ!!抜かせ雑魚が」
「ッ!!?お、お前……誰だ?誰なんだ!?」
「先程も言った。この『DIO』に同じ言葉を2度も繰り返そうとするな。ハキムよ」
「んなっ!?」
急いでもう一つの人格は不変化を発動しようとする。
「この人間の能力が発動する前に能力を使えば良い。謂わば先着順というヤツだな」
そんなセリフと共に頭を掴まれる。ーーなるほど、確かに発動しなければ俺はただの人間だ。無論、今の状態で人間とはとても言えないが。
俺の体は容易く宙に投げられ、腹部に蹴りを入れられる。体は天井を突き破り、上の階の部屋に投げ出される。
「がはっ…………!」
くそっ…………痛いな…………内臓が傷ついたか?
…………痛い?痛い!?
「えっ!?しゃ、喋れるッ!」
俺の体の使用権は俺に移ったようだ。そうとなれば、京谷達の元に…………
『(…………人間よ)』
「なっ!?だ、誰だ!?」
『(我はお前の中にいる…………)』
「こ、こいつ…………直接脳内に…………!」
『(必要な能力は全て持っている。我は生まれながらの王ゆえ当然の事。いや、足りぬな…………体がな)』
「便利だな、必要な能力全て持ってるなんて。まぁ、1番大事な体が無いのは致命的だがな…………俺の体はもう使わせねぇぞ」
『(万物の王たる我がどんな姿をしてようとなんの不都合もない)』
『(この城に有り余る魔力を胸に我は城下へと飛び立つだろう。我が下では数多くの人間は魔族となり、我に従うだろう)』
「…………人間を魔物に変える魔法か、だが、そんな事はさせないぞ。お前の思惑は俺に筒抜けだ。今すぐにでもお前の人格を消し去ってやる」
『(ふむ…………我を倒すという訳か。では、一つお前に問おう)』
『(我を消し去るという事はそれ相応の理由があるのだろう。だが、肉体を持たずとも生まれたばかりである我になんの罪がある?)』
「…………お前の力は強すぎる。強いていうなら、お前みたいな魔王が存在している事こそ罪だ」
『(ククク…………そう言う答えこそ聞きたかったぞ)』
「??」
『(深く考えずともよい。我には我の正義があるようにお前にも正義がある。たったそれだけの事だ)』
『(我の人格は存在が不安定だ。あの京谷という奴との戦いでまともに存在しておれん。直に我が人格は消え失せるだろう)』
『(我が命、かくも短く終わろうとは予想だにしなかった…………ぞ)』
「…………すまない」
『(謝る必要は無い、人間よ…………いや勇人よ。お前も我も期待された役目を果たすために努力したに過ぎん)』
過去よりも未来を
謝罪よりも約束を
「約束?」
『(我に約束せよ、勇人。より良き世界を作る…………と。我の生みの親である3人が目指した世界も同じ。しかし、その3人もいずれ死ぬだろう。だからこそ約束せよ。そのために我が力をお前に残す)』
「…………ああ、約束する。魔王に頼らずといい世界が必ず来る。」
『(そうであるとよいな…………生みの親よりも先に眠りにつく事になるとは…………だが、安心したぞ…………勇人…………)』
自分の中に何かが消えていくのを感じる。正義とは難しいな…………
正義の反対は悪なんかじゃないんだな…………別の正義だからより難しい。
だが、約束はしてしまったからな…………
"謝罪よりも約束を"か…………