諸行有常記   作:sakeu

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大分遅くなりました。すいません




第74話 8F(陰々滅々な心)の日の青年

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ーー…………ヒィ!く、来るな!

 

…………な、なんなんだ!?こいつ!ば、化け物か…………!?

…………や、野郎!

 

ーーーベキィと鈍い音とともに男が倒れる。

目の前には血だらけになった男達がいる。

ある者は折れた鼻を押さえて呻き、ある者は腹を抱えて蹲っている。

 

ーーーうおお!この化け物がぁぁぁぁぁ!

 

ーーー獲物が…………もう1人…………ーーー

 

ボソッと呟き、その細い体から大の男の腹に拳を入れる。

痛みに蹲る男の頭を掴み、再び拳を叩き込む。

 

 

その時の勇人の顔は笑顔でも憤怒の表情でも無くただ

 

ーーー無表情で殴り続けていた。

 

 

 

 

 

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……兄さん……

……今日もやったの…………?

……いつまでやるの…………?……しょうがないだろ?それはおかしいよ……

……やっぱり、悪い事だろ……?

 

ーー手についた血を洗い流しながら弟の言葉を聞く。

 

分かってる。

 

分かってはいるんだ。

 

 

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…………もう、どっかに行ってよ!化け物!

 

ーー喧嘩した日に言われたこの言葉。

 

…………あっ…………

 

ーーーー化け物…………やっぱり、俺は異常者なのか?弟の言う通り、化け物なのか?

 

ーーーーそうに決まってる……自分でも分かっている。これはおかしいと言う事なんて自分が1番分かっている。

 

 

ーーーーでも、抑えられない。人を見ると急に殴りたくなる…………

 

ーーーー幻想郷に来てからはどうだ?

そんな衝動…………数えるほどしか起きていない。

 

ーーーー俺はまともになってきてるのか?

 

 

ーーーー…………違う…………俺は…………人を守るという事を理由にこの衝動を誤魔化してただけじゃないのか?…………一人前に助けると言っておきながら本当は誰かに暴力を振るう事で誤魔化してたのではないのか?

 

 

ーーーーやっぱり、俺は化け物なのか?ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

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京谷達の声が聞こえる。

 

 

ーー俺は化け物じゃないのか?

 

 

そんな想いが出て来る。でも、すぐにそれを自分で否定する。なぜなら…………

 

 

今、物凄く京谷達に暴力を振るいたいと思ってしまっているから。

 

 

 

 

 

 

不意に京谷が突っ込んで来る。

今では何故かはっきりと見えるスタンドーー黒い筋肉質な体に逆立った髪の毛。そして、青く光る目。

 

そのスタンドの拳を避け、後ろに逃れる。今、気づいたのだが右脚は既に治っている。これもあの魔王の魂のおかげか…………

 

 

 

距離をとった京谷からとてつもないオーラが発せられる。

ビリビリとした感触を肌に感じる。

 

それはまさに"恐怖"の象徴であり、常人なら簡単に気絶するだろう。しかし、自分が恐怖しているとは全く感じない。表情筋も、固定されたかの様に動かない。

 

 

『殺せ』

 

 

自分の中の化け物がそう言う。さらに化け物は俺の気配をドス黒く塗り固めていく。

 

 

「そう言えば、この銃を預かったままだったな。返してやろう。その代わり…………」

 

 

「全員始末しろ」

 

 

シアンから銃を受け取り、返事もせずに構える。

 

無機質な部屋の中で、2対4という形で対峙し殺気が充満する。

 

「もう我慢の限界よ!貴方はまだ、そうやってうじうじしている訳?妖夢はとっくに決意を決めてるわよ!」

 

「……………………」

 

静寂の中、咲夜の叫び声が響く。でも、もう俺には響かない。

決意?そんなの出来てたら今の状況なんか起きない。

 

「まだ無言を貫くのかしら?」

 

 

返事をするかわりに殺気を増加させる。

 

「…………そう、もういいわ…………この『臆病者』」

 

咲夜の手には既にいくつかのナイフが握られていた。

そして、次の瞬間にはそのナイフは手から無くなっていた。

 

「!!」

 

そのナイフは既に俺の背中に突き刺さっていた。だが、全く痛みを感じない。ドクドクと血は流れ出ているのに全く痛みを感じない。

刺さったナイフを無視して俺は銃を撃つ。

 

パァン!

 

乾いた音が咲夜の眉間に向かう。

 

「無駄ァ!」

 

京谷がスタンドで弾丸を弾こうとする。その瞬間

 

 

ピカアァァァ…………!

 

 

 

「なッ!?」

 

2人の動きが止まる。その間に京谷に蹴りを入れ吹き飛ばす。

 

「グッ…………!」

 

すかさず咲夜が時を止めて反撃に転じようとするがその寸前に不変化の空間を生み出し、時の流れを守る。

 

「ーーッ!?」

 

右手を咲夜の目の前にかざし能力を発動させようとする。徐々に咲夜の体の動きが固まっていく。

 

「無駄ァ!」

 

バギィィ!

 

京谷のスタンドが俺の右腕をへし折る。

余った左腕で銃の引き金を引き京谷に打ち込む。

 

パァン!パァン!

 

「無駄無駄ァ!」

 

今、思う。俺の能力は強化されたと。何故なら"血"なんかつけずに"不変化"できるのだから。

 

 

銃弾はいとも容易く京谷の腕を貫く。

 

「…………チッ!」

 

そして、化け物は言う、トドメだと。それに従うかの様に京谷の眉間に銃口を定め引き金に指を掛ける。

 

そこに白刃が一閃する。間一髪避け後ろに後退する。

 

 

「何かが勇人さんを迷わせているなら、それを私が斬ります!」

 

 

「す、すまねぇ……妖夢。助かった」

「いえ、それよりも今は勇人さんを」

 

 

妖夢の言葉を聞くなり京谷はこちらに突っ込んでくる。

 

もう一度標準を京谷に合わせ、引き金を引こうとする。もちろん、狙うは眉間ーーー

 

 

ドスッ ドスッ

 

 

「!?」

 

左腕にナイフが刺さった。飛んできた方向を見ると咲夜がいた。

 

 

「無駄ァ!」

 

 

ドゴォオ!

 

 

スタンドの拳が頰にめり込む。ミシミシと嫌な音をたて、体が揺れる。

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァア!」

 

 

 

ラッシュを叩き込まれ、あちらこちらの骨が折れる音が聞こえる。

流石にダメージを食らい過ぎたのか、意識が朦朧とする。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、体は立ち上がる。もう体はボロボロのはず……………………

そんな中、京谷の声が聞こえる。

 

 

 

「勇人、もうこんな事、終わりにしようぜ…………お前が悩むのは1人でどうにかしようとしてるからだろ?」

 

 

ーーー1人で…………解決しようとしたから?

 

 

「まぁ、確かにそんな衝動は人に打ち明け難いかもしれないが…………だからといって、妖夢達に言えないぐらいなのか?お前は妖夢達を信じれないのか?」

 

 

ーーーそんな訳が…………ない…………

 

 

「咲夜の言う通りお前は『臆病者』だ。本当は自分の衝動が大事な人に向かうのが怖いんじゃなくて、それを知られた時に相手が自分を恐れる事が怖かったんじゃないのか?」

 

 

ーーー俺は…………俺は…………

 

 

「俺は分かってる。お前は悪い奴じゃないと。お前が撃つたびに間がある。それは大事な奴は撃ってはいけないという事が衝動の中にも働いてるからじゃないのか?」

 

 

「俺らはお前を受け止める準備はできてる。あとはお前だけだ」

 

 

ーーー俺は結局逃げてたのか…………化け物という事にして逃げてたのか。あー…………しっかりと向き合ってたと思ってたのにな…………そうじゃなかったのか…………別に頼ってもいいのか…………

 

なら、後は俺が信じるだけか…………

 

 

「そんなの、ただの戯言だ」

 

 

ーーーえ?俺はなんて言った?

 

 

「人を殴った時に『衝動で殴った』と言ったらどう思う?異常者だと思うに決まってる」

 

 

ーーーなんで、俺は話している!?俺は何を言っている?

 

 

「殺す側にとって殺される者に大事だとかは関係ない。それはお前らも同じだ」

 

 

ーーー違う!違うんだ!

 

 

「ゆ、勇人さん…………」

 

 

ーーー違うんだ…………妖夢…………

 

 

俺の中の化け物は既に口から出てきていて、俺として存在していた。

 

意思に反し再び銃を構える。

しかし、京谷は立ったまま。

 

 

「……………………」

 

 

ーーーな、何をしてるんだ!お、俺はもう…………!

 

 

引き金にかかる指の力が強くなっていく。

 

ーーーやめろ…………やめろ……やめろォォォオ!

 

 

 

パァン!


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