「京谷!」
京谷はDIOが吹き飛ばされたであろう場所まで歩いていた。もう元凶は潰えた。終わりだろう。
「……………………」
しかし、京谷は返事をしない。
「京谷!京谷!オイッ!」
「……DIOがいない」
「え?」
「DIOがいない!この後に及んで逃げやがった!」
「だ、大丈夫だ!血を引きずった跡がある。そこを追いかければいずれDIOの元に着く」
血を引きずった跡は上への階段へと続いていた。
「なら、さっさと行くぞ!」
「ま、待て。お前、体は大丈夫なのか?」
「そ、そうよ!さっきまで立つのもやっとだったじゃない!」
「あれ?そういえば……体が随分と軽いなぁ。むしろ、エネルギーが溢れかえってる気分だ」
何があったんだよ……さっきまで死にかけてたのにヨォ……まぁ、どうともなくて良かったが。
「じいちゃん、なんかしたか?」
「いや……神力をやってるからって使われた魂を戻す事はできんぞ」
「と、兎に角、今はこうしてピンピンしてるわけだ!さっさと行こう!」
「い、いや……俺、結構疲れてんだけど……」
「ほら!行くぞ!敵は待ってくれないぞ?」
こっちは疲れてんのに向こうは元気になるなんて……少し腹がたつ。それに、こちとら、2丁拳銃の調子もおかしくなってきたというのに。
「勇人!置いてくぞ!」
「はいはい……行くから行くから……」
全く……心配かけやがって…………やっぱり、腹がたつ。
血を引きずった跡はそう長くは続いていなかった。意外にもすぐに跡は途切れていた。…………本体はいないが。
「チッ……逃げ切りやがったか」
「いや、違う……DIOはここまでしか来ていない」
「これまた、よく断定できるな」
「ああ、よく観察すればすぐに分かる。そうだ、当てたらなんか奢ってやる」
「へぇ……言ったな?絶対何か奢れよ?」
「ああ」
実際、すぐに分かるだろう。
「……………………」
〜5分後〜
「……………………分からん」
「へぇ……さっきまで自信たっぷりだったのに」
「いや、ただ血があるだけだろ?何が分かるんだよ?な、咲夜?」
「分かったわよ」
「そうだよな、分かるはずが……は?」
「簡単よ?」
「え…………?よ、妖夢も?」
「はい。何があったまで推測できると思います」
「じ、じいさんは……」
「分かっておる」
「なん……だと……?」
これは、全く分かってないな。答えを教えてやるか。
「なぁ、ここら辺一帯どうなってる?」
「どうなってるって……血があるだけだろ?」
「ああ、血だらけだな。まるで飛び散ったかのように血の跡が付いているな」
「…………は!ま、まさか!」
「そうだな、多分ここでDIOは殺られた」
「いや……分かりにくいだろ?」
「もっとも、ここにDIOの衣服がある時点でそうだと言えると思うけどな。本体は消滅したのか?」
「……………………」
あ、ちょっと、不機嫌になった。少しからかいすぎたか?
「ま、まぁ……本当の黒幕はDIOではないという事が分かっただろ?多分、道中にあった3人が怪しいがな」
「…………そうだな」
と、俺らはまた階段を登るのだった。
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「ジオット様、人間がこのフロアに入ったようです」
「へぇ……人間が?」
「厳密に言いますと2人程違いますが、後の3人は人間です」
「そうか、せっかくのお客だから盛大に"おもてなし"をしてあげて」
「しかし、相手は相当な手練れと聞いています」
「ハハ……さては戦いたいんだろ?マゼンダ……」
「さしがましい事ですが……是非とも戦いです」
「いいよ。せっかくだからね」
「ありがとうございます」
「久々に面白い人間に会えるようだね…………」
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「ふぁぁ…………」
「欠伸するなんて余裕だな、勇人」
「しょうがないだろ、もう1日以上経ってるだろうはずなのに一睡もしてないんだぜ?逆になんで眠くならないんだ?」
俺としては早く夢の世界に行きたいのだが。もう、頭がぼんやりしつつもある。
「確かにぶっ続けていくのもキツイな…………次のフロアを通り抜けたら一旦休みを取ろう」
「そうと決まればさっさと行こう」
と、先程から見えていた5階に乗り出すのだった。
「…………京谷、ここの道、通ったよな?」
「え?そうなのか?」
「というか、さっきから同じところをグルグル回ってる気がするわ」
「わ、私は分かりません…………」
はい、完全に迷っています。景色が単調なため、どこを歩いてるのかが見当もつかない。ああ……休憩は少しお預けのようだ。
「うーん…………どこを行けばいいのやら…………」
「はぁ……道中にゾンビがいたけどもう見なくなってきたし……やっぱり、同じ道を通ってるんだろう」
「途中途中の部屋も全部そこで行き止まりだったし、誰かの術のせいじゃないのかしら?」
「はぁ…………もうここで休めばいいんじゃないか?」
「そういう訳にもいかな…………」
「どうした?京谷」
と京谷の向く方向を見ると、ゾンビが壁から出てきていた。そういうタイプかよ…………
出てきたゾンビはすぐに始末して、ゾンビが出てきた壁を確認する。
「おお〜、すり抜けられるぞ」
と京谷は壁に腕を出し入れする。
そして、その壁の向こうに入ってみると少し広めの部屋に出た。
「これまた…………空間どうなってるんだ?」
「さぁな…………あいつに聞いたらいいんじゃないか?」
と京谷は指差しながら言う。その指す先を見るとフードを深く着込んだ者がいた。顔も見えないため男か女かも分からない。
「なぁ、あんたがこんな事を?」
「……………………」
京谷が問いかけるが相手は反応しない。俺は回転式拳銃に手を伸ばす。相手の腰には剣が携えてある。
「少しは反応してからもいいだろう?」
京谷が近づく。しかし、相手は動かない。もう、京谷が腕を伸ばせば届く距離まで来た瞬間
カキィ!
「……!」
気づいた時には既に相手は剣を抜いていた。
「あ、あぶねぇ……!」
京谷は辛うじてガードしたようだ。
「やるって言うのなら、手加減はしないぜ!」
しかし、相手は剣をしまった。そして、指をさした。
「え?わ、私!?」
指をさされたのは妖夢だ。
自分を指差す妖夢に対して相手は頷く。
「だとよ、どうする?」
「お、同じ剣士としては是非お手合わせしたいとは思いますが……」
「なら、いいんじゃないか?一騎打ちしてこいよ」
「京谷、今の内に奥に行け」
「え?」
「多分、こいつは誰かの配下だ。お前はその頭を討ってきてくれ」
「ああ、任せとけ」
と京谷はパッと消える。時でも止めたのだろう。後は妖夢に任せるか…………
妖夢は剣を抜き一歩前に出る。それに応じて相手も刀を抜き、鞘を捨てる。
「それでは私がお相手をさせていただきます」
「……………………」
フードから覗く爛々と光る眼は俺達ではなく、完全に妖夢の方を捉えていた。その右手には長い諸刃の剣。
その刹那、奴の姿は既に妖夢のすぐ近くまで迫っていた。そして、手にした獲物を下段から振り上げた。
「…………ッ!」
妖夢も楼観剣を抜き、上段から振り下ろしこれを防ぐ。
刃同士が激突し火花を散らす。同時に妖夢はもう片方の手で白楼剣を抜き、相手の側頭部を狙うが、相手は反射的にこれを体を逸らして避ける。しかし、避ける事で剣への力が弱まり、妖夢は距離を取る事を選択する。
再び、妖夢は奴と真っ向から対峙する。
「何者です」
「…………マゼンダ」
ここに来てようやく声を聞けたが……声からして、多分女だろう。しかし、マゼンダと名乗る彼女はそれだけ言い、妖夢の喉元への打突を繰り出した。それを妖夢は半身になって避け、カウンターとして胴への斬撃を繰り出す。ーー完璧なカウンターだ。この斬撃は避けられまい。
しかし、相手は楼観剣の刀身の横っ腹を柄頭で叩きつける。
「クッ……!」
その衝撃は刀身を伝わり妖夢の手へと伝わる。それによって、握力を奪われ楼観剣を落とす。
「妖夢ッ!」
「来ないでください!」
いつもとは違う強い口調により、構えた拳銃を降ろす。
妖夢は足元に転がっていた相手の鞘を蹴り上げ、動きを一瞬封じる。その間に楼観剣を回収し再び間合いを取る。
「じ、じいちゃん……相手はなかなかやるんじゃないのか?」
「ああ……あのカウンターを躱すどころか返してしもうたわい」
「ふぅ…………」
妖夢は大きく息を吐く。そして、背中に携えていた鞘に刀をしまい腰まで持っていくーー所謂、居合の構えである。
「フッ…………」
口元に微笑を浮かべる相手は両手をだらりと垂らし、剣先は地面についている。
そして、相手は地面を蹴り妖夢に迫る。
居合は長刀が近距離にも対応できるようになるものであるが、それ故攻撃範囲は限られる。範囲内に入る瞬間をどう見極められるか…………
カッ!
「なっ…………!?」
相手は地面に落ちていた己の鞘を妖夢に蹴っていた。
妖夢はそれを躱すが既に相手はすぐそこまで迫っていた。
相手の横薙ぎが妖夢の胴までに迫る。
カキィ!
「クッ…………!」
辛うじて妖夢は受け止めるが、体勢は大きく崩された。
そこから相手の猛攻が始まる。上段、中段、下段――多彩な攻撃が多角的な軌道を描いて妖夢に襲いかかる。突きが急に斬撃へ代わり、肩口を狙う刃が突如小手を取りに行く。次の手はもちろん、直後の軌道すら読めない。これは…………
「無形…………?」
「ああ…………構えが無い、型無いんじゃな」
徐々に妖夢は追い詰められていく。
「こんなものか……」
相手はあれ程猛攻しているにもかかわらず、まだ喋る余裕すらある。
「……お前の力はそれだけなのか?まだ先はあるだろう?」
妖夢も反撃に出ようとしているが相手がそれを防いでいる。
「お前が剣を振るう理由はなんだ?ただ強くなるだけなのか?」
「……!」
すると、妖夢が相手の一撃を弾く。同時に押されていた気配が変わる。
「私は……私は!守るために!勇人さんや幽々子様やみんなを守るためにこの刃を振るいます!」
「勇人さんより弱いかもしれないけど!それでも勇人さんを守ってみせます!この人の前なら私は絶対に負けません!」
そして、妖夢の防戦一方だったのが共に激しい攻防を繰り広げるようになった。
「……………………」
「強いのぉ……妖夢は」
「ああ……俺なんかよりずっと強い……」
しかし、2人の戦いは意外な形で終わる。
「……!?」
「ん?」
相手の手が止まる。しまいには膝をついた。
「はぁ、はぁ……」
「な、何が!?」
「フフ……どうやら、ジオット様がやられたようだな……」
京谷達はうまくやったらしい。
「で、でも、どうして!?」
「私は強大な力を手に入れる代わりにジオットに魂を売った。それにより、ジオット様がいる限り私は復活し続けた……だが、ジオット様がやられた今、共に滅ぶしか無い」
「な、なんでそんな事を…………」
「お前と一緒だ。大切な物を守りたかった。それだけだ…………でも、お前はできるようだな…………」
「簡単に手に入る力なんぞは自分の身を滅ぼしかねんという事ぐらいわかってたんじゃろ?」
「あ、ああ…………でもな、人間っていうのはわかっててもすぐに傾いちまうもんだ…………」
「マゼンダさん…………」
「でも、最期に君と剣を交えれてよかったと思うよ。忘れかけてたものを思い出した……君はまだまだ強くなれる」
「はい!」
マゼンダの体はだんだん薄くなっていく…………
「君の名前は妖夢って言ったね…………」
「はい、そうです」
「できるなら、あの男を支えてやってくれ。あいつの心は今ぐらついている」
「え?勇人さんは…………大丈夫なはずです」
「ああいう奴ほど自分で抱え込んで私のようになる…………もう私から言えるのはそれだけだ」
「はい…………」
マゼンダの体は完全に消失した。
「勇人さん、私はいつでもそばにいますからね」
「ああ、ありがとな。妖夢は大丈夫か?」
「ええ、問題無しです!京谷さん達の元へ行きましょう!」
何を話したかは分からんがどうやらまた1つ成長したらしい。
そして、小さな逞しい背中を追いかけるのだった。