諸行有常記   作:sakeu

67 / 105
第67話 3F(黒い津波)の日の青年

『人里』

 

人里の皆さん明るくて元気でとても優しい人達です。でも、今はどの人も怯え、家からも出ようとせず活気に溢れていた人里はもうありません。

子供達の誘拐事件、墓場が荒らされる…………そして、あの空に浮かぶ不気味な城『ヘブン・クラウド』により、人里は一気に恐怖の底に叩き落とされました。

 

私が子供達を連れて帰るために勇人さん達と別れ城を出た後、鈴仙さんと一緒に子供達を人里に返しました。

その時の親御さん達の喜ぶ姿はまさに感動的でした。しかし、その喜びも長続きしませんでした。新たに事件が発生した事もありますが根本的な問題として『ヘブン・クラウド』がやはり人々の不安の種となっているのでしょう。それと、慧音さんから『ヘブン・クラウド』について何か教えて欲しいと頼まれたので慧音さんの家に行く事になっています。

 

その『ヘブン・クラウド』は勇人さん達が調査をしています。私も外から何か協力できればいいのですが…………

 

「早苗、ボーッとしないで行くわよ」

「あ、すいません。鈴仙さん」

 

 

 

 

 

 

 

「さ、上がってくれ」

「「失礼します」」

 

そういえば慧音さんのお家に上がるのは初めてですね…………やっぱり几帳面な性格なのかキッチリと整理整頓された部屋です。

 

「いきなりで悪いんだが……教えてくれるか?あの城について」

「分かりました、少し分かりにくいかもしれませんが」

 

 

〜少女説明中〜

 

 

「……とここまでが私達がわかる範囲です。後はもう勇人さん達にしかわからないと思います…………」

「…………そうか。『ヘブン・クラウド』か…………」

「何か分かりましたか?」

「西欧の歴史に今回と同じく『空に浮かぶ城』の話があったな…………少し待ってくれ、少し本を探してくる」

 

西欧ですか…………確かに山賊が化け物にされた時、使われた魔術はこの辺では見ない様なものでしたね。

 

「あったぞ。西欧の歴史書はあまり無いからなすぐに見つかった。えっと…………」

 

どんな事が書かれているのでしょうか?

 

「これだ。『古代帝国の末期、皇帝は国中で民衆を脅かしている魔物を討伐することで国をまとめ上げようとしていた。危機感を持った魔物たちは帝国に対抗すべく、互いに手を組もうとする。

そこで、バラバラだった自分たちをまとめるリーダーとして「魔王」を生み出そうと考え、その誕生のためマナラインから吸い上げた魔力を魔王となる者に供給する装置「魔王城」を建造しようとした。

しかし、誰を魔王に据えるかで揉めるうちに、古代帝国は魔物討伐に国力を割きすぎたせいで他国からの侵略行為に対処しきれず滅亡してしまう。こうして、魔物たちの一時的な協力関係も終わりを迎え、その時代に魔王が誕生することはなかった』とあるな」

 

「え?それじゃあ『魔王城』は完成しなかったのですか?」

「いや、ここには完成までして後は魔力を溜めるだけだったらしい。でも、魔王城がどこにいったかは謎のままだ」

「そうなんですか…………」

 

これは確かめる価値はありますね…………『魔王城』ですか…………

 

 

 

 

 

「慧音さんッ!!大変です!!」

 

玄関の方から男性の怒鳴り声が聞こえました。若い男性の方の様です。

 

「どうした?今は警備をしていないのか?」

「いえ……警備をしてたら……外にとんでもないものが!」

 

何があったのでしょうか?

 

「と、兎に角、外に出てください!」

「わ、分かった」

 

私達3人は男性に言われた通りに外に出ました。

 

 

 

 

「な…………!?」

「……なんなのよ?あれ?」

「…………!?」

 

外で見たものーーそれは"黒い波"

 

その波は空を覆いある一点に向かっていました。その一点は『ヘブン・クラウド』です。

 

「慧音さん…………この世界はどうなちまったのですか?」

「……分からない」

「……あれ……"虫"よ。いろんな虫が群れを成してあの城に向かってる……」

「兎に角、里に皆には屋内にいるように伝えてくれ」

「分かりました」

 

あれ1つ1つが虫……

 

「虫と言ったら…………」

「リグルね、彼女に話を聞いてみましょう」

「それなら、私も同行する。いいか?」

「ええ」

 

あの城では一体何が起こってるのでしょうか?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜ヘブン・クラウド 3F〜

 

今、再び階段を登っている。ハキムに続き、ソネとか言う奴が現れ、ますます実態が掴めない。

 

 

それにしても……………………ここの城の空間はどうなってんだ?と愚痴りたくなるぐらい階段が長い。感覚的にはもう最上階まで上がった気分なのだが。

 

「ほら、着いたぜ。これでもまだ3階だと言うのだから驚きだな」

 

全くもって同感である。もう日付感覚が分かんない。もう日を跨いだのか?

 

 

 

カサカサ…………

 

 

「…………ギャアアアアアア!!」

「どうした!妖夢……って、ウワッ!」

 

妖夢の足元には黒い稲妻…………もとい、かなり大物な"G"がいた。流石に俺でも触りたく無い。いや、触れない。

 

「ハハ!ゴキブリ如きでビビってんじゃねぇぞ」

「……なら、京谷。こいつを掴んでその辺に投げてくれよ」

「え、つ、掴む必要は無いだろ?」

 

お前もビビってんじゃねぇか。

 

カサカサ…………

 

やっぱり気持ち悪い動きをする…………な…………。って…………あ、あれは……?

 

カサカサ、カサカサカサカサ!

 

「な、なんだありゃ!ば、馬鹿みたいにでかいぞ!」

「ゆ、勇人!お前がやれ!」

「は、はぁ?お前のスタンドでやれ!」

あ、あんな、人ぐらいのサイズのゴキブリだなんてゴメンだ!

 

と、ゴキブリの頭部にいくつものナイフが刺さった。

 

「これでいいかしら?」

「「は、はい……」」

 

男が揃いに揃ってビビるとは…………情けない話である。でも、ゴキブリは無理だ。てか、少しピクピクしてるぞ、あれ。

 

「ふむ……これは魔術によるものじゃな」

「勘弁してくれよ…………ただでさえキモいのが巨大化って…………」

「そんなお主に悲報じゃ」

 

カサカサ、カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……

 

「このフロア中にいるぞ」

「oh…………shit…………!」

「英語で言っても変わらんぞ」

 

なら、まだゾンビの方がマシだ。

 

「どうやら、ゴキブリだけじゃないみたいね。コオロギに蜘蛛…………選り取り見取りよ」

「勇人……」

「分かってる……でも、進むしかないんだ……」

 

そう言っている間にも天井や壁からも迫ってくる。

 

「『変化者 魔術師の赤(マジシャンズレッド)《チェンジャー 魔術師の赤(マジシャンズレッド)》』」

 

 

「虫と言ったら火だな。とっとと燃えてしまえ!」

 

前方を埋め尽くす虫達に火がつく。また、燃えなかった虫達も炎に怯えてるのか後退していく。

 

「やっぱり火を怯えるか…………よし、この辺の木材の切れ端で……ほれ、松明の完成っと。ほら、これを持て」

「ああ」

 

成る程、火さえ持てば相手は近づかないな。

 

「こ、これでもう虫は寄り付かないんですね?」

「ああ、これで大丈夫だ」

 

実際に前に進むと虫達はそれに応じて後退していく。これで順調に進める。そのまま俺達は歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………!」

「どうした?勇人、急に止まって…………ってこれは…………」

「酷いわね……」

 

そこには無残にも食い散らかされた人の姿があった。ほとんど食われ、右半身はほとんど消失。左半身も骨ばかりで所々に肉が付いているだけである。衣服から察するにあの山賊の一味だろうか?

 

「あのゴキブリが食ったとは思えないわね…………」

「そうだな…………ゴキブリなら残さずに食いそうだからな…………」

「俺達もこうならないようにしないと…………」

 

 

ブンブン…………

 

 

「なんだあれ?」

「ちっさい虫の大群じゃねぇか」

 

それにしても……こちらに向かってきてるような…………

 

ブンブンブンブン!

 

「!?」

「こ、こいつら火を恐れないぞ!」

 

ボワッ!

 

「た、松明に突っ込んできた!?」

 

松明に突っ込んだ虫は焼死したが同時に火も消えた。

 

「こ、こいつら、自らを犠牲に火を消しやがった!」

「きょ、京谷!走るぞッ!」

 

火がない今、虫達は恐れることなくこちらに向かってくる。今までどこに隠れてたのかと言うぐらい大量の巨大な虫が迫る。

しかし、虫にしてはかなり利口な動きだ。誰かが統治してるのか?

 

兎に角、今は逃げる事を先決だ。前から向かってくる虫は咲夜と京谷とじいちゃんが捌き、俺は後ろに向かって発砲しながら牽制をする。

妖夢は…………泣きながら逃げるので精一杯だ。

 

 

「キャッ!」

 

妖夢がつまづきこける。

 

「…………ッ!!」

「勇人!!」

「先に行け!俺は妖夢を運ぶ!!」

 

俺はUターンし妖夢の元に駆けつける。倒れた妖夢を抱きかかえ走ろうとした時

 

「勇人!!後ろッ!!」

「…………なッ!」

 

もう直ぐそこまで虫達は迫っていた。

 

「はぁ!!」

 

霊力の衝撃波で近くにいた虫達を吹き飛ばす。しかし、後ろにはまだ迫ってきている。

 

「ウォォォォオ!」

 

走るでは遅いので、飛ぶ。霊力を最大出力で出し飛ばす。止まったら確実に死ぬ。

 

「勇人!こっちだ!」

 

京谷達が部屋を見つけたようで既に中に入って待機している。

 

後、50メートル…………40……30……20………………後少し!!

 

「ほら!入れ!」

 

その時、部屋の入り口に柵が降りた。

 

「「「「!!??」」」」

 

「クソッ!なんで!?」

「『変化者 スタープラチナ《チェンジャー スタープラチナ》』!!」

 

「『スタープラチナ ザ・ワールド』!!」

 

「オラオラオラオラ!!壊れろ!壊れろっつてんだよ!!」

 

しかし、京谷の努力も虚しく柵は壊れる気配が無い。

 

「勇人!!」

「ゆ、勇人さん、ごめんなさい…………私が…………」

 

迫り来る黒き津波。俺はこのまま死ぬのか?…………いや、まだ終わりじゃ無い!策はある!

 

 

 

 

「じいちゃん!俺に神力を!」

「わ、分かったぞ!!」

 

じいちゃんの右手が光り、俺にかざす。

 

「勇人、何を!?」

「向こうを突破して別のルートを探す!」

「そんなの無茶よ!」

「それしか方法は無いっ!また、後で落ち合おう!」

 

神力により力がみなぎる。そして、自分と妖夢の出来るだけ最小の範囲の空間を不変化にする。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜勇人&妖夢side〜

 

 

「ウォォォォオ!」

 

勇人さんは私を抱えたまま黒い津波に突っ込んでいきます。

しかし、不変化の空間により相手は触れる事すら出来ないようです。

 

「よ、妖夢!他に道は!?」

「は、はい!…………あっちに道が!」

「よし!そっちに向かうぞ!」

 

わ、私が…………不甲斐ないばかりに…………

 

「キッシャー!」

 

ザクッ

 

「グ……ッ!!」

「ゆ、勇人さん!」

 

勇人さんの肩に大型の蜘蛛の牙が掠ったようです。

もしかして、勇人さんに限界が!?

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「勇人さん……」

 

勇人さんの目から血が…………不変化のタイムリミットをオーバーし始めているようです…………不変化の範囲も狭まってきているようです。

 

「む、向こうに部屋が!」

「あ、ああ!」

 

こんな時に私は…………

 

 

 

「ウォォオ!」

 

部屋に飛び入り、扉を閉めます。そして、勇人さんはすかさず血を付け不変化にします。

 

「はぁ、はぁ…………」

「ゆ、勇人さん、大丈夫ですか!?」

「はぁ、はぁ…………だ、大丈夫だ」

 

 

「すいません…………私のせいで…………」

「ハハ…………妖夢のせいじゃ無い。今こうして助かったんだ…………」

 

 

 

「助かった…………か」

 

別の人の声が!

 

「だ、誰です!!」

 

 

松明の炎を消した虫と同じ虫が大量に出てきて一箇所に集まります。そして、人型の者となり、赤毛寄り茶髪のポニテで眼光が鋭い女性となりました。

 

「言ったところでどうなる。貴様らは私の魔力の足しになってもらう」

 

すると、右半身を虫の大群に変えました。

 

「先程、山賊を食らったのだが腹の足しにもならかったからな、貴様らなら山賊よりはマシだろう」

 

楼観剣を抜き、構えます。

 

「言っておくが私の体の虫は今は約270万匹で構成している」

「…………!?だとしても全て斬ります!」

「馬鹿だな…………ん?お前は…………」

 

ふと後ろを見ると勇人さんがボロボロながらも銃を構えて相手を睨んでいます。

 

「…………その目……お前、何者だ?」

「ただの人間だ」

 

 

ボワッ!

 

「!?」

 

どこからか炎が放たれます。

 

「お、お前!よ、よくも俺達の仲間を!」

 

あの山賊と同じ格好をした人達が4人。

 

「ふっ、丁度いい。そこの男、よく見ておけ」

 

勇人さんを見ながら言います。何をする気なのでしょう?

 

「こ、こいつは炎があれば何も出来ねぇ!火を絶やすなよ!」

「わ、わかってるさ!その為に薪を集めたんだ!火矢も撃て!」

 

地面に焚き火を燃やし続けて虫を寄せ付けないようにしているようです。

 

「その目で見ておけ"人間"と"魔物"差を」

 

すると、虫の塊をいくつか作り、その1つを焚き火に特攻させました。そして、その火は消え、山賊達に襲いかかります。

 

「う、ウワアアアア!」

「く、来るなぁぁぁぁぁ!」

 

バキバキバキバキ…………ガリガリガリガリ…………

 

「「!?」」

 

瞬く間に山賊達は貪られ先程見たのと同じ様になりました。

 

「どうだ?これが"魔物"だ」

「なっ!?」

 

いつの間にか勇人さんの背後まで迫り、首回りを虫で覆います。

 

「こんな風に貴様だって簡単に殺せる、が、お前は才能がありそうだ」

「…………ッ!」

 

あの状態では私も下手に動けません!

 

「『変化者 ザ・ハンド《チェンジャー ザ・ハンド》』」

 

ガゴンッ

 

「「えっ!?」」

 

私と勇人さんの体が引き寄せられます。

 

「危なかったな、間一髪ってとこか?」

「勇人、無事じゃったか…………」

 

京谷さん達によって助けられたようです。

 

「テメェ……今まで何人食ってきた?」

「なら、貴様は今まで食べたパンの枚数でも覚えてるのかしら?」

「…………!テメェ…………!」

 

 

 

「名を教えてやろう。私はシアンだ」

「それはご丁寧に、なら私が殺してあげるわ」

「貴様のような人間には興味が無い。それではまた会おう、"勇人"」

 

シアンと名乗った怪物はまた虫の群れとなり消えて行きました。

 

「勇人、大丈夫か?」

 

「……………………(俺は今、何て思った?あのおぞましい光景を…………素晴らしいと思ったのか?あの虫達の統率力、圧倒的な力を羨ましく思ったのか?)」

 

「おい!勇人!」

「はっ!?あ、ああ、大丈夫だ。少し疲れただけだ…………」

「そうか……無事で何よりだ」

「お主が死んだらわしはもう…………」

「大丈夫だってじいちゃん」

 

勇人さんは本当に大丈夫なのでしょうか?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あの人間に興味を持つなんて、貴女にしては珍しいですね」

「…………ほっとけ」

「まぁ、分からないでもありませんよ。あの人達はみんな普通じゃありませんからね」

「別にあいつ以外には興味が無い」

「そうですか?私的にはあの守護霊の様なものを操る2人に関してはとても興味がありますがね」

「そんなのはどうでもいい。私は魔物達の平和があればいい」

「…………そうですね」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。