諸行有常記   作:sakeu

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第66話 2F(不死者の波)の日の青年

 

「ん?ハキムさんじゃないですか、てっきり一階に行ってるものだと…………」

「ああ……行ったさ」

 

「まさか、お前でもあろう者が人間如きに尻尾巻いて逃げて来たのでは無いのだろうな?」

「黙れ、シアン。あんなの俺が戦うまでも無い。適当な山賊を魔物化させて戦わせてある」

「フッ……なら、どうして、子供達が城の外に出たのだ?それとその人間達は先程2階に上がったぞ?」

「は、はぁ……!?馬鹿な!?嘘を言うんじゃねぇ!」

「嘘も何も、さっきから虫を数匹監視に行かせたが……お前の言う魔物はいない上に子供達もいない。肝心の人間はピンピンとしたままだ。やはり、無能だな」

「だ、黙れッ!たまたまだ!」

「フンッ、どうやら……」

「あぁ!?なんだと!?」

「これこれ……シアンさんとハキムさん、落ち着いて」

 

「チッ!ソネさんに免じてここはなかったことにしてやる…………」

「フンッ…………」

 

「とりあえず、二階には"あいつ"を送りましたから……そう簡単には突破できないでしょう」

「あのサイコ野郎か……」

「DIOに心酔してる阿呆か?」

「そんな事は言わず、兎に角にも今は私達のリーダーなんですから」

「フンッ…………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜2F〜

 

ハキムを追いかようと威勢良く進んだものの、その肝心のハキムは見つからず、延々と階段を登っていてる。

 

それにしても長い。上を見ても見えるのは階段のみ。気が滅入りそうだ。階段の事ばかり考えてると心が折れそうなので今回の事柄を纏めるとする。

 

 

まず事の発端は今いる城ーー『ヘブン・クラウド』の出現である。その調査の為にこの城に侵入したのだが……いざ入ると、城としては実用的では無い造り。そこに誘拐されてきた子供達。しかし、警備はそこまで頑丈では無かった。そして、ハキムとか言う怪しげな男の登場。その男は山賊を魔物に変化させた。その魔物と交戦。

 

 

 

 

そして、魔物を倒した後ハキムを追ってここまで来たと…………

 

これらから出てくる感情は『疑問』である。確かに子供達を攫う事に対して『怒り』も出てくるのだが……何故こういう事をするのかが全くもって分からない。……こういう時は己の無能さに嘆いてしまう。もっと強く、賢くあればこんな事もすぐに解決し、そもそもこんな事も起こさずに済んだのかもしれない。

 

無いものをねだっても仕方が無い…………とか考えてると二階に到着したようだ。

 

 

 

 

 

 

一階とは違い、まず強烈な異臭が鼻をつく。生ゴミのような……何が腐った臭いがこのフロアに充満していた。

 

臭いの根源はすぐに分かった。肉が爛れ、骨まで見える箇所もある人影ーー"元"人間であろう者が居た。

 

これまで様々な妖怪を見て来たが…………このゾンビ達はまだ見た事が無かった。見たいとも思わなかったが。

 

 

「ふぅ…………」

 

京谷はこいつらの事を見飽きたかのように息を吐く。うーむ、俺とは全然違う経験をしたんだな。

 

「あれは………?一体………」

 

妖夢は存在も知らなかったようだ。俺とて本物なんて見た事が無かったがな。

 

「ゾンビが1匹、ゾンビが2匹………やめましょう数えるのは。頭がどうにかなりそう」

「だろうな」

 

と言うなり、京谷と咲夜は前衛にでた。

 

「京谷?お前、何を?」

「あのネクロマンサーを3名で叩け。ゾンビ共は何とかする」

「!!?しかし、あの数を相手にするのは危険なのでは!?」

「大声を出すな妖夢。ゾンビは音に反応するんだからよ」

「し、失礼しました………」

「兎に角っと『アヌビス神』『サムライ・スピリット』」

 

と京谷は両手からそれぞれ異なる刀を出現させた。便利だなその能力。

 

「ほぉ………これが………しかし、どちらも刀なのだが?」

「勿論、銃のスタンドも存在するぜ。ただ、使い時ってあるだろ?じいさん」

「………………」

 

京谷がこちらを見る。確かに銃は使うが…………別に銃が俺のアイデンティティでは無いから……え?それ以外には何があるのだ?か、格闘術とかナイフも一応……

 

「綺麗か?勇人。この『サムライ・スピリット』の刀身」

「率直に言えばな」

 

綺麗だと思ったが同時に羨望の感情も湧き出る。相手は『変わる者』。このように状況に応じて変化する事で柔軟な対応も取れる。対して俺は『変わらない者』どんな事が起こっても同じ様な対応しかできない。

 

「そうかい………作戦はさっき話した通り、良いな?」

 

という事で俺はネクロマンサーの額に狙いを定める。銃を扱うにおいて、体を隠さずに堂々と構えるなんてありえないのだが、こちらには京谷や咲夜、妖夢がいる。

 

そして、京谷と咲夜が宣言通り前衛に出てゾンビ達を薙ぎ倒す。

 

2人は息ぴったりでそれぞれの隙を互いにカバーしている。そんな様子に感心してると…………

 

「「!?」」

 

キスをしおった。この戦場のど真ん中で。これに関しては羨望の感情は出てこない。寧ろ、馬鹿ップルを見せつけなくていいという最早呆れの感情しか出てこない。

 

そんな様子に呆れてると時を止めたのか20体以上のゾンビがやられていた。

 

「勇人!!今がチャンスだ!!ネクロマンサーを狙え!!」

 

あらかじめ狙いを定めていたのでほぼ条件反射で引き金を引く。弾丸は吸い込まれる様にネクロマンサーの額に向かう。

ゾンビを使って防ごうとした様だが妖夢が楼観剣を投げ、倒す。大事な刀を投げていいのか?

高速回転をする弾丸はそのままネクロマンサーの脳天を撃ち抜いた。同時に数多のゾンビは腐敗し消滅した。

 

俺達は京谷達の元へ駆け寄る。

 

「よぉ、お疲れ」

 

京谷に労いの言葉をかける。

 

「そっちこそ」

 

コツンと互いの拳をぶつける。自然とやったのだがこういうのは初めてだ。

 

「イチャイチャしおって………若いとは良いもんじゃのぉ」

「貶したいのか羨ましがりたいのか、どちらかにしてくださいませんか?」

「ふふっ♪どちらでも構いませんわよ♪ねぇ京谷♪」

「だな♪」

 

互いに見合った笑う2人。あー…………ブラックコーヒー飲みたい。

 

「勇人もあのぐらい恥ずかしげなくイチャつけばよかろうに」

 

小声で俺に言うじいちゃん。

 

「やめてくれ。恋愛においては節度が大事だ」

「堅いのぉ、少しは積極的になれ」

「それは俺の柄じゃ無い」

 

 

 

 

 

 

「………これは、また派手にやりましたねぇ」

 

どこからともなく声がする。その聞こえた方を見ると、痩せた初老の、じいさんが立っていた。ぱっと見、好々爺のようだが何か裏を感じずにはいられなかった。

 

「成る程………恐ろしく強いですなぁ。特に、そこのお二人はねぇ」

 

と俺達を指差す。こいつはハキムの仲間か?

 

「まぁ待ちな。テメエ一体何モンだ?」

「こんな老体の名前を聞きたいのか?つくづく可笑しい奴じゃなぁ」

「答えなきゃ、お前を本にして見るだけだ」

「おぉ、何と物騒な。まぁ良いでしょう。私の名はソネというものです。それ以外の何者でも御座いません」

「そうかい」

 

京谷が一気に間を詰める。

 

しかし、ソネというじいさんは落ち着いた様子で魔物を出現させた。ハキムの時と同じ様な魔物を出すっていう事は仲間か?

 

京谷は急に出て来た魔物に首を掴まれる。

 

「ガッ!!?」

「「京谷!!」」

「では、私はこれにて」

「!!?待ちやがれ!!!」

 

急いで引き金を引くがソネには当たらず、そのままソネは消え失せた。

 

掴まった京谷は足から刃物を出し魔物の胴体を斬り裂いた。

 

「平気か!?京谷!!」

「何とかな、それより上に進むぞ。もうこの階層に用は無くなったしよ」

「そ、そうか………」

 

やはり、こいつは凄い。こいつは多分誰かを守る事なんて苦労しなかったのだろうか。俺もその位の強さが欲しい。

 

 

誰かを守るのは難しい。それ故に力を求める。それ故にどんな手段でも力を手に入れようとする。どんなに犠牲を払ってでも。そんな負のスパイラルにハマりかけてる事に勇人は気付いていない。


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