諸行有常記   作:sakeu

63 / 105
第63話 災悩の日の青年

迷いの竹林の中に数人の人がーー1人はばつが悪そうな顔をし、1人は気絶して倒れていて、1人はスキマから上半身のみを出し、2人は攻撃を途中で止めていて、3人はポカンとしている。

 

………………要約すると、すごく奇妙な図になっている。

 

ばつが悪そうな顔をしている者ーーすなわち、俺は何も言えない。

 

相手の事をよく見ず、早とちりして攻撃を仕掛けた。どう考えても落ち度はこちらにある。謝罪はしたが……それで許してくれるのやら……あー……どうしようか……

 

そんな微妙な雰囲気の中、そんな事を御構い無しにスキマから上半身のみを出している者ーー八雲紫はぬけぬけと

 

「あら、お取り込み中だったかしら?」

 

とか言っておる。誰のせいでと言葉が出掛かったが飲み込む。こちらにも落ち度があるから。

 

「それでここの世界で協力してくれる人ってのはね、この2人、五十嵐京谷君と十六夜咲夜ちゃんよ。それと『ここの世界』って言ったけど、2人は違う世界の人達なのよ。つまり〜、並行世界?」

 

ぶりっ子しても痛い感じしかしないぞ。見た目をわきまえんか。

 

「そう…………だから、咲夜はスタンド使いなんだな?」

「そゆこと」

 

なんて、ご都合な……まぁ、そんな事は今に始まった事ではないが。

 

で、攻撃を途中で止めている2人ーー咲夜と……京谷だっけ?その2人を見る。

 

「えー……まぁ、よろしく……碓氷勇人です……」

「ん、よろしく。ご紹介された通り、五十嵐京谷だ」

「こちらの世界の方の私なら知ってるかもしれないけど十六夜咲夜よ」

 

あー……何を話そう……言葉を選ぶのに必死になり沈黙が続く。

 

「よし!とりあえず、永遠亭に戻りましょ?そこでゆっくりと自己紹介をしましょう」

 

珍しく紫さんは気の利いたセリフを言ってくれた。日頃からそんな風にすればいいのに。ただ、『永遠亭』というワードに2人が少し反応したのが気になるが。

 

「それに、その傷じゃねぇ?」

「ああ、俺のせいだな。すまない」

 

胸の辺りにザックリと切り傷がある。

 

「え……いや……問題無い……こういうの……慣れてるから……」

 

言葉が切れ切れになって出てきておかしいのを自分でも感じる。アルェ?俺ってこんなに人と接するの下手だった?

 

「えーっと、勇人だったよな?とりあえず、妖夢も運んで永遠亭に行こうぜ?」

「あ、ありがと」

 

ん?あの威圧感が無くなっている。それに彼の対応の仕方から見るにとても悪い奴には見えない。むしろ、いい人だ。断定には少し早すぎるような気もするが。

 

「それじゃあ、永遠亭に直行ね」

 

と言い、紫さんはスキマを開いて中に入るように促す。ここに来てポカンとしている3人ーー早苗と鈴仙、じいちゃんは事態を飲み込めたようだ。

俺は気絶している者ーー妖夢を抱える。

 

「ありゃ、中々大胆な奴だな」

「??こっちの方が運びやすいだろ?」

「わ、私にしてくれてもいいのよ?京谷?」

 

な、なんだこの咲夜さん……完璧超人のメイドは向こうの世界では少々違うようだ。

 

「勇人さん、妖夢さんは私が運びます」

「そうですよ、勇人さんは怪我人なんですよ?」

「いや、大丈b「「運びます!」」アッハイ」

 

や、やはり、この2人には"凄み"があるッ!!そのまま、押し切られてしまった。

 

「苦労してんだな……」

 

京谷がポンっと肩に手を置く。

 

「苦労……かな?」

「…………こいつ、ダメじゃね?」

「ええ、まさか天然型女たらしなんて」

「ごめん、意味分かんない」

 

確かに俺に落ち度があったが……その言い方はないだろ?なんだよ『天然型女たらし』って。

 

「はいはい、そんな事はみんな知ってるから行くわよ」

「え?俺はそんな奴じゃない……」

 

紫さんに言いくるめられてスキマへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するわよ〜」

「失礼と思うなら入らないで頂戴」

「貴女も酷いわね、全く同じ事を勇人が言ったわ」

 

「ただいま戻りました。師匠」

「あら?みんな戻って来ちゃったの?早いわね」

「いや……そういうわけじゃないんです……」

 

城にも到達してないからね。しかも、迷いの竹林すら出ていないという。

 

「そんなの分かってるわよ。皮肉よ、皮肉」

 

しっかし、先程から京谷が随分と永琳さんを警戒しているような……咲夜に至ってはナイフを取り出して臨戦状態だ。

まぁ、永琳さんが気付かないわけもなく

 

「ねぇ、そこの2人は誰なのかしら?」

「違う世界からの助っ人よ。勇人1人じゃあ、きついかなってね」

「ふーん……それにしては向けるべき敵意が違うんじゃないの?」

 

と、咲夜たちの方を見る。

 

「永琳さんの言う通りだな。なんで警戒してんだ?」

「永琳が飛び付いてくるかなーって……」

「そんな事をしたら絶対に許さないわ」

 

飛び付く?永琳さんがかぁ?そんな様子を察したのか

 

「いやぁ……こっちの永琳はだな……俺を見るなり抱き着いてくるんだ」

「え、永琳さんがか?向こうの方は色々違うんだな……まぁ、こっちはそんな事はしないと思うけど……」

「そうか、なら安心だ」

 

安心……なのか?

 

「で、本当に何しに来たの?」

「この2人とは初対面なので落ち着いて自己紹介ができるようにと……」

「その傷の治療ね。毎度毎度怪我してくるなんて物好きね」

「いや、好きでやってないです……」

「はいはい、えっと……これまた綺麗に斬られたわね。縫わないといけないかしら?」

「また……」

「入院ね」

 

また、入院かよ…………待てよ?入院という事は……

 

「それだと俺はあの城にはいけないよな!」

 

やった!休めるぞ……!ついに休暇を!

 

「あら?その必要は無いんじゃない?"あれ"があるでしょう?永琳?」

「確かにあるわよ」

 

あれ?なんだよあれ……って……ま、まさか……!

 

「あ、あれだけは勘弁ですよ!」

 

滝のように汗が出る。あれだけは勘弁だ!

 

「ん?あれってなんだ?」

「さぁ……」

 

先程から"あれ"ってしか言ってないので事情を知らない2人は置いてけぼりだ。しかし、そんな事に構っている暇は無い。

 

「あれってのはね、飲んだら1発で身体の傷が治療できる魔法のお薬よ」

「1発で?そりゃあスゲーな。それってどんな傷でもか?」

「ええ、私の最高傑作の内の1つになるわね」

「へぇ……だったら飲めばいいだろ?なんでそこまで拒否るんだ?」

「飲んだ事が無いからそんな事が言えるんだ……お、俺はゆっくりと治癒した方がいいと思う」

「そんな訳にもいかないわ、だってねぇ……あの城に行ってもらわないと」

「お、俺がいなくても問題無いだろ?」

「あら、まさか事もあろうにこの2人に投げやるつもり?」

「………………ッ!」

 

口では勝てない……!

 

「ほら、薬を飲みなさい。はい、あーん」

「の、飲みたく無いッ!」

「あら、強情ね。そこの2人、抑えといて」

「お、おう……」

「まるで子供ね……」

 

2人して俺の身体を固定する。

 

「HANASE!嫌だッ!」

「はいッ!」

「ムグゥ……!」

 

無理矢理薬を飲まされる。するとだんだん傷の辺りがウズウズし始める。

 

「ク…………ッ!」

 

「おいおい、これって大丈夫なのか?」

「安心なさい。毒では無いわ。服用するとどんな傷でも瞬時治す」

「副作用は無いのか?」

「あるわよ。タダで治るわけないじゃない。無理矢理治す訳だから激痛を伴うわ。タンスの角に足の小指をぶつけるよりは痛いわ」

「そ、そんなにか……」

 

「ギャァァァ……!」

 

「フフ、相変わらずいい反応ね」

「こ、こっちの永琳もなかなかだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、自己紹介を始めましょうか」

「あのー……私、目覚めたばかりなのですが何がなんなのか……」

「そんな事は後から分かるわ。取り敢えずしっかりとした自己紹介をしましょう」

 

「まずは助っ人の方からよろしくね」

 

 

「一度言ったがもう一度言う。俺は五十嵐京谷だ。戦いの中で分かったかもしれないがスタンド使いだ。スタンドの名前は『変化者《チェンジャー》』能力は主に『変化する能力』と『共鳴する能力』。まぁ、能力の説明を簡潔に言うと見たスタンドの能力、大きさや性質をそのままそっくりに、変化できる。また、スタンドによるものではない能力も得ることができる。条件はあるがな」

 

「私は京谷の彼女である十六夜咲夜よ。多分、大体はここの私とは変わらないわ。スタンド使いであると言う点では違うけど。私のスタンドは『J・T・R』能力は『殺す能力』よ。この能力は物理的にもだけど事象とかも殺すことができるわ。」

 

「へー……スタンド使いって実在するんですねぇ……てっきり漫画の世界だけかと……それに、あんなに堂々と彼女宣言できるなんて……あ、私は東風谷早苗です」

「ああ、知ってるよ。こちらの方でもお世話になってるからな」

「そうですか!では、向こうの私はどんな感じでしょうか?」

「…………スタンド使いだ」

「ほ、本当ですか!わ、私がスタンド使いだなんて……!」

「まぁ、こちらではスタンド使いになってる奴は多いがな」

 

「えっと……鈴仙・優曇華院・イナバよ……よろしく……」

 

「(なぁ……こいつって人見知りか?)」

「(そうね、まぁ、勇人の事について尋ねればウドンゲは元気になるわよ)」

「(えっと……それって、付き合ってるのか?)」

「(まさか、全然よ)」

「(ええ……)」

 

「れ、鈴仙は勇人とどんな関係なんだ?」

「「「!?」」」

「そ、そうですね……私は将来の勇人さんのお嫁さんです!キャッ!」

「寝言は寝てから言いましょう。鈴仙さん?」

「そうですよ……いつそんな事が決まったんです?」

「お、落ち着こうぜ!ほら!次の自己紹介を!」

 

「はぁ……魂魄妖夢です。幽々子様の剣術指南役。また、白玉楼の庭師です」

「うん、こちらの方とあまり変わりは無いようだな。しかし、スタンド使いでも無いのにあの動きはすごいな」

「師匠の指南のお陰です。とは言ってもまだまだです。師匠のようにはいきませんから」

 

「ここまではこちらにもいたが……次からは全く知らないな」

 

「うむ、わしはあっちで白目剥いとる者の祖父じゃ。まぁ、今はただのジジイじゃが元は神様じゃ」

「それまたなんで人間に?」

「人間に憧れた、それだけじゃ。能力は『神力を宿らせる程度の能力』。その名の通り神の力を与えるぞ。ま、わし自身の戦闘はさっぱりじゃが」

 

「で、最後なんだが……」

「肝心のあの子はぐっすりだけど?」

「そうね……叩き起こすって言う手もあるけど流石に酷かしらね。私が紹介するからそれで勘弁して頂戴。あの子、昨日までずっと仕事でお疲れちゃんなのよ」

「お、おう……」

 

「それじゃあ、あの子の名は碓氷勇人。教師をしてるわ。それとここの幻想郷のパワーバランスの一角を担ってもらってるわ。能力は『物事を不変にする程度の能力』」

「不変にする……」

「難しく考えなくていいわ。そのまんまの意味よ。変わらない、それだけ。落ちるという事が絶対に起こり、それ以外の事が起こり得ない。そんだけよ」

「それでか……」

 

「っとこのぐらいかしら?それじゃあ、あの城については貴方の方が詳しいだろうし、案内してあげて頂戴」

「あいつ寝てるが?」

「大丈夫、誰かが運ぶから」

「あんた、鬼畜だな……」

 

この後、勇人が目覚めるのは永遠亭ではなく別のところになっており、休みを取れずに嘆くのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。