諸行有常記   作:sakeu

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第59話 正義の日の青年

迷いの竹林の上空を飛ぶフラン。太陽の下で吸血鬼が活動しているのはおかしいと思われるが、魔法のおかげか普通に飛んでいる。

 

その顔を涙で濡らしながら。

 

「(また、私のせいだ……チルノと同じように先生も……!)」

 

「(早く皆を呼ばないと、先生が死んじゃう……ッ、それだけは嫌だ!絶対に嫌だ!)」

 

そうしてるうちに目的地ーー永遠亭が見える、永遠亭の入り口の前に降り、入ろうとした時

 

 

「やぁ……嬢ちゃん」

「え!?なんであんたが!?」

「あの教師から力を得てからというもの……空まで飛べたぞ!元々鼻がきくからな、ここに来ることは予想したさ」

「……だから?お前なんか……ブッコワシテアゲル!」

「おーっと、動くな!あの教師はまだ死んじゃぁいない、少し生命エネルギーを残してやってる。俺の能力は離れていても発動するからな……」

「……ッ!卑怯よ!」

「ハハ!関係ないね!これが俺の『正義』だ!」

「(どうしたら、いいの?知らせないと……でも、勇人先生が、殺される……ッ!どうしたらいいの!)」

「動くんじゃぁねぇぞ……」

「…………ッ」

 

当麻の手がフランに触れる。

 

「ハハ……残念だがお前もあいつらと同じようになる」

「ねぇ……その能力って……1人にしか使えないのよね?」

「!?」

「そうよね、だって、私に触るためだけにわざわざ先生を人質に取るんだから……」

「な……ッ!」

 

フランは右手をパーにし当麻に向けて、

 

「ギュッとして……」

 

手を握り締めた。

 

ドガーン!

 

「やった……」

 

先程の爆発により辺りが煙に覆われる。

 

「先生のとこに……」

 

ドシュッ

 

「きゃっ!?」

 

「グッ……危ねぇ……あと少しで跡形も無く吹き飛んでた……」

「なんで!?」

「焦りすぎじゃねぇのか?よく狙ってからやるんだな」

 

フランは永遠亭へと走る。

 

「おっと……まだ能力は解除して無いぞ?」

 

ドシュッ

 

「え、永遠亭までたかが数メートルよ!こんな距離!」

「タフだな、だが限界だろ?」

「うッ!あと少し……!」

 

あと数メートルが届かない。フランは倒れる。

 

「ほらほら!もう無理だろ?」

「絶対……みんなに知らせるッ!絶対にみんなに知らせて……あんたをぶちのめして……」

 

ガクッ

 

「絶対に……永遠亭……に」

「はー……見上げた根性だぜ」

 

「大丈夫か〜〜?最近は当たりが多いからな……あの青い奴の力をもらってからパワーがみなぎってたんだが……あの教師とお前でさらに強化されたよ」

「ハー……ゼェー……うぐっ……」

「お?まだ動くか?」

 

バタッ

 

「(やった……こいつも始末できれば、もう怖いものなんて無いぞ!)」

「お、お前……なんか……先生が……みんなが……倒すんだから……お前なんか……より全然強いんだから!」

「…………うるせぇ、早く死ねよ」

 

当麻の右足がフランの顔に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

「!?」

「その足をどかしやがれ……」

「な……何だーッ!?」

 

そこにいたのは始末したはずの人間ーー碓氷勇人がいた。

 

「バカなッ!な、何で立てるんだ!?干からびせたはずだぞッ!何で立ち上がれんだよ!?」

「理由か?」

 

「わしじゃ」

「!?だ、誰だ!?」

「ホッホッ……こいつの祖父だよ」

「あー……本当に運が良かったぜ……」

「そうじゃの、わしが永琳の所へな睡眠薬をもらいに来たからの。この歳になるとな、寝付けんのじゃよ」

「あ!?それだからって立てるわけが無いッ!」

「わしの事知らんかのぅ……『神力を宿らせる程度の能力』なのじゃが……」

「ああ、おかげで力は回復させてもらった!」

 

「だからなんだ!お前、フラフラじゃねぇか!強化された俺に敵うわけが無い!」

 

「フッ!」

 

腰を使わず腕の瞬発力だけで繰り出す軽めの殴打……だが、これにより

 

「グッ!?」

 

隙が生じた。この隙を逃すわけもなく……

 

「オラァ!」

 

今度は体重を乗せた拳が当麻の腹に

 

ドゴッ

 

「グフッ!?」

 

声も出すことができずにその場に膝をつく。

 

「アガっ……ゴボッ!」

 

息が詰まったようだ。空気を求めるかのように口をパクパクさせる。

 

「ゴホッ、ゴホッ!フフ……なら、お前をもう一度……」

「あ、あんたの能力を使おうたって無駄だ」

「……!?」

「忘れたのか?今の俺は誰からも干渉されないからな?」

「な!?」

「ということで……チルノの仇もあるからな……」

 

当麻の額に銃口を向ける。

 

「ぐ、グゴァァァアアア!」

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…………ッ!?ど、どういうつもりだ!?」

「本当はぶっ殺したいんだが……生け捕りにしろと言われてるし………………何よりもあんたが何でこんなことをしたのかを俺は知りたい」

「はぁ!?」

「お前の過去は知っている。生徒から聞いたからな」

「そんなことはどうでもいい!早く仇を討てよ!」

「あんたの過去を知っといて殺すなんて出来やしない」

「ふ、ふざけるな!」

「それに……あんたは生徒だ。教師である俺が生徒を殺すなんて言語両断だろ?」

「そうだとしても……俺は妖怪を殺すのはやめない!」

 

その目には憎悪の感情がどす黒く渦巻いていた。

 

「俺が言うの何だが、お前の気持ちは分かる。なんせ、家族を殺されたのだからな。妖怪を恨むのも仕様がない」

「なら、なぜ止めようとする!?」

「だがな、妖怪の中にもいい奴がいることを忘れないでほしい」

「はぁ!?そんなわけが無い!里にいる妖怪だっていつか、里のみんなを襲うに決まってる!」

「なぁ……それなら、人間は全員、『いい奴』なのか?」

「な……!?」

「ここにはたくさんの人がいる。その中にはいい人はいる。だがな、同時に『悪い奴』だって存在する。全員が全員『いい奴』なんてありえないだろう?でも、俺らはその中で生きている」

「ぐ……ッ」

「逆に人間が全員、『悪い奴』ならやっていけないだろ?それは妖怪にだって言える。全員『悪い奴』じゃない。優しい妖怪だって絶対に存在する」

「で、でも、もし!もし、悪い妖怪が俺らを襲ったらどうするんだよ?また、あの時と同じように黙って見てろと言うのか?」

「はぁ……何で、慧音さんがいるだろう?俺だっている。幻想郷のパワーバランスの一角、舐めんな。全て、俺がぶっ倒す」

 

 

「俺は『悪い奴』なのか……?」

「悪い奴なら、里のためにとかなんて言わない。お前は打ち立てた『正義』がすこし違う向きに向いてしまっただけだ。空を正しい向きに向ければ絶対に里を守れる」

「俺は……俺は……」

「無理に妖怪と仲良くしろとは言わない。でも、人間の味方の妖怪だっていることは忘れないでほしい」

「うぐっ……ヒグッ……」

 

迷いの竹林の中で事件の全貌が明らかとなった瞬間であった。

 

「フッ……流石勇人ね」

「じゃろ?」

「あら、随分と久しいわね。すっかり老けちゃって」

「はー……お主はわしよりもずっと歳上のはずなのじゃが……変わらんのぅ……それに、わしがここに来るように言ったのはお主じゃろ?」

「そうよ」

「はぁ……相変わらず食えない奴じゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件のことを伝えておく。あの一件以来、当たり前だが妖怪の怪奇死は無くなった。その犯人である、当麻はあれ以降表面は変わらないが、寺子屋に来て同世代の子達と話すようになったようだ。妖怪に対してはやはり憎しみは残ってるようだが、前程でも無く、ある程度良くなったそうだ。1つ問題を挙げるなら、

 

「はぁ!?弟子にしろって?」

「はい、お願いします!」

「いや、待て。俺とあんたは同世代だろ?」

「でも、あなたはこの世界のパワーバランスを担うと同時に人里を守ってくれてるのでしょう?それに教師までも。少しでも負担を減らせるように僕は強くなって、この人里を守れるようにします!」

「その決意は素晴らしいが……俺は弟子とらんぞ?」

「そこをなんとか!」

 

と言う具合に真っ直ぐになってくれたが……真っ直ぐ過ぎる所だ。

 

 

後、色々お世話になった永遠亭では……鈴仙と一悶着あり、なんやかんやで一件落着してたかに思われてたが……

 

「勇人……この宿題の採点を」

「あ、はい」

 

今日もとて、仕事の量は半端なく忙しなく丸つけをする、いつもの時間だが……

しかし、若干の異変を慧音さんは感じ取ったようだ。

 

「ところでだな……勇人……」

「……はい」

「分かってるかもしれないが……」

「………………」

「あそこから鈴仙がずっとお前を凝視してるのだが……」

「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

ええ、分かってます。あれ以来、寺子屋の外側にある木からずっと俺を凝視するようになった。何かをするわけでは無く、ただ俺を熱烈な眼差しで見続ける。

 

「………………」

 

ホラー以外のなんでもない。

 

「慧音さん…………」

「はー……徳を持つのはいいことだが……持ち過ぎも問題だな……」

「それ、永琳さんにも言われました……」

 

とりあえず、日常に戻ったと見て問題無いかな?


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