諸行有常記   作:sakeu

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第57話 ゴースルーヘルの日の青年

「んー……ごめんけどその事は何も分からないわ」

「そうですよね……」

 

あー……永琳さんも知らないか……なんやかんやで忘れかけていた妖怪の怪奇死事件。結局尻尾も掴めてない。ここにある情報はやられた妖怪の死に方と場所のみ。それ以外何もない。

 

「んー……どうしようか」

「ごめんなさいね、力になれなくて」

「いえ、何か変わった事があれば言ってください」

 

本当にどうしようか……今は怪我で動けないし、何もできない。あー、こっそり出てもバレないかな?

 

「入院中に何処かへ行こうとか思ってないわよね?」

「え、エエ、ゼンゼンオモッテマセンヨ」

 

幻想郷の皆さんは勘が鋭いようです。

 

「あら、もうこんな時間ね、とりあえずもう一回包帯を取り替えましょうか。ウドンゲ〜!」

 

本当だ、もう日が落ち始めている。とか、考えてるとあっという間に鈴仙がやってきた。

 

「はいっ!なんでしょうか?」

「勇人の包帯の付け替え頼むわ」

「はいっ!喜んで!」

「あ、あの……もう、そのくらい自分で……」

「わ、私、必要無いんですか……?」

「いやいやいや!必要だよッ!?めっちゃ必要!」

 

く……ッ!涙目で上目使いとは……此奴できるッ!クソゥ……あんな可哀想なウサギのような顔をされちゃぁな……

 

「そうですか!じゃあ、変えますね♪」

「あ、ああ……頼むよ……」

 

打って変わって上機嫌に……包帯を取り替えるだけなのだが、それが鈴仙には楽しいようで鼻歌まで歌ってる。仕事が楽しそうなのはいい事だ。

 

「はい、終わりました。それでは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1つ貴方に聞いていい?」

「はい、なんでしょうか?」

「ウドンゲと何かあったかしら?」

「ええ、これの前に包帯を取り替えてもらいましたが」

「それは知ってるわ。私が頼んだから。そうじゃなくて、ウドンゲがあんなに積極的に取り替えるなんて……本当に何も無かった?」

「ええ、特に……お話とかはしましたが」

 

本当に何も無かったと思うが……

 

「どんな話をしたの?」

「それはーーー

 

 

〜青年説明中〜

 

 

「はぁ……なんと言うか……無自覚でそれを言うあたりがタチ悪いわね」

「え、え?何か問題がッ!?」

「無いわ、無いのだけど……徳があり過ぎるのも問題よ?」

「??」

「どうして戦闘においては相当な切れ者なのに、そういうことは疎いのかなぁ……」

「どういうことですか?」

「分からないのなら、分からないでいいわ。でも、覚悟はしなさいよ?」

「覚悟?はて?」

「まぁ、ウドンゲとくっついてずっと勇人がここにいるのも悪く無いわね……」

「はぁ……?」

 

よく分からんが……とりあえず仲良くしろよって事?

 

 

「すいません、勇人さんはいま……すか?」

「あら、貴方のお客さんよ?2名ね」

 

何故だろう。俺の本能が警告を鳴らしている。後ろを振り向くなと……

背中に強烈な暗黒のオーラを痛い程感じる。あ、あれぇ?ここって地獄だっけ?

 

「「勇人さん」」

 

ギギギッと油がきれた機械のように頭を動かし後ろを見る。

 

「や、やぁ。元気か?」

「そんな風に見えます?」

 

こ、この俺が恐怖してるだと?いや、誰でもこれは恐怖するって。いや、笑ってはいるんだよ?でも、眼が笑ってネェんですわ。寧ろ、人を射殺すような眼なんですわ。

狂気とかそんなチャチなもんじゃねぇ、恐ろしい地獄の片鱗を味わったようだぜ……

 

「こ、これはだな、調査をだな……」

「へぇ……お一人でですか?」

「ええ……」

 

早苗、怖い!早苗さん、本当すいませんでしたから……

 

「それではその傷は?」

「あ、ああ、これはだな?色々あってだな?」

「色々じゃ分かりません」

 

うう……妖夢さんも怖い。

 

「いや、落ち着こう、な?」

「勇人さん、お薬で……あら、妖夢と早苗じゃない」

「れ、鈴仙さん?お、お薬もらうよ……」

「その前に話すことがあるでしょ?」

「あは、あはははは……」

「これではダメですね……鈴仙さん!」

「何?妖夢?」

「勇人さんがなんで怪我したのか知ってます?」

「ええ、私のせいよ」

「「なっ!?」」

「本当に申し訳なかったわ……」

「ま、まぁ、謝罪もしてくれたから、いいよ」

「やっぱり、勇人さんは優しいですね。それに私を"必要"としてくださってるのでしょう?」

「ウェ?」

 

な、何を?

 

「どういうことでしょうかね?」

「……お、俺にもさっぱり……」

「何を言ってるのですか?あの時、私が必要と言ってくれたじゃないですか……ああ……お互いに必要としているから結ばれるしかないですよね?」

「ふぁッ!?」

 

そう言いながら自分で体を抱きしめくねらせる鈴仙。それに対し、暗黒のオーラがさらに強化されもはや、近づくだけで死にそうなオーラを纏う、早苗と妖夢。

 

「……どういうことですか?私達はダメなのに……鈴仙さんはいいんですか?」

「そういうわけじゃ……」

「え?私は必要無いんですか?」

「お前の場合言い方に語弊が……」

「でも、必要なんですよね?」

「アアアアアア!」

 

「みんな仲良くしてくれるのはいいのだけど、彼はけが人よ?」

 

ここに来て、救世主登場。ああ、流石、永琳さん。

 

「は、はい……」

「すいません、少し熱くなり過ぎました」

「す、すいません、師匠」

「まぁ、お見舞いに来たのなら別に泊まっていっても構わないわ」

「え!チョッ!」

「もちろん、そうさせてもらいます」

「ええ、勇人さん成分が枯渇しかけたので……」

「いつからそんな成分できたんだよ……」

「因みに、無くなると発狂します♪」

「私もです」

「oh……」

 

もうヤダ……お家帰る……あ、帰れないのか。いや、帰っても変わらんか……

 

「はい、お薬です」

「どうも……あれ?いつもより多くないか?」

「気のせいですよ」

「ふむ……そうか」

「それじゃあ、私はリンゴを剥きますね」

「そこまで重傷じゃあないからそんな事しなくても……」

「リンゴを剥きますね?」

「アッハイ……」

 

妖夢まで怖い……あの眼を直視できる気がしない。

 

「はい」

「ああ、ありがとう」

 

切られたリンゴに手を伸ばそうとすると妖夢がそれを手で制した。え?と小首を傾げると、妖夢はフォークにリンゴを刺してこちらに向けていた。

 

「大丈夫だ、自分で食べれる」

 

と言ったが妖夢も引くつもりが無いらしい。ただリンゴをこちらに向ける。顔を真っ赤にしながら。

 

「あーんしてください……」

 

はぁ……恥ずかしいならやらなければいいのに……フォークがプルプル震えている。これで食べないのは流石に酷なので……

 

パクッ

 

シャリシャリと咀嚼をする。まぁ、旬では無いのでそれほど甘みは無いがまぁ、美味い。

ただなぁ、2人の視線が……そんな恨めしそうな眼で見ないで……

 

「ほ、ほら、もう時間だろ?お、俺は寝るよ……」

「それにしては早過ぎませんか?」

「さ、最近睡眠時間が足りないから……」

「ふーん……分かりました。それじゃあ帰ります。さ、行きましょ?妖夢さん」

「え?あ、はい……」

 

あ、あれ?随分と簡単に引き下がるんだな……粘るかと……

ま、まぁ、こうして平和が訪れたのだ……と思っていた時代が俺にもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、いつもならもう寝付いてる時間なのに全く眠くならなかった。むしろ、眼がギンギンしてるくらいだ。まぁ、寝る事も出来ないので適当に本を読んでいたら

 

「勇人さん、今お時間いいですか?」

 

思わぬ来客に少々驚く。やはり、夜遅くまで仕事してるのかな?人の命を救うというのも大変だな。

 

「今は暇だから構わない。どうした?鈴仙」

「少し用事が。そんなに時間は取りません」

 

まっすぐな眼差しでこちらを見る鈴仙。前は大分卑屈な感じがしたが、今ではいい眼差しに変わった。俺がきっかけで変わったのならそれはそれで嬉しい。だから、そんな真剣な表情を無下にするのはよく無いので

 

「ああ、俺にできるなら」

「あ、ありがとうございます!」

 

あまり深く考えずに答えた。鈴仙の役に立つならいいというぐらいしか。

 

「…………ふふっ」

 

鈴仙が笑った。普通の人から見たら可愛らしい娘が微笑んでると思うだろう。しかし、俺はその微笑から深い闇を感じ取った。

危機を察知し、動こうと思った矢先体に異変を感じる。急な倦怠感を感じ、体がまるで鉛でできたかのように重い。

 

「お、お前何を……?」

 

鈴仙が薬を盛ったのか……?はっ!そういえばあの時少々薬が多かったような……

 

「時間もぴったり。効果は抜群ですね」

「お、お前……!」

 

鈴仙の暴走は止まらない。動こうにも体が言うことを聞かない俺ににじり寄ってくる。

 

「な、なんで……こんなことを…」

「理由なんて、いります?」

「??理由も無しにこんなことを?」

「そうですよ?」

 

何か問題が?とでも言ってるような様子で首を傾げる。そして、赤い瞳に深い闇を宿して……

 

「勇人さんには私が必要で、私には勇人さんが必要なんですから……」

 

まるで機械のような声音に背中に冷たいものを感じる。本能が俺に告げる。こいつはやばいと。だが、いくら警鐘を鳴らしても体はイマイチ反応してくれない。

そして、鈴仙はベッドの上に上がり、俺の上に跨る。

 

「勇人さん……勇人さんは私が必要だと言ってくれましたよね……?」

「頼りにしてるとは言ったが……」

 

重いを体を無理矢理動かし、後ろに下がる。しかし、鈴仙も合わせて寄ってくる。

 

「私にも勇人さんが必要なんですよ……だから、2人が一緒にいるのは当然ですよね?」

「だ、だからか?」

 

鈴仙は返事の代わりにもっと寄ってくる。俺も下がるが、背中に壁が当たる。だが、鈴仙は止まらない。

もう少し近づけば唇が当たる距離にまで迫る。そこでまた体の異変に気付く。

 

「はぁ、はぁ、お前薬に何を?」

「筋肉弛緩剤と……媚薬です」

「はぁ?」

 

どうりで体も熱い訳だ。息も荒くなってくる。

鈴仙の吐息を嫌でも感じてしまう。しかし俺は恍惚とした表情で俺を見つめる鈴仙から眼を逸らすことはできなかった。

 

「もっと、私を必要としてくださいね。……勇人さん、勇人さん、勇人さん、勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん勇人さん……」

 

壊れた再生機のように俺の名前を繰り返す鈴仙。早く不変の空間を作らないとと思うが、鈴仙の狂気と官能の匂いに加え媚薬のせいで思考が混濁していく。

気付けば、鈴仙の整った顔がもうすぐそこまでに迫って……

 

「こんな時間にすいません。やはり、勇人さんが気になっ……」

 

突然やってきた妖夢と鈴仙の眼が合う。しかし、それはすぐに終わり、白刃が煌めく。

 

あれからも修行を重ねたのだろう。始めて戦った時とは比べ物にならない程の速さで鈴仙に迫る。

しかし、鈴仙も突っ立ているだけでは無い。鈴仙も格闘においてはかなりのものを持っている。

瞬く間に妖夢の手首を掴み、そのまま懐に入り込み軽々と妖夢を投げる。しかし妖夢は空中で体勢を整え俺の目の前に着地する。

 

「何があったのですか?」

「お、俺にもサッパリだ……」

 

そう言い、妖夢は再び構える。幼さが見える顔ながら、そこには確かな信念がありそれによって凛々しさを感じさせる……その、白髪も……はっ!お、俺は何を?さっきから理性が……!

ああ、幼さと大人らしさが混在した……

 

「違うッ!そうじゃぁないッ!」

「ゆ、勇人さんっ!?いきなり頭を壁に打ちつけたりして!?」

「HANASE!お、俺は媚薬なんぞに理性を失われてたまるかッ!」

「ゆ、勇人さん!正気が失われてしまいますッ!」

 

「妖夢さん……貴女……勇人さんに何をしてるのかしら?」

「それはこっちのセリフです」

「互いに必要としているから一緒に居るだけよ?だから、共にいるのは当たり前でしょ?」

「話が飛躍しすぎです。貴女はただ、一方的に求めているだけです」

「理屈なんていらないわ!私には頼りにしてくれる人が必要なの!」

「勇人さんはどちら側に立つんですか?」

 

鈴仙の気持ちは分からんでもない……月から逃げて来て臆病者のレッテルを貼られた屈辱。それを負い目に暮らす日々。精神に相当な負担があっただろう。

しかし、それはただの鈴仙の言い分に過ぎない。冷静に見れば妖夢が正しいということは明々白々だ。

しかし……

 

「俺が……どちらかに立つと言うのは答えられん……」

「ふふ……優しいのですね」

「ただのヘタレだ……」

「それでは私は私の立場を貫き通させてもらいます」

 

再び妖夢と鈴仙が交差する。

妖夢の斬撃は圧巻の言葉に尽きる。しかしとて、鈴仙はそれを受け流す。その攻防戦は流石としか言いようがない。

しかし、戦いには必ず終わりがあり……

 

妖夢が脚を狙うが、鈴仙はそれを跳んでかわし、そのまま妖夢の側頭部にめがけて回し蹴りをする。すかさず、もう1つの刀でそれを受け止め、間合いを取る。

 

「「ハァァァァ!」」

 

一気に間合いを詰める2人。これで終わらせる気なのだろう。

 

しかし、その終わりはどちらかが勝ったわけではない。

突如現れた弾幕によりそれは終わりを告げた。

 

「さ、早苗!」

「無事……では無いようですね……酷い格好をしてますよ」

「はは……」

 

「弾幕をすでに張っていますから動かない方がいいですよ」

 

普段はのほほんとした彼女だが、珍しく今回は明確な敵意を向けていた。

 

「ふぅ、助かった……どうして、ここに?」

「いや〜、勇人さんと2人きりになれるかなって」

「…………」

「ところでこれはどう言うことですか?鈴仙さん」

「……ッ!」

 

流石に妖夢と早苗では分が悪過ぎる。

追い詰めるように歩を進める早苗。だが、俺はそんな彼女を引き止めた。

 

「勇人さん?」

「ここは俺に任せてくれないか?」

「……いいですけど」

 

俺を見つめる赤い瞳は先ほどのような深い闇を宿していなかった。不安、動揺、執着……様々な感情が入り混じってるようだ。

 

「安心しろ、誰もお前がいらないなんて思っていない。もちろん俺もだ」

「…………」

「前も言った通り、お前のことは頼りにしてる。これはまぎれもない本心だ」

「……いいんですか?私みたいな臆病者で、弱虫で、そのくせ自分勝手な私なのにいいんですか?」

「そんなことを思ってるのはお前だけだ。みーんな、お前のことを頼りにしている。だから、そう卑屈になるな。それとも、俺のことが信用ならんか?」

「そんなことは……」

「なら、もう決まりだな。今後こんなことをしないなら、今回のことは水に流そう、な?」

「は、はい……」

 

「妖夢と早苗、ありがとな」

「当然のことをしただけです。私としても、勇人さんがたらしだということが分かったので」

「た、たらし?」

「そうですね、どうぞ鈴仙さんとご自由に」

 

あ、あれぇ?2人のご機嫌が相当斜めなんだが……

 

「ゆ、勇人さん……」

「ん?なんだ?少し外を歩きたいのだが……」

 

体はある程度動くようになったのだが……未だに体が火照ってる。雑念が入る前にどうにかしたいのだが……そうでもしないと理性がな?

 

「私を抱きしめてください!」

「ぬぁ?」

「「え?」」

 

これは試練だ!耐えるのだ!

 

「わ、私も!」

「え!ちょっ!」

 

まぁ、ここでの騒ぎはひと段落したことで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌァァ……俺、頑張った……」

 

はは、やってみせたぞ……ただでさえ魅力的な女性を抱きしめて、理性がマッハで削れている上に媚薬の効果。何度頭を叩きつけた事やら。おかげで頭にはガーゼを当ててる。夜?寝れませんでしたよ。

 

「勇人!!」

「ん?」

「勇人!探したぞ!」

「慧音さんじゃないですか、どうしたんですか?」

「例の妖怪の怪奇死のことだが……犯人の尻尾を掴んだ」

「え!?本当ですか!?」

「ああ……だが……な、チルノが……」

「チルノがどうしたんです?」

「チルノが犯人にやられた」

「え?」

「チルノは妖精だからすぐに復活する安心しろ……勇人?」

 

バチ、バチ、バチバチバチバチバチバチバチ!

 

「早く教えてください……!」


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