諸行有常記   作:sakeu

56 / 105
第56話 入院の日の青年

「貴方がここに無傷で来る日は来るのかしら?」

「そうですね……今回は無傷で来る予定だったのですが……」

 

なんやかんや言いながら治療をしてくれる永琳さん。まぁ、当たり前のように採血されたけどね。もう、慣れよ、慣れ。

 

右肩に1つ、左肩にも1つ、顔も少々掠っており血が滲んでる。あと、腹部にも打撲痕や弾幕による傷など、傷だらけである。ーーそれらは全てあそこで寝ているうさ耳によってである。

 

俺が永琳さんに話を聞こうと迷いの竹林に足を踏み入れたまだ数十分前のこと。うさ耳、もとい鈴仙・優曇華院・イナバに何やら勘違いされ戦闘に。あの真紅に輝く眼によって色々手こずった。気分が悪くなるわ、弾幕が急に消えるわ、鈴仙まで消えるわでもう大変だった。それに近接格闘も相当手馴れてるらしく、一撃一撃の打撃が重かった。特に、腹部へのキックあれは中々キツかった。しかし、向こうは俺の能力を把握してなかったようで、なんとか勝てた。ま、最終的に眼を瞑ると言う荒技に出たが。

 

眼を瞑ったままでは流石に弾幕を避けきれず今の傷となった。お陰で話を聞くだけのはずが、こうやって治療を受ける羽目に。だからと言って、事情が分かってない相手を無闇に傷を負わせるわけにもいかない。申し訳ないが腹パンで寝てもらった。あとでどの様に説明しようか……

 

「鈴仙さん?でしたっけ?その娘は大丈夫ですか?」

「安心なさい。貴方の技術で気絶だけで済んでるわ。右手に少々擦り傷があるけど、こうやってまだ意識のある貴方の方がよっぽどひどいわ」

「そうですか……」

「……勇人、別に貴方は悪くないわ。ただ、私に話を聞きに来たのだけだから。何も聞かずに早とちりして攻撃を仕掛けたウドンゲの方が悪い。師匠である、私からも謝るわ。ごめんなさい。ちゃんと貴方のことを説明しておくわ」

「しかし、説明不足もあったわけーー

「やめて頂戴。私の謝罪が虚しくなっちゃうじゃない。今回は私達が完全に悪い、いいね?」

「は、はい」

 

なんだかな〜……永琳さんには敵わない気がする。流石月の頭脳。ここまで一方的に言いくるめられるとは。

 

「あ、でも治療に対してはきちんと礼を言わせてもらいます。ありがとうございます、永琳さん」

「別にいいのよ。こうして、血を提供してもらえるのだから」

「ハハ……ソウデスネ……」

「それにしても、最初貴方が鈴仙をお姫様抱っこして来た時は驚いたわ」

「そ、それは……」

「逢い引きかと一瞬思ったわよ。まぁ、鈴仙の相手が貴方なら任せられるし、それに……」

 

「常に貴方の血が採血できるからね」

「え……」

「冗談よ、冗談。そんなことしたら、あの2人が黙ってないわ」

「ハハ……」

 

「そういえば、鈴仙さんが言ってたんですが……貴女達を捕まえに来たとか言われたんですが、どういうことですか?」

 

鈴仙が勘違いしていたことだ。なんで捕まえに来たと勘違いしたのだろうか?

 

「そうね……」

「む、無理して言わなくても大丈夫です」

「いいえ、貴方には話すわ」

 

 

〜説明中〜

 

 

「…………」

 

永琳さんと輝夜さんが月の民であることは知っていたが……

 

輝夜さんは月では禁忌とされていた"蓬莱の薬"を飲むということで地上へ流刑とされ、その迎えに行った永琳さんは地上にいたいと言う輝夜さんと共にする事にして一緒にいた月の使者を皆殺しにしてここに来たと言う経緯を持つ。そして、鈴仙は元々月の兵で戦争が始まると言うことを聞いて逃げ出し永琳さん達の元に転がり込んだという経緯を持ってる。

 

この話を聞いて思ったことは……

 

「それ、俺に話していいんですか?」

「構わないわ、別に貴方はそういう人じゃないってぐらい知ってるわ」

「随分と信用してくれてるんですね……」

「まぁ、それなりにね。ああ、そうそう貴方、2日ぐらい入院ね」

「はい……って、エェェェ!?」

「当たり前じゃない、どうせ生活に戻ったら無理に動いて傷が広がるに決まってるわ」

「信用してくれてるんじゃないんですか……」

「それとこれとでは話が別、まぁ、ゆっくり話ができるからいいじゃない」

 

ああ……またか、もう何度入院したらいいのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーートントン

 

「ん……?誰かな?」

 

こんな時間に来客か?まだ早苗や妖夢達には伝えてないはずだが……とりあえず、返事をする。

 

「入るわよー」

 

そう言い腰より長い艶やかな黒髪を持つ女性、蓬莱山輝夜さんが入って来た。

 

「随分と暇そうね」

「いんー……暇っちゃ暇ですね」

 

まぁ、本来は永遠亭にはそんなに居るつもりは無かったのだが……2日居る羽目になった。

 

「ごめんなさいねー、うちの鈴仙が」

「ああ、もういいですよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

 

「そうそう1つ注文があるのだけど」

「俺に難題はやめてくださいよ。今は捜査もしている身ですから」

「そうじゃないわ、その話し方よ。堅っ苦しくてしょうがないわ」

「い、いや、流石に姫様にタメ口は……」

「そんなに偉くないってほら、私達は似た者同士なんだからッ」

「え?似た者同士?」

 

どこがだ?俺は普通の教師で輝夜さんはお姫様。性格も似てるとはとても思えない。

 

「そうそう、だって貴方『物事を不変にする程度の能力』なんでしょ?」

「まぁ、そうですが……」

「私はね『永遠と須臾を操る程度の能力』なのよ」

「へ、へぇ……」

「で、『永遠』というのが鍵でね、それは『不変』と言うことなのよ」

「!?」

 

あれ?俺、能力被った?

 

「貴方と私は最初全く同じだって思ったんだけど永琳が違うって言うのよ、だから、似た者同士よ」

「は、はぁ……」

 

どんな感じで違うのかが物凄い気になる……

 

「姫、どう違うかは説明しましたよ」

「あら、永琳いたのね」

「ええ、彼に痛み止めを」

「あ、ありがとうございます」

 

ああ、どんな風に違うかメッチャ聞きたい……

 

「姫と貴方の違い教えましょうか?」

「是非!」

 

「そうね、まず姫の方から説明するけど、永遠つまり不変ということなのだけれど未来永劫全ての変化を拒否するーーーつまり、歴史を持たないの。その事によって、寿命や変化が無くなるーーー食べ物は腐らないし、割れ物は割れないのよ。その能力がかかった世界では時が止まったに等しいのよ」

「ほー……」

「で、次に勇人ね。これは紫から聞いた事を私なりに解釈したのだけれど……貴方も同じく変化する事を拒む。それは姫と同じよ」

「そうですよね」

「だけど、貴方の場合も食べ物は腐らないし、割れ物は割れない。けどね、極端な話、逆に食べ物は必ず腐るし、割れ物は必ず割れるという事も言えるのよ」

「ん??」

「貴方は『物事』を不変にするのでしょ?つまりは変化する事を不変にできるのよ。貴方の『不変』は『歴史』を持つのよ。そして、貴方はその『歴史』がどうなるかは自由に決めれるし、未来の歴史も決めることができ、そして必ずその歴史は起きる。その歴史が起きる中でその歴史とは違うことは排除され、干渉することは出来ない」

 

「時が止まった事に等しいに対して、貴方は時の流れの中で自分が決めた流れを作り出せる。まぁ、貴方はまだ完全に使いきれてないようだけど。っと言った感じかしら?」

「……成る程」

「え?分かったの?私にはいつ聞いてもさっぱりよ」

「ええ、流石永琳さんですね」

「分かってくれたのね、姫が全く分からないって言うから自分の説明に自信が無くなるとこだったわ」

「ま、でも似た者同士には違いないんでしょ?」

「……それでいいです」

「ということで私には敬語禁止ね」

「どういうことですか……」

「ほら!敬語禁止!」

「はい、分かりm……分かった」

「うんうん!それでいいのよ」

 

それにしても永琳さんはすごいなぁ……自分よりも深く能力について考察できるなんて……にしても、ここの人達も凄いんだな。

 

「あ、そういえば、鈴仙さんの能力も知りたいですね」

「そうね、ウドンゲは『狂気を操る程度の能力』もとい『波長を操る程度の能力』よ」

 

「それはーーー(以下割愛)」

 

「ふむふむ……どうりで景色が気持ち悪くなったり、弾幕が消えたりしたのか……」

「まぁ、貴方には無効だけどね」

「ソウデスネ……」

「ま、あの娘とも仲良くしてあげて頂戴。ああ見えて寂しがり屋なのよ」

「俺でいいなら、仲良くさせてもらいますよ」

「よろしくね」

「私からもよろしく」

「ええ」

 

ふぅ……今日は中々有意義な時間だったな……自分の能力についてここまで根を掘り下げて考えるとは……でも、自分を突き詰める事も大事だな。

 

あ、肝心の怪奇死について聞きそびれた……ま、明日聞こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーートン、トン

 

「ん?また、誰か来たのかな?」

 

永琳さんか、輝夜さんかなって思ったけど、弱々しいノックの音で違うなと思った。じゃあ、誰だ?んー……遠慮してるのかな?とりあえず、大きな声で返事をした。すると、恐る恐るといった感じでドアが開いた。

 

「失礼します……」

「えっと……鈴仙……さんですよね?」

 

半開きのドアから覗く薄紫の髪。伏せがちの赤い瞳でこちらを見つめたまま動かない。

 

「あのー……何をしに……」

「ほ、包帯の交換をしに……やっぱり、私では嫌ですよね……師匠と変わってきます」

「そ、そういう意味じゃ無いですから!な、何の問題も有りませんら!」

「は、はい……」

 

完全に萎縮してしまってる……包帯の交換をする時もどこかよそよそしい感じが……ただ、静まり返り、痛々しい程の沈黙が降りるのみ。

 

こういう時に気の利いた言葉をかければいいのだが……生憎、俺の性格ではそういうハイスペックな事は出来ない。何か話題と、あれこれ思案する。

 

そんな中、鈴仙の指が傷口に触れ、

 

「痛っ……」

「あっ、すいません!すいませんすいませんすいませんすいません……」

「だ、大丈夫だよ!そんなに謝らなくてもいいから」

「はい……すいません……」

 

もうどうすれば……

 

そうして、また気まずい雰囲気に……これが続くかなと思ったら意外にも、鈴仙により止められた。

 

「あの……あの時の事は本当にすいませんでした……」

 

消え入るような声、されども彼女の精一杯の謝罪ーーーほぼ無傷の鈴仙に対し、傷だらけの俺。その事も気にしてだろうか?

 

「私が勝手に勘違いした上に貴方を怪我させて……なのに私はこうした無傷だなんて……」

「いやだから、謝らなくても……」

「いいえ……臆病で自分勝手な事ばかりするから私は……」

 

なんというネガティブ思考……思わず額に手をやる。

 

「も、もしかして、お気に召したでしょうか」

「いや、そういうわけじゃ無い」

 

「あのね、俺は全然君を責めてなんかいない。もう謝罪もしなくてもいいって言った」

「……はい」

「確かに君は臆病者だ。今も責められるのを恐れてペコペコしてるし、君が月から逃亡して来たという事も永琳さんから聞いてる」

「そ、そうですよね……」

「だが、憶病者が悪いとは思わない。ただ、何事にも恐れず突っ走って、死んでしまうような奴の方がよっぽど悪い。それにそんな奴は自分が居なくなったら周りの奴が悲しむという事も知らない自分勝手な奴だ。だから、あんたは自分勝手じゃない」

「で、でもーーー

「そもそも自分勝手な奴が永琳さん達を守ろうとはしないし、こんな風に丁寧に包帯を巻いてくれないよ。それに今回の事は誰も君を責めていない。そんなことぐらい分かるだろ?」

 

俺の問いに対し、鈴仙は俯く。あの永琳さんの弟子だ。そんなことは自分が1番分かってるはずだ。

 

永琳さん曰く、ずっと逃げて来た事を負い目に思ってたらしく、いつの日か吹っ切れたとか言ってたらしいが、やはり心の何処かで引っかかってたのだろう。

 

「まぁ、今こうして世話をしてもらってる訳だからそれでおあいこな?」

「それで……いいのですか?」

「ああ、勿論。それでも納得しないのなら……」

「えっ、え!?」

 

俺は驚く鈴仙の右腕を掴み上げる。その右手には包帯が巻かれてある。この傷は間違いなく俺によるものだ。

 

「この綺麗な手に傷をつけてしまった事も含めておあいこだな?」

「き、綺麗!?」

「それに君は永琳さんの手伝いをして、貢献してるのだろ?」

「そ、それは師匠が素晴らしいので私はそんなに……」

「そんなに謙遜しなくてもいいさ。人の命を救うとは簡単な事じゃ無い。俺よりもよっぽど誇れるぞ」

 

これも永琳さんから聞いた。永琳さんは少々マッドの気があるが、なんやかんやで鈴仙に気をかけている。

 

「君を頼りにする人はたくさんいるさ。だから、胸を張ってやってくれないと。まぁ、俺もここのお世話になる事が多いからな、俺も頼りにしてるさ」

「〜〜〜ッ!」

「って、あっつ!」

 

な、なんだ?急に鈴仙の手が熱くなったぞ?それに鈴仙の顔を見たら物凄く赤い。あれ?熱があるのでは?

 

「た、体調が悪いなら早く言え!後は自分でできるから、休め!」

「いえ!そういうわけではっ!」

「そ、そうか、でも無理はダメだぞ?」

「あ、あの、勇人さんっ!」

 

鈴仙はここに来て初めて俺の名前を大きな声で呼んだ。先程のような相手の顔色を伺うような眼ではなく何か決心をしたような眼になった。そう、ダイヤモンドのようなーーーいや、いい。まぁ、その眼には俺が映し出されている。

 

「ゆ、勇人さんがさっき言った事は……こんな憶病者の私でも必要としてくれるんですか?」

「まぁ、そういう事になる。俺も怪我が多いからなぁ……だから、頼むよ、鈴仙」

「は、はいっ!」

 

いつの間にか呼び捨てになってるが、まぁ見た目的にも同世代ぐらいだからな。それに鈴仙の表情も暗黒のオーラを纏って入って来た時よりも随分と明るく、大きな声になったな。表情も微笑んでいる。うん、女性は笑顔が1番似合うな。

 

……しかし、俺は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇人さんは私が必要……私が必要……私も勇人さんが……つまり、そういうことよね……ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。