諸行有常記   作:sakeu

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第35話 「怒」の日の青年

 

「て、テメェは!」

「どうも、さっきぶりだね?」

「勇人!」

 

ほ、本当に来てくれた…

 

「何の用だ!?」

「用って、蓮子にあるけど?」

「ああ?今はお取り込み中だ!どっかに消え失せろ!」

「確かに面倒な事は嫌いだが、そういうわけにもいかんのだよ」

「どういうわけだ?」

 

 

「いや、だって、蓮子は俺の"彼女"だから」

「!?」

 

うぇ?か、彼女!?

 

「はぁ?何言ってんだ?お前みたいな冴えない奴が蓮子と付き合ってるわけがないだろ!」

「あんたがなんて言おうが、この事実は変わらん」

 

「な、近づくんじゃねぇ!」

「近づかないと蓮子と帰れないんでね」

「野郎!舐めんじゃねぇぞ!」

 

ぶんっ!

 

「ほっ」

「ぬあ!?」

 

ズシャァ…

 

「盛大にこけたねぇ…ま、いいか。ほら、蓮子帰るぞ?」

「あ、うん……」

 

し、芝居なのよね?

 

「や、野郎!」

「あーだこーだ言われてもね?付き合ってるもんはしょうがないでしょ、な?」

「う、うん……」

 

か、肩を抱き寄せて……これじゃあ、本当にカップルみたいじゃない!芝居が上手いせいか、勇人の言ってる事も本当のようだ。

 

「み、認めねーぞ!」

「別にあんたの承認なんていらんでしょ?」

「ふ、ふざけるな!お前みたいなひょろっちぃ奴が蓮子と似合うわけがない」

「だから、あんたが何言ったて関係ないだろ?アホの妄言はやめて、さっさと帰れば?」

「な!?も、妄言だと?それはお前の方だろ!?」

「あー、ダメだな、無視して帰ろう、な?」

「う、うん」

 

わ、私まで動揺しちゃってる……何でこいつは飄々としてんのよ?恥ずかしくないの?ま、まさか、逆にそういう対象で見られてない?

 

(蓮子)

(な、何?)

(もう少し芝居続けるぞ)

(わ、分かったわ、じゃあ、手を繋ぎましょう)

(ヘァ!?)

(こ、恋人なら当たり前よ?)

(そ、そうか)

(もちろん、恋人繋ぎよ?)

(りょ、了解)

 

うん?ちょっと、恥ずかしくがってる?なーんだ、ウブじゃない。

 

「な!」

 

「それじゃあな」

「それじゃあね」

 

「ま、待て!俺と勝負しろ!」

 

「無視よ」

「分かってる」

 

「ビビってんのか?」

「「……」」

 

「それでも男か!?」

「「……」」

 

う、少し勇人が反応した。

 

「調子に乗ってんじゃあねよ!このクソチビ!」

「…!」

「勇人!」

 

もう!まだ、そのワードに反応すんの!本当、変わってないわね!

 

「ああ!?今、なんて言った!」

「へへ……聞こえなかったか?チビ!それに顔もよく見たら女っぽいんじゃねーのか!?全然、男らしくないぜ!」

「勇人、落ち着いて!」

 

あ、ダメだ、この顔は……目にハイライトが消えてる……こいつ、怒ると顔の表情筋が固まるのよ…ああ、中学校の頃一度だけあのワード言われて、ブチ切れだとき、無表情で相手を殴り続けてたわ……

で、でも、相手は素人じゃないのよね……格闘技はかなり秀でてるって聞いたけど。

 

「はは!ほら、来いよ?男だろ?男らしく拳で証明してみせろよ!」

「……」

 

何も言わなくなったわね……本格的にキレたわね。

 

「来ないのなら、こっちから行くぞ!」

 

ベキッ

 

「ゆ、勇人!」

 

え?何で交わさないのよ!

 

「……」

「ほら、もう1発!」

 

ゴスッ!

 

「……っ!」

「ふん、トドメだ!」

 

バゴッ!

 

バサッ……

 

「勇人!?」

「ほら!こいつ、ダメダメじゃん!」

 

おかしい、普通ならかわすのに、何で受けてるの?かわす気が全くないみたい……

 

「分かっただろ?」

「い、いえ、全然!」

「チッ!強い者が上なんだよ!」

「知らないわ!」

 

「はぁ……」

 

「な、なんだ、まだ気絶してねえのかよ」

 

「俺はだな、面倒な事は嫌いだ。昔は喧嘩をしたいという欲求があったが、今はもう無い。だから、喧嘩も面倒な事でしか無い」

「ああ!?何を言ってんだ?」

「でも、面倒だからやらないってわけにもいかないよな?」

「はぁ?まだやるのか?」

「まぁ、優越感に浸ってる奴に急に敗北させる事で絶望させるのも嫌いじゃないしな」

「ふんっ、そんな事自分の状態を見てから言えよ。フラフラじゃないか?」

「だから?早く来いよ、強い奴が上なんだろ?」

 

「言われなくてもやるさ!」

「……」

「勇人!」

 

また、動かない気!?

 

「遅い」

 

ヒュッ

 

「な!?」

 

「オラァ!」

 

ボゴッ!

 

「グヘッ!」

 

は、速い!前よりも早い!あんなギリギリまで待って腹に1発とは……

 

「終わりじゃないだよな〜」

 

バチバチバチバチバチ!

 

え?腕に霊力が……

 

「オラァ!」

 

バンッ!

 

「ゴフッ……」

 

バタッ…

 

「うー……ゲホッゲホッ…オエッ」

 

「ふぅー、この新技いいかもな。手加減してやったから安心しろ」

 

な、なんなの?殴った拳から衝撃波みたいなものが……

 

「つい、カッとしちまったな」

「だ、大丈夫?」

「あの程度でくたばったら、向こうの世界では生きていけないぜ」

「そ、そう」

 

随分たくましくなったのね……

 

「ゴホッ…まだ、終わってないぞ……」

「はぁ…確かにあんたは強いっちゃあ強いが……相手が悪かったな」

「待ちやがれ、この野郎!」

「……!」

 

ヒュッ!

 

「きゃっ!」

 

ゴスッ!

 

い、痛い!な、何よ!レンガ!?腕が……

 

「しまった……こ、これもお前が悪いんだ!全部お前が悪いん……だ?」

「……」

 

ベキッ!

 

「グゲッ!」

「え?」

 

ゆ、勇人?

 

「痛い!は、歯が……え?」

「……」

「ゆ、許してくれ!少し血迷ったんだ!」

 

ベキッ、バキッ!

 

「は、はっは……や、やめてくれ……」

 

バキッ!ベキッ!

「う……もう、やめてくれ……もう、ボロボロだ……な?追い討ちは男らしくないぜ?な?」

 

ベキッ!バキッ!

 

「お、お願いだから……許してくれ……」

 

「勇人!」

 

「……!」

 

「はっはっ……」

 

あのままだと死ぬまで殴り続けてしまう。

 

「次は無いと思え」

「ヒ、ヒィィ!すいませんでしたー!」

 

 

 

 

 

「す、すまん……腕は大丈夫か?」

「え?ええ……」

「少し見せろ」

「うん……っ!」

「骨は折れてないようだ……打撲か……」

「大丈夫よ、このくらい……」

「いや、このくらいなら俺でも治せる」

 

バチバチバチバチ……

 

「少しビリってくるが我慢しろよ?」

「……ん…」

 

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 

全く痛みが無い……不思議ね……

 

「俺の事怖いか?」

「え?」

「いや、あんな風になっちまったから……」

 

確かにあの顔は見たことが無い。でも、

 

「大丈夫よ!別にあんたのことが嫌いになったわけじゃないわ!」

「そうか……」

 

まだ、引きずってんのかしら?こうなったら

 

「それにしても"彼女"ねぇ……」

「あ……それはだな……あの場をしのぐにはそれしかないかなって……嫌だったか?」

「別に!このまま芝居続けちゃおう!」

「え!?」

「あら、あいつがいないとも限らないのよ?ほら、手を出しなさいよ」

「ふっ…了解」

 

少しはあいつに感謝しないとね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

「どうした?早苗?」

「いや、なんか、勇人さんが別の女の子といる気が……」

「考え過ぎだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……む!」

「どうした、妖夢?」

「勇人さんが他の女の子と仲良くしている気が……」

「雑念はいかんぞ、今は勇人のことは忘れておけ」

「すいません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「どうした?」

「い、いや、寒気が……」

「風邪じゃないわよね?」

「あら?勇人と蓮子じゃない」

「め、メリー!」

「あらあら、お熱いことで……」

「こ、これはあれよ?あいつに対する芝居よ?」

「そ、そうだぜ?」

「そうゆうことにしておくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「どうした、霊夢?」

「いや、なぜかここに霊力を感じる……」

「はぁ…で?」

「それだけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あいつのせいで!いつか復讐しないとな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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