艦娘戦記 ~Si vis pacem, para bellum~   作:西部戦線

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今回も時間が掛ってしまい申し訳ありません。
中々書く暇がないのと上手くネタが下りないのが難点でして。


第六話「マライタ島の死闘・上」

 

恐怖感を持つ人間は、善いことよりも悪いことを信じやすく、悪いことは誇大に考えやすい

 

――カール・フィーリプ・ゴットリープ・フォン・クラウゼヴィッツ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1940年 4月 トラック諸島――ソロモン諸島間海域

 

 

 

 

 

 青い海を朝日が照らし、神秘的な光景を生み出す海域。

 黒から白そして青へと変わりゆく空も合わさり、美しさに磨きが掛かるというもの。

 しかし、残念ながらこの風景をのんびりと眺める余裕など誰一人とて居ない。

 

 

「菊月、左距離1400から敵水雷戦隊接近!」

「了解した!」

 

 

 僚艦である長月のサポートにより深海棲艦の接近を感知した菊月はすぐさま攻撃目標を視認して反航戦へと移行、攻撃を開始する。

 対する深海棲艦は全艦『無色』の軽巡ホ級1隻と駆逐艦イ級5隻からなる標準的な水雷戦隊で、単縦陣を維持したまま彼女達に突撃を行う。

上位個体が指揮しない限り簡単な陣形や攻撃しか行わない無色艦隊であるが低練度艦では厳しい相手だ。しかし、相手にとって残念ながら菊月の所属する艦娘艦隊は決して低練度ではなくその逆の高練度艦隊であった。

 

 手に持つ単装砲が火を噴き砲弾が狙い澄ました様に一隻のイ級を撃ち抜く。

 中央を撃ち抜かれ内部で爆発したイ級は断末魔を上げつつ海中へと引きずり込まれ、続けて海中にて爆発したのか大きな水柱を生み出す。

 恐らく弾薬庫が後から爆発したのであろう。

 

 行き成りの味方喪失に敵は一瞬行動が鈍くなる。

 『無色』は士気が落ちないとはいえ多少ながら思考を有する為に動揺は見せる事が多々あり、特に予想外の事態が起こると明らかに動きが鈍るのだ。

 そしてそんな好機を見逃す菊月ではない。

 

 

「行け!」

 

 

 続けて放たれる砲撃は避けたホ級の後ろに居たイ級へと命中し先の艦と同様に海中へと招待させた。

 続け様に味方を沈められて菊月を脅威と認めたらしく直ぐに反撃へ転じる。しかし、脅威となるのは彼女だけではない。

 

 

「私を忘れるなよ!」

 

 

 菊月と同じ黒い水兵服を着こなし長い緑の髪が特徴的な少女、長月が菊月へと注意が向いたのを見計らい敵に発砲。

 3発攻撃を行い2発は最後尾のイ級へと命中させて撃沈に成功。1発はホ級へと当りダメージを与えた。

 

 敵を発見してから僅か3分足らずでイ級3隻を撃沈しホ級1隻に損傷を与える姿は正にエースたる姿で、他の艦隊が驚きを見せる程だ。

 

 しかしそれで満足する彼女達ではない。

 二人は砲撃をしつつ接近を行い魚雷発射のタイミングを計っていた。

 無論それは敵も同じで、深海棲艦達は立て直した陣形を維持しつつ菊月達へと接近しながらの砲撃を行う。

 互いに回避と砲撃を維持しつつの全速力接近な為か命中弾は見られず周りに水柱が上るのみ。

 しかし、両者共に元より期待していない。

 

 勝負は魚雷を放つタイミングとその後の行動だ。

 早すぎず遅すぎず、更に回避行動を予想して魚雷を撃たなければ。

 菊月が内心そう考えてより加速させると敵との距離を再び計算しだす。

 

 

 

 

 

 850を過ぎた。

 これ以上は回避しきれない可能性があり危険かもしれない。

 しかしまだ大丈夫、何故なら自分達の練度なら問題なく回避可能と判断しており尚且つ敵は『無色』な為に砲撃精度は色つき共に劣る。

 ならば限界まで近づく。

 

 距離が800を切り深海棲艦側が魚雷を発射、同時に回避行動へ移行するのを確認。

 それを見て私は内心早まったなと敵に対して愚かに思い微笑む。

 どうやら勝負運は私に向いているらしい。

 

 敵が放った魚雷の方向を予測しつつ緩やかな回避運動、つまり敵への接近ルートを多少変えながら移動し念の為にソナーへ意識を集中させた。

 すると脳内にスクリュー音を感知。

 矢張りルートを変えなかった場合の航行上に向かっているのを補足できた。

 

 

「単調すぎだな」

 

 

 思わず漏れた言葉に笑ってしまう。

 やれやれ、本当に昔と比べて説教臭くなったな。

 

 距離750。

 もう少し、もう少しだ。

 まだ詰められる。私なら出来る筈だ!

 

 そして距離が700に達した時、私は魚雷を敵の未来予測位置と回避予想位置の両方に発射させ同時に距離を再び取り始める。それは僚艦の長月も同様で彼女も魚雷を発射させた後は離脱を開始した。

 

 

「しま――!?」

 

 

 隣から聞こえた声に驚き思わず顔を向けると駆逐艦の砲弾が掠ったのか、防護膜を少し減退させた長月が表情を強張らせている。

 恐らく離脱の瞬間避けそこなったのであろう。

 艤装や体に被害は見られないが、余程当たった事が癪に障ったのか敵を睨み続けていた。

 その姿が少し可笑しくて戦闘中だというのに私は思わず吹き出す。すると彼女が怒りの視線を敵では無く私へと向け、まるで拗ねた猫の様だ。

 

 

 おいおい、ミスした君が悪いだろうに。

 

 

 そんな事を考えていると爆発音と共に深海棲艦達の悲鳴が耳に届く。

 確認すると先程撃った魚雷が見事に2隻へ命中し、轟沈しているのを見る事が出来た。

 16発中2発命中か、あの近距離で考えるとまずまずだな。

 残念ながら残り1隻は取り逃したらしく、不利と判断してか急いで離脱をしている。

 しまった、詰めが甘かったか。

 

 

「1隻逃げられたか……」

 

 

 距離を考えると追いつくのも砲撃を当てるのも難しいと判断し早期に別な獲物へと目標を変更、移動を開始した。

 ああクソ、油断したつもりは無かったのに。

 

 

「残念だったな」

 

 

 声を掛けられ再び長月の方を見ると顔をニヤニヤさせながら此方を見ており、此方をからかっているのが見て取れる。

 先程の仕返しか? というか貴様も同罪だろうが。

 

 同僚の対応に溜息を吐くもこれ以上構っていられんとばかりに新たな獲物を探し始める。全く、戦場での緊張感が欠けているのでは無いか。

 そう思いつつ他の戦闘場所へと移動しようとした時、視界の端で黄色い影がチラつき思わず其方へと顔を受けたら彼女を見つけてしまう。

 

 

 我らが旗艦の夕立だ。

 

 

 耳を思わせる跳ねた髪型に赤い瞳、そしてマフラーが特徴的で首には他の夕立には無いネックレスが掛けられている。

 そして何よりも彼女が持つ独特の雰囲気が同種艦との違いをより鮮明にさせた。

 まるで猛獣が如く荒々しい空気を身に纏いながら何処か知性を感じさせる変わった感覚、例えるなら獲物を知的に狩る狼や虎という頭の廻る獣に近い。

 そう考えると他の夕立も凶暴な面が見られるが所詮猟犬止まりだ。

 

 どうでも良い事を考えながらも彼女を見ているとふと相手にしている深海棲艦が気になり夕立の視線を辿り目標を目にした瞬間、思わずギョッとしてしまう。

 

 赤いオーラを身に纏い夕立の攻撃を避ける重巡洋艦リ級だ。

 しかも部下に同様の赤いオーラを身に纏うニ級まで着いており、最早声も出ない。

 

 

「おい! 赤色のリ級1隻とニ級2隻が相手とか正気か!?」

 

 

 長月が驚きの余り大きな声を出す中、私は夕立に加勢すべく向かおうと考えた。

 流石の彼女でも一人では無理だ。

 此方が奇襲して出来るだけダメージを与えなければ。

 

 そんな思いに駆られて動こうとした瞬間。

 

 

『私に任せてほしいっぽい』

 

 

 通信機より聞こえた静かな声が私の動きを止める。

 考えるまでもなく我らの旗艦であり目の前で戦っている駆逐艦夕立である。

 

 何を考えている。

 そう考えた次の瞬間、目の前の夕立が急加速して敵へと突っ込む。

 一瞬此方を見て目を合わせたから理解できたが恐らく手出し無用という事、あれだけの相手を一人で問題なく排除できる自信があるらしい。

 敵の攻撃を回避しつつ攻撃を加え敵防護膜に命中、減退させていく。

 前後にそして時には横へとジャンプして無理やり軌道を変えまたある時は体を回転させ華麗に奴らの攻撃を回避そしてカウンターを叩き込む。不規則でしかしどこか規則性を感じさせる姿はまるで獲物を追いかける豹を思わせてしまう。

 

 

「凄い……」

 

 

 思わず口にした言葉は私と長月どちらの物か、しかし彼女が行う戦闘は正に言葉の通りで私たちは自然と魅了されていた。

 

 

「ぽい!」

 

 

 ふと彼女が気合の入った声を発したと思ったら黒い筒の様なモノが体を回転させた時に発生した遠心力を利用して投げられる。

 それは艦娘の力と遠心力が加わった為か物凄い速度でリ級へと飛んで行き防護膜へ衝突、大爆発を起こす。

 これには大変驚き、多分敵も驚愕した筈。

 

 何時の間に爆弾なんかを持っていたんだ?

 

 疑問に思い私は夕立を良く観察するも爆弾らしきものは見当たらない。

 そもそも艦娘の装備に投げる為の装備など存在しない筈、ならば何処から。

 思考の渦に囚われそうになる中、夕立の姿を良く観察した時にふとある変化に気づき同時に答えを導き出した。

 

 

 装備している魚雷がさっきより一本減っている……あいつ魚雷を投げやがった!?

 

 

 爆発物が何なのか漸く分かった私だが、魚雷を放つのではなく投げるとは思いもよらなかった。

 否、普通魚雷を投げて当てるなど技術的に難しいうえ考えない筈。

 確かに魚雷を投げる事によって普通に攻撃するよりも早く敵にぶつけられ、敵からすれば回避も難しいだろう。だが言うのは簡単だが投げる角度や敵の位置、信管部分の衝撃を考えずに投げると例え当たったとしても不発が普通だ。そもそも魚雷は海に放ち進むものであって、投げるなど誰も考えていない。

 

 そんな馬鹿馬鹿しい攻撃だが効果は絶大だったらしく命中したリ級の防護膜は既に何発か砲弾を受けていたこともあり消失、最早守る手立ては何もない。そしてそんな好機を逃す夕立でもなく消失直後に夕立から放たれた砲弾がリ級の胴体に直撃、風穴を開けてリ級は後ろへと倒れてしまう。

 正に流れるような攻撃だった。

 

 一番の脅威を短時間でしかも想定外な方法で排除する様はまるで悪い夢を見ている気持ちだ。

 彼女は本当に駆逐艦なのか。

 別なナニカの間違いでは?

 

 余りにも非現実的な出来事の連続に私は戦場のど真ん中で呆然としてしまう。

 本来ならこの様な失態はしないが今回ばかりは仕方ない。

 だって有りえないんだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その後のニ級撃沈も彼女一人で行うが私としてはもうどうでも良かった。

 唯己がライバル視している人物がとんでもないバケモノであると再確認出来た事が何よりも問題と感じる。

 私も彼女の様に出来るだろうか。

 彼女の様な圧倒的強さを身に着け、活躍できるのか……不安だ。

 

 先の戦闘を思い出し思わず弱気になるが自分らしくないと気づき否定するが如く首を左右に振る。

 

 否、成ってみせる。でなければ今までの苦労が全て水の泡と化してしまう。

 私は彼女の副艦でありライバルだぞ。

 こんな所で弱音を吐いてどうするんだ。

 奴を追いつき追い抜きそして私が艦隊の旗艦となる。

 今回は認めよう。確かに奴の方が性能や技量共に上であり今の私では到底追いつけない存在、ならば追いつける様努力するまで。

 

 見てろよ、何時かきっと追い抜いて見せる!

 

 

 

 

 

 だから先ずは魚雷の投擲練習からだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 マライタ島近海 特務第一混合連隊

 

 

 

 

 

 各前線が奮闘している頃、とある場所でも深海棲艦相手に命と昇進を賭けた戦いが繰り広げられていた――が。

 

 

「敵輸送船撃沈!」

「同じくこちらも敵を始末した!」

「入れ食い状態だ!」

 

 

 深海棲艦に対する更なる後方かく乱と前線部隊支援の為に進軍した特務第一混合部隊であったが、彼らの戦いは最初から出鼻を挫かれてしまう。それは想定上の損害や予想外のトラブル等ではない。事実、部隊の損害は無くそれどころか絶好調で戦果記録を更新中。俗にいう嬉しい誤算状態だ。

 これは深海側と人類側(時雨側ともいう)の思惑が変な形で合致? してしまった故の事故であり喜劇である。何せ遭遇した相手は時雨達が想定していた敵精鋭部隊や大規模な防衛部隊ではなく。

 

 

「まさか敵の大規模輸送船団が待機していようとは……」

「凄いです二等兵曹! 沈んでいるのはどれも敵ばかりですよ!」

 

 

 喜ばしい事だが余りにも都合が良い出来事に嬉しさと困惑が入り混じる時雨とは違い隣に居る萩風は素直に大はしゃぎしている。恐らく萩風はこれも時雨の想定通りと思って素直に喜んでいるのだろう。

 

 彼女率いる特務第一混合部隊及び陸海空挺2個小隊が合わさった即席合同部隊、通称特別進軍部隊は時雨曰く『上層部の無茶な突撃命令』によりマライタ島攻略を現在進行形で進めていた。

 作戦内容は機動力を持ってマライタ島へと奇襲し敵戦力を撃滅、その後前線部隊が戦線を押し上げると共にサンタイサベル島に再進撃を実施、挟撃するという内容だ。

 この時上層部や各指揮官達は深海棲艦部隊の多くが各前線海域及びサンタイサベル島とパプアニューギニアに展開していると考えておりマライタ島は手薄と判断した。そして手薄な同島を早期に占領することにより敵を圧迫、反抗手段を奪うという野心さ満載な作戦となる。

 幸い机上の空論作戦は現在において問題なく進められており、結果的に奇襲は成功し大きな戦果をもたらす。

 

 二つの予想外な事態を除いて。

 

 

 

 

 

 まず一つ目は、マライタ島近海に展開する深海棲艦の大規模輸送船団の存在であった。

 この輸送船団は元々深海棲艦が反撃に転じた時に必要な各種物資を前線へと送るために集められたものであり言わば彼女らにとって生命線と言えよう。

 そもそもマライタ島はトラックと主戦場なサンタイサベル戦線における深海側の隣島なのだ。

 人類軍の集結を聞いた飛行場姫と泊地棲鬼は互いの意見を交換し合い主戦場となる戦線後方又は隣島に補給用物資や反攻作戦用物資を集める様指示を出していた。これは主戦場となるパプアニューギニア島近くやサンタイサベル島では大量の物資を運搬した場合、最悪焼かれてしまう可能性が出た為である。また、両島は長年続いた人類側の攻勢により島の戦力分布や重要区画を把握されている可能性が高く最悪短期間で陥落する可能性も視野に入れていた。その為ゼロではないが襲撃回数が少なく尚且つガダルカナルからの援軍が期待しやすいマライタ島をサンタイナベル方面、パプアニューギニア島とガダルカナル島の中間地点にあるニュージョージア諸島がラバウル方面と言う形で物資や輸送船を集結させていた。

 

 マライタ島を敵が攻めればサンタイサベルとガダルカナルによる挟撃が出来る事から敵はこの島には攻めてこない。それでも『もしも』を考え物資集積場所や輸送船団は『ガダルカナル側』の沿岸や沖合に集める為敵が早々に破壊する事は不可能。

 よって補給に関する心配は無用であると結論付ける。

 

 確かに彼女達の判断は普通なら正解だろうし同じ状況なら誰もが似たような策を講じるだろう。

 後世の歴史家たちは皆が当時の情勢や作戦立案を考えるなら正道と答え彼女達を優秀な指揮官と評した。

 

 だが彼らは同時にこう言い放つ。

 彼女達は不運な指揮官たちであると。

 

 前線へと届ける各種装備や物資を満載した輸送ワ級、未だ地上に荷揚げさせられていた燃料弾薬が『ガダルカナル側』海岸又は近海に多くあり、護衛も少ない。

 そんな場所へ時雨達の特別進軍部隊が襲撃した結果、深海側の策は全て裏目に出た。

 

 

 

 近海や沿岸に停泊していたワ級や人類が残した輸送船を接収した深海輸送船が。

 直ぐに積み込める様にと陸に集められていた各種物資が。

 各種等級の深海棲艦に直ぐ補給できるよう整備された海上給油設備が。

 そして反攻用に用意した新式装備や果ては小規模な整備施設が。

 それらが全て炎を上げて燃えてしまう。

 

 正に海を埋め尽くさんばかりに集結していた輸送艦隊は撃てば当たる程で、時雨達の部隊に攻撃を受けて次々と海中へ没していく。

 流れ弾で地上に命中すれば山積みにされていた補給物資や簡易施設に命中し大きな炎を巻き起こす。

 中には自衛用の装備で反撃しようとするがその様な武装で対抗できる相手でもなく無駄な足掻きに終わってしまう。また、周辺に展開していた護衛部隊も少数しか居ないた為に数や錬度で勝る敵部隊に完敗してしまい最早誰も止める事は出来ない。

 結果、最初に部隊員達が述べた様に入れ食い状態となったのだ。

 

 

 

 この事態に一番慌てたのは当然現在で最高指揮官となった泊地棲鬼である。

 確かに物資積載地点を攻撃されれば誰でも慌てるだろうが、今回の襲撃は度を越えていた。それどころか彼女が被害を拡大させた要因の一つを作り出していた。

 

 

 これが二つの目要因で、同時に時雨達の戦果を更に拡大させる原因だ。

 まず、先に述べた様に人類側は泊地棲鬼をパプアニューギニア島もしくはサンタイサベルにおいて前線指揮を執っていると考えていた。しかし蓋を開けてみればガダルカナルに近いマライタ島で指示を出しており人類側の予想を外してしまう。

 何故予想を外してしまったかというとこれには今回行った電撃戦が深く関係しており、泊地棲鬼が普段とは異なる行動をした原因と言える。

 今までは人類側が攻略作戦を実行する度に各地前線にて対応した彼女だが電撃戦により各戦線の混乱と敵進撃速度が思ったより深刻で遠海における戦線維持を早々に放棄、敵が息切れと空爆の被害で進撃が滞った時点で反撃する策へと変更した。

 その為に戦力をパプアニューギニア島及びサンタイサベル島の沿岸部へと集結させ両島近くにあった前線保有分の補給物資も中間補給島へと後退させてしまったのだ。

 普通に考えると堅実的で尚且つ臨機応変な対応も可能と大変有効な判断だが今度ばかりは逆に悪手であった。更にはガダルカナル陥落による指揮系統混乱が対応の遅れをより明確にさせ正に深海棲艦にとって悪夢と化す。

 

 敵襲撃を聞きつけマライタ島の前線方面、つまり輸送部隊とは反対側に居た拍地棲鬼が駆けつけた頃にはもう手の施しようが無い状況だった。

 護衛につけた僅かな艦隊が全滅し輸送艦隊と地上の集積地点が炎に包まれている様は正に煉獄、この光景を目にした彼女は放心してしまい思わず膝をついた程であり正に絶望的な状況としか言えない。

 そして彼女は確信してしまう。

 ソロモン諸島防衛戦は完全に破綻したのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦含む艦隊発見! 機種は全て黄色!」

「こちら第二小隊、敵水雷戦隊確認! 黄色雷巡を旗艦として赤色の駆逐級5隻が突っ込んで来ます!」

「敵増援は両方私と第一小隊が引き受ける。萩風一等水兵を旗艦とした艦娘部隊と他の水歩兵は此の侭輸送部隊を叩け!」

 

 

 敵増援を報告された時雨は現在の戦力と作戦時間を考えて部下達に全て任せるのを愚策と判断、直ぐに自分と海兵隊一個小隊で当たる旨を伝えると攻撃を開始する。

 指示を受けた部下達は疑問に思う事無く直ぐに現在相手をする深海棲艦を片づける為により一層の攻撃を行い次々と排除していく。

 

 

「敵は上位種が殆どだが気にするな、殺してしまえば変わりない。全て狩り獲れ!」

「「「Yes,ma'am!」」」

 

 

 時雨の激励を受けて海兵隊が歓喜を含む返事をし、次には全員散開してしまう。

 それらは一糸乱れぬ見事な動きで小隊員達が仲間の動きを全て把握し尚且つ敵がこれらの動きにどう対応するかを理解していた。

 高練度では片付けられない常識外の動き。

 敵の動きを知りつくし次に執るべき最善を個々が即時判断、実行可能かつ想定外の事態にも対応可能。言うのは簡単だがこの時代からすれば有りえないもしくは一部にしか存在しない能力者集団だ。

 何せ彼らは初期の頃から時雨と共に戦場を駆け巡り、共に訓練へ取り組み彼女が指揮官となってからは指導そして様々な知識を身に着けた者達である。その結果彼ら第一小隊は、持ち前の練度も合わさり精鋭部隊どころか未来でいうデルタやSASに近い性質を持つ『特殊部隊に近い』存在へと変貌してしまう。

 その能力は凄まじく市街地戦や非正規戦、工作戦といった知識や技能まで空いた時間を利用して習得してしまい他部隊からは日本帝国の暗部ではないかと噂される程なのだから。

 

 尤も一番の原因たる時雨は訓練している内にこうなったという認識だが。

 

 尚、この報告を受けた上層部は彼女に大規模な部隊を預けるか本当に秘密裏な特殊部隊を作らせるかを本気で検討しているらしく、もし本人の耳に入れば確実に頭を抱えるに違いない。

 

 話しを戻すと彼らは正に精鋭中の精鋭と化し、次々と深海棲艦を沈めていた。

 全員で散開しつつも敵が味方へ砲撃するタイミングを見計らい攻撃して妨害及び損害を蓄積させ、周囲に残っているワ級を盾として使い隙を見れば即座に艦隊行動を乱させる。

 これらを全てロス無く瞬時に熟す。

 

 相手にしている雷巡チ級は決して弱くない。否、どちらかと言うと黄色な事も含めて大変強敵であり間違っても水歩兵が一個小隊で相手をして良い対手では無いのだ。しかし彼らは手下の赤色駆逐級5隻も一緒に相手をしつつ確実に仕留めていた。

 

 チ級が散開をして敵の攻撃を分散させようと指示を出そうとした瞬間、小隊員で直ぐに攻撃に転じられる者達が彼女に対して攻撃を殺到させ命令伝達を阻害、そして大きな被害を与えてしまう。

 無論黙っている深海棲艦では無く、部下の駆逐級達が援護をしようとするも後ろへ回り込まれた別な者達に攻撃を受けて沈黙を余儀なくされる。幸運にも攻撃のタイミングを掴んだ艦も居たが敵が直ぐにワ級の影へと隠れてしまい攻撃を即座に中止せざるを得ない状況になる。

 正に一方的な展開であり最早リンチとしか言えない。

 

 この行動を繰り返された結果、知能以外に装甲や機動性という性能面も強化されている黄色と赤色の深海棲艦達といえども既に限界を迎えているのは目に見えて明らか。

 互いを補助し合い脱落者を出さないようにしていた深海棲艦だが最後尾の駆逐ロ級が弾薬庫へ被弾し轟沈、続けて雷巡チ級も防護膜を消失させてしまい部下の後を追う。

 

 艦隊の頭を失い尚且つ数を減らした彼女らに勝利は最早有りえない。

 旗艦沈没後も駆逐級達は抵抗を続けるが3分後には全て海中へ没し、水雷戦隊は全滅する。

 それは戦闘開始から10分足らずで正に彼らの精鋭ぶりを見せつける戦いであった。

 

 

 

 

 

 有能な部下達がそんなバケモノ染みた戦いを繰り広げている中、彼らの飼い主たる時雨は一人で戦艦含む艦隊を相手に奮闘していた。

 

 相手は戦艦タ級1隻と軽巡ホ級2隻、ニ級3隻で全艦黄色である。

 駆逐艦が戦うには余りにも荷が重い艦種であり、更に高練度と高性能な黄色となると普通の艦娘なら絶望して諦めるしかない。

 

 だが彼女は違う。

 時雨は脳内で敵の攻撃を予測、それと同時に海兵隊同様ワ級を盾にして遠距離からの攻撃を防ぐ。

 対する深海棲艦も味方への誤射を防ぐ為に遠距離攻撃を控え近距離戦を選択、回避行動を執りつつ速度を上げて接近する。このまま接近を許せば時雨の不利は明確、だからこそ砲撃をしつつ魚雷を放ち少しでも数を減らそうと努力した。

 しかし黄色タイプの深海棲艦ともなると相手が執る行動を予見するなど造作もなく、難なく砲撃を回避して魚雷も相手が発射したタイミングと方向を考えれば容易である。また、ソナーを使い魚雷を探すことも抜かりない。

 更に付け加えるなら砲撃は深海棲艦に当たる予想位置にも撃たれていたがどちらかと言うと艦隊周辺に着弾する事が多く、砲撃精度が悪い事が伺える。

 これにはタ級達も予想外だったが敵の主砲に何か問題が発生したか想定よりも練度が低いのだろうと結論付け思考から外す。

 

 距離が段々迫り互いの顔が見え始めた時、それぞれが抱く感想は全く別なものであった。

 深海棲艦側はこんな塵芥に輸送船団が壊滅されられた事実を苛立ち、逆に時雨は想定以上に敵が馬鹿である事を感謝する。

 それが互いに判明したのは正に顔が確認できる距離まで近づいた時で(それでも人間が視認する距離よりも遠いが)それぞれが表情を見て次に浮かんだのは次の様な思考だ。

 

 

 『何故奴ハ、余裕ナノダ?』

 

 『頭に血が上る馬鹿が』

 

 

 時雨が少し前に発射した魚雷は大きく回避した事で不発に終わり最早深海棲艦に決定的なダメージを与える事は不可能。間もなく接近戦である為に副砲の発射準備を整えるタ級は勝利を確信して攻撃用意と部下達に指示を出す。

 

 

 仲間達ノ仇ダ!

 

 

 心に憎悪と仇を取れる喜びとが絡み合い砲撃を開始しようとした瞬間。

 

 隣から聞こえた砲撃の着弾音とは異なる爆発音により思わず視線を向けてしまう。

 

 そこには爆炎に包まれ沈みゆく仲間が居た。

 

 

「ナンダト!?」

 

 

 思わず口から飛び出す驚愕した言葉は他の仲間達も同様で何があったのか分からない状況だ。

 しかし彼女達は続いて起こる出来事で更に混乱する。

 

 今度は右後ろに居た二級が爆発し海中へと引き込まれていく。

 そして再びの爆発、今度はホ級だ。

 

 

 あっという間に2隻が沈められ1隻が大破、戦力の半数が無くなっていた。

 

 

 何ダコレハ、一体何ガ起キテ!?

 

 

 艦隊が狼狽する中、大破したホ級の破損部分を見てタ級は驚愕してしまう。

 喫水線下部分に入る大きな損害、そして浸水状況。

 間違いなく魚雷で受けた傷である。

 

 驚かずに居られない。何故ならば彼女達は時雨が魚雷を発射する瞬間を見逃さなかったし、その後も『彼女から目を離さなかった。』確かに砲撃による着弾音によりソナーが利かない状況だが発射角度や位置を割り出せば避ける事など容易い……。

 

 此処まで考えてタ級はある事実に気が付く。

 

 何故急に砲撃精度が悪くなったのか?

 本当に敵を一瞬たりとも見逃さなかったか?

 先程奴が浮かべていた余裕な表情は?

 

 全ての疑問と思考が合致した時、ある結論が彼女にもたらされた。

 

 

「マサカ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう少し頭が回ると思ったが意外と鈍いな。

 

 そう心の中で愚痴る時雨は見事に魚雷が命中した敵艦隊を見つめ、続いて予備も含めて空となった魚雷発射管を見据える。

 

 

 全く、一瞬ワ級の陰に隠れたら普通は攻撃を予見するだろう。

 

 

 

 

 

 原理は単純明快で敵の砲撃に対してワ級を盾にして回避する際、魚雷を少しずつ発射していたのだ。

 良く勘違いされがちだが第二次大戦の魚雷は誘導能力こそ無いが事前に入力された方向へ転換して向かわせる事が可能で、艦後方から発射した魚雷を海中で方向転換させて艦前方へ進ませる事も出来る。その機能を利用すれば残骸等で隠れた隙に魚雷を発射させ敵進路上へと向かわせる事など造作もない。

 尤もこの機能の欠点は実際に敵へと狙い放つよりも命中精度が落ちる点と方向転換の調整が面倒な点であるが。

 

 

 さて、仕上げとするか。

 

 

 そう決めた私は隠れていたワ級残骸から飛び出し、敵へと疾走し出す。

 様子を見る限りあの後も命中したらしく、タ級が中破で二級が残り1隻という状態だ。

 命中率が悪いとはいえ結構当たるではないか、よし今度からこの方法を多用してみるのも良いかもしれん。

 

 行き成り飛び出した私に敵2隻から砲撃が殺到するが精度も統率も取れていない攻撃など恐れる必要などない。此の侭回避行動を執りつつ一気に片づけてやろう。

 早急に判断を下した私は先ずは残りの駆逐艦である二級へと主砲を向け発砲、一撃で仕留める。

 流石に強化型だろうがこの距離なら一撃か、何とも呆気ないな。

 

 続いて既に防護膜が消失したタ級へと砲撃するが此方は先程沈んだ二級とは違い咄嗟に回避して難を逃れた。

 未だにやる気十分とは恐れ入ってしまう。もし彼女が艦娘で私の部下だったなら上手く活用してやったものを、運命とは残酷だ。これも全て存在Xが悪い。

 

 全く、戦争は優秀な人材を擦り減らすから嫌いだ。

 人材と資源、そして時間の無駄遣い。

 早く平和な時代になって欲しいものだな。

 

 そうこう考えている内に私は避けた拍子でうつ伏せに倒れてしまったタ級へと近づく事が出来た。

 避けたのは良いが受けている傷が深いらしい。

 早く楽にしてやる事が優しさだと思いその頭へと主砲の砲身を押し当てる。

 

 砲身からガタガタと振動が伝わる事から恐らく震えているのだろう。

 死ぬのが恐ろしいと思う感情は正常な証拠だよ。

 喜びたまえ。

 

 

 だが。

 

 

「すまないね」

 

 

 悲しいかな。

 

 

「これも戦争なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして悪魔は笑いながら引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一先ずこの場へと駆けつけた敵戦力の撃滅に成功した時雨は、予想以上に稼げている戦果を心から喜び外から分かる程機嫌を良くしていた。

 初めは都合良く敵の輸送船が多く集結しているのを見て罠かとも考えたが蓋を開けてみればそんな事も無く順調にスコアを稼げてしまい流石の彼女も思わず顔を引き攣らせてしまう。しかし、今では気にするのが馬鹿らしいと考え自分の手柄として純粋に喜んでいる。

 輸送船団や物資を破壊する他、輸送船を盾にする事で敵の高錬度艦隊を容易く撃滅を行う。それは正にボーナスポイントだと彼女に思わせこの結果を喜ばない人が居るならば頭がイカレテいるか飛び切りのマゾであると心から断言する程だ。

 

 

「よし、諸君良くやった。だが遠足は帰るまでが遠足だ。油断なく残りの敵を掃討しつつサンタイサベル島に進軍するぞ、良いな?」

「「「「Yes,ma'am!」」」」

 

 

 見事な敬礼を返され時雨は思わず不敵な笑みを浮かべ彼らの返答を嬉しく思う。

 

 

 

 

 

 全く、敵地へと我が部隊だけで突っ込めというい命令を受けた時はどうなるかと思ったが予想以上に楽で尚且つポイントも稼げる美味しいものであった。そう考えると上層部が我々に進撃を命じたのは幸運であったな。それどころか上は此処に輸送部隊が居たことを予見していたのかもしれない。ならば期待に応えるために精々暴れるとしようか。

 

 とても明るく嬉しい結果に私は年甲斐もなく喜びたい気持ちを押さえつけなるべく平常心を保つ。

 さて、早く残敵掃討を済ませてサンタイサベル島へと進撃せねば。折角戦果を示したが任務を疎かにしては元も子もない。

 

 そう考えつついざ移動しようとした時、私の近くに大きな水柱が上り視界を遮る。続けて遠くより主砲の発砲音が聞こえ敵からの砲撃だと瞬時に理解した。

 

 

「――ッ!? 総員敵輸送船の蔭へと飛び込め!」

 

 

 咄嗟に指示を出し残骸や大破状態の輸送船を盾にすると敵からの砲撃は止み辺りには不気味な静寂が漂う。

 馬鹿な、一体何処から。

 

 

「敵を確認! て、敵は泊地棲鬼です!」

「な!?」

 

 

 深海棲艦を発見した部下の言葉に思わず驚きの声を出してしまう。

 そんな馬鹿な、作戦前に聞いた情報では泊地棲鬼はサンタイサベル島又はパプアニューギニア島で指揮を執る筈。何故マライタ島(ここ)で姿を現す!

 

 想定よりも早く敵は混乱を脱して急行した?

 敵の欺瞞情報に引っ掛かった?

 それとも泊地棲鬼がもう一隻存在したのか?

 

 分からない。

 私の脳内は様々な可能性を想定しては吐き出すが結局答えとは断言できない。いや、そもそもそんな事を悠長に考えている場合では無い筈だ。奴は此方が暴れまわったせいでお怒りらしく、双眼鏡越しで見える憤怒の表情から凄まじい殺気を感じさせる。

 兎に角本部へ連絡を取らなくては、最早無線封鎖の意味も無い。

 

 

「HQへ至急連絡し、作戦遅延を伝えろ!」

 

 

 私が部下へと指示を出して長距離通信による状況報告と作戦遅延を提言しようとするが……。

 

 

「駄目です! 本部との連絡、付きません!」

「短距離通信でも試みましたがガダルカナルの部隊と繋がりません!」

 

 

 帰ってくる返答は絶望するに足りるものだった。

 馬鹿な、この距離ならば通信は可能な筈だ。それなのになぜ連絡が付かん!?

 

 

 まさか!?

 

 

 私はある可能性を考え双眼鏡でもう一度泊地棲鬼の艦隊を細かく確認するとある物を見つける。

 それは泊地棲鬼後方に居る黄色いル級で、奴は背中に大きなドーム状の装置を背負っていた。

 間違いなく電波妨害装置(ジャマー)だ。

 

 

 何てことだ!

 

 

 余りにも悪い状況に私は思わず元ワ級と思われる残骸へ思い切り拳を叩き付けてしまう。

 

 不味い。

 実に不味い事になった。

 

 こちらは作戦がまだ完遂していない為に逃亡が不可能。では逃げながらサンタイサベル島へ向かえば良いとも思えるがそんな事をすれば我々が逆に包囲殲滅されてしまう。更に付け加えるなら作戦時間にも限りがあり此処で泊地棲鬼達(奴ら)を相手にすれば確実に間に合わないのだ。

 つまり両島攻略と後方からの攪乱に支障が出てしまう。

 本部や中佐達が態々進撃を命令したほどだ。恐らく前線における戦力と時間的余裕は殆ど無いと想定すべき。

 命令違反は重大な国家における反逆行為。

 

 良くて前線での酷使。

 悪くて銃殺。

 

 最悪だ。

 ならば執るべき行動は唯一つ。

 

 

「萩風一等水兵!」

「は、はい!」

 

 

 私の呼びかけに近くの残骸から声がして其方へ顔を向けると萩風が涙目で残骸から顔を覗かせていた。

 隠れろと言ったが、そんな頼り無い表情での隠れ方は軍人としてどうなのだ?

 

 

「萩風一等水兵、これから私とtwo man cellで行動してもらう」

「え? つーまるせる?」

「ツーマンセル、つまり二人一組として働けという意味だ馬鹿者! 貴様はもう少し英語を憶えろ!」

「す、すみません!」

 

 

 これから僚艦として働いてもらう予定の萩風にだらしなく応えられると不安になってくる。本当に大丈夫かこいつ。

 

 しかし、時間は敵だ。

 ならば私にとって一番カバー能力を発揮してくれる彼女を僚艦として傍に置き、残りの4名を第一小隊と共に行動させた方が良い。

 

 そして残りの奴らは。

 

 

「不知火一等水兵、貴様は第一艦娘艦隊と第一小隊以外を引き連れてサンタイサベル島へ急行しろ」

「……よろしいので?」

「早くしないと敵が体制を立て直す。ならばサンタイサベル島を早急に片付けて友軍と共に此方へ戻ってこい」

「……了解しました」

 

 

 いつもと変わらず乏しい表情で敬礼した不知火は私が指示を出した通りに行動し、部隊を纏め始めた。

 幸い砲撃は未だに止んでおり部隊への連絡伝達はスムーズに進んだ。

 尤も砲撃が無いのは此方が身を隠している為に砲撃による輸送船被害拡大を恐れているが故でだが。

 

 

「ご武運を」

 

 

 そう言い残して立ち去る不知火達を見送りつつ彼女達の離脱を支援すべく砲撃を行う。

 

 初めは不知火達に砲撃を加えようとしていた深海棲艦隊だったが、旗艦である泊地棲鬼が止めに入り追撃を取りやめた。

 くそ、上手く不知火達を追えば後ろから奇襲出来たものを。

 あの泊地棲鬼は勘と知性両方が優れているな。

 中々厄介だ。

 

 だが仕方ない。

 我々は我々の仕事をするか。

 全く割に合わない仕事だがね。

 

 

「さて諸君、どうやら敵はデザートまで持ってきたらしい。何ともサービス精神溢れるではないか、ならば我々が払うべき鉛玉(チップ)は多めにせねばな」

 

 

 ジョーク交じりに話すと皆が笑い出す。

 この絶望的な状況下で頼もしい限りだ。

 

 現在この場に残る部隊は私含め艦娘1艦隊と水歩兵一個小隊のみ。

 遠距離からの支援砲撃や航空部隊の支援、そして他艦隊からの援護すらない。

 正しく最悪ここに極まり。

 

 しかしまだ可能性はある。

 サンタイサベル島への奇襲が成功すれば友軍が順調に攻略できる可能性があるうえ援護に来る筈、それに敵は6隻だ。立ち回り次第では攻略は出来るだろう。

 

 そう考えるなら末期の日本軍よりもマシである。

 魚雷も部下から1本ずつ分けてもらい半分は補充できた。

 後は全力を尽くすのみ。

 

 

「さて、もう一働きしようではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すごーい、あなたは墓穴を掘るのがうまいフレンズなんだね!


何時も作品を読んでいただき有難う御座います。
そろそろ地上戦を書きたいこの頃、しかしふと思えばこの世界は海戦と地上戦の差異が余り無いという現実。
結果、何故か外伝版を書いてしまう。
投稿すると決めてないのに……でも書いちゃう。くやしい! ビクン、ビクン

誤字脱字や感想何時も有難う御座います。
今後もどうか宜しくお願いいたします。

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