前回の投稿からUAも二千まで伸び、お気に入りも増えたことでルーキー日刊に載ることができました。読者の皆様に支えられていると実感でき、とても嬉しく思っています。
※今回、話の展開上それぞれのキャラの話が独立したものと考えて下さい。また、今回の話は本編に全く影響のない話です。明らかに好意を抱いているような描写があっても本編でそうとは限りません。
※アクシズ教徒の方、俺はアクア様を見に来たんだ!ガヴドロ知らんって方は文章中のタイトルまで読んだ後、最後の方まで飛んで下さい。
アクアが俺の家に居候を始めて早数ヶ月。色んなことがあった。……そう、本当に色んなことが。
主に俺やヴィネットちゃんが苦労したり、アクアが泣いたり、ガヴリールがダレたり、サターニャが泣いたり、ラフィエルちゃんが嗤ったりと、本当にイベント事に事欠かなかった。
ああ、アクアが本当に女神だと知ったなんてこともあった。天使だの悪魔だの女神だのと現実というのは不思議で満ちてるんだなぁ。
そして今日は!聖!
俺も去年までは
『はぁ?バレンタイン?そんなどこぞの製菓会社が作り出したイベントなんぞ俺は知らない。敬虔(嘘)なキリスト教徒(偽)である俺はそんなイベントなんかに囚われたりしないんだっ』
なんて見苦しい嘘をついて自身の惨めさから目を逸らしていたが、今年は違う!この一年、俺はヴィネットちゃんを始めとする幾人もの女の子達と親交を深めることが出来たのだっ!少なくとも!ヴィネットちゃんからは貰えるだろう、そう信じたいっ!
ピンポーン
ん?誰か来たみたいだな。さて、誰だろうか?因みにアクアの奴は朝っぱらどっか行ったきりだ。
この聖なる日にチョコレートを!
ガヴリールの場合
「おっすー」
扉を開けた先に居たのは、なんとガヴリールだった。まさかコイツが来るとはな。そんな律儀な性格じゃないし、バレンタイン関連じゃないのか?まさか、またエアコン壊れたとかそんなんなんじゃ……。
「おう、いらっしゃいガヴリール。今日はどんな用件なんだよ」
「そんな惚けなくていいって。
そう言って後ろ手に隠していた紙袋を取り出す。
なっ、まさかマジなのか?ガヴリールがわざわざ俺にチョコをくれるなんてっ、思いのほか彼女からの好感度を稼いでいたらしい(ギャルゲ脳)。
「ほら、ハッピーバレンタイン」
そう微笑みながらチョコレートが中に入っているであろう先の紙袋が渡される。え゙、ちょっと待って。何コレ本当おかしい。俺の知ってるガヴリールがこんなに可愛いわけがないっ。
「あっ、ありがとう。嬉しいよガヴリール。まさか、お前からチョコ貰えるなんて思ってもみなかったから」
「まさかは余計だよ。まぁ日頃の感謝って奴だ、受け取っとけ」
「おう!大事に食べさせて貰うぜ!…………それで、中見ていいか?」
「せっかちな奴だな~。まぁいいけど」
「それじゃ早速」
紙袋を開き、中に入っていた箱のラッピングをほどく。結構しっかり包装してあるし、まさか手作りじゃないだろうがそれなり値の張るものなのでは!!
その箱の中に入っていたものは────
──一粒のチ□ルチョコと"天使印のチョコレート。たぶんおそらくきっと世界一美味しいチョコだと思う。取り敢えずお返しは三倍ってことで、私的にはそろそろ新しいノーパソが欲しいなぁ~"と書かれた紙が入っていた。
「…………」
「いやぁ~、意外と人間もやるよねぇ。チョコ渡した相手から強制的に三倍分のお返しが貰えるイベントなんて。あっ、世界一美味しいチョコの三倍がノーパソって安いかなって思うんだけど、そこんとこどう思う?」
何というか何も言えなかった。チョコは、まぁ嬉しいさ。性格はともかく容姿は最上と言っても過言じゃないガヴリールから貰えたんだ、そりゃ嬉しい。ただどこぞの女神(笑)と違い
────何て殊勝なことを言うと思ったか
「男の純情弄びやがってっ、この駄天使ぃぃい!」
「ほ、っと」
この溢れんばかりの怒気をそのままにガヴリールに掴み掛かろうとするも、スルリとまるで俺がそうするのを分かっていたかのように抜け出すと玄関口から逃げるように階段の方へと走って行く。
「ククッ、カズキ分かりやすすぎ、まぁお返しにノーパソって言うのは……、半分くらい冗談だけど」
階段の手前まで逃げ
「でも、まぁ──
────感謝してるってのはホントだよ。特にヴィーネとお前には、ね。
最後に「じゃね」と言葉を残し、ガヴリールは階段を降りて帰っていった。俺はそれを追うことも、声をかけることも出来なかった。最後に見せたアイツの笑顔があまりにも、その……綺麗だったから。
あれが天界で優等生と呼ばれていた頃の片鱗なんだろうか。正直、
何とはなしに手の中にあるアイツから貰ったチ□ルチョコを見つめる。そう言えば──
『はぁ?チ□ルチョコっていえばきなこもちでしょ?』
『はっ、これだからお子ちゃまは。あのほろ苦さが売りのコーヒーが至高に決まってんだろ』
『『…………』』
『何?ヤル気?』
『そっちこそ、覚悟はいいか?』
『ちょちょっと、そんなどうでもいいことで何喧嘩『『ああ゙?』』何で止めに入ろうとしたアタシがそんな目で見られるわけっ!?』
なんてこともあったな。あの後つい当たってしまったサターニャを宥めかすのが大変だったのを覚えてる。
アイツとは悉く菓子の趣味が合わなかった。俺がタケノコといえばアイツはキノコと言い、アイツがコンソメパンチと言えば俺は九州醤油と言う。他にもetc.etc.何度も衝突してはたまたま近くにいたサターニャを泣かしてたっけ。
そんな風に思い出に更けながら見つめる俺の手の中にはコーヒーヌガーと書かれたチ□ルチョコがあった。
「ふふ、アイツへのお返しはきなこもち味で決定だな」
三つ送れば三倍返しになるだろ、なんてことを考えつつ、先程とは売って変わり晴れやかな気持ちで俺は部屋の中へと戻って行った。
因みに階段を降りていくガヴリールの耳が真っ赤だったことを此処に記録しておく。
ヴィネットの場合
「こんにちは」
扉を開けた先に居たのはヴィネットちゃんだった。キタ!天使キタコレッ!どうやら俺は今年の聖戦、勝ち組でいられるらしいっ。
「いらっしゃいヴィネットちゃん、今日はどうしたんだ?ガヴリールなら来てないけど」
「いえ、今日はガヴじゃなくて和樹さんに用が……」
どうやらガヴリールにでもないらしい。因みにアイツは最近うちに来ることが多い。うちに来てはテレビゲームやら携帯ゲームをしている。
それにしても俺に用か……、勝ったな(フラグ)。
「そっそうか。それじゃあどんな用件で?」
「…………和樹さん。分かってて聞いてませんか?」
「ソッ、んん゙。そんな事はないぞ(キリッ」
「…………、そうですか。それじゃあ挨拶に来ただけなんで失礼します」
何故かこちらを白い眼で見ていたヴィネットちゃんは急にイイ笑顔を向け、踵を返そうとする。
ヴェッ!ちょちょっちょっと待って!
「わっ悪い!ごめんなさい!知ってますよ、ええ。バレンタインですよねっ、ですよね。ですが、自分こういう経験皆無で御座いまして、どういう対応をしたらいいのかアレ?目から汗が……。とっともかく、決して、けっしてヴィネット様をからかうだとか、意地悪したかったとかそういうのでは御座いませんので!」
ヴィネットちゃんの肩を掴み、踏み留まってくれるように懇願する。見苦しい、だと?ああ、見苦しくても構わないさ。こんなもんで人生初のチョコレートが貰えるのなら、更に土下座の一つや二つやってやる!
?、掴んだ肩が小刻みに揺れている。ヤバっ力入れすぎたか!?それとも触られるのも嫌なのか(絶望)。
「……ふふふっ」
「へ?」
「ふふっ、あはははははっ!」
急にお腹を抱えながら爆笑するヴィネットちゃん。正直展開に頭がついていかない。何か可笑しかっただろうか?まぁさっきの俺の姿は滑稽であっただろうけど。
「ふふっ、あまりにも和樹さんが必死だったんで、悪魔らしく意地悪しちゃいました(テヘペロ」
「……」
そう可愛いらしい表情をこちらに向けてくるヴィネットちゃん。そんな顔をされてしまったら文句も何も言えないじゃないかっ。天使と思っていたがやはり彼女は悪魔であるらしい。悪魔は悪魔でも
──それじゃあ、はい。和樹さん、ハッピーバレンタインです
手渡されたのは可愛らしいラッピングに包まれたチョコレート、いかにも手作りといったものだ。見た感じトリュフだろう。
「ありがとうっヴィネットちゃん、本当にありがとう!」
「そんな大袈裟ですよ、日頃の感謝の気持ちです。ガヴやサターニャがいつもご迷惑を」
そう言って申し訳なさそうな表情をする彼女。この娘はあの二人の母親か何かなんだろうか?……間違いではないか。
「そんな事ヴィネットちゃんが気にすることじゃないのに。それに、何だかんだアイツらと過ごす日常も気に入ってるし。あと、うちの
「ア……アハハ」
曖昧な表情を浮かべ視線を逸らす彼女。アイツの厄介さと面倒くささはヴィネットちゃんが匙を投げるレベルなのか。
「それじゃあ、これからまだガヴ達のところに行くので、これで」
「ああ、本当にありがとう」
「はい、失礼します」
一度こちらに目礼した彼女は玄関から離れ、階段のほうへと向かっていった。ヴィネットちゃんを見送ったあと、俺は待ちきれずにそのまま玄関口でラッピングを開け、チョコを口に運ぶ。
こっ、これは!
「美味いぞぉぉぉぉぉおお!」
何度も繰り返すがありがとうヴィネットちゃん!美味しいよ。君は遠慮するだろうけどお返しには出来うる限りの力込めることにしよう!
「うしっ、ヤルぞぉ「うっせえぞ!周藤!静かにしねぇか!!」ひぃっ、すんません!」
高まったテンションのまま開けた玄関で叫んでいると下の階から大家さんの声が。急いで謝罪し、直ぐ様部屋の中へと戻るのだった。
サターニャの場合
「サターニャ様が来てあげたわよ!」
気持ち駆け足で玄関に向かうと、そこに待っていたのは仁王立ちするサターニャだった。…………。
「あの、勧誘はお断りしてるんで」
そう言って直ぐ様扉を閉める。
ふう。さて、誰かチョコをくれないだろうか。自室へ戻ろうと踵を返し歩こうとした途端、ドンドンと玄関のドアを叩く音が聞こえてくる。
──こらっ、何で急に閉めるのよ!開けなさいよ!
扉一枚挟んだこちらまで聞こえるボリュームこちらに語りかけるサターニャ。未だに扉もガンガン叩いている。くっ、しょうがないか。
「おいっ!うるさいぞ!ドアを叩くのは辞めろっ、俺が大家さんに怒られるんだ!」
「ごっ、ごめんなさい……。あれ?これ私が悪いの?」
大家さんに怒られるという懸念からドアを開け、仕方なしにサターニャと対面する。全くこの集合住宅で騒音を起こすなんて、非常識なっ。
「それで何の用だよ、因みにサタニキアブラザーズなんて何処ぞの姫を助けるために亀と戦わなきゃならんようなもんにはならないからな」
「今日は違うわよ。ふふんっ、人間共の間で今日は贈り物をする日らしいじゃない。だから仕方なく……、ほんっと~に仕方なく、サタニキア様もその流行に乗ってやろうと思ってね」
「そうか、そんなに嫌ならしょうがない。俺も受け取らないでおこう」
「ああっ、ごめん!ごめんなさ~い!嘘です、受け取ってくださいお願いします!」
再びドアを締め部屋に戻ろうとするも脚を突っ込み遮られる。チョコは欲しいしコイツの気持ちも嬉しいが、尊大でこちらが苛つくような態度をとられると、ついこのように突き放す態度を取ってしまう。何処ぞの駄女神との生活の弊害か……。
「はぁ~。それなら最初から素直に渡せばいいものを」
「だって……、何て言うか。こういうのって恥ずかしいじゃない……」
そう頬を赤らめ明からさまにこちらから視線を逸らすサターニャ。何だかんだいってこいつも女の子してるじゃんか。いつもは
──だから、その……ほらっ!…………受け取りなさいよ
小声でそう言って綺麗に包装された箱を押し付けるようの渡してくる。
いつもはアクアとハイテンションで馬鹿やってる様ばかり見てるせいかこういう殊勝な態度を見ると、こう……胸に込み上げてくるものがあるな。
「おう、サンキュー、サターニャ」
「ふ、ふふん。ええ、盛大に感謝なさい!何せサタニキア様の手作りなんだから!」
「え゙っ」
先程の恥ずかしさに満ちた表情から一転、いつもの調子を取り戻したサターニャの一言に凍りつく。
あれ?確か前にヴィネットちゃんが──
『この前学校で調理実習があったんですけど、ガヴとサターニャと同じ班になってしまったんですよ……。
ガヴは手伝わないし、サターニャは勝手にレシピに書いてないものを入れるしですごい大変で。出来上がったものも食べれないことはなかったんですけど、全然美味しくなくて……』
──なんて愚痴ってたような。ヴィネットちゃんが軌道修正して辛うじて食べれる程度。しかもコイツかなり味音痴だったろ?これは不味いんじゃないか、二重の意味で。
「な、なぁ。開けてみてもいいか?」
「ん?ええ、勿論よ。ふふん、そんなに早く食べたいだなんてせっかちね。まぁ、しょうがないわよね、私の手作りだし」
サターニャが何か言っているようだが今はそんなことにかかづらってる場合じゃない。この箱の中にあるであろう推定ダークマターをどう処理するかを考えねば。
流石にやっぱりいらないとか突き返すような外道な行為はできないし……、とっ、とにかく中を確認したあと考えよう。全ての判断は数秒後の俺に託すっ。箱の中にあったものは──
──様々な形や紋様を浮かべたチョコレートのクッキーだった。
あれ?普通に美味しそうなんだけど、コレ。店に並べられても疑問に思わないレベルで。
これなら……、いやっ!油断するな周藤和樹っ。メシマズには見た目だけは美味しそうなんて特異なものがあることを俺は知っているだろう!やはり食べてみないことには……、南無三っ。
「むぐっ。………………美味、しい?」
「そうでしょ、そうでしょ!今回焼いたのはかなり会心の出来だったのよね~。もっと褒めるといいわっ」
「お前、料理できないんじゃなかったのか?」
「はぁ?何急に失礼なこと言うのよ。まぁ料理はあまりしないけど美味しかったわよ、調理実習の時とか。でも、お菓子作りには自信があるのよねぇ、実家お菓子屋さんだし」
腕を組みながら自慢げにサターニャは自身の身の上を話しだす。
あ~、そんな理由があったのか。そりゃ作れるようになるわ、小さい頃から親の監督のもとやってたのなら。あと思いの外大きな果実が強調されて非常に眼福ですっ。
「まぁ懸念事項も解決したし、ありがたく頂くよ」
「?、よく分からないけど、ちゃんと残さず食べなさいね。私の手作りなんて滅多に食べられないんだからっ」
「おう。ん?その袋は?」
「っ、流石にこっちはあげないわよ!久し振りにあの犬から取られず済んだんだもの!今日こそはメロンパン食べるんだから!」
もう一つ手から下げた袋は何なのか聞いてみると、どうやらここに来る道中に買ったメロンパンらしい。……何かオチが読めたというか何というか。
「それじゃ、用は済んだし犬に見つからない内にアタシ帰るから。またね」
そう言葉を残しアパートの外へと駆けていくサターニャを見送る。残念だー、注意を促す前にサターニャが行ってしまったー。これはしょうがないな、しょうがない。俺は悪くないだろう。
…………、ホワイトデーはメロンパンでいいかな。
「はっ、はっ。ん?、ちょっアンタっいつの間にっ。く、来るなぁぁああ!今日こそはっ、今日こそはメロンパン食べるんだからぁぁぁぁあああ!!」
ラフィエルの場合
「こんにちは~」
扉を開けると、そこに待っていたのはラフィエルちゃんだった。おおっと、彼女が来るのは少し予想外だ。ガヴリールやヴィネットちゃん、サターニャと違って個人的な付き合いは一番薄い。他の誰かを通しての交流が殆どだった。
「こんにちは、ラフィエルちゃん。それでどんな用件で?一人でここに来るのはかなり珍しいね」
「はい。こちらの
そう恭しくこちらに告げる彼女に驚愕を覚える。まさかこんなにも律儀な子だったとは……。今まで心の中で腹黒ドSだなんて思っていてごめんよ、あんたやっぱり天使だよ!
──どうぞ、受け取ってください。ハッピーバレンタインです
満面の笑みと共に手渡されたのは綺麗にラッピングに包まれたクッキーだった。どうやらホワイトチョコでコーティングしてあるもののようだ。
「ありがとう、ラフィエルちゃん」
「いえいえ、このくらいは。あっそうだ。もう一つ持ってきたのですが……、和樹さんからアクア様にお渡ししてくださいませんか?」
「?、ああ。そのくらい構わないけどっ!?」
アクアに渡してほしいと言われて彼女が取り出したのは、先程の俺にくれたものと違い、毒々しい赤に染まったクッキーだった。
「ナニコレ?」
「へ?ああ、大丈夫ですよ。和樹さんのものと見分けがつきやすいように赤色にしただけです。ちゃんと食べられますよ、サターニャさんからも美味しいと言って頂けましたし」
そりゃ食べられもするだろうし、食べ物なら
それにその爛々と輝かせた何かを期待するような
「……コレをアクアに食わせりゃいいのか?」
「はいっ!流石和樹さん!伊達にサターニャさんやアクア様を泣かせてないですねっ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれっ!いやまぁ、確かに間違いじゃないのかもしれんが」
アイツら態度はデカいくせにメンタル貧弱だからな……。少し頭に来て強い言葉で返せば直ぐにアイツらのメンタルという牙城は崩れて、涙という水で流されていくのだ。砂上の楼閣とはこのことよ。
「是非、食べている時のアクア様の様子も伝えて頂きたいんです!できれば録画していただき……、あっカメラは用意してきてるので」
そういって何処からともなくビデオカメラを取り出す。どこまでも準備がよろしいことで。もう何も言うまい。
「分かったよ、撮影したら送るから。クッキーも貰ったからな、これくらいどうってことないさ」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!ああ、決してこちらが本題じゃありませんからね。たまたま、そう、たまたま和樹さんに宛てたクッキーを焼いてる時に思い付いたものなので」
「分かったから、あまり言い募ると逆にわざとらしく感じるから」
へこへこと頭を下げながらそう言い募るラフィエルちゃん。確かにアクアを嵌めるのが本題かな~なんて思ったりもしてしまっていたが。
「それでは失礼しますね」
「おう、気をつけて帰ってね」
「はい」
ニコニコと笑顔で帰っていくラフィエルちゃんを見送る。前言撤回、腹黒じゃないかもしれんがドSであることは間違いない。
アクアにこれを食わせるのか。この赤さ、どうやったかは分からんが、アホみたいに辛いんだろうなぁ。流石に可哀想か……。
「ただまぁ、クッキー貰っちゃったしなぁ。すまないアクア、意思の弱い家主ですまない……」
後日
『何よカズキ?これは……クッキー?何か凄い赤いんですけど。これ人類が食べて大丈夫なものなの?しかもこれあのドS天使から貰ったやつなんで……、へ?サター……ああ、あのアホ悪魔。アイツが美味いって、ね~。それじゃ大丈夫かしら。いただきま~す。あ~ん………………、ボゥハァア!辛!か~ら~!!ちょっかじゅき!水!水!何暢気にカメラ回してんのよぉお!かじゅきさぁぁぁん!みぃぃぃいずぅぅぅうう!!』
「ぷふぅっ、ふふっふふふふっ。グッジョブですわっ、和樹さんっ」
・
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「おかしい、おかしいぞ。何故俺の手元にはチョコが一つもないんだ……」
昼頃、一度鳴ったインターフォンは結局宅配便のお兄さんだった。以後、既に日が暮れた現在まで我が家のインターフォンは持ち主の期待とは裏腹に一度も鳴ることがなかったのだ。
「収穫ゼロか。ふふっ、なんだいつも通りじゃないか。ただ少なからずいつもより期待があったからかダメージが大きかっただけだ……」
どうやら俺が思ってる以上に彼女達から向けられる感情はドライなものだったようだ。というより、期待した俺がアホだったのだろう、二十三のいい大人が高校生相手に何期待してるんだって話だ。
「アクアのこと、もうアホなんて言えないな」
そんなことを独り空しく呟いていると玄関のドアが開く音が聞こえた。
──カズキ~ただま~、お帰りは~?お帰りを言って欲しいんですけど~
どうやらアクアが帰って来たらしい。どこに行っていたのか知らないが、あのぐ~たらが一日中外に行っているなんて珍しい。
「ねぇ~カズキ~、お帰りを……ちょっ、カズキどうしたのよ?電気も点けないで。お腹痛いの?大丈夫?」
部屋の扉を開け、布団にくるまりミノムシのようになった俺を見られてしまう。正直、煽られるだろうからこの姿は見られたくなかったが、コイツ相手に繕った態度見せるのも癪だし、このままでいいや。
「別に何でもないよ、ちょっとショックなことがあっただけ」
「ショックって一体……、ん?あんた、まさか」
顔を出し、現状をボヤカして伝えるも周囲を見渡したアクアは何かに気付いたように嘲るような表情をこちらに向ける。くっ、気付かれたか?こいつ何でこんな時だけは勘が良いんだっ。
「まさか……、チョコ貰えなかったから落ち込んでるの?」
「……」スー
「ブフっ、プーークスクス!!あんたっ本当に!?あんたが親しい女子って言ったらあの天使とか悪魔よねぇ?高校生相手に良い大人が何期待してんのよっ?アッハハハハハ!!ウケるんですけどっ!カズキ必死すぎてちょーウケるんですけど!!」
「そっ、そんなに笑わなくてもいいだろう!確かに高校生相手に期待してるなんてどうかな~、なんて思ったりもしたが。男ってのはな、チョコ一つで一喜一憂するような馬鹿な生き物なんだよ!」
「それでも限度があるでしょっ。チョコ貰えなかったから布団にくるまってミノムシになってるなんて……、ブフゥっ!プーークスクス!」
図星だったのを悟られんと目を逸らしたのが露骨だったようだ。完全に何が起こったのか悟ったアクアは水を得た魚のようにこちらを嘲笑してくる、水の女神だけに。……もう考えるのも面倒だ(失笑)。
「はぁ、もう充分笑っただろ?いいからそっとしといてくれ。今はお前の相手する余裕もない」
「ちょ、ちょっと。…………はぁ、しょうがないわねぇ」
コイツの相手をする気力もなく、もう一度ミノムシへと転身する。そんな俺に呆れたのか笑うのも辞め、アクアはため息を吐く。
何かごそごそしてる音が聞こえてくる。今の俺はたとえ夜のオカズを暴かれとしても
「ほら、ミノムシ、出て来なさいよ」
「だからほっといてくれよ。明日にはミノを捨てて羽化して羽ばたいていくから……。アクア、それは?」
ミノを引っ剥がされた俺に向かって、アクアは何かを持った手を突きだしてくる。暗くて良くは分からないがチョコのように見える。そこらのコンビニでも売ってる板チョコのようだが。
「チョコよチョコ。本当はもっと高い奴が良いと思ったんだけど、最近高めのお酒買ってバイト代殆ど無かったの忘れててね~」
「お前が?俺に?」
「何不思議そうな顔してんのよ。
──こう見えて、貴方には本当に感謝してるのよ、カズキ
だからほら、受け取りなさい。高貴なアクア様からの慈悲よ」
「……サンキュ」
暗くて良かったかもしれん。今の顔を見られたらまたからかわれただろう。確かにコイツとの距離が一番近かったが最も貰えないだろう、ありえんとも思っていた相手だ。
まさか、本当にまさかだ。コイツから"感謝してる"なんて言葉が聞けるとはな。
「ねぇねぇ、どぉしたのよぉ、カズキぃ。嬉しかった?嬉しかった?」
「だぁ、もう鬱陶しいわ!」
起き上がった俺の脇腹に肘でちょんちょんと小突いてくるアクアを力に任せに押し退ける。ちょっと見直すとすぐこれだもんな。まぁこの残念さがアクアらしいか。
「はぁ、晩飯の用意もしてなかったし、久し振りにどっか食いに行くか?俺の驕りで」
「さんせー!今日はいつにもまして太っ腹じゃない?カズキさん!私飲み放題の店がいいんだけど」
「少しは遠慮をだな……。まぁ構わんが、お前いつも吐くだろ」
「ちょっ、女神に向かって何言ってんの!?そんなことは……あるかもだけど」
「少しはセーブしてくれよ、介抱するの俺なんだから」
布団から抜け出し、そんなことを話しながら家を出る。ムカつくことも多々あれどコイツと居ると退屈しないし、前向きになる、そんな気もする。心休まる暇がないとも言うかもしれんが。
「そう言えば、アクア。今日一日何してたんだよ?流石に板チョコ買うだけで丸一日は使わないと思うんだが」
「…………、まぁ何でもいいじゃない。ほらほらっ、そんなことよりお酒が私を待ってるのよ、行きましょっ!」
「分かった、聞かないから押すなっ!」
俺の言葉を聞いたアクアは何かを考えるように視線をさ迷わせるも、それを誤魔化すように話を遮る。まぁ気にはなるが無理矢理聞き出すのも良くないか。
そんなことを思いながら夜の道を歩いて行くのだった。
この時、後ろに回されたアクアの手に朝には無かった筈の絆創膏が何枚も張られているのには暗くて気付かなかった。
次の日
「っつ~、頭痛い。おはよーカズキ。水を……、どうしたの?機嫌良さげだけど」
「もう昼だぞ、アクア。何でも昨日登校日だったらしくてな、高校生組からさっきチョコ貰ったんだよ。いやぁ~、良かった。もしかして嫌われてんのかとも思ってたからなぁ~」
「……ふ~ん、そう」
「ん、どうしたんだよ。え?何を……は?」
「あむ、むぐむぐむぐ」
「おまっ、何勝手に食ってんだ!それ俺が貰った奴だぞっ。ちゃんとお前の分も貰ってるから食うの止めろっ!」
「むぐむぐ、ふんっ」
最初はガヴドロ勢からチョコ貰ってアクアが嫉妬するっていうラストの小話を膨らませた感じにしようと思ってたんですが、どうせならそれぞれ確り書こうと決めたらこんな文量に。最初はそれぞれ千前後くらいかなぁ、なんて考えてたんですけど。全体的に倍の文量になり本編よりも長いという結果に…。
アクアメインとか言っておきながらこんな形になってしまったのは申し訳ないです。また、ガヴドロのラフィファンの方。どうしても彼女がデレてる姿が思い浮かばずあんな形に、申し訳ない。あとガヴの好みやサターニャのお菓子作りは得意っていう描写は今作オリジナルです。
二話投稿後からの突貫工事でこんだけ書けたことに驚きつつも色々と表現が甘いところもあったかと思われます。自分なりにはそれぞれのキャラの魅力を表現できたつもりですが、誤字やここ分かりにくいなんて意見があれば感想でお願いします。
一応、タプリス編も構想はあるんで読みたいって方が多ければ後々追加しようと思います。アンケートは活動報告にて。
さて、俺チョコってのが人気らしいしケーキでも焼くか。
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