この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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不屈の闘志に驚愕を

 

 

 

 

37層までのちょっとした冒険を済ました俺は、魔石の換金と情報を収集するためにギルドへと向かう。

ギルド内は屈強な冒険者が闊歩する一方でカウンター内でギルド職員の受付嬢は笑顔を振りまき仕事を回していた。

 

「おーい。エイナー」

 

「む?カズマくん…」

 

そこで声を掛けたのは、ハーフエルフならではの端整な顔立ちとトンがった耳、そして、俺を見るや膨れる頬。

 

「ちょっと!また苦情が来てるんですけど!!」

 

「ほう?それはアレか?飛躍的にレベルを上げる天才冒険者へのやっかみって奴か?」

 

「違うわよ!カズマくん、あのヘンテコな爆裂魔法を使ったでしょう!?」

 

「使ったよ?」

 

「浅いところで使わないで!バベルの塔が揺れて大変なんだから!」

 

あれしきの爆裂で揺れるなんて、それはバベルの塔自体の耐震性を疑えよ。

そもそも、ダンジョンに蓋をするってのは分かるが、その蓋に塔を建造する意味が分からん。

 

「浅い所で使ってないよ。37層だよ」

 

「ぅえ!?37層!?か、カズマくん!あなたはどれだけ命知らずなの!?」

 

「深い所だから強めの爆裂を使ったよ」

 

「バカの猿知恵かよっ!…もう、バベルの中には冒険者の人達だけじゃなく、ヘファイストス様やフレイヤ様も居るんだから…」

 

「なんでそんな所に住んでるんだよ!むしろそいつらの神経を疑うわ!」

 

もうバベルの塔に住むの禁止だよ!

 

俺はバンバンとカウンターを叩きながらも、呆れかえるエイナの頬に、今回の探検で得た魔石をぐいぐいと押し付ける。

 

「むにゅ、にゅ…」

 

「どうせ今日も苦情の手紙にお詫びの返事を書けってんだろ!?」

 

「にゅにゃ、ふん、そ、そうよ!」

 

そう言うと、エイナは頬に当てられていた魔石を奪い取り、それの代わりとばかりに苦情が羅列された羊皮紙を俺に押し付けてきた。

 

「こんなもん!こうだ!」

 

それは無残にも、びりびり!っと真っ二つ。

 

「ああ!?神の直筆を!!」

 

「行ってやらぁ!直接乗り込んでやらぁ!!エクスプロージョンを使う度に苦情に来られちゃ堪らねえよ!!」

 

「ちょ、か、カズマくん!どこへ行く気よ!!」

 

「バベルに決まってんだろ!その魔石は換金しといてください!!」

 

「ちょっと!ダメよ!だめ!だめだからね!お、おい待てって言ってんだろカスマぁぁあーーー!!」

 

 

……

.

 

 

で、バベルの塔に来たわけだが。

先ほどダンジョンから地上に戻って来た時と同様に、その塔は空を突き抜ける程の高さから俺たちのような小っぽけな存在を見下ろしている。

 

3階までが冒険者の公共施設で、4階から8階がヘファイストス・ファミリアの商業施設、そして最上階の50階がフレイヤ様のプライベートルームらしい。

 

なんだよ!プライベートルームって!そんなもんをダンジョンの真上に建てるんじゃねえよ!

 

「まずはフレイヤ様の所に乗り込むか」

 

そう決めると、俺は魔石の魔力で動くエレベーターに乗り、50階のボタンをポチ。

 

うーーーー。チンっ!

 

「お邪魔しまーす」

 

エレベーターが開くや、間の広い空間に椅子が1つ。

部屋を囲うのは全てが窓ガラスとなっており、なんともバブリーなレイアウトだ。

 

そして、俺の訪れを予期してなかったのか、美貌麗しい美の神は、床にヨガマットを敷き、その上で硬い身体を必死に使ってヨガ体操をしていた。

 

「…な、何よ…」

 

「…硬いんすね。身体…」

 

「そう思うなら背中を押してちょうだい」

 

「え、あ、はい…」

 

俺は言われるがままに、フレイヤ様の背後に回って背中を押す。

 

「いたたたたぁー!痛いっ!も、もう押さなくていいわ!」

 

「…少ししか押してないですけど」

 

「ふぅ…。良い汗をかいたわ」

 

「…それは、ヨガったですね」

 

なんだろう。

この神にはアクアと同じ匂いがする。

 

と、俺が半目で睨んでいると、それをどこ吹く風に、フレイヤ様は汗をふきつつ椅子に腰掛け長い脚を組んだ。

 

「それで。ロキ・ファミリアの貴方が私に何の用かしら?」

 

…いやいや、今更に神感を出されても反応に困るんだけど…。

 

「あ、いやね、最近バベルが揺れますでしょ?」

 

「ええ。今日も揺れたわ。…何か、酷く大きな災いの前兆かもしれないわね…。安心なさい、ギルドには報告してあるから…」

 

「……」

 

「私の勘は外れない。あと見る目もね。…冒険者になって1カ月という期間でレベル3になった貴方にも、大成する器の片鱗が見えているわ」

 

「……」

 

「どう?ロキの所から私のファミリアにコンバートしない?」

 

「……」

 

「え、あ、あの、何で、黙っているのかしら?」

 

「あの揺れは災いの前触れじゃない。俺の魔法です」

 

「!?」

 

「あと、俺は絶対に大成しません。これは絶対です」

 

「!!?」

 

全部外れてるじゃねえか!

大した神の勘だなおい!

 

俺は椅子から転げ落ちそうなほどに驚くフレイヤ様は、ま、まさか、そんなバカな…と、小さく呟いていた。

 

フレイヤ・ファミリアはロキ・ファミリアに並ぶ最大派閥だと聞く。

確かオラリオ唯一レベル7が居るんだったか…。

今は居ないみたいだが、もしもそのレベル7とやらに出くわしても面倒だ。

 

「じゃあ、そういう事なんで。これからはあんまりギルドに変な手紙を送らないで下さいね」

 

「…っ!ちょっと待ちなさい!!」

 

エレベーターへ向かおうとした俺の肩を、フレイヤ様はガシっと掴む。

 

「わ、私に恥をかかせて、無事に帰れると思って?」

 

「……」

 

「…ロキには悪いけど、貴方も私のモノになりなさい」

 

「……」

 

「むぅ…」

 

「……」

 

「あ、あれ?魅了が効かない…」

 

「ドレインターーーーッチ!!」

 

「!?…ぬぅ、ぅわぁん….、な、何よ、コレ…、力が…」

 

「恥晒しの神が!2度と俺に迷惑をかけんなよ!!」

 

「ぁぅ…」

 

ガクっと気を失ったフレイヤ様を放っておき、俺はエレベーターに乗り込んだ。

 

 

……

.

.

 

 

 

「ただいまー」

 

魔石の換金分の50000ヴァリスを持ち、俺は黄昏の館に戻った。

ダンジョンからの帰り道にアイズ達と別れ、ギルドを経由しバベルの塔へ戻りフレイヤ様と会合。

気付けば日も落ち、夕飯の時間すらも過ぎている。

 

またキッチンに忍び込んで食べ物を漁るか、と思っていると

 

「…遅かったね」

 

アイズが廊下の奥から現れた。

まるで俺の帰りを予測していたように。

彼女は部屋着の白いワンピースで、小さな声を廊下に響かせる。

 

「おう、アイズ。チンチロリンは楽しかったか?」

 

「うん。チンチロリンは、奥深い…」

 

「そっか。それならまた行こうな」

 

「…。ねぇ、カズマ」

 

そっと、アイズが俺の手を握ると、不思議そうな瞳で俺を見つめた。

 

なんだ?

 

ちょっと照れるんだけど…。

 

「カズマは、おかしい人…」

 

「…おまえはコミュ障だろうが」

 

「…弱いのに、強くて、不思議な魔法も使えて、頼りないのに、暖かい…」

 

それはdisってんの?

喧嘩なら買うぞ?

 

暗くて隙間風が吹く廊下で、金糸の彼女はやけに目立つ。

 

「また、私と戦って…」

 

「あ?」

 

「私が勝ったら、カズマの事を教えて」

 

「…なんだそれ」

 

俺の事をそんなに聞きたいのか?

別に教えられる範囲ならいくらでも教えてやる。

 

と、アイズに言おうとした。

 

だが、それをアイズの澄んだ瞳が許さない。

 

多分、こいつが聞きたいのは俺の()()()()()()範囲の事なんだろう。

 

「…教えて…」

 

「はぁ…、俺に勝てたらいくらでも教えてやるよ。ただ、俺が勝ったらおまえの事も教えてくれ」

 

「…っ」

 

ほら。

こいつも隠し事を持ってるんだ。

だから他人の隠し事を察してしまう。

 

フレイヤ様に見習わせたいよ、こいつの勘の良さを。

 

「そうだ、アイズ。コレやるよ」

 

俺はポケットからとある物を取り出す。

 

それは黒曜石を削って作ったアクセサリー。

ガラスのように黒い半透明の黒曜石は、削って形を整えると艶が出るのだ。

 

ただそのアクセサリーには何の効力も無い。

 

装備とか魔除けとか、そんなのばかりが流通する世界では完全に無駄な品物だろう。

 

 

「…うん。似合ってるな」

 

「…ぁ、ありがと…」

 

 

首から掛けられたそのアクセサリー。

 

ダンジョンでは役に立たないそのアクセサリー。

 

 

 

でもーーーー

 

 

「…へへ、似合ってる?」

 

「おう。それじゃあ、俺はもう寝るから。また明日な」

 

「…おやすみ」

 

 

 

ーーーー金になる。

 

 

アイズと言う広告塔に着けさせれば、あの黒曜石を削っただけのアクセサリーは絶対に流行るはずだ!!

 

俺のユーザビリティを使えばほとんど作成費用のかからない品物を高値で売り付ける。

オラリオでトップレベルに有名なアイズが身に付けていれば流行りだす!

これぞまさしに流行建築士!!

 

くっ、くっはっはっはー!!

 

これを1つ1万ヴァリスで売れば……。

 

キタコレ!夢の堕落生活も近い!!

 

 

「ふへへ。明日は歓楽街で宴だな…ふひひ」

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

「…っ!ふ、フレイヤ様!どうされました!?」

 

オッタルの声が、幾分か夢の中に居た私を現実に引き戻す。

身体がすごく重い…。

 

「ぅ、お、オッタル…」

 

「フレイヤ様!」

 

「…っ、心配しないでちょうだい。少し、目眩がしただけよ」

 

「しかし…っ」

 

まさか、神である私が下界の子供に気絶させられましたとは言えない。

 

「…佐藤カズマを知っているわね?」

 

「はっ!…たしか、特例で飛び級したと言う…。巷では人でなしのカスマさん、金魚の糞のグズマさん、孕ませカズマさんと呼ばれていたと記憶しています」

 

さ、散々な言われようね。

少しだけ可哀想…。

 

でも、神を愚弄した罰は受けるべきなのよ。

 

それに、私の力をも吸いとる彼の力。

 

バベルを揺らす程の魔法。

 

そんな子を放っておけるわけがない。

 

「オッタル。佐藤カズマと戦ってきなさい」

 

「御意!」

 

「…こ、殺さない程度でいいからね?」

 

 

 


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