この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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エクスプローーーージョン!!


不思議な力に慄きを

 

 

 

薄暗く続く迷宮を歩き、時折遭遇するモンスターはティオネが退治する。

そして魔石は俺がこっそり回収…。

この黄金タッグこそロキ・ファミリアの強みだな。

 

「せいっ!」

 

「おー。さっすがティオネさん。魔石の回収は任せてください!」

 

「…あんたも戦いなさいよ」

 

「俺のステータス知らないの?ギルドのハーフエルフ嬢にすら力で負けてるんだぞ?」

 

「よくも恥ずかし気もなく言えるわね」

 

これは仕方がない事なの。

いくらモンスターと戦っても、器用だけしか上がらないんだもん。

あと、耐久も雀の涙程度には上がってるけど…。

 

そうこう言い合いながらも、俺とティオネは中層特有の大樹の迷宮を歩き続ける。

 

「ティオネ、そこは左な」

 

「…あのさ」

 

「ん?」

 

「なんであんたは迷宮内の道が分かるの?」

 

「は?ダンジョンのマッピングとルート確認は基本中の基本だろ」

 

「そ、そうだけど…。普通はあんまり細かく覚えてないし…、そういうのは団長とか、リヴェリアみたいに長く冒険者稼業を続けてないと分からないはずなんだけど…」

 

はぁ、と。俺はため息をわざと大きく吐いた。

これはアイズ達にも言えたことだが、こいつらはダンジョン内のマップを大まかにしか把握していない。

特に中層のように大きなエリアだと、普段から使っている道だから、と、アホ理論で先を行こうとするのだ。

 

「…な、なによ!」

 

じーっと見つめていると、ティオネは耐え切れずに声を上げた。

 

「おまえら冒険者のおつむが弱いのは知ってる」

 

「なんですって!?」

 

「だが、それが安全の確保を怠って良い理由にはならないだろ?」

 

「ぐぬぬぬ」

 

「はぁ、これだから脳筋は…」

 

「い、言わせておけば…」

 

歯を食いしばり、怒りを堪えるティオネ。

無駄な体力ばかりを使う娘だこと。

 

「やめとけやめとけ。ほら、そろそろ魔力が切れてきたんじゃないのか?」

 

「ぐぬ。…ちっ、とっとと済ませなさいよね」

 

ちなみに、ここまで来るのに何度かドレインタッチによる魔力と体力の供給を行なっているのだが、どうやらティオネは燃費が悪いらしく、その回数はアイズに比べて倍近く多い。

 

「それじゃ、ほれ。頭だせ」

 

「くっ…、な、何なのこの屈辱は」

 

ガシっと、ティオネの頭を掴み

 

「ドレインターーッチ!!…って、いちいち言わなくても良いんだけどな」

 

俺の魔力をティオネに移動させる。

 

「ねぇ、魔力をくれるのはありがたいんだけどさ、あんたの魔力は無くならないの?」

 

「あぁ、俺は魔石から魔力を貰ってるから」

 

最近気づいたのだが、人やモンスターのみならず、俺のドレインタッチは魔石からでも魔力を吸い取れるのだ。

 

「触るだけで魔力が移動できるなんて便利な魔法ね。…もう1つ聞いていい?」

 

「ん?」

 

「…本当に頭じゃなきゃだめなの?」

 

「おまえが手を触られたくないって言ったんだろ。言っておくがな、その言葉には少なからず傷ついたんだからな!」

 

「頭の方が触られたくないんだけど…」

 

「我儘すぎるぞ!だったら胸が良いのか!?それとも尻か!?」

 

「手よ!謝るから!手から魔力を移動してちょうだい!!」

 

魔力を分け与えてもらっている分際で我儘な女だ。

そう思いながら、俺は頭を握る手に少しだけ力を込めて魔力を注ぐ。

 

「あっ!な、なんか急に…っ、ちょ、熱い!なんか凄く熱い!これ過供給なんじゃないの!?ご、ごめんなさい!謝るから!謝るから離して!!」

 

 

……

.

 

 

とてとてと、俺はぼーっと歩きながらティオネの戦闘を眺める。

汗が滴り落ちる身体は妙にエロい。

そして、剣を振る度に見え隠れする太もももエロい。

おへそもエロい…。

 

「…おまえ、もう少し恥じらいを持った方が良いぞ?」

 

「あんたにだけは言われたくないわよ!」

 

「それよか、そこの穴から落ちれば37層までショートカットできるぞ」

 

「む。…一応言っておくけど、深層では何が起きるか分からないからね。あんたも覚悟は……って、聞いてるの?」

 

聞いてるさ。

その言葉はリヴェリアにもしつこく言われたくからな。

 

「とりあえず欲しいのは上質なアダマンタイトとオブシディアン・ソルジャーの皮膚から取れる黒曜石だ」

 

「アダマンタイトは分かるけど、黒曜石なんて何に使うのよ?」

 

黒曜石はその名の通り黒いガラスのようや火山岩だ。

鋭い破断面を利用すれば武器になる。

 

ただ、俺が黒曜石で作りたいのは武器なんかではないのだが…。

 

「出来たら見せてやるよ。…それじゃあティオネ、頼む」

 

俺はそう言い、ティオネの背中に乗っかる。

 

「……あんた、何やってんの?」

 

「考えてもみろよ。俺みたいな耐久8の男がこの高さから飛び降りたら足をグネるだろ」

 

「いやいや、そんな当たり前な事を言わせんな、みたいな顔されても…」

 

「早よ。とっとこ行こうぜ」

 

「私はハム太郎じゃないのよ!…ちっ、しっかり掴まってなさいよ…」

 

 

ぴょーーーーん。

 

すたっ!

 

おぉ、さすが第一級冒険者。

衝撃を殺して、なおかつ乗り心地の良さまで安定しているとは。

いつもみたいにロープでトロトロ降りる必要が無くて助かったぜ。

 

「…ちょっと怖かった。ちびりかけた」

 

「あんた、私の背中でちびったら末代まで尿道をぶった切ってやるからね」

 

こ、怖い事を言うなよ…。と肩を震わせつつ、俺はティオネの背中から降りて周りを見渡す。

 

アダマンタイトの入手は片っ端から迷宮の壁面を破壊(ティオネが)すれば良いとして、黒曜石の入手は骨が折れそうだな。

 

「ってなわけで、じゃーん」

 

「?」

 

「堅琴!…こいつでオブシディアン・ソルジャーを大量に誘き寄せて一網打尽にしてやるぜ」

 

堅琴とは、奏でる音によって特定のモンスターを集めるアイテムらしい。

 

「あんたバカなの?そんなの使って20や30のオブシディアン・ソルジャーに囲まれたら…」

 

と、ティオネが言い終える前に。

 

「♪〜」

 

「え!?」

 

俺は音を奏でた。

 

「ほれ、ティオネ、ぼーっとしてないで行くぞ」

 

「え?え?」

 

狼狽えるティオネの手を引き、岩の陰に身を隠す。

次第に、奏でられたその音によってオブシディアン・ソルジャーが集まってきた。

 

その数は予想よりも多い50。

 

「あ、あんた正気?」

 

青ざめるティオネを他所に、俺はダイナマイトの動線に火を付け、それをオブシディアン・ソルジャーの群れの中心に投げる。

 

ぽいっと……。

 

 

「エクスプローーージョン!!」

 

「!?」

 

 

どがぁぁぁぁーーーん!!!!

 

 

「「「「ウガァぁぁぁっ…」」」」

 

 

「ふむ。壮観な眺めだな。見ろよティオネ、モンスターが蟻のように燃えてるぞ」

 

「な、何よ…、今の…」

 

50匹のオブシディアン・ソルジャーを一掃し、その場には大量の黒曜石がドロップしていた。

当初の予定数量は大幅に超えている。

これだけあれば問題無いだろう。

 

「さて、あとはアダマンタイトだな。ティオネ、そこら辺の壁から掘り起こしてくれよ」

 

「……せ、説明…。まずは説明をしなさい…」

 

「あ?説明はしたろ?アダマンタイトが欲しいんだっての」

 

「違うわよ!あれだけの火力を持った魔法の説明!!あれは何!?リヴェリアの魔法くらい凄かったじゃない!!」

 

「あはは。レフィーヤと同じ反応だな」

 

「呑気かよっ!」

 

「まぁまぁ。説明は後にするよ。取り敢えずアダマンタイトと黒曜石を回収して18層へ戻ろうぜ」

 

「ぐぬぬぬぬ…」

 

ティオネはまったく納得した様子を見せないものの、先ほどのダイナマイト…、ご、ごほん、エクスプロージョンにビビったのか、いそいそと俺の手伝いを始めた。

 

「…エクスプロージョン」

 

「ひっ!」

 

「ぷーくすくす」

 

「ぅぅーーー、バカっ!」

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

「むぅ…。まだか?あの2人はまだ帰ってこないのか?」

 

「り、リヴェリア様、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 

黄昏の館の中広場にて、リヴェリア様が落ち着きなく辺りをうろちょろと歩き回る。

お2人がダンジョンへ行ってからと言うものの、リヴェリア様は不安気な顔で帰りを待ち続けていた。

 

「むむむ」

 

「アイズさんも居ますし、カズマさんも…、その、結構しっかりとしていますので」

 

「そ、そうは言うがな。2人はまだ子供だし…」

 

そんな事を言い出したら私だって、ティオネさんやティオナさんも子供だけど…。

え、もしかして、リヴェリア様って私達がダンジョンに行ってる間はいつもこうなの…?

 

「遅い!遅い!…もうダンジョンに行って1週間くらい経っていないか?」

 

「…まだ3日ですよ」

 

あぁ遅い。もしかして風邪でも引いたのか!?と、呟きつつ、その高貴な姿を忙しなく揺らし続けた。

 

「〜〜。レフィーヤ!バベルへ行くぞ!」

 

「え!?ちょ、だ、ダメですよ!今日はフィンさんもガレスさんも館に居ないんですから!」

 

「ちょっとだけだ!ちょっとだけだから!」

 

「だ、だめですぅ〜」

 

どうしてもバベルへ行こうとするリヴェリア様を阻止するべく、私はリヴェリア様の腰に必死に捕まる。

 

それでもズルズルと…、あぁ、これが、レベルの差なんですね…。と諦めかけた時に、玄関口の方から小さな喧騒が聞こえてきた。

 

「む!帰ってきたか!?レフィーヤ行くぞ!」

 

「ちょ、ホントになんなんですかこの人…」

 

どてどてと玄関へ急ぐリヴェリア様の後を追う。

 

「ご、ごほん…。か、帰ってきたのか?」

 

「うん、ただいま。リヴェリア、レフィーヤ」

 

「アイズさん、おかえりなさい。…あれ?ティオネさんも一緒だったんですか?」

 

そこに居たのは、なぜだか肌をツヤツヤにしたアイズさんと、対照的に疲れ果てて半目になっているティオネさんだった。

 

「あれ?カズマさんはどこです?」

 

「む!カズマはどこだ!?」

 

「…り、リヴェリア、近いよ。カズマは、ギルドに行ったよ。換金してくるって…」

 

あぁ、またせこせこと魔石を拾ってたんですね。

もうサポーター顔負けですよ。

 

その後、2人を応接間のアームチェアに座ってもらい、私はお茶を用意した。

そこで、リヴェリア様が食い気味にダンジョンでの出来事を問いただす。

 

曰く、チンチロリンにハマっただとか、エクスプロージョンが火の海だったとか…、要約すれば、上質なアダマンタイトを採集するという目的は達成出来たらしい。

 

「…あいつ、本当にレベル3なの?」

 

「はい?」

 

「深層を迷わず進むわ、オブシディアン・ソルジャーの軍団を一掃するわ…、正直、私達同等、いやそれ以上に感じるんだけど…」

 

と、ティオネさんは自信を砕かれたと言わんばかりに顔を下げた。

きっと、ティオネさんもあの魔法を目の当たりにしたのだろう。

 

すると、ティーカップを静かに傾けていたアイズさんが

 

「…私、カズマと戦って負けたよ」

 

「えぇぇ!?あ、アイズさんがですか!?」

 

思わず、私は立ち上がってアイズさんに詰め寄っていた。

ただ、その言葉に驚いているのは私だけではない。

ティオネさんも口を開けているし、リヴェリア様もお茶を吹き出している。

 

「…うん。手を掴まれて、脛を蹴られて、気絶させられた」

 

……!!

と、とんでもない鬼畜男です…。

女性に対してそこまでの暴力を振るうなんて!!

 

「ちょ、ちょっと待て。カズマとアイズじゃレベル差もある。手を掴まれたところで振り払えるだろう?」

 

「…力が入らなかった。どんどん魔力を吸われてるような…」

 

ま、魔力を吸われる!?

…そんな魔法、聞いたことないです…。

そう、私が思う一方で、ティオネはどこか納得したかのような顔を浮かべた。

 

「…ティオネさん、何か知ってるんですか?」

 

「あ、うん。多分だけど、それドレインタッチだよ。私の場合は魔力を分けてもらったんだけどね」

 

「ほう、魔力の受け渡しが出来る魔法か…、興味深いな」

 

リヴェリア様も知らない魔法。

それってとんでもないことじゃ…。

 

初心者のように慌てていたと思うと、咄嗟の判断で窮地を脱出したり。

ステータスの数値は低いくせに、とんでもない火力の魔法を使ったり。

挙句、深層に出掛けて平気な顔で戻ってくる冒険者。

 

本当に…、あの人は一体…。

 

 

「…ふふ。チンチロリンも興味深かった」

 

 


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