この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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荒くれる美女にプラズマを

 

 

 

 

 

私は泣き虫エルフのリュー・リオンです。

 

カズマさんはいつも私の事をイジメるのです。

 

私が嫌がることばかりして…。

 

彼は本当に酷い冒険者なのです。

 

でも、ふとしたときに見せる優しい笑みや、頭を撫でてくれる丁寧な手つきは柔らかくて暖かい。

 

不思議な人…。

 

そういえば、私がまだ子供だった頃に通っていたエルフ私立エルフ学園小等部にも、私の事をイジメる男の子がいました。

 

あの頃は、なんでこの男の子は私の事をイジメるのでしょう…、と、帝王学を教えに来ていた非常勤講師のリヴェリア先生に良く相談したものです。

 

先生は決まって『それはな、リューの事が好きだからイジメたくなっちゃうんだ。私も子供の頃は良くイジメられて悩んだものだよ』と言った。

 

リヴェリア先生はそう言いながら、いつも私の頭を撫でてくれた。

 

ただ、子供心にそんな男の子の心情を察せられるはずもなく、尚も続く彼のイジメに、私はとうとう泣いてしまったのだ。

 

学級委員のエイナちゃんは私を泣かした男の子を咎めてくれました。

 

しかし、男の子は困ったような、慌てたような表情を浮かべつつも、エイナちゃんの叱咤を聞くこともせず、私に向かって強い口調でこう言ったのです。

 

 

『泣き虫エルフ!そんなんじゃ強い冒険者になれないぞ!!』

 

 

その言葉は鋭利な刃物のごとく、柔らかい私の心に突き刺さる。

 

絶対に嫌だ…。

 

私は弱い冒険者になんかなりたくない。

 

……。

 

だから私は決めたんだ。

 

誰にも負けない冒険者になる。

 

誰よりも強い冒険者になって、絶対にもう涙を見せないって。

 

 

 

………………

………

……

.

.

.

.

 

 

 

 

「うわぁぁぁん!脚が痛いですぅ!血が出てるから大怪我ですーーっ!!」

 

「転んだだけだろ。ただの擦り傷だから泣くなって」

 

「か、カズマさんが歩くの早いから…、ぅ、うぅ…」

 

「あーあーもー。ほら、膝小僧だせって。痛いの痛いの飛んでけーー!」

 

「っ!……な、治りました。今のは回復魔法の詠唱ですか!?」

 

「……うん。俺の生まれ故郷に伝わる伝統の詠唱」

 

 

灰色に染まる樹々の群れが周囲を覆い尽くす50層で、私は木の根に気付かず脚を引っ掛けてしまった。

 

そんな私を呆れたように見るカズマさんは、私の前にしゃがんで擦りむいた傷口に魔法をかける。

 

初めて聞く詠唱…。

 

ただ、その詠唱は私の膝小僧から痛みを和らげた。

 

 

「おお!血は出てるし傷口は開いたままですが、なんか痛みが治りましたよ!すごい魔法ですね!」

 

「おまえが単純なバカで良かったわ」

 

 

単純なバカとは心外な。

私は神経質で有名なエルフの一族です。

 

と、言おうにも、傷を癒してもらった恩人に喧嘩を売るわけにもいかず。

 

 

「安全圏内とはいえ油断しすぎ。木の根でコケる冒険者なんて聞いた事ないぞ?」

 

「私が最初で最後の冒険者です」

 

「なんで格好つけてるの?」

 

 

そんなゆるりとしたカズマさんとのやり取り。

 

ふわりと、懐かしい思い出は深くて青い底からゆっくりと顔を出す。

弱い冒険者はモンスターを狩るどころか、街で暮らす皆んなを守ることさえも出来ない。

 

しかしながら、英雄さながらに強敵を討ち取り、深層を攻め立てる程の才が無いことは直ぐに気付いた。

 

それでも力の限りに戦うと誓い、アストレア様の元で鍛錬を重ねるも、自身の不甲斐なさと理想の間に生まれたギャップが次第に私を大きく支配する。

 

 

今はしがないウェイトレス。

 

 

だけど私は。

どこか意固地に、元冒険者である事を未だ胸に置いていた。

 

強くあろうと、誰にも頼らず。

 

人を寄せ付けない殺気を纏い。

 

私は誰も信用せずにずっと1人で。

 

 

 

ーーーずっと、ひとりぼっちで。

 

 

 

「見つけた。おまえと同じ名前の花だ」

 

 

「…っ。私と、同じ名前の…」

 

 

 

ーーひとりぼっちだったのに。

 

彼は意地悪な笑みで私に近づき、イタズラに優しい物腰でそっと手を差し伸べてくれるから。

 

 

 

「リューココリーネ。なんだってこんな深層に咲いてるんだか」

 

「ふふ。それは、きっと見つけてくれる誰かさんを待つためですよ」

 

「は?」

 

 

私はそのお花の前にしゃがみ、そっと花弁を突く。

 

ゆらゆらと揺れるお花は、紫の五枚花弁がまるで私に笑いかけているようにコロコロと。

 

このお花の刺繍をあしらったお洋服。

 

それはきっと素敵な物になるでしょう。

 

ただそれ以上に、彼が私のために作ってくれる。

その事実こそが、胸の鼓動を高鳴らせる大きな原因だ。

 

 

 

「よし。それじゃあ可哀想だが一本だけ貰って帰るか」

 

 

「ええ、持ち帰ったら私が大切に育てます」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

で。

 

 

リューココリーネを50層から持ち帰って直ぐに、カズマさんは裁縫道具と材料を持って豊穣の女主人を訪れた。

 

 

「まだ開店前だろ?ちょっと場所借りるぞ」

 

 

と、彼は亭の女将であるミアへ伝える。

ミアは苦々しくも頷くと、そっぽを向いて店の奥へと姿を消した。

 

それと入れ替わるように、私は植木鉢に植えたリューココリーネを抱えてカズマさんの元へてってってと走り寄る。

 

 

「カズマさん!」

 

「おう。って走るな走るな。おまえ直ぐに転ぶんだから」

 

 

そんな忠告を私に促しながら、カズマさんはテーブルの上に薄い緑色の生地と、紫色の生地を広げた。

 

器用にそれを切り分けていくと、彼は私をゆるりと見つめながら

 

 

「上から74、51、72……」

 

「おい待て。なんで見ただけでズバピタにスリーサイズを当てられるんですか?」

 

 

だれがギリギリBカップのリューちゃんだ。

私にはまだ伸び代がある。

直ぐに88、51、76の超豊満ボディーになってやるんですから。

 

と、私がカズマさんを睨みつけていると、彼は私が持っていたリューココリーネに視線を移した。

 

 

「それ、おまえにちゃんと育てられるのか?」

 

「ふん。当たり前です。この子は私の分身だと言っても過言ではありませんから」

 

「お花はな、話しかけると良く育つらしい」

 

「え!?本当ですか!?」

 

 

は、初耳です…。

てっきり日光と水と適度な鍛錬だけで立派に育つものかと思ってました。

 

やはりカズマさんは物知りです。

小さな世界に引きこもる私に、彼はいつもいろいろな事を教えてくれる。

 

 

「えぇ〜、ごほん。私はリューです」

 

 

……。

リューココリーネからの返答はない。

まだ心を閉ざしているようだ。

 

 

「美味しいご飯が大好きです。ココちゃんは何が好きですか?」

 

「ココちゃん?」

 

「この子の名前です」

 

 

リューココリーネ、だからココちゃん。

返答をくれないココちゃんに、私は話しかけ続けるも、やはり返事は無い。

おかしい…。

まさかもう反抗期…?

 

 

「ココちゃん……」

 

「……。こ、ココはお水が大好きだよ〜」

 

「………何を言ってるのですか?カズマさん」

 

「ココちゃんの声を代弁してやったんだろうが。恥ずかしい真似させんな」

 

 

そう言いながら、ほんのりと頬を染めるカズマさん。

彼は私からプイッと顔を逸らすと、切り分けた布地を縫い合わせ、綺麗な紫色の花弁を刺繍していく。

 

その手付きは慣れているというよりも機械的な動きで、どうやらカズマさんのスキルが手を動かしているようだった。

 

ただ、リューココリーネの刺繍を入れる際に見せた繊細な指の動きと、時折見せる優しい視線が程よく空気を擽るように。

私はそんな彼が醸し出す雰囲気に、おっとりと身を委ねていたくなっていた。

 

 

優しい色の強い冒険者。

 

 

彼はきっと、悪質な評判を振りまきながらも、その内心には誰よりも綺麗で暖かいナニカを持っている。

 

それに気づいているのは、ほんの数人の人たちだけ。

 

 

「…よし、これでこうして、あとはこう…、そいっ!…、よーし完成だ」

 

「おお!なんだかよくわかりませんが、あっという間に出来上がりました!」

 

「案外簡単に出来るもんだな」

 

「これが着物…。ひ、ひらひらな上に大胆な胸元…、なおかつ薄い布地はボディーラインを強調させるような…」

 

 

完成!とばかりに、彼は薄緑を基調とした着物をみせびらかすように両手で広げた。

 

膝元にかけてあしらわれた紫色の刺繍、リューココリーネは、小さくも必死に主張している。

 

 

「可愛いです。ですが、私のような荒くれ者に似合うか…」

 

「バカ。着物ってのは女の子なら誰でも似合う。特におまえみたいな無い乳には特にだ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「おう。俺を信じろ!」

 

 

へへと笑いながら、カズマさんは私の頭にそっと手を置く。

 

…あぁ、これだ。

 

この、触れていて欲しくなる彼の暖かさ。

 

これが私のひとりぼっちだった冷たい心を何度溶かしてくれたものか…。

 

ふと、私は彼を見上げながら、その着物を指でなぞりながら

 

 

 

「着てみたいです…。この着物を…、カズマさんが作ってくれた着物を」

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

「っ…、あ、あの、どうでしょう…。にあっていますか?」

 

 

で、試着してみた結果。

 

 

「……っ!に、似合う…。さすがだリュー!!」

 

「あぅ…、あ、へへ、ありがとうございます」

 

 

ふわりと漂う布の香りは新品だからこそ。

 

着物を着付けた私を見て、カズマさんは大きな声で絶賛してくれた。

 

こ、このような女性らしい服を、ウェイトレスの制服以外で着たのは初めてです。

 

 

7分ほどで広がるヒラヒラな袖からは、油断すると腋が見えてしまいそうで恥ずかしい。

 

 

大きくV字に広がる胸元からは、少しの乱れで胸が見えてしまいそう。

 

 

膝上20センチに切られた丈に、私の白い太ももがチラリとほのりと。

 

 

 

……ん?

 

な、なんかこの着物エロすぎませんか?

 

 

 

「イケる…」

 

「……?」

 

「イケる!イケるぞリュー!!花魁姿のキャピキャピ系キャバクラのイメージキャラクターにぴったりだ!!」

 

「…!?」

 

「これは稼げる…っ。よし!着物を増産だ!嬢はそこらでゴロつく女冒険者を雇えば…。確か、ダイダロス通りに空きテナントもあったはず…」

 

「か、カズマさん…?」

 

「賽は投げられた…!!屈強な男たちを持て成す夢の国、店の名前は【美女と野獣】で決まりだ!!」

 

「……」

 

 

「忙しくなってきたぁぁぁ!!」

 

 

「ブチ殺すぞクズマぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 






おかしい…。

ダンまちスピンオフに出てくるキャラ達がすごく真面目だ…。

もっと頭のネジがぶっ飛んだキャラ達だと思ってたのに…。


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