この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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由々しき事態に醜態を

 

 

 

 

 

 

 

「カズマさん。ボブ・ゴブリンの大群が居ますよ」

 

「よし、遠回りしよう」

 

「戦わないのですか?」

 

「うん。贄殿遮那を忘れちゃったから。たぶん、ホームのキッチンに置いてきた」

 

「武器をなぜキッチンに?」

 

「パンを斬ってた」

 

「…ああ」

 

 

そう言いながら、こそこそとダンジョンを遠回りして進むカズマさんの背中にくっつき、私も忍び足で歩く。

 

もちろん、元冒険者でレベル4である私なら中間層に出てくるモンスター程度は倒せるのだが、なにぶん、先ほどの麻雀で武器から防具まで全てを失ってしまったので…。

 

現在の階層は24層。

 

どうやらカズマさんの目的地は50層との事で。

 

深層探索にしては明らかに身軽な私達は、カズマさんが私に作ってくれると言う着物の刺繍の柄、リューココリーネを採取するべくゆっくり歩く。

 

 

「私、50層に行くのは初めてです。帰ったら職場の同僚や元アストレア・ファミリアの仲間達に自慢ができますね」

 

「海外旅行の写真をインスタに載せる女タレントみたいだな。…ていうか、アストレア・ファミリアの仲間ってアリーゼか?」

 

「そうです。ご存知でしたか?」

 

 

カズマさんは少しだけ驚いたように目を開けた。

彼の口からアリーゼの名前が出てくるとは…。

あまり接点の無さそうな二人だと思っていましたが。

 

 

「正義だなんだって腑抜けた事を言う赤髪の女だろ?」

 

「ですです。私は裏で正義の押売りちゃんと呼んでいました」

 

「俺は面と向かって偽善の最前線って呼んでやった」

 

 

「「ぷーくすくす!」」

 

 

偽善の最前線。

まさにアリーゼの二つ名に相応しい命名じゃないですか。

 

意気投合とばかりに笑い合いながら、カズマさんは私の過去のお話に興味を示した。

 

 

「アストレアもさ、なんかお堅いっていうか…。もう少し物事を柔軟に考えられればなぁ」

 

「アストレア様の悪い所です」

 

「なんでアストレア・ファミリアって解体したんだ?」

 

「方向性の違いですかね」

 

「学生の女バンドじゃねえんだよ」

 

 

正義のために!

と意気込みながらダンジョン内の清掃活動に励んでいたアリーゼの顔を思い出す。

 

1周回って、モンスターを斬る事すらも嫌悪し始めたアリーゼに、私はファミリアの解体を進めたのだ。

 

 

「彼女はモンスターにすら善悪の境界を引いたのです。このダンジョンには私達を襲わない、お利口さんなモンスターも居るのよ!と」

 

「クソみたいに甘っちょろい考えだな」

 

「はい…。そういえば最近、街中で噂になっている黒の死神(ブラックサイコパス)を知っていますか?」

 

「なんだその厨二くさい二つ名は」

 

 

カズマさんは呆れ顔気味に私を見つめつつため息を吐いた。

 

え、私が考えたわけではないのですが…。

 

 

「噂によりますと、黒いローブに身を包み、赤黒い大太刀を携えた風貌から死神の呼び名が付いたそうです」

 

「…む?」

 

「そして驚くことに、その死神はブレイバー率いるロキ・ファミリアの幹部達を1人で相手取ったとか」

 

「…むぅ」

 

 

だがしかし、所詮は噂の域だろう。

このオラリオで最強戦力を誇るロキ・ファミリア。

尚且つ、その幹部達を1人で相手取るなどおとぎ話であっても詰まらない。

 

 

「死神はモンスターを安全な場所へ逃すために戦ったみたいですよ」

 

「へぇ…」

 

 

む?

 

先ほどからカズマさんの反応が薄いような…。

この薄暗くて物悲しいダンジョンで、私がせっかく場を温めようとお話してあげてるというのに。

 

……あ、まさか…。

 

 

「…カズマさん」

 

「な、なんだよ?」

 

「死神にビビってますね?ぷーくすくす!あんなのただの噂なのに」

 

「…イラ」

 

 

下衆会の風雲坊とまで呼ばれるカズマさんといえど、やはり人の子だったようだ。

死神などという噂に背筋を冷やしているなんて。

 

 

「可愛いところもあるんですね」

 

「…何してんの?」

 

「頭を撫でているだけですが?」

 

 

普段から何かとお騒がせなカズマさん。

そんな彼が年相応に、死神だなんて言う噂に驚いてくれると少しだけ可愛らしいと思ってしまう。

 

もっと素直になれば良いのに…。

 

はぁ、世話の焼ける弟を持った気分です。

 

 

「触んな淫乱エルフ」

 

「い、淫乱!?」

 

「姉キャラを狙うならcv.伊藤静でやり直してこい」

 

「な、なんですかcvって!」

 

「おまえはどっちかと言うと妹キャラだ。さすがですわお兄様!とだけ言ってろ」

 

 

さ、さ、さ…。

 

さすがですわカズマ様!!

 

私の姉スキルをぷいっと払うなんて…っ。

もう少しデレてくれてもよかったのに!

 

知ってるんですよ!

ロキ・ファミリアの千の妖精(サウザンド・エルフ)ことレフィーヤちゃんのことを妹のように可愛がっていることを!

 

ならば同じエルフで歳上な私はカズマさんのお姉ちゃんになるしかないじゃないですか!

 

それなのに!

 

それなのにぃぃ!!

 

 

「私は歳上ですよ!敬ってください!」

 

「なんなの?年齢を重ねたエルフはなんで我儘になるの?リヴェリアと言いおまえと言い。まさかエイナまでうざったいわけないよな?」

 

「私はうざったくありません!」

 

「はいはい。あんまりお喋りばっかしてると日が暮れちゃうぞ」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

 

私は圧倒的な地団駄を踏みながらも、モンスターに出くわさぬダンジョンをゆるりと進んだ。

 

慎重ながらも大胆な足取りで中間層を進むカズマさんからは、つい数ヶ月前まで新人だったとは思えぬ安心感を覚える。

 

急激な速度でオラリオ随一の冒険者となったカズマさんの背中は、ひょろりと細い癖に頼もしいから不思議…。

 

もしも、噂の死神だなんて者が現れても、彼なら片手間に倒してしまいそう。

 

それくらいに、彼は強くて大きいのだ。

 

 

 

 

「今日は30層まで行ってテントを貼るぞ」

 

 

「はい。…ふふ、一つ屋根の下で何が起こる事やら」

 

 

「ちなみにテントは2つある」

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

深層 49層

そこは大荒野(モイトラ)と呼ばれる一本木々すら生えない荒れ果てた大地。

俺のマッピングよる最短ルートを辿っても、抜けるのに数時間は掛かってしまうほどの大空間で、出てくるモンスターもいちいちつよい。

 

だがしかし、元レベル4の冒険者なだけあって、時折出て来る深層のモンスターも、俺のアシストを有りきにリューが淡々と倒してくれる。

 

 

「ふぅ。やはり深層は侮れませんね」

 

 

と、リューは疲労を微塵も感じさせないものの、やはり魔力だけはどうしても減っていくもので、俺は時折リューの脇腹に触れて魔力を受け流した。

 

 

「んっ…。あっ…、さ、最初は、っん、抵抗がありましたが…、こ、この、魔力が流し込まれている感じ…、っ、ぅ…、た、堪りませんね…」

 

「キミね、そんな反応されると俺も困るんだけど」

 

 

魔力を十分に流してから手を離すと、リューはなぜか拗ねた表情で俺を睨む。

 

 

「…もう終わりですか?」

 

「これ以上は爆発しちゃうよ」

 

「爆発するんですか?」

 

「うん」

 

 

そんなたわいも無い会話。

 

俺が会話は終わりだとばかりに歩き始めると、リューも素直に着いてきた。

 

可能な限りは最短の道を行きたいものの、やはりそこにはモンスターの影があり、俺の千里眼によりモンスターの数や種類を確認しつつ、倒した方が早いと判断した時にだけ剣を振るう。

 

だがやはり、最大の懸念を上げるなら。

 

 

「ん〜。周期的には階層主が産まれちゃってるかもなー」

 

「か、階層主!?49層の階層主と言えば、あのバロール…っ!」

 

 

言わずと知れた、ノロマで愚図なバロール君。

そのくせ50層に繋がる階段だけはしっかり守ってやがるから困ったヤツだ。

 

そんな事を考えていると、リューはガクガクと震えながら、冷たくなった手で必死に俺の背中にしがみ付いてきた。

 

 

「か、カズマさん。私から離れないでください」

 

「ちょ、歩きづらいわ。ていうか、そんなに震えなくても大丈夫だよ。戦うつもりもないし」

 

「ぁぅ…、ではどうやって50層へ?」

 

 

何こいつ…。

さすがのリューでも深層の階層主にはヘタれるのか?

 

ぷーくすくす、ちょっとからかってやろう。

 

 

「まずはリューを囮にして」

 

「!?」

 

「俺が50層へ行く」

 

「!?」

 

「そしたらリューも隙を見て50層へ行く」

 

「…っ!うぅ、うっ…。うわぁぁぁん!無理ですぅ〜!私っ…、私、囮なんかできません〜っ!」

 

 

ガチ泣き…。

まさかの座り込んでまでのガチ泣き。

 

こ、こんなの冗談じゃん!

 

なんか俺が悪いみたいになっちゃうだろ!

 

この泣き虫エルフが!

 

 

「う、嘘だよ!冗談だ。ほら、直ぐに泣くなって…」

 

「ほ、本当に…?」

 

「本当に」

 

「ぁぅ…」

 

 

座り込んでしまったリューの腋に手を入れ持ち上げると、彼女も素直に立ち上がった。

相変わらず目頭には涙が溜まっている。

なんなんだこの罪悪感は…。

ここ最近、女の子を泣かせてばかりな気がするし…。

 

ふと、俺のため息に何を勘違いしたのか、リューはしょぼんとなって下を向いてしまった。

 

 

「…ぅぅ、すみません。私が弱いばかりに…」

 

「だから冗談だって言ってんだろ。ほら、顔を上げなさい」

 

「…はい」

 

「俺だってバロール相手に立ち回ろうなんて思ってないよ。逃げるは恥だが役に立つってな。なんならバロールの前で恋ダンスを踊っちまうレベルの逃げ恥だ」

 

「か、カズマさんでも逃げる事があるんですか?」

 

 

そらねぇ…。

 

いやそもそも逃げてばかりな気がしなくもないし。

レベル7とは名ばかりの冒険者だと自負してるくらいだもん。

 

むしろ周りの期待だけが膨らみ、挙句には英雄だのなんだのと…。

 

いやいや、こちとらただの元ニートだよ?

 

そんな期待されてもマジで困る定期ですわ。

 

 

「…ぅぅ」

 

 

ただ、じっと俺の目を見つめるリューに、俺なんかに期待するなよ。なんて言える筈が無く。

 

心のどこかでは、この子の期待に少しだけ応えたいとも思う自分がいるわけで。

 

 

あぁ、やっぱり俺も男の子なんだね。

 

 

女の子の前で格好をつけちゃうんだもん。

 

 

 

 

「逃げるさ。でも、リューの事くらいなら守ってみせるよ。俺の命に代えてもね」

 

 

 

「さ、さ、さ…、流石ですわお兄様!!!」

 

 

 

 

 

 





ソードオラトリアのアニメ見ました。

キャラが違い過ぎて自己嫌悪。

ちょっとだけボケてる程度だと思ったけど、思いの外みんな真面目な冒険者でした。

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