この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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カズマくんはいつもけだるげ
お花の言葉に傾けを


 

 

 

 

 

 

 

ワイワイガヤガヤ。

 

最近の豊穣の女主人はとても忙しく、とても騒がしい。

ウェイトレスは注文を受け、品を運び、客の相手をする。

偶に、悪態をついたりセクハラをしたりと無粋なお客もいるが、武闘派ウェイトレスである私達は各々が武に訴えた対処を行う。

 

ただ、そんなお客の中でも、一際面倒な人達が……。

 

 

「ポンっ!それポン!」

 

「んが!しもた、カズマに鳴かせてもうた」

 

「くっ、ツモが悪いわね…。配牌には私の魅了が通じていないのかしら」

 

「…狂気の沙汰だな」

 

 

東家から、カズマさん、ロキ様、フレイヤ様、ヒュアキントスが卓を囲い、牌と呼ばれる四角いキューブをそれぞれが凝視している。

 

麻雀と呼ばれる遊戯は、カズマさんが発案した後に大流行。

 

なにやら18層でもチンチロとか言う賭け事を考案したとか。

 

この人は本当に何者なんだ…。

 

 

「ロンっ!ロンっ!ローーーンっ!うはははーっ!この天下人に敵う神はおらんのか!リュー!リュー!しゅわしゅわちょうだい!」

 

「…かしこまりました」

 

 

ざわざわ。

 

カズマさんが大きな声で叫びながら神様2人とヒュアキントスを煽った。

嬉しそうにはしゃぐ姿は、レベル7にして、オラリオ随一の冒険者とは思えない。

 

…おかしな人だ。

 

と、私は呆れながらに注文されたしゅわしゅわをカズマさんの前に置く。

 

 

「お待たせしました」

 

「お待たせされました」

 

「…ちっ」

 

「おい!舌打ちしたな!?」

 

 

なんだってこんな人がレベル7なのだろうか。

 

…はぁ、運良くカズマさんに隕石でも落ちてこないかな…。

ああ、でもこの人なら、おわっ!危ねっ!とか言って平気で生きてそう…。

 

 

「カズマさんは…、どうやったら死ぬんでしょう」

 

「おまえ不謹慎だからね?客に対して言うセリフでもないからな?」

 

「おっと本音が。すみません」

 

「本音って言った?喧嘩なら買うぞ?」

 

 

喧嘩なんて売りませんよ。

どうせまた、あのヘンテコな武器で私をいじめるに決まってる。

 

…どうにか。

 

どうにかこの人に復讐的な制裁を加えられないものか…。

 

ふと、私は彼らが興じる遊戯に目を向けた。

 

流石のカズマさんと言えど、この手の遊戯ならルールさえ覚えれば五分で戦えるのでは?

 

察するに、麻雀と呼ばれるその遊戯は、運だけではなく知恵や駆け引きも使うようだ。

 

カズマさんと言えば運は良かれど頭はコボルト。

 

……光明…、私だからこその気付き…。

 

…勝てる…、これなら!

 

 

「…その遊戯、私も混ぜてはもらえないでしょうか?」

 

「へ?おまえ仕事中だろ?」

 

「構いません」

 

「って言っても、面子は揃ってるし…」

 

「ブチ殺すぞ……ゴミめら…」

 

「!?」

 

 

私はヒュアキントスを強引に卓から引きずり下ろし、その席へと変わりに座る。

 

何事かと私を見つめる神々とクズの視線を意に返さず、私は散らばる牌をジャラジャラと混ぜ始めた。

 

カズマさんの事だ、どうせ積み込みやらぶっこぬきやらと手グセの悪いズルをするに決まってる。

それならば、この場を私が率先して支配してしまえば良い事…。

 

 

「貧乳神に贅肉神、カズマさんに勝ちたいと思いませんか?」

 

「「!?」」

 

「良いように手のひらで転がされ、金銭や衣服を巻き上げられる。今一度思い出してください。私達の尊厳を…。私達の…、誇りとプライドをっ!!」

 

「「!!」」

 

 

神速の積みにより牌の山が築かれる。

 

さぁ、戦いはこれからです。

 

 

 

 

「…カズマさん、付き合ってもらいますよ。…地獄の果てまで!!」

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

で。

 

 

「…あの、カズマ様…、もう勘弁して頂けませんか?」

 

 

身包みを剥がされショーツとブラトップのみとなった私…。

金銭のやりとりだけでは事足りず、挙げ句の果てには着ていた服まで脱がされたわけだ。

 

蓋を開ければカズマさんの8連勝。

 

もはや賭ける物も無く、私はただただ目に涙を浮かべるだけ。

 

 

「リュー…」

 

「ぅぅ」

 

「倍プッシュだ」

 

「うわぁぁぁぁぁっん!!」

 

 

どうしてだ!

どうして勝てない!

机上の空論とは言えど、私にだって勝てる勝算はあったのに!

 

私の欲しい牌をカズマさんは全然落としてくれないし、狙ったように私の捨て牌を当ててくる…。

 

うぅ、おかしい…。

 

絶対に何かがおかしい…。

 

 

「泣くなよなー。本当におまえは泣き虫だな…。ほら、もう勘弁してやるから泣き止めって」

 

「うっ、うぅ…」

 

 

カズマさんの手が私の頭を優しく撫でた。

どこか故郷のお母さんを彷彿とさせるその素ぶりに、私は思わずカズマさんの顔を見上げてしまう。

 

ふわりと優しい彼の笑みが少しだけ申し訳なさそうで、ああ、カズマさんも人の心を持ち合わせてるんだなぁ、なんて思ったり。

 

下衆で変態で意地悪で、それなのに偶に優しくて。

 

そんな飴と鞭を使い分けるカズマさんだからこそ、オラリオの人たちは彼を信頼するのだろう。

 

 

「ぅ…、あ、ありがとうございます」

 

「うんうん。…それじゃあ続けようか」

 

「うわぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 

麻雀でリューをいじめる事数時間。

 

さすがに巻き上げる金も、脱がす服も無くなったのでお開きとなり、相変わらず泣き喚くリューをなだめつつ、俺はほんの少しの罪悪感を覚えていた。

 

 

…千里眼で牌を全て見ていたなんて言えないな。

 

 

「リュー、冗談だよ。ほら、もうロキもフレイヤも帰っちゃったぞ」

 

「あぅぅ…、うぅぅ」

 

「仕事に戻らなくていいのか?」

 

「ひっく…、う、うぅ、もう、お洋服も取られてしまったので…、っ、うっ、仕事に戻れません…」

 

 

…リューのお洋服は賭けの戦利品として巻き上げ、近くで飲んでいた男性冒険者に売っちゃいました。

 

だからリューは今も半裸状態なわけで。

 

……す、少しやり過ぎたか?

 

 

「よし。それじゃあリューに似合うお洋服を買いに行こう」

 

「っ、お、お金をあまり、持ち合わせていません…」

 

「買ってやるって。ほら、俺がこの前使ったローブを貸してやるから」

 

「ぁぅ…」

 

 

ばさりとローブをリューの頭から被せ、俺達は手を取り合ってゆっくりとお店を出た。

 

泣いてるリューの手を引いて街を歩くのも慣れたもんだ。

 

もちろん周囲の視線だって気にならない。

 

 

「リューは胸が小さいから浴衣とか似合いそうだな」

 

「…私の胸はDカップです」

 

 

嘘をつけ。

甘めに見積もってもBだろうが。

と言えば、リューはまた泣いちゃうから。

俺は優しくただ頷いておいた。

 

さて、お洋服だの着物だと言っても、オラリオの服屋なんて俺は知らん。

 

特に着物だなんて言う極東の伝統衣服ならば尚更だ。

 

……あ、そういや、歓楽街の狐っ娘がエロい着物を着ていたな…。

 

 

「よし、歓楽街に行くか」

 

「バカなんですか?」

 

 

 

.

……

 

 

 

で。

 

 

「よう。春姫」

 

「あ、カズマ様」

 

 

歓楽街の一角。

俺はお気に入りのアマゾネスを泣く泣く素通りし、春姫が監禁されている場所へととろとろ赴く。

 

狐の耳をピクピク揺らす春姫は他の娼婦と違って生娘らしい。

 

ちなみにこの情報はお気に入りのアマゾネス、アイシャに聞いた話だ。

 

 

「今日もカズマ様の英雄譚を聞かせてくれるんですか?」

 

「それはまた今度な。なぁ、おまえのその着物ってどこで買ったの?」

 

「ぁぅ、そうでございますか…。えっと、この着物は買った物ではありません」

 

「む?」

 

「イシュタル様が私のために作ってくださったのです。私には尻尾もございますので」

 

「ほう。イシュタルって裁縫なんかも出来たのか」

 

 

あのエロ雌め、意外と多才じゃないか。

 

ふむ。手作りか…。

それは盲点だったな。

俺には器用貧乏(ユーザビリティ)なんて言う便利なスキルもあるわけだし。

 

俺は顎に手を置きながら春姫に別れを告げ、歓楽街の入り口で待っていたリューの所へと戻る。

 

 

「お待た〜」

 

「…足が痛いです」

 

「はいはい。おまえ、どんな柄が好き?」

 

「柄ですか?」

 

「おう。着物に入れる刺繍を何にしようかなぁって。おまえ色白だし、布地は淡色系が似合うかもな」

 

「ふむ。それならばピンクにしてください。私はピンクが大好きです」

 

「おっけー」

 

「あと、柄と言うか…。百合の花が可愛いと…、思います…」

 

 

と、リューはモジモジとリクエストを出してきた。

ピンクの布地に百合の花の刺繍か。

なんだかすごく女の子っぽい着物になりそうだな。

 

百合…、百合…。

 

あれ?

 

百合ってどんな花だっけ?

 

スマホがあれば検索して画像を見れるのに、この世界ではそうは問屋がおろさない。

 

実物を実際に観に行く必要があるのだ。

 

 

百合か…。

 

 

「そういえば、深層のどこかにユリ科の花が咲いていたな…」

 

「?」

 

 

以前にティオネがその花を見て微笑んでいた事を思い出す。

 

そのときに、あいつが言っていた花の名前は……。

 

 

 

「確か…、リューココリーネ…」

 

 

 

「わ、私の名前だ…!」

 

 

 

 

 

 

 


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