この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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焦らす暦に擽りを

 

 

 

 

 

 

「お出かけお出かけらんらんら〜ん♪」

 

 

心が弾み、思わずアホな歌を口ずさんでしまう。

だがそれも仕方のない事だ。

なんと言っても、明日からはレフィーヤと泊まり込みの旅行へ向かうのだから。

深層の58層って言えば、1泊や2泊じゃ帰ってはこれないだろう。

つまりはレフィーヤと長期のお泊りデートになるわけだ。

 

……へへ、胸が踊るぜ。

 

俺はヨダレを流しつつ、自室で明日の準備に勤しむ。

アダマンタイトなんてのついでだ。

目的はレフィーヤとのお出かけ。

レフィーヤはまだお子ちゃまだからな。

すこし荷物が重むが、野営用のテントも持っていってやろう。

あとお布団と、枕と、歯ブラシと、旅のしおりっと…。

 

……うへへ。

 

「みなぎってきたーーー!!」

 

と、俺が奇声を張り上げていると、外から扉を叩かれるノックの音が。

 

「あ?居るぞー」

 

「やっほー!」

 

「…胸が無い。つまりティオナか?」

 

「もう!やめてよその思い出し方!」

 

返事と同時に勢い良く扉を開けた彼女は、ぷんぷんと頬を膨らませながら部屋へと入ってくるや、俺の側にストンと座った。

 

「うわぁ、荷物いっぱいだね」

 

「まぁな。男にはいろいろあるんだよ」

 

「へぇ」

 

そう呟きながら、ティオナは俺の荷物を興味津々と眺める。

そして、相変わらず露出の多い服装からチラつく腋の下は、今日も今日とて具合がよろしいようで…。…エロい…。

 

「舐めたいとさえ思う」

 

「ほえ?何を?」

 

「いや、こっちの話だ。それよりも、何か俺に用があるんじゃないのか?」

 

「んー?用事っていうか、ちゃんと準備を進めてるか確認しにきただけー」

 

ぬる〜っと、大きく背伸びをしながら、ティオナは俺の肩に寄りかかってきた。

 

うん…、良い香りだ…。

 

「深層に行く準備なら進めてるよ?というか、なんでおまえが確認しに来るんだよ」

 

「へ?レフィーヤから聞いてないの?」

 

「む?」

 

「レベル3のレフィーヤに58層はまだ早いから、代わりに私が行くの」

 

私が行くのーー

 

行くのーー

 

のーー

 

 

まるで、世界が歪むように、ガラガラと音を立てて壊れて行く。

 

深層のモンスターに怯えて俺に抱きつくレフィーヤ。

 

疲れたから手を繋いでくださいと言うレフィーヤ。

 

野営の時に寂しくなって俺の寝所に潜り込んでくるレフィーヤ。

 

……全てが無に化すと言うのか…?

 

っ、腐ってる。腐りきった詰まらない世界っ!

 

正に愚の骨頂…っ。

 

「…っ」

 

「えへへ。カズマと2人でダンジョンに行くのは初めてだね。私、頑張っちゃうよー!」

 

そう言ってぬるぬると俺の首元にティオナは腕を回す。

 

…やっぱり良い香り。

 

「…はぁ、アダルティーな旅ってのも悪くないか」

 

「あだるてぃー?」

 

俺は背中に引っ付くティオナの頭を乱暴に撫でながら、レフィーヤとのお泊りデートを諦めるべく溜息を吐いた。

 

…まぁ、悪くねえよ。

 

ティオナもレフィーヤも胸が無いことには変わらないし……、ん?

 

あれ?背中に感じる柔らかい膨らみ…。

 

 

「ティオナ、おまえおっぱい大きくなったんじゃないか?」

 

「え!?本当に!?やったー!毎日揉んでた甲斐があったよーー!!」

 

「バカヤロウ!!!」

 

「っ!?」

 

「おまえは…、おまえは!!」

 

「う、うん…」

 

「ちっぱいキャラの腋の下ムレムレ系のヒロインだろうが!!油断すんな!!」

 

「ぁ、ぁぅ…、ごめんなさい…」

 

 

小さいおっぱいをぶら下げる天真爛漫系ヒロインに転職するつもり!?

 

それも有りっちゃ有りだけどさ!!

 

でも俺は。

 

 

「胸が小さいティオナが好きだな!」

 

 

「っ!…ご、ごめん…、私が間違っていたよ…」

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

で。

 

深層アタックの初日。

レベル5のティオナとレベル7の俺で構成されるパーティーは、少人数ながらも火力重視の過剰戦力でダンジョンを進む。

 

道中に出てくるモンスターをティオナが屠り、俺は魔力を受け渡す。

いつも通りといっちゃいつも通りなのだが、今回は俺も少しばかり戦っていた。

 

と言うのも、最近ヴェルフに作らせた魔剣の性能を試したかったのだ。

 

一振りで村を焼き尽くすとは良く言うものの、モンスター1匹に対しての過剰火力は否めない。

さらには数度で壊れるとなれば使い勝手が悪すぎる。

 

威力は強いがエクスプロージョン程じゃない。

 

値段が高い割に回数制限があるときた。

 

……使えねえ。

 

 

「やっぱり魔剣みたいな他人の力に頼るのは良くないな」

 

「え?それカズマが言う?」

 

俺は魔剣をリュックに仕舞い、ティオナの背中に乗っかる。

 

「よいしょ」

 

「はいはい。ちゃんと捕まっててね」

 

物分かりの良いティオナである。

腰を下ろして乗り易くしてくれるあたり、やっぱり彼女はロキ・ファミリア随一の優しい女の子なのだろう。

 

「今日は18層まで行くからな」

 

「うん、わかった」

 

「あ、あんまり揺らさないでね。酔っちゃうから」

 

「もう、わがままなんだから〜」

 

そう言いながらも、走る速度を少し落とし、ティオナの背中から伝わる揺れが小さくなった。

 

…なんだろ、こっちの世界に来て優しくしてくれたのってティオナが初めてかも。

 

そんな彼女の優しさにあてられたのか、俺はほんのりと熱くなる頬を隠すように、ティオナの背中に顔を埋める。

 

「うぅ…、か、カズマぁ。息が背中に当たって擽ったいよぉ」

 

「え、あ、悪い!そんなつもりは無かったんだ!」

 

「え、えへへ。別に謝らなくてもいいけどさ」

 

「…そっか。いやでも、ティオナの背中はスベスベしてて…、なんだか綺麗だよ…」

 

「ぁぅ…。っ、あ、ありがと…」

 

2人して頬を染める青い時間。

気が付けば、ティオナの背中も俺の頬と同じくらいに熱くなっていた。

 

 

優しく、彼女のぬくもりを感じながら。

 

 

「…ね、ねえ、カズマ…」

 

「な、なんだよ?」

 

 

彼女は熱く火照らせた顔で恥ずかしそうに振り向くと、艶めかしい吐息を零しながら、そっと俺に向かって呟いた。

 

 

「…っ、今日はさ、一緒に…。…寝よ?」

 

 

「…お、おう。そうだな…」

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

以前、ティオネが言っていた。

 

アマゾネスたる者、()()()を欲する物だと。

 

私はその言葉に笑って頷いたものの、真意の底からは到底理解が出来なかった。

 

強い種…、強い冒険者…。

 

私のお腹が耐えられないほどの熱いアレを注いでくれる冒険者。

 

例えば、フィン。

 

フィンはオラリオ随一の冒険者で、面倒見も良い上にすごく強い。

レベル6の冒険者であるフィンは、ティオネの言う強い種を持っているのだろう…。

 

 

例えば、ガレス。

 

屈強な身体と、他を寄せ付けない腕っ節。

同様に、レベル6の冒険者であるガレスにも強い種があることになる。

 

ベートだって、ラウルだって。

 

…。

 

それだけの強い種とやらがファミリア内に居ると言うのに、私は特段に、彼らの強い種が欲しいとは思えなかった。

 

思わなかった…。

 

もしかしたら、私は普通のアマゾネスじゃないのかとも悩んだけど、それを気にして暗くなるほど繊細でもない。

 

別に、私は強い種なんて欲しくないもん…。

 

なんて、ちょっと腐してみたり。

 

 

ただーーーー

 

 

「ん…。カズマぁ…、もっとギュってして…」

 

 

目の前で困ったように顔を赤くする彼は、強い種と言うよりも、暖かくて優しい種を持っていて。

 

よれよれな1枚の掛け布に2人で包まる夜は、どこまでも静かで、どこまでも心地良い。

 

 

「…てぃ、ティオナ。あんまりくっ付かれると…」

 

「や!もっとギュってするの!」

 

「はぁ…」

 

「…ぁふ。良い香り…。甘くて、優しい香り…」

 

 

カズマのお腹にしがみ付けば、まるで身体の底から熱がこみ上げてくるよう。

 

なんだろ…。

 

すごく心がピョンピョンするんじゃあ〜…。

 

 

「ん〜。ねぇ、カズマ。レフィーヤにやるみたいに、私の頭も撫でて?」

 

「…特別だからな」

 

 

そう言いながら、カズマは私の頭を優しく撫でてくれる。

 

…ティオネの言う事、今なら少しだけ理解できるかも。

 

 

「…あ、あのね、私、おっぱいは大きくないけど、いっぱいいっぱいカズマを満足させることはできると思うの…」

 

「むっ!?そ、それってまさか…」

 

 

私は……。

 

 

「あ、ぁぅ…」

 

「ティオナ…、俺…っ!」

 

 

私はカズマの種が欲しいーー。

 

 

「俺、ティオナの腋の下を1度でいいから舐めてみたいと思ってたんだよ」

 

「や、優しくお願いしまっ……。へ?」

 

 

……へ?

 

腋の下?

 

何を言ってるの?

 

と、柔らかい空気を壊すようなカズマの発言は、私の脳を酷く揺らしながら反芻し続けた。

 

甘かった掛け布の中で、気付けばカズマは私の両腕を伸ばし、顔を腋の下へと近付ける。

 

 

「ちょ、え?か、カズマ!?」

 

「綺麗だよ、ティオナ」

 

「ど、どこを見て言っているの!?」

 

「少しだけ汗で蒸れた腋…。はぁはぁはぁはぁ…。こ、心がピョンピョンするぜぇぇ!!」

 

 

別に腋の下くらい…。

と思っていたのに、なぜだかカズマに見られていると凄く恥ずかしい。

 

腋くらい…っ、なんだって言うのよ…っ!

 

 

「や、やめて!つんつんしないで!…んっ、いや…っ!」

 

「まだまだ軽く触ってるだけだぞ?ほれほれ」

 

「んぁ!んっ、う、うひゃ、あはははっー」

 

「ヨガれヨガれ。さすれば更に旨味が増すってもんだ」

 

 

な、なんだろう…っ。

 

別に裸を見られたって恥ずかしくないのに、わ、腋の下を触られたりすると、なんだか……。

 

 

なんだか…っ!!

 

 

 

 

「んっ!ひゃっ!ん、か、カズマっ!いやぁぁー!擽ったいよぉぉっ!!」

 

 

 

 


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