この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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灼熱のカズマ
緋色の風に灼熱を


 

 

 

 

 

俺は自らの貧相な身体を見てふと思う。

 

 

例えば、リヴェリアやレフィーヤが持つ魔法の杖。

アレは魔力の増幅と詠唱時間の省略がうんたらかんたらなレアアイテムなのだとか。

 

例えば、アイズが持つレイピア。

攻撃力や耐久力は落ちるが、不壊属性(デュランダル)たる壊れない武器らしい。

 

フィンにしたってヒリュテ姉妹にしたって、みんながみんなカッコ良い武器を持っている。

 

「……」

 

それに引き換え俺はどうだ?

ダンジョンに行くにしても大きなリュックを背負い、モンスターと出くわせば異世界文化のチートアイテムを投げつけるだけ。

 

一応、初期装備として買った短刀を持ってはいるが、もはや果物を切る時くらいにしか使っていない始末…。

 

「…俺もカッコ良い武器が欲しい…」

 

「へ?」

 

思わず溢れた俺の本音に、鍛錬中だったレフィーヤがこちらへ振り向く。

 

「新しい武器が欲しい!」

 

「な、なんですか?急に…。今日は私の鍛錬に付き合ってくれるって…」

 

昼過ぎの暖かい時間。

黄昏の館中央部の中広場で、暇潰しにレフィーヤの修行相手を買って出た俺は、修行の開始5分でへばってしまった。

 

そこからはただひたすらに小さなレフィーヤが、汗を掻きながら一生懸命に杖を振り回す姿を見ていたのだが…

 

「もうレフィーヤのお遊戯会も飽きたし。武器を作りに行こうぜ」

 

「誰がお遊戯会ですか!って、武器なら沢山持ってるじゃないですか」

 

俺が渡したタオルで汗を拭きながら、レフィーヤは不思議そうな瞳で俺に尋ねた。

 

おそらく、レフィーヤの言う武器とは、ダイナマイトしかり閃光弾しかり激痛弾しかり…。

 

「あんな邪道アイテムじゃカッコ悪いじゃん。もっとこうさ、焔が出る太刀みたいな?」

 

「火ですか?それなら剣に油を塗ったらどうです?それで鞘や地面や大気の摩擦で発火させるんです。あとは包帯を顔から足のつま先まで巻けばオーケーです。火が出る剣も持てるし、カズマさんの顔も隠せます。まさにwin-winです」

 

「志々雄様かよ!ていうか俺の顔は隠すほど醜くねえ!!」

 

「む。それじゃあ魔剣でも持てばどうですか?」

 

「魔剣は違うんだよなぁ…。浪漫が無いよね魔剣には。わからないかなぁ〜」

 

「……」

 

呆れるレフィーヤを他所に、俺は武器の性能と構成をざっくばらんなに考えてみた。

 

やっぱ火は出したいよな…、それに日本刀の採用も当確だ。

 

刀身を黒くして、黒の剣士とか呼ばれても悪くない…。

 

いや待て、流行りに身を任せてもロクな事にならん。

 

いっそのこと、今更ながらフレイムヘイズってのも…。

 

灼眼のカズマ。

 

…悪くない。むしろ良い!

 

「よし!贄殿遮那にしよう!」

 

「え?なんですかそれ…」

 

「おいおい、本当に何も知らないなぁレフィーヤは。…ゼロのレフィーヤかよ」

 

「なんとなくムカつきます。はぁ、武器を作りに行くなら1人で行ってくださいよ。私は鍛錬で疲れて……、むぎゅっ!!」

 

俺は両手でレフィーヤの頬を抓る。

柔らかいソレは程よく暖かく、何かを喋ろうとしたレフィーヤは顔を真っ赤にさせ俺の手を振り払おうとシダバタと暴れた。

 

「動くな動くな。ドレインタッチで魔力を分けてやるから」

 

「くぎゅーーっ!ふにゅーーっ!」

 

注入注入っと。

よし、コレくらい渡せばレフィーヤも元気ビンビンですよ神って感じだろ。

 

 

「よし完了。それじゃあ行くぞー!」

 

「ぁう…、ほっぺが…」

 

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

で、やって来たのは毎度お馴染みバベルの塔。

ヘファイストス・ファミリアが営む商業店には目もくれず、俺は施設奥に存在する鍛治職人達が汗水を流す作業場へと訪れた。

 

「おーい。ヴェルフー」

 

「か、カズマ…。おまえ、また来やがったのか…」

 

長身に赤髪を携えた男、ヴェルフ・クロッゾは、俺を見るなりゲンナリとした表情で迎え入れてくれる。

 

以前、こいつが魔剣作りで有名なクロッゾ性の息子だと知り、俺は度々魔剣を頼みに訪れていたのだ。

 

魔剣は作らん!と、異様なでの職人気質を見せるヴェルフを懐柔するのに苦労はしたが、今では渋々ながら魔剣を打ち、俺に売ってくれる。

 

「ちっ、また魔剣かよ。先週こしらえてやったばかりだろうが」

 

「おまえの魔剣、2.3回使うと壊れるんだけど。不壊属性を付与しろってあれだけ言ってるだろ」

 

「魔剣舐めんなよ!?」

 

と、いつもの押し問答。

ただ、今日は魔剣を作ってもらうために来たわけじゃない。

 

コソコソと俺の後ろに隠れるレフィーヤを無理やり前へと押し出し、俺はヴェルフに今日の用件を伝えた。

 

 

「ヘファイストス居る?」

 

「あ?あの人ならいつもの場所に居ると思うが…」

 

 

あわあわと慌てふためくレフィーヤ。

どうやら男と、それも上半身を汗だくにした野郎を見るのが恥ずかしいらしい。

 

 

「そのちっこいのは、カズマの友達か?」

 

「いや、妹。おまえの汗臭い上半身が見るに耐えんのだと」

 

「種族違いの妹…?って、ああ、悪かったな…。鍛冶場は熱がこもるんだ」

 

「ほら、いつまで恥ずかしがってるんだよ。早く自己紹介しなさい」

 

 

レフィーヤは尚も顔を赤くしてキョロキョロと視線を逸らした。

 

面白いからしばらく見ていようとも思ったけど、レフィーヤってこんなに男の免疫低かったっけ?

 

エルフは潔癖と良く聞くが…。

 

 

「あぅあぅ…。ほ、ホンモノだ…。リューさんから借りた薄い本と同じシチュエーションだ…」

 

「「…?」」

 

 

リュー?

 

薄い本?

 

レフィーヤの独り言に、俺とヴェルフは互いに首を傾げる。

 

 

 

「あ、あの!本当にカズマさんが攻めで、ヴェルフさんが受けなんですか!?」

 

 

「おいちょっと待て。おまえどんな本を読んでるんだ!ていうかリューもそーゆー趣味なの!?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでヘファイストスの神室へ到着。

ヘファイストスの神室は、ロキの神室に比べて物が多い。

と言うのも、ヘファイストス自身、鍛治職人としての一面を持つために、材料やら工具やらが部屋に多く存在しているのだ。

 

「ぐえ!?か、カズマ…。なんで貴方が此処に…」

 

「おい。ヴェルフと同じ反応をするなよな」

 

俺の来客に訝しげな表情をするヘファイストス。

なんだってココの奴らは決まって俺を邪険に扱うんだ。

このファミリアには変に手を出していないだろうが。

 

「…貴方が変なスキルで武器の修理依頼を格安で受けるから、私たち本職の修理依頼が減っているのよ」

 

だそうです。

 

確かに以前、器用貧乏(ユーザビリティ)のスキルで小金稼ぎがてら、武器の修理なんかもやってたけどさ…。

 

「純利益が15パーセント減…、これはロキ・ファミリアの悪質な嫌がらせと受け取っているわ」

 

「マジでウケる」

 

「ウケないわよ!」

 

そんなヘファイストスの小言をケラケラと笑い飛ばしながら、俺は本題に移るために来客用のソファーに腰を下ろす。

 

「レフィーヤも座れよ。ヘファイストス、熱々のお茶をくれ」

 

「ぐっ…、本当に貴方は神を何だと思っているの…」

 

やはり小言を残しながら、最低限のおもてなしとしてヘファイストスは湯呑みを2つ用意し、俺とレフィーヤの前に置いた。

 

隣におずおずと座ったレフィーヤは、何度も何度もヘファイストスへ頭を下げる。

 

「粗茶ですが」

 

「粗茶かよ」

 

「……。それで?今日はどんな用件かしら?」

 

「あぁ、ちょっと武器を作ってもらいたいんだよ」

 

「武器?それなら下に椿が居るから彼女に言えば?」

 

「椿には頼めないんだ。あいつにはもう、アマゾネス用の裸鎖かたびらを頼んでる最中だからな」

 

「…なぜ貴方がアマゾネス用の鎖かたびらを依頼するのよ」

 

あ?

歓楽街の強気なアマゾネスに装着させるために決まってんだろうが。

 

「でだ、椿が無理となると、後はもうおまえしか居ないだろ?」

 

「…確かに、レベル7である貴方の要求装備を打てるのは椿以外に居ないけど…」

 

「神が作った武器って神器とか呼ばれるんだろ?やっぱりブランドって大切だよな。売る時も高値になるし」

 

「その理由は聞きたくなかったわ…」

 

神器を操りし炎髪灼眼の討ち手。

 

名前はカズマ。

 

…いい。すごくいい!

 

 

その後、ひとしきりの説明をすると、ヘファイストスは頭に手を置きつつ、俺の要求する武器性能を羊皮紙へと書き写していった。

 

値はいくら張っても構わないが、とりあえず格好の良い奴。

 

重要なのはコレな。

 

 

「…はぁ。本当に、貴方が都市最恐のレベル7だなんてね…。世も末よ」

 

「それで?俺の武器は打てそうか?」

 

「……む。舐めてもらっちゃ困るわ。私を誰だと思っているの?」

 

「ご近所の鉄打ちおばさん」

 

「おまえぶっ殺すわよ?」

 

「冗談だよ」

 

一つ、ヘファイストスが大きな溜息をワザとらしく吐き出し、俺と同行するレフィーヤへ向かって問いかけるように呟いた。

 

 

「…多少値段は高くなるけど、作れなくはないわ…」

 

「作れなくはない?」

 

「ええ。正確に言えば、材料さえあれば作れる」

 

「おお。それなら材料は俺が持ってくるよ。フレイヤん所にアダマンタイトがあり余ってるからな」

 

「…いいえ。貴方がフレイヤの所で保管している上質なアダマンタイトでは作れないわ」

 

 

ほう…。

俺が深層でちょいちょい採取してきたアダマンタイトでは役に立たないと。

 

自慢じゃないが、俺の集めたアダマンタイトの数々は、そこらの鍛治職人が所有するアダマンタイトにも引けを取らない品質の物ばかりだ。

 

それをも上回るアダマンタイトが必要となると、つまりはーーー

 

 

「超スーパー最上級のアダマンタイトが必要になるわ!!!」

 

「…なにそのバカっぽい言い方…」

 

「ぁぅ」

 

 

おそらく、ヘファイストスが言いたかったアダマンタイトとはとある層で取れるアレであろう。

 

ヴァルガング・ドラゴンが練り歩くあの層では、黒鉛に塗り潰された壁から採取できると言われるアダマンタイト。

 

 

 

「58層か…。うしっ、レフィーヤ行こうぜ」

 

 

「うぇぇ!?わ、私、50層までしか降りた事ないのに!?」

 

 

 

 


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