「神様ーー!カズマさんが来てくれましたよー!!」
ベルの大声が、廃墟と化した教会の地下に鳴り響く。
見渡せば、所々に生活臭を感じるのは、恐らくベル達が…、ヘスティア・ファミリアがホームとして使用しているからだろう。
発足したてのファミリアってのはやっぱり金が無いのか、ヘスティアは今も尚、じゃが丸くんの売り子として働いているらしい。
「おお!カズマくん!ようこそボクとベルくんの愛の巣へ!」
「小汚い愛の巣だな。それよかベルに聞いたぞ。おまえ、ベルにダンジョンの事を何もおしえてないだろ?」
ギクっと、ヘスティアは俺の言葉に肩をビクつかせる。
ダンジョンで出会ったベルは、無謀にもほぼ無防備な状態で6層へ訪れていたのだ。
そこで襲われたミノタウルスに手も足も出ず、危うく殺されるところを俺とベートによって救い出された。
…今更だけど、ジャージ姿でダンジョンに行ってた俺って相当な狂人だったんだな。
「ベル。ギルドには話を通しておいたから。明日はダンジョンに行かないで、ギルドでエイナって言うエルフのお姉ちゃんに声を掛けろよ?」
「はい!」
「で、ヘスティア。おまえ、所持金はどれくらいある?」
「ぬ!?ま、まさかベルくんの授業料だとか言ってボクから金銭を巻き上げる気かい!?」
「違げえよ!ベルに最低限の防具と武器を買い揃えてやれよ!」
「むむ!そ、そうしたいのは山々の山々なんだけどね…、た、たはは、ボクのアルバイトだけじゃまだ少し足りなくて…」
俺はヘスティアの言葉にわざと大きな溜息を吐く。
まったく、ダンジョン舐めんなよ。
武器はともかく、防具は揃えてやらないと、浅層のモンスターにすらボコボコにされちゃうんだぞ…。
「…はぁ。初期の防具くらいは俺が揃えておいてやる」
「そ、そんな!悪いですよカズマさん!僕、自分の装備くらい自分で買いますよ!」
「子供が遠慮するなよ。ダンジョンでの冒険者は独任主義だが、都市に戻れば持ちつ持たれつだ」
「う、うう…、か、カズマさん…っ、あ、ありがとうございます!」
「うんうん。とりあえず、明日はダンジョンに行かずにエイナに知識アレコレを教えてもらってこい」
「はい!」
俺はベルの頭を2度3度撫でてやりながら、神らしい事が出来ずに落ち込むヘスティアへ声を掛けた。
「良い子供を見つけたんだな。良かったじゃないか」
「ふふん!ベル君は自慢の子供だよ!」
「真っ白で純粋、危なっかしい所もあるが、ベルはきっと強くなるよ。それこそ、アイズやフィンにも負けないくらいにね」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。まぁ、俺を超えるのは難しいかもしれないけどなー」
おふざけ半分な口調でベルをからかう。
その言葉に、ベルもトホホと項垂れながら笑顔を見せた。
…おふざけは半分。
ベルの輝きはホンモノかもしれないな。
イレギュラーな俺を置いておけば、アイズやフィンに負けない輝きを持っている。
フレイヤに言わせれば、ベルはーーーー
「……英雄の器…か…」
.
…
……
………
「ただま〜」
ヘスティア・ファミリアを訪問後、俺は早速ベルの防具を調達すべく教会跡地を後にした。
取り急ぎ、必要な金はロキ・ファミリアホームの自室で管理している分でも十分に足りるだろうと、俺は黄昏の館へと戻る。
「ただまって何よ。ただいまでしょ」
おろ?
出迎えがティオネとは珍しい。
この非常識アマゾネスは普段、ダンジョンに居るか、フィンの部屋へ凸ってるかなのに…。
「なんだよティオネ。おまえが応接間に居るってのも珍しいな…。一瞬ティオナの胸が膨らんだのかと思ったぞ」
「ふん。団長がダンジョンに行ってて暇だっただけよ」
聞けば、ティオネは先日の深層遠征で耐久値の落ちた湾短刀を修理に出しているらしく、フィンに付いて行けなかったのだとか。
「レフィーヤは?アイズとティオナも」
「あの子達なら街へ買い物へ行ったわ」
「へえ。そんじゃティオネでいいや。ほれ、出掛けるから準備してこいよ」
「は?」
「バベル行こうぜ。防具を買いに行くから付き合ってくれ」
「……。なんだか、レフィーヤ達の代わりみたいで癪なんだけど…」
「正確には、レフィーヤの代わりのアイズの代わりのティオナの代わりのティオネだけどな」
「あんたぶっ飛ばすわよ!?」
激しく俺の胸倉を揺するティオナ。
それと一緒にティオナの大きな胸も上下に揺れていた。
おぉ、これが体感型のおっぱいVRって奴か…。
悪くない…。
「…うん。やっぱりティオネはイイね。本当にイイ物を持ってるよ、おまえ」
「あんた、どこ見て言ってんのよ…」
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結局、私はカズマに半ば強引に連れ出されホームを出たのだが、考えてみれば、カズマが防具を買いに行くとは珍しい。
深層へ行くにもサポーター顔負けなリュックサックを背負うのみで、身体を守る防具類は必要最低限な物しか身に付けていないのに。
…デストロイヤー戦で少し痛い目にあったのが堪えたのかな?
……。
いや、コイツがそんな一般的な感性を持っているとは考えられない。
……?
「ねえカズマ」
「なんだよ?」
噂には聞いていた、じてんしゃたる乗り物で移動しつつ、私はカズマの背中に尋ねた?
「防具を買うって、あんたの防具は壊れても傷んでもないじゃない」
「あー?まあなー。だって買うのは俺の防具じゃねえし」
「…誰かへのプレゼント?」
ギーコギーコとじてんしゃを漕ぐカズマの背中が、私の言葉に少しだけ笑った。
「あはは。何おまえ、もしかしてまだ俺の事を疑ってんのか?」
「……」
カズマはやはり笑いながらじてんしゃを漕ぎ続けた。
疑ってしまう自らが抱くほんの少しの背徳感。
私はカズマの言う通り、カズマを少しだけ疑っている。
ライバルファミリアの主神、フレイヤと共に酒を囲んでいたカズマ。
あの光景は、少なからず団員達に疑惑を匂わせただろう。
暗黙の了解ではあるが、冒険者は自身の所属するファミリアの主神以外の神と、必要以上に仲良くしてはいけない。
カズマの事だから偶々仲良くなったで話は済んでしまったが、それでもやはり、私は彼が私達を裏切るんじゃないかと不安になってしまう。
……こいつは、言いたくないけど頼りになるから…。
この大きな背中が私達を置いて、他の何処かへ行ってしまったらと思うと…。
少しだけ怖くて、不安で、寂しいから…。
その不安を払拭するように、私はカズマの背後からお腹に回していた腕に力を込める事しか出来ないんだ。
「ロキには拾ってもらった恩もあるし、フィンやアイズ達には世話にもなった。特にティオネ、おまえにはすごく助けられてるんだよ」
突然に、彼は優しい言葉を呟いた。
その声音はまるで団長のように暖かくて心強い。
「…わ、私…?ふ、ふん!そんな優しい言葉で私を懐柔しようだなんて3年早いわよ!」
「はいはい。それでも、世話になってんのは事実だし、人で無しだとか下衆だとかと言われちゃいるが、俺だって恩義くらいは返したいと思ってる」
世話になった私への恩義?
恩義を返すって、ま、まさか…。
今から買いに行く防具は、私へのプレゼント…!?
「夜のオカズはおまえしか考えられん。これからもお世話になります」
「…おまえまじで下半身チョン切るぞ?」
「ちなみにこれから買いに行く防具はおまえへのプレゼントでもないからな。勘違いすんなよ」
「クソが!!てめぇにトキメキ掛けた数秒を返せバカ!!」
.
…
……
ーーーーで。
到着したバベルで防具を買うべく、私はカズマの後を追う。
道中に色々とあったせいで疲れてしまったなぁ。
もうさ、カズマなんて放って置いてダンジョンで憂さ晴らしでもしようかな。
カズマって少しコボルトに似てるし、コボルトを惨殺すれば気も晴れるかもしれない。
「ねえねえコボルトー」
「おまえ自然に俺をコボルトと呼ぶんじゃねえよ」
「あ、ごめ。それでさ、結局誰の防具を買いに来たの?あんたのってわけじゃないわよね?」
カズマはバベルへ入るや、ヘファイストス・ファミリアの防具店へ向かったのだが、そこはどう見ても新人御用達の安価な物を取り扱う店ばかりのフロアだった。
流石に、貧弱な第1級冒険者であるカズマでも、ここの防具で身を守ろうとは考えられまい。
「ん。少し危なかっしい新人冒険者の防具だよ。まだファミリアも創設されたてだから金もねえんだとさ」
「はぁ!?あんたもしかして、フレイヤ・ファミリアだけじゃなく、他のファミリアにも出入りしてんの!?」
「悪いのか?」
「悪いに決まってんでしょ!私達は冒険者なの。弱い奴は死ぬ。強い奴は生き残る。ここはそういう場所よ。そんなお金も地位も無いファミリアに肩入れする義理も無いわ」
一瞬にして沸騰する頭。
フレイヤ・ファミリアとの件もまだ流せていないのに、カズマは他のファミリアの新人に防具を買ってやると言うものだから。
私は多少の怒りを込めて捲し立てた。
「あはは。ティオネ怖ーい。まるで怒り狂ったリザードマンみたい」
「ふざけんな!」
「…お、落ち着けよ。何をそんなに熱くなってんだ…」
「…っ!あ、あんたはロキ・ファミリアの一員でしょ。それなのに何で他のファミリアに…」
「もう!うるせえなバカ女!!おまえだってもしもフィンが別のファミリアに居て、ダンジョンで死に掛けてたら助けるだろ!?」
「そ、それは、恋は盲目と言うか…、って、それなら何であんたは、さっきから男物の防具ばかり見てるのよ!?」
「ぐっ…」
ふ、ふふ!
論破したったわ!
あのカズマを、私は論破してやったわ!!
稀に見る僥倖よ!
私はカズマに勝ってしまったのよ!!
「ぷーくすくす!カズマ、言い返せるものなら言い返してみれば?もう、あんたに逆転の材料は残されていないけどね」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「これに懲りたら2度と私に楯突かない事ね!!」
「……っ!…スティーーール!!」
「ほぇ?」
カズマは突然に右手を振りかざすと、聞いた事の無い魔法を詠唱し始めた。
すると、右手は光に包まれていき、次第にその光は淡く散りゆく。
そして、彼の右手にはいつの間にか握られていた黒い布。
……あれ?
なんだか見覚えがあるような…。
それに、スカートの中がいつもよりスースーするような……。
「ティオネのパンティーゲーーーット!!!」
「!?」
「まだ温もりのあるアマゾネスの下着だぞ!!おらぁーー!臭いを嗅ぎたい奴から手を挙げやがれーー!!」
一斉に私達の喧騒へ振り向く男冒険者供。
そいつらの視線の先には、今の今まで私が身に付けていた黒の下着を手に掲げるカズマの右手。
「ま、待ちなさいよ!何よ今の魔法っ!ちょ、やめっ!振り回さないでっ!!」
「おっと!動くなよティオネ!次はおまえの身包みを全て奪ってやってもいいんだからな!!」
「くっ…う、ぅぅ…、か、返してよぉ…」
「それなら2度と俺に楯突かないと誓え!」
「ぅ、ぁぅ…、わ、私は…」
「いいのか!?この少しだけ汗の香りを含むパンティーを売り飛ばしても!?」
「っっ!?!?わ、分かったわよ!分かりました!!」
「ふん!それならこうべを垂れて誓いやがれ!私をカズマ様の性奴隷2号にしてくださいとな!!」
「くっ、くっそぉ…….」
カズマは膝を突く私を見下しながらパンティーをヒラヒラと舞いらせる。
周囲の冒険者はその光景を興味津々に眺めていた。
こんな羞恥…っ、た、耐えられない…。
私は地面に頭を付け、カズマに向かって泣きながら叫んだ。
「か、カズマ様…、っ、わ、私を、カズマ様の性奴隷2号にしてくださいっっ!!!」