この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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無垢なお酒にさよならを

 

 

 

 

 

 

吹き抜ける風が俺の頬に当たった。

 

俺はその風上を見つめるも、そこには夕暮れ時の街並みと、それに伴う雑踏しか見られない。

 

ふと、少し視線の低い所で、小さな白兎が俺とフレイヤの前を走り抜ける。

雑踏にひしめく喧騒の隙間を縫うように走り抜けていった白兎。

 

走れ走れ。

 

ガキは走って転んで怪我をするのが仕事なんだからよ。

 

「可愛らしい子ね。貴方とは正反対」

 

「あぁ、純白な子供だったな。おまえとは正反対」

 

何がそうさせたのか、俺もフレイヤもその白兎の後ろ姿を見つめながら互いに罵詈雑言を浴びせる。

小さな、と言ってもそれは身長が低いだけであって、白い少年の年齢は俺やアイズとそう変わらないだろう。

ただ、見た目も雰囲気も子供同然の少年のようは、お世辞にも冒険者には見えない。

 

「すごく綺麗な輝き…。貴方の所の剣姫のようね」

 

「はいはい。そういう神感出すのやめてくれる?なんかウザいから」

 

「ちょっと!何よ神感って!?」

 

「…まぁ、アイズに似てるってのは少し分かるけどな」

 

風貌や潜在的な能力が似ていると言うわけではなく、どこか纏う雰囲気と言うか…。

本当になんとなくだが、心の底に眠る信念のような物が似ている気がする。

 

「分かったわ!」

 

「え?なにが?」

 

「じゃんけんの必勝法よ!」

 

「……あぁ、そう…」

 

「ふふ。隙を与えぬ二段構え…。後から手を変える愚考の方法よ!」

 

「ただの後出しじゃねえか!」

 

そんな風にバカの相手をしている隙に、白い兎のような少年の姿は街中の雑踏に消えていってしまった。

 

まぁ、本当にあの白いのがアイズに似た何かなら、そのうちダンジョンなりギルドなりで会えるだろう。

 

「はぁ。もう帰っていいぞバカ」

 

「え!?本当に!?」

 

「うん。バカの相手は疲れたし。帰ってやらなきゃいけないこともあるし…」

 

「わーい!やっと解放されたわ!」

 

両手を上げて喜ぶフレイヤ。

プルン揺れる胸は良いオカズになりそうだ。

 

「…はぁ、今日は疲れた。はよ飲みに行こ…」

 

「飲みに行くの?ふふ、奢ってくれるって言うなら付き合ってあげてもよくてよ?」

 

「……」

 

「ちょっと!なんで無視するの!」

 

「……」スタスタスタ

 

「ちょっと!なんで早歩きでどこかへ行こうとするの!」

 

 

 

.

……

 

 

 

「「かんぱーい!」」

 

場所を豊穣の女主人に移してジョッキを打つける。

縁に付いた零れ落ちそうな泡を慌てて口に運び、グイグイとほろ苦いシュワシュワを喉に流し込んだ。

 

「くはぁーー!うめぇ!どこの世界でも酒のうまさだけは変わらないな!」

 

「数百年の時を共に過ごしてきたお酒…。この子だけは私を裏切らないってものよ!」

 

豪快に笑い合う俺とフレイヤ。

すると、口元に泡を付けたフレイヤがあたふたと働くウェイトレスを呼び止める。

 

「これ!これを3つ…、いや4つちょうだい!」

 

「おいおい!美の神がそんな食って大丈夫かー?」

 

「ぷーくすくす!アルコールには脂肪を燃焼させる効果があるのよ!」

 

「そっかそっか!それならじゃんじゃん食え!」

 

ミノタウルスの硬筋肉を使った唐揚げをほむほむと頬張りながら、フレイヤはケラケラと笑ってシュワシュワを傾けた。

 

うむ、今日は悪酔いするエセ関西弁も、説教を垂れるアホエルフも居ない。

 

良いお酒の日だ!

 

「よっしゃあ!今日はガンガン飲むぞー!おらー!リュー!この世の酒を全て持ってこい!」

 

「あとモツ煮と串焼きの盛り合わせも!」

 

「お!良いチョイスじゃねえか!」

 

「ふふん。もっと褒めてくれても良いのよ?」

 

「よーし偉い偉い!肥やしの神様はエロいし偉い!」

 

「むふーーー♩」

 

小さな頭を少し乱暴に撫でてやると、フレイヤは満更でも無いような顔で鼻息を荒くした。

 

アルコールの巡りが気持ち良い。

 

フレイヤも顔を赤くさせて上機嫌に酒を仰ぐ。

 

そんなアルコールに飲まれて陽気に肩を組み合う俺とフレイヤを、ウェイトレス達がゴミでも見るかのような目で見ていることなど気にしない。

 

おいおい。俺はデストロイヤーを倒した街の英雄だぞ?

 

感謝はされども恨まれる筋合いは無い!!

 

「酒だー!酒を持ってこーい!」

 

「私も!このお店で1番美味しいお酒をちょうだい!!」

 

「……」

 

と、俺とフレイヤがリューを呼び止めた時に、店の扉が乱暴に開けられた。

 

「あ?カズマじゃねえか。おまえ、ダンジョンにも行かねえで何やってんだ?」

 

現れたのは一人ぼっち狼のベートくん。

彼はいつも1人っきりでダンジョンに行き、1人っきりでご飯を食べ、1人っきりで修行に励む。

 

とても可哀想な子だ。

 

「う、うぅ、ベート…。今日も1人ぼっちで飲みにきたのか?」

 

「お、おい。なんでそんな哀れみな視線を向けやがる…」

 

「大丈夫。大丈夫だから。こっちで一緒に飲もう…。な?」

 

「い、言っておくが1人じゃねえぞ!?後からフィン達も来るからな!?俺は1人じゃねえ!!」

 

そうかいそうかい。

そうやっていつも苦しい言い訳をしているんだね。

 

まったく、哀れな狼だよ……。

 

 

む…?

 

 

「おまえ今なんつった?」

 

 

そう、ベートに尋ねたと同時に、店の扉を開けた大所帯が店内へとなだれ込んで来る。

 

 

「やぁカズマ。こんな所で会うなんて奇遇だね」

 

 

その大所帯を引き連れた1人の少年、のような体躯と瞳を持つ勇者様、コメカミに青筋を立てたフィンが現れた。

 

ふぇぇえ、フィンくん激おこだよぉぉ。

 

「ちょっとカズマ!このお酒に合うおつまみは何かしら!?」

 

黙れフレイヤ…。

 

「僕の記憶違いじゃなければ、今日はダンジョンへ行くと言っていなかったかい?」

 

「あー、そ、それな。いやぁ、アレだよ。さっきまではダンジョンに居たんだよ。ちょっと早めに切り上げただけ」

 

「ぷーくすくす。何を言ってるのよカズマ!貴方は私とずっと一緒に居たじゃない!ダンジョンになんて行っていないわ!美の神として誓ってあげる!」

 

「おまえは黙っとけよ豚が!」

 

「酷いっ!ぶ、豚は酷すぎるわ!」

 

と、俺の言葉にフレイヤが涙を浮かべながら抗議しようとした時、その光景を静観していた笑顔のフィンは、拳で酒やおつまみで溢れる机を激しく叩いた。

 

「「っ!?」」

 

「カズマ…。聞きたいことは沢山ある。僕にウソをついてまで出掛けた理由。ロキから聞いた神会の話…。なにより、なぜキミはライバルファミリアの主神と共に酒を飲んでいるんだ!?」

 

拳が鳴らした衝撃音に目を丸くする俺とフレイヤ。

 

すると、フィンの背後に構えていたロキ・ファミリア団員の1人から抗議の声が上がった。

 

 

「…裏切り。カズマは、裏切り者。…みんなで、簀巻きにしてボコボコにしなきゃ…」

 

 

…アイズ…、おまえ何を素知らぬ顔してエグい事を言ってんの?

なに?もしかしてこの前、花鳥風月でずぶ濡れにしたことを根に持ってるの?

 

 

「足らんな。私の最大火力の魔法で滅却してやろう」

 

 

トチ狂ったのリヴェリア?

おまえが詠唱を始めたらすぐさま俺のエクスプロージョンが火を噴くぞ?

 

てか、何でこいつらはこんなに怒ってるんだよ…。

 

「待て待ておまえら!俺がダンジョンに行かず、街ぶらして飲み歩くなんて日常茶飯事だろ!言わせんな恥ずかしい!」

 

「「ぐぬぬぬ」」

 

はい論破。

下がれ下がれバカ親子。

 

すると、胸の大きいティオネが悔しげに歯をくいしばるバカ2人に代わって前に出てきた。

 

ティオネは明らかな憎悪感をむき出しにしながら、俺を見下すように仁王立ちで睨み付ける。

 

「あんた、分かってんの?」

 

「は?」

 

「あんたは私達の信頼を失ったのよ」

 

「もともと信頼なんてされてなかったろ!!」

 

「ぐっ…、わ、私は少しだけ信頼していたわよ!」

 

「ウソだっ!!!」

 

「な、なによ…」

 

ティオネの威勢が良かったのは最初だけ。

俺が少し強く詰め寄ると、ティオネは驚いたように肩を震わせた。

 

「おまえ、最近は風呂に入るときに脱衣所の鍵を締めるようになったろ!!」

 

「ぐっ…」

 

「裸族の癖して恥じらいなんぞ持ちやがって!」

 

「ぅ、ぅぅ、ら、裸族じゃないもん…」

 

「アマゾネスの恥晒しが!ティオナを見習え!ティオナは鍵どころか扉すら半開きだぞ!」

 

無防備なティオナは無い乳ながらもアマゾネスとしてしっかりと役目を果たしている。

風呂どきになれば半開きになった扉から見える湯けむり越しのティオナに、俺の下半身はエクスタシーなわけで。

 

胸は自分で揉むと膨らむよ。

 

って言ったら、次の日から夜な夜な寝る前に胸を揉むようになったティオナは、おっぱいは無いけど少し可愛らしい。

 

「本当におまえは胸だけの女だな」

 

「ぅ、うぇぇ〜ん」

 

俺の言葉に傷付いたのか、ティオネは弱々しく腰を曲げて引っ込んで行った。

 

俺に逆らうなんて100年早いんだよ。

 

このクソ文明で生きてきた時代錯誤な勘違い冒険者共が、少しばかり腕っ節に自信があるからといって偉そうに言うなっての。

 

ファミリアの暗黙の了解だの、オラリオの共通認識だの、訳の分からんしがらみに俺を巻き込むな。

 

そう思いながら大所帯から目を逸らしてシュワシュワを喉に流し込む。

 

 

ふと、そんな剣呑な空気に吹く甘い香り。

 

 

小さな彼女は不安気な表情で、泣きそうな瞳を向けて呟いた。

 

 

「か、カズマさん…」

 

「…っ、レフィーヤ…」

 

 

群勢から頭一つ小さいレフィーヤ。

 

ど、どうしてそんな悲しそうな顔をしてるんだよ…。

 

誰だ…。

 

誰だよレフィーヤを悲しませたのは…っ!

 

 

「カズマさん…、改宗するつもりなんですか?」

 

「…おいでレフィーヤ。可愛いお顔が涙で台無しだよ?」

 

「…っ」

 

「小さな小さなレフィーヤを残して、俺が改宗なんてするわけないだろ?」

 

「っ、ほ、本当ですか?…あの、それじゃあどうして、フレイヤ様と…」

 

 

俺はレフィーヤの涙を指で拭き取ってやり、そのまま頭を優しく撫でてやる。

 

いつものように、頭を撫でられると目を細めるレフィーヤの可愛い癖。

 

可愛い可愛いレフィーヤ。

 

そんなに可愛い顔で悲しまないでくれ。

 

 

「…分かった。つまり、レフィーヤを悲しませてる原因はフレイヤなんだね?」

 

 

俺はフレイヤの首根っこを掴み

 

 

「へ?え?何?…あ、ちょっと冷たくて気持ち良いかもぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

「ドレインターーーッチ!!!」

 

 

「ちょっ!?や、やめて!?何なのこれ!いや!あっ!ち、力が…っ!神の力が抜けるぅぅぅぅ!!」

 

 

「レフィーヤを悲しませる悪の根源め!!その胸に詰まった脂肪もすべて吸ってやる!!!」

 

 

 

「ああぁぁぁぁっ!わ、私は何もしてないのにぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 


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