この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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無粋な夕日に思い出を

 

 

 

 

 

 

情報を基に乗り込んだ場所では、何やら悪巧みに笑みを浮かべる悪辣な密猟団の冒険者がニヤニヤと大枚を数えている最中だった。

おそらく、ゼノスを貴族に売り飛ばして得た金であろう。

そいつらは俺に気付くや「…?…っ!か、カスのカスマ…っ!?て、敵襲だ!全員戦闘準備!!」と、慌てた様子で武器を構えた。

 

数は多いがモンスターほどの脅威は無い。

 

俺は特に、そいつらと言葉を交わすこともなく、すぐさま閃光玉を地面に叩きつけた。

さらに、光の眩さに目を手で覆うアホどもへ、俺は牽制の意を込めた唐辛子入り激痛弾を投げつける。

 

痛い痛いっ!

 

ふん!売り飛ばされたゼノス達に比べたら、そんな痛さは屁でも無いんだからね!

 

だからと言わんばかりに、俺はさらに倍プッシュ。

しまいには土下座で許しを請う密猟団に、俺は条件付きで許してやると約束を取り付けた。

 

一つはゼノス達の売り飛ばされ先を教えること。

 

もう一つは今後、ゼノスに手を出さないこと。

 

そして、密猟団がその条件に渋々頷いたのを確認し、俺は少しだけ冷ための花鳥風月で、奴らの身体から刺激による痛みを洗い落としてやったのだった。

 

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

 

で。

 

俺は外で待たしておいたフレイヤに声を掛け、街へ戻ろうと伝えたところでーーー

 

「もう足が痛いの!カズマが私を待たせるからよ!罰として私をおんぶしなさい!」

 

「ふざけんな贅肉ババァ!」

 

「ば、ババァですって!?ちょっと表に出ろコラァぁぁ!」

 

第2ラウンドの鐘が鳴ったのだった。

 

「そもそもおまえがちゃんと魅了を掛けてれば余計な時間は使わなかったんだぞ!」

 

「そ、それは仕方がないのよ…。さっき吐い…、ご、ごほん。神のリバースによって、私の神力が低下してしまったから…」

 

「おまえがゲロ臭いからアイツらに魅了が通じなかったんだな!?」

 

「あーっ!ゲロ臭いって言った!そもそも貴方がお腹の紐を引っ張ったせいじゃない!責任転嫁は止してちょうだい!」

 

「てめぇが引っ張れって言ったんだろうがぁぁぁ!!」

 

青空の下で響き渡る喧騒。

俺が怒りに任せてフレイヤの髪を引っ張ると、フレイヤも負けじと俺の頬をつねった。

 

「い、痛いっ!髪が!神の髪がーー!!」

 

「このヤンデレデブ女が!二度と偉そうにするなよ!?」

 

「ぁぅ〜、わ、分かったわよ。分かったから髪を引っ張らないで!」

 

「ちっ」

 

降参ですとばかりに涙を浮かべるフレイヤから手を離し、俺は街へ戻るべく前を歩く。

 

余談だが、密猟団の秘密基地は街から少し外れており、森を抜け川を渡り、なぜか長い階段を上った所にあった。

そら誰も見つけられんわ、と呆れつつも、長い階段に辟易とする。

 

「…はぁ。上るのも大変だったけど、下りるのも大変そうね」

 

とてとてと俺の後ろをくっついて歩くフレイヤが溜息を吐いた。

 

「それは同意。そうだゲームしながら帰ろうぜ」

 

「ゲーム?」

 

「うん。グリコのおまけ」

 

「ふふん。言っておくけど私、グリコのおまけには定評があるわ。子供の頃はグリコのフレイヤちゃんと呼ばれた程よ」

 

「それ、呼ばれて嬉しいの?」

 

「浅き夢見し神よ、私にジャンケンの幸福を与え給え…。ふふ、私はチョキを出すわ」

 

「は?」

 

「…いくわよ。じゃん!!けん!!ーー

 

「「ポン!!」」

 

俺、グー。

 

フレイヤ、チョキ。

 

「…っ!?わ、私がチョキを出したにも関わらず、カズマはグー…。お、おかしいわ!こんなの絶対におかしいわよ!!」

 

「ぜんぜんおかしくないだろ…」

 

「いつもみんな、私がチョキを出すと言えばパーを出してくれていたのに!」

 

「なんだよその接待グリコ」

 

「ぐぬぬ」

 

悔しがるフレイヤに背中を向け、俺は階段を下る。

 

「それじゃお先に。グーリーコーの、おっまっけっ!」

 

「やっぱりグーはお得よね。チョキやパーよりも一段多く進めるのだもの…」

 

「うん。だからフレイヤもグーを出すといいよ」

 

「む!それもそうね!2回戦いくわよ!じゃん!けん!」

 

「「ぽん!!」」

 

俺、パー。

 

フレイヤ、グー。

 

「パ!イ!ナッ!プ!ル!!…」

 

「ぐぅぅぅ」

 

「…?おいフレイヤ。どうしたんだよ…」

 

俺がトントンと階段を下り終え振り返ってみると、フレイヤは悔しそうに足踏みをしながら、手で目を覆っていた。

 

仕切りに漏れる嗚咽に、食いしばる歯。

 

どうやら、フレイヤは泣いているらしい…。

 

仕方なく、折角下った階段を上り、俺はフレイヤの側へと近寄る。

 

「…神のくせにジャンケンで負けたくらいで泣くなよ」

 

「ぅぅ…。な、泣いてないわよ…。ただ悔しくて目から涙が溢れているだけ…」

 

「それが泣いてるって言うんだろ」

 

夕暮れ時の階段で、ただの遊びにムキになるフレイヤの姿は、幼き頃の妹を思い起こさせる。

そんな姿に触発されてか、気付けば俺は、フレイヤの頭を撫でながら、少しだけ優しい言葉を投げかけていた。

 

「ほら、一緒に帰るぞ」

 

「嫌よ…。ジャンケンで勝っていないもの。此処から動くわけにはいかないわ」

 

「あはは。それじゃあずっと此処に居るか?夜になったらお化けが出て来てフレイヤのことを食べちゃうんだぞ?」

 

「ふ、ふん!お化けなんて私の力で浄化させてやるんだから!」

 

「はいはい」

 

目元を赤くしたフレイヤの頭をぽんぽんと叩き、俺はポケットに入れていた飴を一つ渡してやる。

素直にも、それを警戒しながら受け取ると、フレイヤはポイっと口に入れた。

 

「…甘い。美味しいわ」

 

「そっか。じゃあ、次のジャンケンが最後な?…ほら、俺はグーを出すぞ?」

 

「ほ、本当に?…ぁぅ、わ、わかったわ!最後の勝負をしてあげましょう!」

 

意気揚々と手を振り上げる姿は本当に幼い。

なんだか心がほんわかとしてくるよ。

 

俺もまぁ、少しだけ大人気なかったかな…。

 

 

「「じゃん、けん、ぽん!!」」

 

 

俺、チョキ。

 

フレイヤ、パー。

 

 

圧倒的なまでの勝利。

 

完膚なきまでの必勝。

 

敗北の味を知らない男の秘訣。

 

 

「ぷーくすくす!!残念だったなフレイヤ!!」

 

「な、な、な!?」

 

「ち!よ!こ!れーーーーーー!と!」

 

「ずるい!ずるいわよ!カズマの癖に!!」

 

 

もはや涙を隠す事なく、フレイヤは階段をすっ飛ばして俺の胸倉を掴みかかる。

 

 

「グーを出すと言ったじゃない!」

 

「ところがどっこい。俺はチョキを出した…。おまえはパー…。これが現実…」

 

「うわぁぁん!!バカバカ!カズマのバカー!!」

 

「ふふ。狂気の沙汰ほど面白い…」

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 

さてさて、先日の神会でカズマの話が上がって以来、ウチはカズマの事を注視していたわけやけど…。

 

ある時は中庭で鍛錬に励むティオネを空中回廊から舐め回すように見つめて1日を過ごしていた。

 

ある時は昼過ぎに起きるや、修行へ出掛けると偽りイシュタルの歓楽街へと赴き、獣耳はもはや国宝品だなと呟いていた。

 

ある時は昼間っから飲み屋で呑んだくれ、エルフのウェイトレスにちょっかいを掛けて泣かしていた。

 

……なんやねん。

あのアホは何がしたいねん。

 

ロキ・ファミリアに討伐ノルマなんてのは無いが、少なくとも自分の生活費くらいダンジョンで稼いでこんかい!

 

と、言おうにも、アイツはヘンテコなマジックアイテムを量産するや小金を稼いでくる。しかも、前回の深層遠征で得たデストロイヤー討伐の報償金もあるときた…。

 

くっ。

 

なんであんな人の皮を被ったクソみたいな奴が健全に金を稼いでんねん。

 

ほんまに隙があらへん…。

 

 

「……」

 

 

さらにや。

 

 

あいつ、デストロイヤー戦以来ステータスの更新に来ていない。

 

 

カズマ曰く

 

 

『レベルが上がっても得が無い。ロクな魔法も発現しない。おまけに貧乳に身体を触られる…。意味が無いじゃないか!!』

 

 

だと。

 

 

うぎぃぃぃ!

 

誰が貧乳やねん!

 

もっと崇めろや!

 

ウチは神やぞ!

 

どこぞのアクシズ教団の女神と一緒にすんな!!

 

……はぁ。

 

ただ、怒りに任せて椅子を蹴り飛ばした所で、なんの解決にもならない。

 

ウチやヘルメス、ウラノスをも出し抜かんカズマの行動。

次は何をする気や?

ほんまに神をも陥れる何かをする気やないやろうな…。

 

いや、少なくとも。

レフィーヤやアイズの事を、身体を張って守った男や。

道理の通らない事はしないと思うが…。

 

 

一つ、怪しむたるや行動を上げるなら。

 

 

「リヴェリアと行ったダイダロス通りの孤児院…」

 

 

…あいつは孤児院に行って子供と遊ぶような奴か?

じゃが丸くんの差し入れまで持って…。

 

いや、子供達が喜んでカズマに寄って来た光景を見ると、いらぬ疑いを掛けている自分に辟易とするが。

ただ、疑うべくは髪の毛の一本から。

カズマらしからぬ行動には全てを疑いを掛けな、また出し抜かれてまう。

 

はて、カズマは孤児院の子供達と遊んで何を企んでいる?

 

…子供達…。

 

…。孤児院…。

 

ダイダロス通り…。

 

そういえばあそこは、偉大な工匠とまで呼ばれたダイダロスに寄って建造された、言わばダンジョンとは違う人造のダンジョンだ。

ウチら神でさえも把握しきれない隠しギミックを残し、挙句には未完成だと言うダイダロス通りは、今尚、未知を冒険者に与え続けているのだろう。

 

…ダイダロス通りで何かに気が付いた…?

 

見つけたギミックが、孤児院の敷地内にあるとすれば、カズマが孤児院へ頻繁に訪れる理由にもなる…。

 

 

 

 

「…こりゃけったいな事になるかもしれんな…。気は乗らんけどフレイヤにも協力を仰ぐか…」

 

 

 

 

 

 


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