この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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侵略!バカ娘!
美しい魅了に反逆を


 

 

 

 

 

「んぁ〜〜〜。んっ、うっ…。はぁ〜〜〜」

 

この街で最も空に近いバベルの塔から、私はオラリオの街を見下ろす。

腰痛を和らげるマッサージ機の振動と、膝に掛けたブランケットの暖かさ。

そして、この前にロキからお詫びとして頂いた紅茶を横に置き、私は今日も今日とて下界を見守るのだ。

 

「…んぁぁ、気持ちぃぃ〜」

 

「……おまえ、少しは働けよ」

 

「何よ。しっかり働いてるじゃない」

 

「そうは見えねえけど」

 

「うるさいのよ!この私に話し掛けるなんて万死に値するわ!分かったら早く紅茶のお代わりを持ってきなさい!」

 

「よしぶっ潰そう。そのマッサージ機ごとお前のことをぶっ潰そう」

 

「あっ!やめっ!嫌!私がどうなろうとマッサージ機だけは壊さないで頂戴!」

 

このマッサージ機は、美の神である私にとって必需品なのだ。

それが壊されようと言うものなら黙っていられない。

相手が例え、最恐最低のカスマさんであろうとも、私はこの子を守ってみせるわ!

 

「ブレイクスペル!」

 

「んぇ?あぁ!動かなくなった!ちょっとカズマ!あなた何をしたの!?」

 

「マッサージ機を動かしてる動力の魔石から魔力を消したった」

 

「う、うぅ…。返しなさい…。私の子供を返しなさいよ!!」

 

「マッサージ機を子供と言うんじゃねえ!」

 

げしげしと、カズマは追い討ちを掛けるように私へアダマンタイトで作ったガラクタを投げつける。

 

や、やめて!マッサージ機が壊れちゃう!

 

「…ぁ、私のマッサージ機が…」

 

「…お、おまえ、それくらいで泣くなよ。…ほら、新しい魔石を入れれば動くから」

 

「…あ、ありがと」

 

私はカズマから魔石を受け取り、力を失ったマッサージ機にそれを入れた。

 

「動いた…。動いたわ!ありがとうカズマ!」

 

「…なぁ、フレイヤ…」

 

「?」

 

「おまえ、少し太ってないか?」

 

「!?!?」

 

…ふ、太ってないか?だと…。

そんな筈がない。

私は神からも崇められる程の美を持ち、女神からも羨ましがられる才の持ち主だ。

そんな私が、そんな完璧な私が…、太るわけがない!!

 

と、カズマは驚愕に目を見開く私へ近づき、おもむろに、私の二の腕をツンツンとする。

 

「ほら、二の腕がプニプニしてる」

 

「ち、違うわ!これはマッサージ機による副作用で…」

 

「まぁ、痩せすぎよりは良いかもしれんがな。でも、おまえって一応は美の神なんだろ?」

 

「一応じゃない!立派な美の神よ!」

 

この美の神フレイヤに向かって何たる戯言かしら!

カズマのくせに!

 

「それに!太ったと言ってもそれは誤差の範囲よ!朝は身長が高くなるみたいな感じの奴ね!」

 

「…ほう」

 

「ぷーくすくす。カズマったら私を慌てさせようとして。美の神を舐めないことね」

 

「それじゃあ試してみるか?」

 

「へ?」

 

カズマは何やらポケットから取り出し、私にそれを差し出した。

 

「これは数ヶ月前におまえが身に付けていた下着だ」

 

「そ、それ!私のお気に入りだったやつじゃない!どうしてカズマが持っているの!?」

 

「これを履いてみろ。さすればおまえの変化は如実となろうぞ」

 

「むむ…。へぇ、良い度胸ね。この私に勝負事を持ちかけるなんて。ふふ、いいわ。乗ってあげる。その代わり、私が勝ったら、あなたは一生私の下僕になること。分かったわね?」

 

「おう。俺が勝ったら俺の奴隷な。はい、じゃあ履いてみ」

 

「……」

 

「……」

 

「……あの」

 

「なんだよ」

 

「み、見られていたら履けないのだけれど…」

 

 

.

……

 

 

で。

 

履いてみた結果。

 

「は、履けたわ」

 

「ぷ。贅肉がめっちゃ乗っかってる」

 

「ち、違うわよ!これは、あの、ちょっとアレがアレで…」

 

「俺の勝ちだな。断言してやる。おまえは間違いなく太った!!!」

 

「ぐわぁぁ…」

 

ズビしっ!とカズマに指差された私の贅肉は、間違いなく数ヶ月前のそれよりも主張を強くしていた。

 

どこで何を間違えたの…っ。

 

私はただ、このマッサージ機に座ってお菓子を食べて紅茶を飲んでいただけなのに!!

 

すると、絶望に打ちひしがれる私の肩に、カズマが優しく手を置いた。

その手から伝わる温もりは、まるで聖母のごとく、私の胸に広がった冷たい何かを取り除く。

 

「か、カズマ…」

 

「おまえは今日から俺の性奴隷だ」

 

「!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして、カズマの性奴隷と化した私は、ローブで身を隠しながら街中を歩く。

言っておくが、ローブの中にはもちろん服を着ている。

さすがに全裸でローブの変態さんになれとは言われなかった。

 

向かっているのはギルドだ。

 

後ろを歩くカズマは、私を逃さないためか、私のお腹に結んだ紐を引いている。

 

「…犬か!」

 

「犬以下だ!」

 

私は美の神なの!

美の神なんだからね!

もっと崇め奉りなさいよ!

 

「おまえのやることはさっき言った通りだからな。ギルドに行って、俺が指差した相手に魅了を掛けりゃいい」

 

「…そ、それだけなの?」

 

「簡単だろ?」

 

「ふふん、まぁね」

 

「殴りたい、そのドヤ顔」

 

下界の子供達を魅了するなんて簡単よ。

それこそ第一級冒険者だろうと魅了する自信がある。

例外としてカズマを除けば、このオラリオに私の魅了が通じない子供はほぼ居ないだろう。

 

…それにしても、カズマは私に魅了を使わせて何をするつもりなのかしら。

 

…。

 

「ねぇ、カズマ」

 

「ん?」

 

「一応言っておくけど、下界で神が神の力を使うのは本来ご法度なの。だから、カズマが何を考えているかだけは教えてもらえないかしら?」

 

「ふむ。…フレイヤとはいえ神は神だ。約束は破らないと誓えるな?」

 

「う、うん。自身に誓って約束は守るわ」

 

と、カズマは相変わらず紐を握りながら、周囲の視線に気を付けて、ゆっくりと喋り始めた。

 

「裏で俺を出し抜いて儲けてる奴がいる」

 

「儲けてる…?」

 

「俺の市場に土足で踏み込む悪どい奴らだ。そいつらの炙り出しには成功したからな。後は口を割らせて、そいつら全員を根絶やしにしてやるんだ」

 

「へぇ。なんだかよく分からないけど難しい話なのね」

 

「うん。すごく難しい話だ」

 

カズマのくせに難しい事を言ってる。

むかつくわね。

 

そうは思いつつも、様変わりのしない街中を歩き続け、寂れた石門を潜るとそこにはギルドが見えてくる。

こんな仕事は早く終わらせて、マッサージ機に座って紅茶を飲みたいものだ。と、私が今夜の堕落生活を想像していたときに、カズマは早速、ギルドの玄関口に居た1人の男を指差した。

 

「よしフレイヤ。あいつに魅了を掛けろ」

 

「はいはい」

 

魅了を掛けろと言うが、下界の子供なんてただ私と話すだけで魅了されてしまうのだけれど。

 

私はカズマが指差したヒューマンの男に声を掛け、何の事も無い口振りで世間話に興じることにした。

 

「あら、男前な冒険者。少しだけお話しよろしくて?」

 

「あ?…おっ、ふ。あ、は、はい!喜んで!!」

 

ほら簡単。

どうよカズマ。少しは私を見直したかしら?

 

「そいつらのファミリアと親玉の名前を聞き出せ」

 

なによ偉そうに!

ちょっとは褒めなさいよ!

 

ほんの少しだけ、褒めてもらえなかったことへの憤りを感じながらも、私はカズマの指示に従う。

 

その冒険者の名前、所属ファミリア、リーダーの存在。

何が何やら分からぬままに、私は聞き出した情報をカズマへ伝えた。

 

 

「良くやったフレイヤ!」

 

「ふふん。このくらい朝飯前ね!」

 

「さて、少し時間は掛かっちまったが密猟グループは潰せそうだし、後は()()()()を逃すルートの確保だな」

 

「?」

 

「よし、次行くぞ!」

 

「え!?これで終わりじゃないの!?」

 

「文句を言うな!ほら!ちゃっちゃと歩け!」

 

「あぅっ!ぐ、わ、分かったから紐を引っ張らないで!お、お腹が苦しいのよ!」

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

つい先日、俺がエイナを通して発注したクエスト。

それはとあるモンスターの生息情報の調査だった。

調査とはもちろん、モンスターの形態やら行動範囲、生息地、弱点など…。

 

ちなみに、俺が指定した調査対象はーー

 

ヴィーヴル

 

リザードマン

 

セイレーン

 

アルミラージ

 

ガーゴイル

 

ーーである。

 

一般的な冒険者に、この5匹のモンスターに共通する部分を述べよと聞けば、『無い』と答えるだろう。

ただ、先ほどフレイヤに魅了された冒険者……、俺が発注したクエストを誰よりも早く受注したあの冒険者にとっては違う。

 

あの冒険者…、裏の世界で名を馳せる密猟グループにとって、この5匹にはとある共通点があるのだ。

 

 

 

「……異端児(ゼノス)

 

 

ゼノスは意志を持ち、感情をコントロールする。

さらには喋って理解を示すこともできる。

 

そんなモンスター達。

 

 

この5匹は、今までに裏世界で確認されているゼノスの種族に他ならないのだ。

 

 

さて、肥やしの神(フレイヤ)により密猟グループの冒険者共を根絶やしにする算段はついた。

あとはあいつらを逃すための手段か……。

少なくとも、バベルの穴から堂々と逃すわけにもいかないだろう。

ならば、やはりあそこからか…。

 

俺はフレイヤに結ばれた紐を引っ張りながら頭を悩ます。

 

ディックスの奴…、面倒ごとを押し付けてきやがって…。

 

『…モンスターが俺を怖がったんだ。目に涙を浮かべたんだ…。そんなモンスターを…、ゼノスを…、俺は斬ることなんてできねえ!』

 

…できねえ!ドン!

 

じゃねえんだよ。

 

あいつ、アレだけの凶悪な顔面で正論を振りかざしやがって…。

もっとさー、破天荒に生きろよなぁ。

おまえこそ密猟グループの親玉みたいな顔してんのに、ゼノスを逃してやってくれ、なんて頼んでくんじゃねえよ。

 

…ちっ。

 

「金にもならねえ仕事…。なんで俺も受けちまうかな…」

 

下衆のカスマさんの異名が泣いてるよ。

そんな人情はゴミ箱にポイして、もっと楽して金を稼げる方法を考えた方が良いはずなのに…。

 

…やっぱり俺も人の子なんだろうな。

 

 

「ねえねえ、カズマ。もしかして、こうやってお腹を締め付けておけば、無駄な贅肉が落ちるってことはないかしら?」

 

「あるある。ほら、もっと強く締め付けてやるよ」

 

閃いたとばかりに腹回りの紐を凝視するフレイヤ。

俺はグイグイグイーーと紐を強く引っ張ってやる。

 

「本当に!?お願い!もっと締め付けてちょうだい!」

 

「おっけー。せい!」

 

「ぐぬっ!ぐぬぬぬ。ぅうぅ…、や、やばい、ちょっとストップ…。お昼に食べたじゃが丸くんが出てきそう」

 

「おまっ、汚ねえから我慢しろよ!?」

 

「うぇ…、ごめ、カズマ…。ちょっと袋か何かは持っていないかしら?最悪、両手で私のリバースを受け取ってちょうだい…」

 

「み、水を飲め!おら口開けろバカ!花鳥風月ーー!!」

 

「ぐぼっ!お、おっ、溺れる!ぶっ、あ、悪魔なの!?カズマは悪魔の生まれ変わりなの!?」

 

 

 

 


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