この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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ロキ・ファミリアの劣等生
闇深い男に計画を


 

 

 

 

 

 

「…カズマ。すごく身軽な格好になったね」

 

「うん。詰め込んできた夢が全て奪われたからな」

 

そう言って、浅層を闊歩するアイズと俺。

後ろからは前衛と魔法班、そして後衛が付いてきているのだが、これがどうにも気恥ずかしい。

と言うのも、なんだか俺がこの大所帯を率いているみたいで…。

俺が止まれば全員が止まるし、俺が走れば全員が走る、俺が転けると全員が俺を見下す。

なんとも結束力のあるファミリアなことだ。

 

「…なんだか、モンスターとあまり出会わない」

 

「良いことだろ」

 

「…むむ。でもこんなに遭遇しないのは初めて…」

 

アイズは不思議そうに周囲を見渡し、偶に出てくるモンスターに一閃を食らわし退治した。

 

確かに、この出現率の低さは異常だな…。

 

俺の悪運スキルがある分、モンスターとのエンカウント率は高まってるはずなのに…。ってか、モンスターを誘き寄せる可能性がある俺を遠征に帯同させるって失敗じゃね?

 

「どっかで他のパーティーが大量にぬっ殺してんのかもな」

 

「…」

 

そうやって、どこかおかしなダンジョンに惑わされつつも、俺たちの大パーティーは順調に歩みを進める。

 

「ねぇ、さっきから気になってたんだけど…」

 

「なんだ?」

 

「その咥えてる棒は何?」

 

「チュッパチャプス。今度はコレを売り出す」

 

「…また、変なの作ってるんだ」

 

「あ?花畑牧場の生キャラメルがあれだけ儲かったんだ!こんなくそ文明の世界じゃチュッパチャプスでも大繁盛だろうが!!」

 

「…はいはい。…それ、ひとつちょうだい?」

 

「バカが!おまえなんぞにくれてやるチュッパチャプスはねえよ!!」

 

むむむぅ、と、アイズは意地悪な事を言う俺にジト目で対抗するも、そんなわがままが通るほど俺は優しくないのだ。

ましてやアイズのようなわがままコミュ障にはこれくらいキツく接しないと、大人になったときに困るのはコイツだし。

 

「ちょうだい。ちょうだい。…ちょうだい…っ」

 

「嫌だよー。そんなに欲しかったら自分で作ればいいだろー」

 

「…私、キッチンに入れてもらえないから…」

 

「ぷーくすくす!もしかして女の子なのに料理も出来ないの?嫁入り前に恥っずかしー」

 

「…ぐぬぬぬ。り、リヴェリア。リヴェリアー」

 

「そうやって直ぐにお母さんを頼るのはおまえの悪い癖だぞ!それにリヴェリアならこの団体のもっと後ろだ!」

 

と、俺があっかんべーをアイズにしていると…。

 

「…聞こえてるぞ、カズマ」

 

「む!?な、お、おまえ!陣形を乱すなよ!」

 

「そんなことよりカズマ。アイズが泣いているのは貴様が虐めたからか?」

 

「そ、そんなこと!?」

 

「その面妖なお菓子をアイズに分けてやれ。おまえの事だ、どうせ沢山持ってきてるんだろ?」

 

出せ、と。リヴェリアは俺に向かって手を伸ばす。

そのリヴェリアの後ろに隠れるアイズは鬼に金棒とばかりに俺をジト目で攻め立てた。

 

「…出して。カズマ…」

 

「出せ、カズマ」

 

なんだなんだよこのバカ親子は…。

俺は呆れながらにも、バカ親子に向かってチュッパチャプスを差し出す。

 

「ふむ。賢明な判断だ」

 

「…判断だ」

 

と、そのチュッパチャプスに2人が手を伸ばして取ろうとした瞬間に、俺は演芸(レクリエーション)スキルを発動させ、マジックさながらにソレを消してみせた。

 

「「!?」」

 

「ぶーっはっはっはぁーー!!君らバカ親子にチュッパチャプスは100年早いんだよ!!」

 

「き、貴様…」

 

「…ぅぅ」

 

「等価交換って知ってる?僕らの世界はね、慈善活動じゃ成り立たないんだよ?俺からタダで物を貰おうなんて片腹痛いわ!!」

 

と、俺の台詞を聴き終えたリヴェリアはわなわなと震え、まるでモンスターに向けるような睨みを利かせる。

だがしかし、俺はそんな事で屈指はしない。

 

「…良い度胸だ。カズマ、剣を抜け。ここらでおまえのその腐った性根を叩き直してやろう」

 

「ふん。いつまでも力で俺を屈服させられると思うなよ?」

 

杖を構えるリヴェリアに対し、俺はポケットから様々な特殊弾を取り出し構えた。

 

「ほう。私に挑むか…。良い度胸だ」

 

「…俺の卍解を見せてやる。…花鳥…、風!!月!!」

 

「ぬ!?な、なんだ…この魔力…、っ!くっ…」

 

大量な魔力と水が俺を中心に渦巻く。

轟々と鳴り響くその音は、おそらく後ろに控えるファミリアの奴らにも聞こえていることだろう。

 

…だが、今は出し惜しみをしている場合じゃない…っ!

 

「待たせたな…」

 

「き、貴様、いつのまにそれ程までの卍解を…っ!」

 

「降参するなら今のうちだぜ?ぶっちゃけ、チュッパチャプス1つでこれだけの大立ち回りをしちまえば、俺もおまえも拳骨程度じゃ済まされんだろうがな」

 

「ぬ!?わ、私ともあろう者が…、お、怒られる、だと…」

 

「…ふ。いつからおまえだけは怒られないと錯覚した?」

 

その一言に勝負は決した。

団員をまとめるべき存在である副団長様が、こんなふざけたコントに付き合い、フィンやガレスに怒られるわけにはいかないと判断したのだろう。

 

そうして項垂れるリヴェリアに、俺は卍解の姿を解いて語りかける。

 

「…ふぅ。戦ってたら、お互い無事ではいられなかったかもな…」

 

「ふふ。今回はドローにしておこう」

 

「くっくっくっ」

 

「はっはっはっ」

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

遠征が始まったものの、まだ浅層ともあり団員には緊張や疲労は見られない。

もちろん私も。

魔法班のために前にも後ろにも団員がいるこの一角は、モンスターとの遭遇すらほぼ無いのだ。

 

だが、1つ懸念があるとすれば。

 

リヴェリア様が急に前へ走り出したと思うや、パーティー全体の足が止まったこと。

 

…まさか、こんな浅層で前衛のアイズさんやカズマさん、そして助太刀に行ったリヴェリア様を手こずらせるモンスターが居たとでも?

 

「…っ、わ、私も…っ」

 

と、駆け出そうとした私の肩を誰かが優しく掴んだ。

 

「っ、てぃ、ティオネさん…」

 

「信じなよ。あいつらなら大丈夫」

 

「ぅ、は、はい…」

 

「…それにしても、こんな浅い所でカズマ達を手こずらせるモンスターが出るとはね。やっぱりダンジョンは怖いよ」

 

「…ティオネさんでも、ダンジョンは怖いんですか?」

 

「ん?そりゃね。私の団長だって、内心は怖がってるかも…、それはそれで可愛いけど…」

 

昨夜にカズマさんが言った通りに、やっぱりいくら強くなってもダンジョンは怖いものらしい。

私だけ、と思って怯えていた自分が恥ずかしい。

あの時にカズマさんに抱っこしてもらってなかったら、多分私はこの状況に震えることしか出来なかっただろう。

 

ただ今は…。

 

 

「…わかりました。カズマさん達を、信じます…」

 

 

で。

 

 

しばらく経ってようやく動き出した団体。

何があったのかと、大勢の冒険者から伝言ゲームで後ろへと回ってくる。

 

曰く、リヴェリア様が焦るほどの強敵が現れた。とか。

 

カズマさんが卍解たるスキルで撃破しただとか。

 

アイズさんが震えて泣いているだとか。

 

「そ、それ程までに壮絶な戦いがあったんだ…」

 

背中を冷たい汗が伝う。

もしかしたら、今回の遠征は過酷なものになるかもしれない。

とりあえず、18層に到着したらカズマさん達に話を聞かせてもらおう。

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

バカ親子との一悶着後は滞りの無い探索が進んだ。

通常なら半日程度で到着する筈の18層に、1日も掛かってしまったのは慣れない集団行動に舞い上がった俺がトラップに引っかかりまくったことが原因ではあるまい。

 

「ご苦労だったね皆。今日はここでテントを張る。明日の出発まで、各々自由にしていてくれ」

 

フィンの掛け声と同時に団員がダンジョンで溜め込んでいた緊張の空気を一斉に吐き出す。

なんだか修学旅行みたいだな…、行ったこと無いけど…。と、切ない思い出に瞳を潤ませながら、俺も自由時間を満喫するためにそそくさとその場を離れた。

 

アイズの事だ、どうせチュッパチャプスを賭けてチンチロリンをやろうと言い出すに違いない。

 

ダンジョンを進む際も「…チンチロ〜♪イェイ。チンチロ〜♪イェイ」って変な歌を口ずさんでいたし…。

 

「…おっと。()()を忘れるところだった」

 

俺はバックパックからとある物を取り出し、今度こそ本当に場を離れる。

 

さて…、計画に移るか…。

 

……

.

 

 

森を抜け、崖を登り、到着したのは小高い丘の先端。

見晴らしもよく、そこから見下ろすリヴィアは活気と人で溢れかえっていた。

だが、俺にハイキングだとかワンダーフォーゲルだとかの趣味は無い。

 

目的は一つ。

 

俺は予め用意しておいた手作り()()()を構え、滝の落ちる川の上流へ視線を向ける。

 

「…推測通り。綺麗好きなアイツなら18層に着けば直ぐに向かうと思ったぜ」

 

褐色の肌と突き出た胸。

それに反比例するように凹むスレンダーな身体を持つ彼女は、気持ち良さそうに川の水を浴びていた。

 

やはり、堪らんな…。

 

ティオネの身体は…。

 

こう、細身っぽいのにムチっとした二の腕とか、鍛えてるわりに柔らかそうなお腹とか…。

 

あえてもう一度だけ断言しようか…。

 

「…おまえの身体は堪らんよ」

 

おら、こっち向け、こっちこっち。

あー!もう、なんで背中ばかりなんだよ!

あのクソ淫乱女め、勿体ぶってんじゃねぇよ!!

 

待てっ…、待ってくれ!

 

もう出るのかよ!?

 

早いだろっ!もっとこう、念入りに洗えよ…っ!

 

「…くっそ!早い…。早すぎるっ!!」

 

と、悔しさで拳を地面に叩きつける俺の肩が叩かれる。

 

「おい、カズマさん…」

 

「む!?…な、なんだよ、()()()()()かよ…」

 

俺の肩を叩いた正体はディックス・ペルディクスだった。

イケロス・ファミリアの団長で、二つ名を暴蛮者(ヘイザー)と言うらしい。

こいつは以前に深層へ探索しに行った際に出会い、なんとなく気が合って一緒に酒を囲ったのが出会いだ。

 

「…()()()、首尾はどうなんだ?」

 

と、ディックスはその凶暴な顔を俺に向ける。

 

「進んでるよ。ただ俺たちの計画が進んだ所で、()()()()に接触しないことには話にならんな」

 

「っ、か、カズマさん、今直ぐアイツラを探しに行こう」

 

「落ち着けよ。目先を追うな。いい加減に気付け。勝利は耐えることなしには掴めないことにな」

 

俺がそう言うと、ディックスは少しばかり焦りを滲ませる顔で視線を俺から逸らした。

 

こいつはいつもそうだ。

焦って目先の利益だけに照準を定める。

100%成功しないタイプ……っ!

 

「ほら、こいつでも見て心を整えろよ」

 

「ん?な、なんだこれは…、マジックアイテムか?」

 

そんなもんだ、と納得させ、ディックスに双眼鏡を覗かせた。

 

「っ!す、すげぇ…。遠くのもんが…、ち、近くに見える…っ!」

 

「ディックス…、もしも冒険者にバレない程に遠くから、水浴びをしている姿を覗けたら…って、思わないか?」

 

「…っ!こ、光明…。悪魔的な程の発想…っ。さ、さすがカズマさんだ…」

 

と、双眼鏡の視線が川へと移る。

 

「…っ、い、居るぞ!水浴びをしてやがる…っ!」

 

ほう?

ティオネの後に誰か来たのか…。

アイズかティオナかレフィーヤか…、大穴でリヴェリアって所だろう。

 

「すげぇ…。なんていう身体をしてやがる…っ!」

 

この時点でティオナとレフィーヤの線は無くなったな…。

 

「ひ、1人とは言え、ああも堂々と裸で居られるのか…」

 

ふむ。貞操観念を強く持つハイエルフのリヴェリアの線も無くなったな。

つまりは今、水浴びをしているのは…。

 

 

ーーアイズか。

 

 

「さ、流石は凶狼…、鍛え方が違うぜ…」

 

「ベートかよ!!」

 

「!?」

 

 

 

 





どっかでデストロイヤー出したいなぁ。

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