この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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よろしくお願いします。

ちゃちゃっと掲載していきます。


とある神々の英雄譚
この素晴らしいダンジョンに転生を


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー数分前

 

 

 

冬空の国道で、スリップした車が歩道に乗り上げてくる。

 

ちょ、こっちに来てね?

 

と思った矢先に身体を巡った鈍痛。

 

気付けば冷たいコンクリートに寝そべり、真っ赤な空を見上げていたわけで…。

…空が真っ赤?

変だな。

視界が次第に暗くなっていく。

眠い。

すごく眠い。

 

 

あぁ、俺。

 

ーー死んだんだ。

 

 

 

  .

    .

     .

    .

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   .

     .

      ☆

 

 

 

……なさいーー!!

 

甲高い声が遠くから聞こえる。

どこか高圧的でうざったいその声。

 

…きなさいーー!!

 

あー、なんだろ、この声。

…ウザい。

 

 

「起きなさいって言ってんでしょ!!」

 

「……?」

 

目の前に現れた女神のような美貌を持つ女性は少しばかり浮世離れした格好をしてた。

ココはどこだと周囲を見渡すも、彼女を中心にした円状の範囲を除いて黒い闇に覆われている。

 

疑問に思う事なら沢山ある。

それでもまぁ、俺はまだ死んでいないようだ。

 

「は?あんた死んでるわよ?」

 

…なんだコイツ。無性に腹立つ。

 

「あんたは車に跳ねられて死んだの!なんなら身体を再生する前の姿に戻してあげよっか?」

 

青い髪に青い瞳を持つ目の前の女は、呆れ顔で俺を見下す。

 

車に跳ねられて…。

その言葉を聞いた時、靄の掛かっていた頭にハッキリとした映像が浮かんだ。

それは、凍結した路面でスリップした乗用車が歩道に乗り上げてくる映像。

嫌になるほど鮮明に、正面から向かってくる車のエンブレムまでハッキリと覚えている。

 

「い、いや待て、確かに覚えてる。俺はスリップした車に跳ねられた。…身体に伝わる衝撃も、骨が砕ける粉砕音も…」

 

「…スリップした車?あんた何言ってんの?」

 

「は?」

 

「スリップしたのはあんたよ。赤信号の横断歩道を走って渡ろうとして、滑って転んで右折車にぐにゃよ」

 

……ほう。

見解の相違と言うやつか。

コレについては今後ディスカッションが必要と言うことで。

 

「おい青髪クソ女」

 

「それ私の事!?わ、私はアクアよ!女神アクア!!あんたの小さい脳でも覚えられるように2回言ってあげたわよ!!」

 

「俺の死因なんてどうでもいいんだよ!とりあえず、ココがどこで、これからどうなるのか教えろ!」

 

「崇めなさいよ!もっと女神を崇めなさいよ!!」

 

女神は目尻に涙を浮かべながら俺の胸倉を掴む。掴むと言うか首を絞めてやがる。

 

「んぉ、ご、ごほっ、は、離せ…」

 

「私を崇める?ちゃんとアクア様って呼ぶ?」

 

「あ、崇めるっ…、呼ぶ…」

 

「そうよね。私ってキングオブ女神だものね。分かったわ。離してあげる」

 

「っ、う、はぁはぁはぁ……。っ!てめぇ何しやがるクソがーー!!」

 

「ぎゃぁーーーー!?」

 

 

………

……

.

 

 

 

「「はぁはぁはぁ」」

 

2人揃って息を荒げながら、不毛な戦いに終止符を打つべく握手を交わす。

俺の顔にもアクアの顔にも大きな青アザが多く残るが気にしない。

 

「で、アクアよ。俺は結局どうなるんだ?」

 

「ごほん!…私は若くして死んだ人間を導く女神です。ねぇ、カズマ。あんた異世界とかに興味ない?」

 

咳払いを一つ、それを区切りとばかりに、アクアは一端の女神のように済ました顔で説明を始めた。

 

()()()()()

 

響きだけなら厨二心を擽る言葉だ。

 

アクア曰く、死後の命をリユースするべく、若くて粋が良い命を異世界へ転移させるのだとか。

「それに!」と、意気込むアクアは踏んぞり反らんばかりに胸を張る。

 

「今なら特典をつけてあげる!」

 

「特典?」

 

バサッと音を立て、俺が座る目前に数枚の紙がばら撒かれた。

その紙には絶剣だとか、狂人化だとか、RPGの強キャラが使えるようなスキルの数々が記されていた。

 

「それの内で一つ、カズマの好きな物を持たせてあげる」

 

「ほぅ。つまりはチートってことか…って待て、その異世界ってのは、チート級な能力が無いと生きていけないような世界なのか?」

 

「…ぴゅーぴゅるー♪」

 

おいクソ女神。

めちゃくちゃ重要な事を下手な口笛で聞き流そうとするな。

能力だとか何だと言っても、俺は平和大国日本で生まれ育った温室ゆとり世代だぞ?

 

「まぁ、天国に行って退屈するよかマシか…」

 

「そうよ!さすがカズマね!部屋に引きこもってネトゲばかりに興じたボトラーとは思えない言葉だわ!」

 

「disってんの?あとボトラーじゃねえ!!」

 

アクアの言葉に気を取られてはいけない。

RPGってのはステ振りと装備がモノを言う世界だ。

 

ざわざわーーー

 

っ!

 

ネット社会の異端児として名を馳せた俺だからこその気づき。

圧倒的なまでの光明。

 

「…くっくっくっ、見えた…、天運…っ!」

 

「…な、なんですって?」

 

「チート能力は要らん…」

 

「!?」

 

「金だ…。転生先の異世界で流通する金貨を寄越せ!!」

 

「………は?」

 

チッチッチ、と。俺は指を顔の前で左右に振る。

考えてみたまえアクアくん。

これから向かう異世界で、床に散らばるチート能力はさぞ役に立つだろうな。

だがしかし、チート能力でモンスターを倒す事に何の意味がある?

名誉?賞賛?

そんなもん要らん!!

俺が欲しいのは…。

 

「安定した生活を送れる莫大な財産だ!あえて危険に飛び込む事もあるまい!俺は異世界で自堕落な生活を送るんだ!!」

 

「……」

 

俺は椅子から立ち上がり、絶句するアクアの前で腰を折る。

 

「女神アクア様。よろしくお願いします」

 

「……。ま、まぁ、カズマがそう言うならソレでも良いけど」

 

ふと、アクアは天に向けて手を仰いだ。

途端に、眩しい光が太陽のような暖かさを持って俺を包み込む。

 

「その願い、聞き入れました」

 

ふわりと、俺の身体は重力を失ったように地面から離れると、光の刺す方へと向かって徐々に高度を上げていく。

 

「うおっ!?」

 

「光の道標よ。カズマに良い旅を」

 

少し高いところから見るアクアは、両手を固く結んで祈りを告げていた。

 

本当に女神だったんだな…。

今度会う機会があったらすこしだけ崇めてやろう。

 

と、ほんの少しだけ反省していた矢先ーーーー

 

 

「……ん?あれ?カズマが行くのってアクセルじゃないの?え!?オラリオ!?わ、私、カズマさんにエリス通貨持たせちゃったけど…。ま、まぁ、お金はお金だもんね。大丈夫よね?」

 

 

ーーーおいちょっと待て駄女神。

 

 

おまえ今なんつった?

 

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 

で。

 

薄暗い洞窟?のような所で意識が目覚めたわけだが…。

もう少しさ、街中に飛ばしてもらえません?

だってココ、どう考えてもダンジョン的な所でしょ。

俺の周りに置かれた大量の金貨に至ってはどうやって持ち帰れば良いの?って感じ。

あと、金貨に刻まれた『エリス』って文字が不安を煽るんだが…。

 

すると、洞窟の暗闇からーーー

 

ゔぉぉぉぉぉーーーー!!!

 

轟音過ぎる号砲が地響きと共に辺りを揺らした。

 

「……」

 

はは。

気のせい気のせい。

 

『ゔぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

近くなってるような…。

俺は首だけをその号砲が聞こえてきた方向へと向ける。

 

「ゔぉぉぉぉぉーー!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

脅威は突然やってきた。

あり得ない程に膨らんだ筋肉と、人間の倍はあろう肩幅。

挙句、顔は人間のソレと違い、俺の知る限りでそいつの名前はーー

 

ミノタウロスーーー。

 

「ちょ!ちょっ!!えぇ〜!?」

 

「ゔぉ!ふーっ!!」

 

全力で走る俺の背後には、鼻息荒く獰猛で猪突に突っ走る化け物が。

 

ま、まだチュートリアルの途中でしょうが!

なんだってあんな凶暴そうなモンスターに追いかけられなきゃいかん!!

 

数多くの分岐点をクネクネと曲がるも、背後の化け物は俺を追うことを止めない。

 

「ふぇぇ〜!!だ、誰か助けてくれよぉぉぉ!!」

 

「ふもぉぉぉ!!」

 

走れども走れども変わらぬ洞窟の風景。

例えば、コレが本当にゲームのようなRPGなら、そろそろ美人な助太刀参上で俺を救ってくれるはずだ…。

 

っ、そ、そうだよ!こんなハードモードな異世界があるわけねぇよ!

 

きっとさ、次の角を曲がったらパンの代わりに剣を咥えた女の子とぶつかって

 

『もう、アンタのせいで私の剣が刃こぼれしちゃったじゃない!』

 

と、トキメキな出会いが…。

 

俺は淡くて現実逃避な期待を寄せつつ次の角を曲がったーー。

曲がったが其処は…。

 

「なにぃぃ!?い、行き止まりだとーーー!?」

 

走る。

走るが前は石の壁。

終わった…。

さ、最期はせめて、成熟したムレムレの美人な人妻の膝で迎えたかったな……。

 

「…ぬぉおっ!?」

 

突然、俺の身体は宙に舞う。

それは俺の命運を握る小さな地面のくぼみ。

そのくぼみに走り続けて疲労困憊な足が取られ、俺は惨めにも地面に向かってダイヴしていた。

 

「あぅ、お、おワタ…」

 

「ゔぼぉぉぉ!?ぉぉぉ」

 

「へ?」

 

駆け巡ったのは走馬灯。

転んだ俺を飛び越えて走り抜けたミノタウロス。

全力で走るミノタウロスは途端に止まることが出来ないらしく、奇しくも俺を踏み付けることもせずにそのまま石の壁へと突っ込んだ。

 

「ぅ、うぼぉ……」

 

爆音と共に、ミノタウロスの頭は半分程が壁を貫き、その拍子に崩れた周囲の石壁がミノタウロスへと襲いかかる。

 

し、しめた!!

今なら弱って身動きの取れないミノタウロスを殺れる!!

 

俺は近くにあった手頃な岩を両腕で持ち上げ、怒りを込めてミノタウロスの頭へ投擲する。

脳のある生き物なら弱点は頭だ。

 

「死ねや!クソ畜生がーーーっ!!」

 

ガコンっと、岩は見事にミノタウロスの頭へとクリーンヒットした。

当たった岩が割れて一瞬驚いたが、ミノタウロスは力無く身体を揺らした後に、重厚で凶悪なその瞳から光を失う。

 

「し、死んだのか?」

 

横たわる脅威に怯えつつ、俺は石コロをポイポイと投げ当て確認する。

 

「……ぷはぁーーーー」

 

溜め込んだ息を一気に吐き出し、俺は死んだミノタウロスの身体に腰を降ろした。

その石の様に固い座り心地が、この締め固まった筋肉の分厚さを物語る。

 

ざっ、ざっ…と。

 

気を抜いた俺の耳に届く2つの足音。

 

「ふうおぉぉぉ!こ、コイツの仲間か!?」

 

「……?」

 

「んぁ?おい、アイズ。そっちに何か居たのか?」

 

そこに顔を見せたのは、見惚れる程に美しく整った顔を持つ女騎士と、恐ろしく切れた目元を持つ犬耳の男。

2人は現れるや否や、俺と死んだミノタウロスを交互に見つめ、どこか幽霊でも見るような目で俺を睨んだ。

最初に口を開いたのは犬っころの方。

 

「おい。てめぇが殺ったのか?」

 

「はい?」

 

「ソイツをてめぇが殺ったのかって聞いてんだよ!!」

 

先の号砲に負けない雄叫びがそこに響いた。

え、ま、まさかこのミノタウロス、この人達のペットだったとか?

 

「…ソレは、私たちが取り逃がした」

 

小さく、女性が呟いた。

なんだこの子、コミュ障かな?

えらく美人なのに勿体無い。

 

「…キミは、冒険者じゃないよね?」

 

冒険者…。

()()()ってことはこいつらは冒険者なわけか…。

 

「…その格好…。…武器は?」

 

「格好?…あ、そうか、装備品な。なぁ、俺も冒険者になりたいんだけどどうすりゃいいの?」

 

「……キミ、おかしい人?」

 

「お?失礼なコミュ障だな。世間一般ではおまえも十分おかしい人だぞ?」

 

「!?…わ、私も、おかしい…?」

 

「うん。もう少しハキハキ喋ろうね?」

 

「……ぅぅ」

 

薄暗い洞窟で、彼女は喋りでは不十分な伝達能力を、顔と身体で余るほどに補う。

すると、ショゲてしまった彼女を庇うように、怒り狂った形相を見せる狼のように鋭い視線を持った男性が俺の前に立った。

 

「おいてめぇ。捻り潰されてえのか?」

 

「む。なんだおまえ。ベクトルを操りそうな声をしやがって」

 

「あ!!?」

 

似過ぎだろ…っ。

雰囲気とか…。

どことなく……!!

 

そもそも、先ほどそっちの女が言っていたように、このミノタウロスを取り逃がしたのがこいつらであるなら、それに巻き添えを食らう形で死にかけた俺を責める道理がどこにある。

 

「死に掛けたんだぞ!一市民がおまえら冒険者の怠慢で!!謝って!誠意を込めて謝って!!」

 

「ぐっ、く、クソがっ!」

 

犬っころは苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめて目を逸らす。

煽られ耐性低過ぎだろ。

コミュ障にDQNって、このパーティ大丈夫か?

すると、ぬるりと俺の前に歩み寄ってきた女騎士は、美しく長い金糸を左右に揺らしながら、その端正な顔を不思議そうに傾けて

 

「……やっぱり、キミは変…」

 

と、呟いた。

俺から言わせりゃ女が剣を持ち歩いている方が変なのだが。

まぁ、()()()()()()なんだろうな…。

 

「あー、うん。実はさ、俺ってすげえ田舎出身でさ、あんまりこの辺の常識に自信が無いんだよ」

 

「……遠く?…遠くから、来たの…?」

 

「そ。ずっと遠く」

 

「…遠くの人は、頭がおかしい人ばかり?」

 

「おい。喧嘩を売ってんなら買うぞ?高そうな剣を持ってるからって調子に乗んなよ?」

 

「ぁぅ…」

 

こいつじゃ話が進まない。

……でも、とか。……変、とか。全然聞きたい内容までたどり着かないんだよ。

つーかよ、持たせておけよなぁ、取説的な物をよ。

初見でRPGに挑むなんて愚の骨頂だろうが。

男は黙って攻略wikiだっつの。

 

「はぁ。ここはダンジョンなんだろ?そんで、街はどこにあるんだ?」

 

「…上」

 

「は?」

 

「…迷宮都市オラリオは、世界で、唯一の、ダンジョンの上に建造された、街?」

 

なんで疑問系なんだよ。

それにしても地下ダンジョンか…。

なかなかの神ゲー臭がする。

 

「それじゃ、そのオラリオとやらに連れてってくれ」

 

「……?キミ…、どうやって、ここまで来たの?」

 

異世界から飛ばされてきました。

普通飛ばすなら街中だろ。あのクソ女神め、今度会ったら絶対泣かす。

 

「ふむ…」

 

「?」

 

ただ、この異世界設定ってのは公言するべきなのか?

異世界から来ました、って言った瞬間に変人扱いされるんじゃないか?この変人共に。

 

「あー、ちょっと迷ってな」

 

「迷って…、5層まで?」

 

「うん」

 

「…武器も持たないで?」

 

「…うん」

 

「恩恵も無い、ただのヒューマンが?」

 

「…。しつこいぞ!!その辺の事情は後で話すから早く街に案内しろよ!!俺はもう脚が棒なんだよ!!ニート舐めんな!!」

 

と、さすがに耐え兼ねた俺が声を荒げると、それに驚いた目の前の女はビクっと肩を震わせた。

先ほどから我関せずに、壁にもたれて腕を組む犬っころはこちらを見ようともしない。

 

「あ、あの…。ごめん。それじゃあ、付いて来て…」

 

そう言うと、彼女はゆっくりと歩き出した。

さっきみたいにミノタウルスから襲われても堪らんからな、今は彼女の背中にぴったりとくっ付いておこう。

 

「…モンスターか」

 

ダンジョンだとか、恩恵だとか、未だ分からぬ事が多過ぎる。

目下のやるべき事は情報収集。

 

できれば、この金貨に価値があればいいんだが…。

 

 

 

……

.

 

 

 

「なんやねんコレ。けったいな金貨やなぁ。赤子の駄賃にもならへんで」

 

糸目で細身なエセ関西弁を話す女性が俺を睨む。

ダンジョンとやらから出て、砂埃の舞う雑踏を歩き、ギルドへ案内されるのかと思いきや、辿り着いた先はココ。

道中に街中を観察して分かったことと言えば、この世界の文化レベルは中世以前程と言うことだけ。

今時アスファルト舗装もされていないとは…、なんて思うも、それはそれで異世界っぽいので許すとしよう。

ただ、歩き話とばかりに彼女から……、アイズ・ヴァレンシュタインから聞くところによると、この世界では神が下界を彷徨いているらしい。

その神により恩恵(ファルナ)たる儀式を受けた者達が、【ファミリア】をうんぬん……。

 

なに?俺たち仲間。全員家族っしょ!的なノリ?

乗れねえなぁ。そういうリア充なノリには。

 

「で?ここがおまえの所属するロキ・ファミリアのホームで、俺の希望がただのガラクタなのは分かったけどよ。なんで、俺はこんな所に連れて来られたんだ?」

 

「んぁ?アイズたん、コイツになんも説明せんと連れてきたんか?」

 

「…うん。…だって、この人、おかしいから」

 

おい。

なんだっておまえは俺をおかしい人呼ばわりするんだ?

 

「おかしい…。ふむ、確かに変やな…。ん、ちょいとコイツと2人で話したいから、アイズは席外してくれるか?」

 

「…はい」

 

そう言うと、アイズは何か言いたそうな表情を隠す事なく、神ロキの部屋、神室から出て行った。

 

「…で?あんさんどこから来たんや?」

 

「あ、あぁ、俺は少し遠い所から…」

 

「ふん。神に嘘は通じへんで?」

 

「…。日本だよ。あんたも神なんだろ?アクアって知らないか?そいつが死んだ俺を異世界に…、この世界に飛ばしたんだ」

 

「あ、アクア…。そ、それはあんさんも災難やったなぁ。アクシズ教はやっぱり頭がイカれてるで」

 

「?」

 

ロキ曰く。

この世界に伝わる神々と、俺を転生させた女神アクアは神話違いのために関わる事はあまり無いらしい…

 

無いらしいのだが、アクシズ教団たる頭のネジが吹っ飛ぶどころか、奇怪な頭の構造をした奴らを束ねるアクアの噂は神界でも有名らしく

 

やれ、惰性で働く駄女神だとか

 

やれ、後輩に責任を押し付けるブラック女神だとか

 

やれ、アホな子だとか

 

その変哲冥利な悪評を聞かない日はないらしい。

 

「クソがっ!俺のRe.ゼロから始まる異世界堕落生活を返しやがれ!!」

 

「あ、あんさんも大概やな…。まぁ、そんな事よりも…」

 

「…?」

 

「その身一つで、ミノタウロスを殺ったらしいな?」

 

すっと、ロキの視線が鋭くなる。

 

「な、なんだよ…?」

 

「あんさんは知らんだろうけど、()も無いただのヒューマンが、レベル2相当のミノタウロスを倒すことはとんでもない事なんや」

 

力が無いのは認めよう。

学校にも行かずに部屋に引きこもっていたのだから。

 

でもおまえ、レベル2って…。

 

御三家ですら最初はレベル5だぞ?

 

あのミノタウロス、まさかのコラッタレベル?

 

「レベル2ね。うん、そうだね。俺ってその程度の人間だからね」

 

「?まぁ、あんさんが何を考えてんのか知らんけど、神の失態は神の責任や。どや?うちのファミリアに入らんか?」

 

「…ふむ」

 

俺はロキの進言に耳を傾けながら少し考える。

当初の思惑が外れてしまい、今や無一文に知らぬ土地へ置いてきぼりにされた迷子のような存在。

そう考えるなら、ロキの言う通りに身をこのロキ・ファミリアに置くのも悪くないだろう。

 

「うん。頼めるか?なにより情報が何も無いからな。今は藁にでもすがる方が良さそうだし」

 

「藁ってウチの胸がぺったんこな事を揶揄してんのか!!?」

 

「ひ、被害妄想だ!!」

 

確かに思ってたよ?

胸が小さい…、っていうか、胸が無いなぁって。

 

「ほんま失礼な奴やで!ほれ!はよ上着脱げや!そっこうでファルナ刻んで部屋から追い出したる!」

 

「おまっ、ちょ、急に脱げって…」

 

「照れんなや童貞!」

 

「ど、ど、ど、童貞と違うわ!!」

 

あれやこれや上裸になってベッドへ横たわる。

な、なんかアレだな。

初めてって、緊張するな…。

 

「そういや名前聞いとらんかったな?」

 

「それ、半裸の男に跨って聞くことか?…カズマ、佐藤カズマだよ」

 

「ぷっ、変な名前」

 

「おまえマジで後で泣かす」

 

「暴れんな暴れんな。ほれ、儀式やるでー」

 

そう言うと、ロキは俺の背中に手を乗せる。

人の温もりに似たような暖かさが背中へ伝わると、途端に部屋中を光が照らした。

同時に、体内から感じる異変。

神経が、脈が、筋肉が、薄っすらと生まれ変わるような感覚を覚える。

 

「へぇ。なんか本物の神っぽいな」

 

「ウチはまじもんの神や!」

 

「その光、すごく暖かい。…さっきまでエセ関西弁をくっちゃべる細目女だとか思っててごめん」

 

「殺す…。つか、この光はただの演出で、儀式には関係あらへんけどな」

 

「演出かよ!!」

 

と、言葉を交わしながらの雑な儀式を終え、ロキはなにやら紙に文字を書いていく。

俺はベッドから起き上がり、その手元を覗き込むも、なにやらヒエログリフのように並ぶソレを読み解く事は出来なかった。

 

「ふおっ!?か、カズマ、おまえ…、なんやねんこのスキル…」

 

「これぞ異世界系主人公、って感じのスキルでも発現したか?」

 

これだよ!

これこれ!

やっぱり異世界って言ったら序盤のチートスキルだ!

あのクソ駄女神のせいで前途多難な冒険になると思ったが、やっぱり俺ってばモッてるわ!!

 

「…聞いたことの無いスキルやで」

 

「どれ?」

 

俺はロキから紙を受け取る。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

佐藤 カズマ

 

レベル1

 

力 【I】 0

耐久 【I】 0

器用 【I】 0

敏捷 【I】 0

魔力 【I】 0

 

スキル

器用貧乏(ユーザビリティ)

悪運(ラック・オンリー)

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

……なんか違う。

もっとこう、カッコ良いスキルが良い…。

 

ロキの言うところ、ユーザビリティの能力は、その名の通りに何でも器用に熟すが大成はしない。

それと、ラック・オンリーも、ただ悪運が強く、なおかつ大成はしない。らしい。

 

なんなの?

なんでどっちも後から付けたように大成しないんだよ!!

 

ふと、紙を凝視する俺の肩をロキが優しく叩いた。

 

な、慰めてくれるの…?

 

 

 

「ぷっーくすくす!!か、カズマにお似合いなスキルやん!!!」

 

 

「ぶ、ぶっ殺すぞてめぇ!!」

 

 

 

 


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