悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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たまには真面目に悪役っぽく見せてみようとしています。


第7話

華琳(かりん)サイド~

 

 

此処は私の城。そして今は黄巾討伐の任が終わり、部屋に私と軍師たちが集まった。どうやら今回の件で気になることがあるらしい。

 

「お疲れ様です華琳(かりん)様」

「これで疲れるなら天下も安いものね」

 

開口早々、桂花(けいふぁ)に愚痴をこぼしてしまう。決して彼女が悪いというのではない。ただ、イラつきが出てしまった。私の悪いクセね。

 

「そうですね~。今回の討伐で、功績を頂いても微妙ですからね~」

「大規模であり、組織化した賊への討伐。いざ、蓋を開けてみるとただ集まっただけで組織も何もない賊退治です。これも中心都が腐っている証拠です」

 

頭に人形を乗せた軍師、(ふう)と眼鏡をかけた軍師、(りん)も私の苛立ちに納得している。

 

「それで、今回の討伐で話したいことは何かしら?」

「……今回の賊、いくつか不可解な点がございます」

「……聞かせなさい」

「御意。まずは風から」

「………………ぐぅー」

「寝るなっ!!」

「おおっ!?」

 

いきなり寝始める風とそれに大声で注意する桂花。相変わらず読めない子ね。だからこそ、常人では出来ない策を出せるのかしら。

 

「そうですね〜。華琳様は何故、これだけ賊が大きくなったと思いますか〜?」

 

今回の規模は明らかに異常だ。それは私でもわかる。ならば理由は一つ。

 

「主犯である張角ら3人の惹きつける力……かしら?」

「それで間違いないですね。その張角らも処分されました」

「処分というより勝手な自滅よ」

 

首謀者の張角ら3人は私たちが直接手を下してない。相手の拠点に入ったら既に死んでいたのだ。誰かに背後から斬られ、苦しみながら死んだ様子ね。

 

「風が気になるのはそこなんてすよ。あれほどの規模を率いる首謀者が何故、誰にも守られずに殺されたのか……」

「…………言われてみれば不思議ね」

 

風の言う通り、人を惹きつける力があるのなら誰かしらに守られるはず。

 

「もしも、今回が華琳様なら桂花さんらが守ってくれるはずですよね〜」

「そんなの当たり前じゃない!!」

 

風の言葉に食い気味で答える。ふふっ可愛い子。

 

「次は私からですね」

 

次に禀が前に出てきた。

 

「これは季衣(きい)からの情報で……実は既に張角と接触していたそうです」

「季衣が?」

「はい。昔、村に旅芸人として訪れていたことがあったと言っておりました。そして……季衣が言うにはその時訪れていた人物は女性とのことです」

「……私が確認した張角らは醜いブ男だったような気がしていたけど?」

 

あれは見るに堪えられなかったわ。その夜、すぐに春蘭(しゅんらん)秋蘭(しゅうらん)を呼び出して消毒したわ。

 

「季衣も自信がないとは言っておりましたが、あの子が嘘を言うような性格ではないです。そう考えてみてもこの情報は可能性としてありえるかと」

 

確かに季衣は失敗こそするが嘘をつくことはない。だとすればこれは……

 

「先の風の話とすり合わせると、今回、死んだ3人は……」

「全くの別人ですね〜」

「そう考えると斬られた理由もわかります」

 

なるほど。確かに張角ではないなら斬られても問題はないわね。だが、その説を考えるともう一つの問題も出てくる。

 

「だとすれば張角の目的はなに?ただ官軍を困らせたいがためにこんな戦を起こしたの?」

「………………これは憶測に過ぎないのですが」

「話しなさい」

「今回の討伐……官軍でも張角でもない何者かが関わっているかと思います」

「「………………」」

 

……風や禀も何も言わない様子。とすればその説に賛同しているということね。

 

「季衣の情報が正しければ、張角ら3人は戦を知らない芸人です」

「そんな人が賊との関わりを持つとは考えにくいですね〜」

「しかも、ただの賊ではなく、ある程度の知名度を持っていた賊が大半でした。それをどうやって接触出来たのか……」

「つまりは官軍も黄巾もその何者かの手によって利用されただけ……そういうこと?」

「はい。ですが、これを追求することはないかと……」

「中心都では既に討伐成功を祝う雰囲気です。後味の悪さなんてどうでもいいのでしょう」

 

今の話が本当なら全てはその者の手の内ということになる。この私ですら使われた……ますます不愉快だわ。

 

「先の討伐は茶番に過ぎないとでも言いたいのかしら?」

 

私は窓から星々を見つめる。もしも、桂花たちの憶測が本当ならば……私は楽しめるのかしら?

 

 

〜廊下〜

 

 

その後は定期報告で終わり、自室へと戻っていく。桂花が閨を望んでいたけど今は1人になりたい気分であった。

あの戦場には数々の英雄もいた。彼らもこの不愉快さに気づいて同じように対策でもしてるのかしらね……

 

「…………誰かいる?」

 

自室の前に到着し、扉を開けようとした時、私は手を止めた。

誰かが部屋にいるのだ。

入らなくてもわかる気配。だが、私は再び動き出して部屋に入る。そこには……

 

「………………」

 

顔を隠した人間が立っていた。身体から男性なのは理解出来たが、それ以外は不明である。

 

「あら? 今夜は誰も呼んでない気がしたけど?」

 

私からは特に反応はしない。暗殺者ならこんな堂々としていない。何かしらの理由で此処にいるようね。

とりあえず私は窓際にあった椅子に座り、彼を見つめる。

 

「……兵に伝えないのか?」

「ええ。その前に色々と聞きたいの……今回の首謀者さん?」

「……なるほど。流石は曹孟徳(そうもうとく)だな」

 

男も近くにあった椅子を私の目の前に置いて対面するような形で座る。

 

「さて……城に無断で入った代償に私の質問に答えてくれるかしら?」

「……いいだろう。何が聞きたい?」

「そうね……今回の目的は何なのかしら?」

「増えすぎた賊を減らすことだ。このまま増えても俺の邪魔となるだけの蛆虫。駆除するのも面倒だったのでな……それに関しては感謝する」

「ワザと統一させるような格好をさせたのも?」

「道に転がっている石ころは誰も気にしない。しかし、同じ石ころが大量に、かつ道のど真ん中にあるなら貴様はどうする?」

 

なるほど。確かに邪魔となるわ。彼はそこまで考えて、官軍を動かしたのね。

 

「では次。何故、私の前に現れたの?」

「時代の英雄に会いに来た……とでも言っておこう」

「ふふっ。素敵な告白ね。それで、会ってみた感想は?」

「その名に恥じない英雄だ」

 

こんな夜に素敵な台詞を言える辺り、この者は私と同じような性格なのかしら……

 

「これからは群雄割拠の時代となる。貴様は既にこれを予感し、力を溜めていた」

「………………」

「自分の道を覇道として偽りのない歩みを進んでいく。まるでこの世の“覇者”のようにな」

「自分を信じずに誰を信じるというの?私は私、誰でもない曹孟徳よ」

 

これは昔から変わっていない。自分の道は自分のためにある。その信念を捨てたら何も残らないわ。

 

「……ならば断言しよう。貴様は覇者となる器だが“勝者”とはなりえない。俺がいる限りな」

「……へぇ」

 

ハッキリ言う。本当に私好みの性格ね。

 

「必ず貴様は俺の前に屈することになる。必ずな」

「なら、今すぐ勝者になってみせましょうか?」

 

そう言って私は近くにあった戦鎌“絶”を取り出し、男の首に構える。しかし、男はその場から避けようともせずにただただ座っている。

 

「……避けないのね」

「貴様が納得するなら殺せばいい。だが、貴様の欲は満たされんだろう」

「……ふふっ」

 

まさかあんな茶番の後に、こんな情熱的な出会いがあるなんて……。それだけでも今回の討伐に参加した甲斐があったわ。

私はゆっくりと絶を下ろす。

 

「もうすぐ侍女が部屋に来るわ。出るなら窓から出なさい」

「……難儀な性格だな」

「それも私よ。素敵な強敵さん」

 

男は立ち上がり、窓から身を投げた。

1人となった私は棚にあるお酒を取り出した。これは特別な時にしか飲まないようにしている。最近だと曹魏を旗上げした時かしらね。

 

「ふふっ……乾杯」

 

私は窓に向かって乾杯した。これからどんな再会があるか楽しめる……。それだけで私の心は満たされる。だから私はこの言葉を送る。

 

「ありがとう……」

 

 

次は……情熱的な戦場で。

 

 

~荒野・臧覇サイド~

 

 

「………………」

 

………………なんか違う。

今までとは違うベクトルで意味深な悪役でもなろうかなと思ってたけど、なんか曹操さん気に入ってた気がする。この路線はやめよう。

 

「まぁいい。次は……董卓討伐だったっけ? それまでにせめて1人でもくっころしなければ!」

 

俺の道は果てしなく険しい。だが! それでこそ達成感があるってもんよ!

 

「見ていろ恋姫よ……必ず全員くっころしてみせるからな! ハァーッハッハッハッ!!」

 

 

こうして俺と曹操さんの夜は過ぎていくのであった……




いつも失敗ばかりする悪役が見せる真面目なシーン。かっこいいから好きです。

それでは!

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