〜
「みんな大好き!」
「「「てんほーちゃーーーーん!!!」」」
「みんなの妹!」
「「「ちーほーちゃーーーーん!!!」」」
「とってもかわいい」
「「「れんほーちゃーーーーん!!!」」」
今日は私たち、
これほどの人が来るようになるとは夢にも思っていなかった。これも全てあの人のお蔭。どれほどの恩を貰ったのだろう。まさに“神様”のような存在だ。これもあの日の出会いがなければなかった……感謝します。
だから私たちなりの形で返していこう………………
〜数ヶ月前・臧覇サイド〜
「う〜〜ん……おいしいよ〜!」
「これとこれと……あとこれも追加で」
「すいません、本当にすいません」
今目の前でたくさん食べている2人とひたすら謝っている眼鏡っ娘。すごい勢いでお皿が並ぶ並ぶ。この子たちってこんなに食べる子だったっけ?
彼女たちの名は張角、張宝、張梁。ゲームの物語でもノリと勢いで大変なことになっちゃった姉妹。
「今回は御主人様が支払うと仰っておりましたので遠慮せず食べてください」
「「はぁ~い!!」」
うん、元気なのはいいことだ。食べる子は好きだからね。
さて……どうしましょうか?
張角三姉妹にはあったはいいが何も考えずに出会ってしまったのだ。仕方ないじゃん。もう少しゆっくりとヒロインたちをくっころしていこうと思っていたのに……まだ劉備さんや曹操さんに出会ってないよ……え? 孫権さんは? しばらく魔王に会いたくないので避けます。
そもそもこの子たちってどうやってくっころすればいいのかな? 考えろ臧覇。この子たちを上手く利用し、より絶望させる方法があるはずだ。
………………そういえばこの子たちって大きな舞台で歌うのが夢とかなんとか。
「貴方たちは芸をしながら旅を?」
「そうだよ~。歌が好きだからみんなに聞いて貰いたんだ~」
「だけどいろいろ回ってるけど儲けは微々たるモノ……もう少し世間はちぃたちに優しくしなさいよ!」
そうかそうか。それじゃあおじちゃんも手伝ってあげよう。
「それでしたら私たちもお手伝い致しましょう。いいかね美花?」
「御主人様の仰せのままに」
「「ホントッ!?」」
「……どうして此処までやって頂けるのですか?」
さすが張梁さん、既に俺たちを疑ってるな。まぁ初対面だし仕方ない。ここは俺の話術できり抜けよう。
「私はある日、神に出会いました」
「………………神、ですか?」
途端に目線が鋭くなる。嘘だと思うだろ? 本当なんだぜこれ?
「その時、私にこう助言されました……“困っている人がいたならば手を貸しなさい。それが己の使命と知りなさい”と」
「……はぁ」
「(この人って、かなりアレな人? 顔も隠しているし)」
「(もしかして……ちぃたちの身体が目当て!?)」
そこ。ヒソヒソ話はもっと小さくやりなさい。聞こえてます。泣きますよ?
「私はこの言葉通りに人の為に働きました。この美花もまたそのうちの1人なのです」
横にいた美花は頭を下げる。
「私は多くの人を助けたい。こんな時代だからこそ、神は私に使命を与えたのでしょう。それならば私は使命を全うするのみです」
「「「………………」」」
さて、こんな怪しい人間が貴方たちを助けたいなんて言われたらまずお断りだろうな。だけど、この子たちは大きな夢を持っている。夢を持つ女の子ほどこういったモノにはまり易いって前世の雑誌で見た気がする。
「……私たちを助けたいことはわかりました」
真っ先に反応したのは張梁。
「正直申し上げますと此処までしてくれる貴方に警戒しております」
「承知の上です」
「ですが……もし本当に人助けをしたいというなら私たちの夢を手伝ってくれますか?」
「聞きましょう」
「私たちは多くの人に歌を聞いてもらうことです。村や街などではなく大陸を揺るがすような……それが夢です」
「お姉ちゃんも、もっともっとたくさんの人に聞いて欲しいな~」
「ちぃだって! もう誰もがちぃ達を知ってるような有名人になるんだから!」
「……わかりました。では私も全力で手伝いましょう」
よし釣れたな! やっぱり夢追う少女はチョロいな! さぁ~てここから絶望に引きずってやるぜぐへへ……
それから俺は某アイドル育成ゲームの如く頑張った。元々、彼女たちのポテンシャルはむちゃくちゃ高い。だから必要なことは事務方の仕事である。これは俺が主に全体、美花はライブを行う際の広告、そして張梁さんには金銭面での仕事を行っていった。
「今回の衣装です。どうぞ試着をお願いします」
「わぁ~~!! みんな可愛い!」
「これだとちぃの人気がまた上がっちゃうわ!!」
服のデザインは俺が考えて、部下に作らせる。というより部下たちには会場の建設、周辺での料理の販売などをやらせている。マジで万能だろコイツら。
もちろん彼女たちのメンタルサポートも手を抜かない
「お姉ちゃん、お腹すいちゃったな~……」
「こちら、美味しいと評判のシュウマイ(自家製)です」
「ねぇねぇ! 次のすてーじなんだけどどっちの衣装でやった方がいいかな?」
「張宝さんはこちらの自由に走り回れる衣装がいいかと思います」
「すいません、次のらいぶでの人件費で相談が……」
「こちらで既にまとめておりますので目を通して頂ければと」
三者三様とばかりに言ってくるがこれもくっころのためだ、我慢我慢。
最初は小さな村からスタートして、あっという間に名が広まっていき、現在は大多数の人間が彼女たち目的で歌を聴く。また、彼女たちのファンとわかるように黄色い布を頭に付けさせるようにもした。俗に言う“黄巾党”である。
そして今……
~現在・臧覇サイド~
目の前で彼女たちのライブが行われてる。とてもいい笑顔です。
「御主人様」
「動きがあったか?」
「はい……官軍が動き始めました。我らの討伐に向けて続々と軍が出てきているとのこと」
「………………」
始まったか。なんかやっと恋姫が始まった感じがしてきたな。
「我々は勝てるでしょうか?」
「無理だ。そもそも暴れているのはこの場にいない黄巾と名乗る愚賊の仕業。そんな連中が集まったところで烏合の衆。軍には勝てんだろうな。滅びるのも自業自得。俺たちは戦わない」
「……今回、全員ではなく、限定に集めて長期らいぶを行った目的はそこに?」
「さぁな。そんじゃライブが終了次第実行に移る。美花は部下を連れて撤退の準備をしておけ」
「御意」
張三姉妹……貴様らの夢は叶えた。次は俺の夢を叶えてくれ!
~ライブ終了・楽屋~
「気持ちよかった~~!!」
「これなら大陸制覇も夢じゃないわ!」
「もう……すぐに調子に乗るんだから」
おうおう、歓喜の声が此処まで聞こえてくるぜ。この声が悲鳴と変わるのにな!
「失礼します」
「あ! ぷろでゅーさー!」
俺が楽屋に入ると真っ先に飛んできた張角。その豊満な胸を腕に押し付けてくる。うっはやっべー……。っと惑わされるな俺。
「今回のらいぶどうだった!?」
「とても輝いておりましたよ」
「ありがとうございます。それで何か用事でも?」
「はい。実はですね……ふん!」
「きゃっ?!」
俺は腕にしがみついていた張角さんを突き飛ばし、腰に差していた剣を抜く。
「本日をもってライブは終了する。覚悟しろ」
「「「っ!!?」」」
ふっふっふっ……これは完全に俺を信用していたな。だが、更なる絶望を貴様らに与えてやろう!
「お前たち張三姉妹率いる黄巾党は官軍によって討伐命令が出された。だからその首を頂き、将軍様への贈り物にしてやる!」
「「「………………」」」
「神のお言葉? そんなモノ最初からない! 全てはお前たちを餌にする準備に過ぎん!」
「「「………………」」」
「だが俺は優しい……お前たち3人のうち、1人を差し出せば2人は助けてやろう」
さぁ究極の選択だ! 三姉妹の絆は知っている。だから誰も売れないだろう! だが、この中で一番身を犠牲にしそうなのは張梁さんだ。彼女が出てくれば他の2人も絶望するに決まっている。どうだ! 俺の作戦は完璧だ!
「ついに……来たのですね」
一番最初に口を開いたのは意外にも張宝さん。彼女のことだきっととんでもない罵倒が飛んでくることだろう……それをねじ伏せる! ククク、我ながら中々のSっぷりだn
「ちぃたちは……ついに天の国へ行けるのですね!」
………………………………へ?
「てんのくに? なんですかそれ?」
「私たちはしがない旅芸人でした。ですがぷろでゅーさー……いえ、神様が私たちの前に現れてからそれは一変しました」
淡々と説明をする張角さん。あれ? 君ってもう少しほわ~んとしてなかったっけ?
「最初は疑ってました……そんな自分を叱りたいほど私たちは充実のある日々を送れるようになりました」
うん、よかったね張梁さん。それで、何で君の目のハイライトは消えてるのかな?
「ですがこの充実は何故あるのか。私たちは考えました。そして私たちはある答えに辿り着きました」
そういって3人は俺に近付いてくる。後ずさりする俺。
「それが……神様です。己の欲に溺れていた私たちの前に現れて下さった正真正銘の神様」
「こんなちぃたちですら神様は手を伸ばして下さいました。それが何より嬉しかったです!」
「もし、私たちの首で神様の役に立つなら喜んで差し出します。そして私たちの悲願である天の国へ恩返しを……」
………………………………………………………………どうしてこうなった!?
待て待て待て! 何が起きたの!? どうして彼女たちはここまで狂信してるの!?
落ち着け……落ち着くのだ臧覇。このまま彼女たちのペースに惑わされるな。
「何を馬鹿なことを言っている! 天の国など存在するわけないだろう!」
「そうでしょうか? この国でこれほどの知識を持った人間がいるならば都はもっと華やかになるはずです。しかし、今の時代は私利私欲に埋もれた人々でいっぱいです。だからこそ、神様がこの時代の人間ではないと確信しております」
ちくしょう! 少なからず当たってるのがメンドクサイ!! だが、このままでは自分から首を斬りかねん。
とりあえず俺は剣を仕舞い、腕を組む。
「………………よくぞ見破りました」
神様になりきろう。
「っ!? やっぱり神様だったよ!」
「うん!」
「これで私たちも……」
「ですが……残念ならが貴方たちを天の国へと送ることは出来ません」
「「「ッ!!? どうして?!」」」
「貴方たちは天の国へと行きたい……それもまた欲なのです」
俺の言葉を真剣に聞いてくれる三姉妹。張梁さんに至っては涙を流している。ちょっとシャレになってないかも……
「貴方たちは選ばれた人間なのです……ですから此処で終わるのではなく、多くの人間に想いを伝えるのです」
「多くの……人間に……」
「それがちぃたちの使命なんですね!」
「ありがとうございます。私たちもより一層、頑張ります」
「それは良きこと……私はいつまでも見守っておりますよ……」
そういって俺は全力でジャンプをして飛び立っていく。そんな俺を最後まで祈りを捧げるようなポーズを見せる三姉妹。
そして雲より高い場所に来た時に……
「………………何故だぁぁぁぁぁぁ!! 何故こうなるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
天に向かって叫ぶのであった。
何か取り返しのつかないようなことをしたような……
ありがとうございました。