多分読まなくても本編に差し支えないと思います。
これは臧覇が去り、しばらくの時間が流れた頃、孫呉に思わぬ来客が現れた話である。
〜建業・雪蓮サイド〜
「……同盟ですって?」
「うむ!」
今、目の前にいる小さな子は袁術。名族とも言われるほどの有名な一族である。そんなお嬢様が突如として私たちの城に向かうとの手紙を読んだ時はものすごく慌てたわ。今はお母様が留守であるので、私が対応しなくてはいけない。恨みますよお母様。
彼女たちの悪い噂が後を立たなく、暗愚とも言われるが財と兵に関しては右に出るのがいないためたちが悪い。
そんなお嬢様から出て来た言葉が同盟の申し出であった。
「……横から失礼します。申し訳ないのですが、その同盟の意図を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
言葉を発した人物の名は
呉の文官代表であり、冥琳の師でもある古参の将である。
「それならば七乃。頼むぞえ」
「はい。美羽さま」
すると袁術の横でずっとニコニコしていた女性が前に出て来た。
「説明は私、張勲が行います。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致す」
「同盟の理由としましてはそちらの将に興味があります」
「将に?」
「そうです。我が軍は兵こそ多いものの、しっかりと指導が出来る人材が残念ながらいないのです。様々な場所を拝見しましてこちらの兵の質の濃さに注目した……ということです」
「なるほど。軍の強化として我が国の将を借りたい……ということですか」
「はい〜」
なるほど。ま、褒めてくれるだけなら嬉しいわね。褒めてくれるだけなら……
「かの有名な袁術様に目を付けて頂けまして、この上なく喜ばしい限りです。しかし……」
「そんなホイホイと国の将を貸せませんよね。それは重々承知しております」
「………………提案を聞きましょう」
「話のわかる方で助かりましたー。今のが孫堅さんなら私、斬られちゃってますよ〜」
……食えない人ね。もしかしたらお母様のいない時を狙っていた?
「そちらの将を貸して頂けてましたら、建築関係や天気に詳しい人たちを派遣させて頂きます」
「……なるほど」
うわー……完全に家の事情を知ってるわ。
私たちの国は賊や他国の他に自然とも戦っている。もちろん天気を止めることは出来ないから嵐を予測し、水害が起こるかもしれない場所には出来る限りの対策をする。だが、それでも限界は近い。
だから、建築や天気の詳しい人たちは喉から手が出るほど欲しい。
「この地域は水害が特にヒドいと聞きました。だから我々が協力してあげようと優しい優しい美羽さまからの提案なのです」
「そうなのじゃそうなのじゃ!」
ピョンピョンと嬉しそうに跳ねる袁術に若干のトキメキが生まれる私。危ない危ない。
「水害で一番苦しむのは民じゃ! 民なくして王は生まれないのじゃ!」
「素敵です美羽さま! よっ! この泣き虫王!」
「にょっほっほっ! もっと褒めてたも~」
今の褒めてる? まぁそれは置いとくとしてその考えには頷ける。暗愚っていう噂も嘘っぽいしね。
「雷火。私はこの同盟を受けてもいいと思うわ」
「……ふむ」
雷火は顎に手を添え、しばらく考える。
「わかりました。この同盟は君主、孫堅にも伝えます故、最終的な決定は後ほど……」
「それはもちろん。ありがとうございますー。それでは美羽さま、帰りますよー」
「うむ! 今回、時間をくれたソチらに感謝するぞえ! にょっほっほっ!」
そういって袁術たちは部屋から出て行った。残された私と雷火は同時にため息をつく。なんだかんだ言っても疲れるわ。
「それにしても、なーんか引っかかるわね……」
「ほう? 何か気になることがあるのか?」
「袁術って噂だととんでもなく我が儘で自己中心って聞いてたけど、ちゃんと民を思う可愛い子って感じ? それにあの張勲って人、何か気味が悪い……ってことしかわかんない」
「40点」
ぐぬぬ……手厳しい。
「今回の同盟……もし断れば確実に攻め込んでくるであろう」
「そうは見えなかったけど?」
「いや、袁術はしない。するのは張勲じゃな」
「けど、どうやって? あちらさんの全戦力をぶつける気?」
「そんな簡単な策ならばどうとでもなる。奴らの狙いは水門じゃ」
その言葉で私は理解した。水門とは水害対策としてお母様が建設させたといわれる巨大な門。これがないと国は大きな水害にあってしまうのだ。
「先の話を聞く限り、張勲は既に我が国の情勢を把握しておる。その気になれば嵐の日を狙い、水門を攻め、水攻めをしてくる。水門と同時に我らに攻め入る兵はあるはずだからな。同盟とは名ばかりの脅迫とも言えよう」
「多くの民が犠牲になるわよ?」
「だからするのだ。我らがどれだけ民のために戦っているか、理解しているに違いない」
「………………」
「張勲という人間は詳しくは知らん。しかし、軍師として見たならば既に冥琳は超えている」
「それほどなの?」
「ああ。軍師とは兵や地形、そして敵をも利用して勝利へと導く。しかし、張勲は人間の情を利用し、徹底的に追い詰める。たとえ負けたとしても後味が悪いようにしむける。例えるならば相手に“勝つ”戦ではなく相手を“殺す”戦をするのじゃ。本来ならば軍師として必要なのだがな」
雷火がそこまで褒めるのも珍しい。私や
「しかし、幸いにも袁術にゾッコンじゃ。今の袁術を見る限りでは同盟は袁術の本心によるもの。張勲は絶対に成功させたいがために脅しをかけたのだろうな」
「ふ~ん……でも、袁術は暗愚って噂があったわよね? 今の感じじゃそうは見えないのに……どうしてそんな噂がたったのかしら?」
「大方噂とはそんなものよ。それか……大きな出来事があって変わったのかもしれんぞ?」
大きな出来事ね~……なんだろう。自分でもよくわかんないけど他人事のように思えないわね。
「しかし、残念じゃ。出来れば冥琳にも見せてやりたかったのう……」
「それは言わないの! 冥琳に無理をさせるもんなら私が許さないから!」
「わかっておる」
そういえばあの医者は元気かしら? 出来ればまた会いたいわね。
~帰り道・七乃サイド~
「ご苦労であった七乃! これでより民を安心させることが出来るのじゃ!」
あ~ん! 美羽さまが可愛すぎて理性が暴走しそうです!
「良かったですね美羽さま」
「うむ!」
それにしても美羽さまも変わりましたね~。もちろん、昔の美羽さまも可愛かったですが今はとても優しくなられたので凛々しくなりました。ちょっと寂しいですね。
「妾が成長すればいずれコーユーと紀霊は戻ってくる! それまでは勉学にも力を入れんとな!」
本当にあの2人が好きなんですね美羽さま。私も好きですよ~……私をあそこまで追い詰めた人なんですから。
どんな外道の道を歩こうが、どれだけ犠牲を払おうが必ず美羽さまのモノにしてみせます。それが私が出来る唯一の“愛”なんですから……
「ふふっ……美羽さま?」
「なんじゃ七乃?」
「早くお2人に会いたいですね……」
「うむ! 絶対に会うのじゃ!!」
待っていて下さいね? 必ず……必ず取り戻しますから………………フフフフフ。
~臧覇サイド~
「ぶえっくしょい!!」
「兄貴? 風邪っすか?」
「いや、なんか急に寒気がしてな……」
誰か噂でもしてんのか? ………………まさか!?
俺の悪評が知れ渡っているのか! ふふふ……今も弱き民が怯えているに違いないなぁ!
はぁーっはっはっは!!
張勲さん、何気に強キャラ設定なんですよね……
そして若干、ヤンデレっぽくなっていきました。
ありがとうございました。