〜拠点〜
「………………」
「あ、兄貴はどうしたんだ?」
「いや、昨日突如いなくなったと思ったらすぐ戻って来たらずっとあの状態なんだ。俺にも何がなんだが……」
「落ち込む兄貴……嫌いじゃないわ!!」
「御主人様……」
外野が騒がしいが今は何もする気にならん。昨日、孫堅さんに勝ったと思っていた。だか、あの人は俺の想像以上の行動を取った。俺は何も出来なかった。これから俺は悪役になって恋姫のヒロインをくっころしなければならん筈だ。このままでいいのか、いやよくない。これからは生まれ変わるのだ。なればこんなところでくよくよしてる場合ではない!
「よし、次の策だ。部下を集めろ」
「だ、大丈夫なんですか?」
「だいじょうぶだ…おれはしょうきにもどった!」
「は、はぁ……」
困惑しながらも部下が全員集まり、次の策を説明する。
「まずは俺の身に起きたことを説明する。実はこの森に孫堅が入り込んでいたのだ」
「「「えっ?!!」」」
皆は驚きを隠せていない。それもそうだろう。100人の賊に“関わりたくない人物は?”とアンケートを取ったならばぶっちぎりでNo.1であるあの孫堅さんだからな
「孫堅ってあの……」
「噂だと生き血を求めて賊狩りを始めたとか……」
「龍と闘って右目を喰らったって話もあるぜ?」
「実はあと三回変身が出来るという話も聞いたことがある」
あの人なんなの? 実は魔王でしたって言われても不思議じゃないよ?
「で、ですが、入り込んで“いた”と言うと?」
「ふっ……俺が退治してやったのよ」
「「「な、何だってーーーっ!!!」」」
君たちノリがいいね。そういうの好きよ俺。
「さっすが兄貴だぜ!」
「まさかあの孫堅を退治出来るなんて……もう怖いもん、無しだぜ!!」
「アタシの心がギュンギュンきちゃうわーー!!」
先のビビりから打って変わって士気が爆上がりである。まぁ嘘はついてないし、問題ないだろう。
「そんじゃあその勢いで孫堅を倒しちまうってことですね!」
「落ち着け。孫堅1人倒してもあそこは崩れん。強い土台が出来上がっているからな」
「そ、そうでしたか。すいやせん、早とちりしてしまって」
いや、その気持ちわかるよ。君は悪くない。そのままの君でいてね。
「いいかお前ら? 戦ってのは何も力だけじゃねえ。オツムの使い方ってのもあんだぜ?」
「「「おおー……」」」
「美花の情報によると孫家には多くの猛将や軍師が存在する。その中でも俺が特に注目してるのがいる」
「そ、そいつの名は?」
「……名は孫策。孫家を担うべき英雄だ」
さぁ……私の作戦に恐れろ!!
~
う~~ん! 気持ちのいい朝! こういう日は散歩が一番よね!
「孫策様、おはようございます」
「は~い! おはよう!」
いや~賑わってるわね~。全く……冥琳も素直に来ればよかったのにー。ぶーぶー。まぁお土産くらいは買っていってあげようかしら。私ってば優しー!
「いらっしゃい、いらっしゃい! 出来立ての肉まんが揃ってるよー!」
あ! いつもおいしい肉まん屋さん! ちょうどお腹もすいたし買ってこー!
「おばちゃーん! 私にも肉まん一つ!」
「おや孫策様! それじゃあ少し待ってね。出来立てを上げるから」
やったわ。
「あいよ! やけどしないよう気をつけるんだよ!」
「はーい。はむ…………ん~~~おいふい~~」
「全く足をバタバタさせちゃって……昔っから変わらないわね~」
「それが私のいいところじゃない?」
「はいはい……そういえば孫策様は大丈夫なのかい?」
「? 何が?」
「今、街では流行の病気があるって噂だよ?」
病気? そんな話、城では聞かなかったけど……
「ただの噂じゃない?」
「実はね、その病気ってのは表に出てこないで気付いたら手遅れになるって病気らしいのよ」
「うわ何それ……何か特徴とかないの?」
「普通の医者でも見落とすらしいのよ……怖いわね~」
流れの病気ね……気をつけてやらないと。
数日後……
「
「
「ひっどーい! それだと私は万年暇人娘ってことになるじゃなーい!」
「ほう、自覚はあるのだな。感心したよ」
今日の冥琳、すごく毒がある。やっぱり肉まんのお土産を食べたのが原因かな?
「……はぁ。このままじゃずっと私の前で駄々をいいそうだな。仕方ない」
「冥琳!!」
やっぱり持つべきは友よね! それじゃあ早速街に繰り出そう!
~肉まん屋~
「おばちゃーん! 肉まん二つー!」
「また来たのかい孫策様。おや、周瑜様も一緒とは珍しい」
「いつも雪蓮がお世話になっております」
アンタは私の保護者か。
「ほら、熱いうちに食べな!」
「はーい! はい冥琳!」
「わかったから……ん、おいしいな」
やっぱり冥琳も食べたかったんだ。この前は本当にごめんね?
「そういえば孫策様はあの後は大丈夫だったかい?」
「あの後? ……ああ、流行の病気?」
「病気……この前の会議でも話してたな」
こういうのはすぐに報告するに限る。私の愛してやまない街だもん。何かあってからじゃ遅すぎるからね。あの後は私や将だけじゃなく、兵や侍女のみんなにも話しをして異常があったらすぐに伝えるように指示をしてるわ。
「私たちは問題ないわよ~」
「ああ。本当にただの噂だったみたいだな」
「それは安心だね。だけど、知らないうちに病気に犯されるのも怖い話だね」
「………………」
あれ? 少しだけど冥琳の顔が暗いような……気のせいよね?
「そういや聞いたかい? その病気を見つけてくれて治してくれる医者が来てるって話は?」
「へ? 何それ?」
「何でもその病気を聞いてわざわざやってきたらしいのよ。流行の病気だけじゃなくて、格安で怪我や風邪にも対処してくれるから一時はすごい列になったって話だよ?」
へぇ~……そんなことしてくれる人がいるんだ。有難い話ね。今度、会いに行こうかしら。
「………………」
「……冥琳?」
「雪蓮、ちょうどいい機会だからその医者に会いに行こう」
「え? ま、まぁいいけど……」
さっきまで食べていた肉まんを止めて、私に相談してきた。自分から行こうだなんてめずらしいわね。
「店主、その医者は何処に?」
「ん~~? アタシはわかんないわね。でもそこの客が通ったって言ってたわ」
「感謝する」
そう言ってすぐにその客に話を聞きにいく。本当にどうしたのかしら?
~小屋~
話によれば此処で診断をしてるらしいわね。それにしてもこんなところに小屋なんてあったかしら?
「それじゃあ行こう」
冥琳自ら率先して扉を叩く。此処まで行動力があるの初めて見たかも……何があったの?
「どうぞ~」
扉を開けると椅子に座り、顔を隠した男性と白い衣装に身を包んだ女性が立っていた。怪しい。物凄く怪しい。
「すいませんねこんな姿で。多くの患者を診るんで対策をしなくてはいけないんですよ」
私、顔に出てたかしら? あんま失礼なことしちゃいけないわね。
「いや、構わないです。それで流行の病気についてですが……」
「ああ、あれは長い潜伏期間が必要なんですよ。だから一日や二日で手遅れです! なんてことはないので安心してください。その薬も出来ているのでなるべく安く提供してます」
「それなんだけど何で安く提供してるの? それだけでかなりの金額になりそうだけど……」
「高く提供して、治せる命を治せなくなってしまった……そんな悲しい物語は作りたくないんですよ」
……本当、さっきの私は失礼だったわ。見た目でだけで怪しんで、判断するなんて。まだまだね私も。
「………………もし、その期間が長かったら………………手遅れですか?」
え? 冥琳?
「……君」
「はい」
すると医者は女性に声をかける。女性はすぐに冥琳の身体を触り、軽い質問をした。その質問に医者は一つ一つ書き残す。
「……正直に申し上げます。かなり危険な状態です」
「え!?」
そんな……冥琳が!?
「これは流れの病気ではありません。憶測ですが既に何人の医者にも相談をされましたね?」
「はい。ですが、口を揃えて手遅れと言われまして」
「どうして……どうして黙ってたの!!」
「………………すまない」
出来れば言い訳を言って欲しかった。そうすればなにかしら言い返しも出来た。だけど、素直に謝られてしまっては何も言うことが出来ない。
「なんでよ……どうしてよ……」
もはや何も考えられなくなってしまった。これから国の為に戦おうと誓った
だけど、此処で救いの言葉が聞こえてきた。
「ですが……手遅れではありませんね」
「「!!?」」
さっきまで黙っていた医者から出た救いの言葉。その言葉に私と冥琳が飛びつく。
「な、治せるのですか!?」
「もちろん可能性は高くはありません。ですが少しの時間をいただければ……」
「そっちの条件はいくらでも飲むわ。だからお願い! 助けて!」
「……では、数日後に行いましょう。場所は何処で?」
「この先にある城が私たちの拠点です。可能であるならばそちらで行って頂けませんか?」
「わかりました」
そういって医者はすぐに奥の部屋へと向かった。私たちはあの医者を信じ、城へと戻っていく。私に何か出来ることはないだろうか? いや、やめよう。今はただ、冥琳の近くに居よう。
~数日後・???サイド~
「………………」
全ての準備が出来ました。後は……私次第となります。いはやは、これほど気持ちを抑えるのが難しいとは思いませんでした。
名医かと思った? 残念! 臧覇ちゃんでした!
フフフ……こうも簡単に忍び込めるとはな。存外、孫策さんも温いってもんだ。さっきまで話していた医者は俺で女性ってのは美花だ。今日は1人で来たがな。それにしても、流石は俺の作戦だな。
実は流行の病気というのは俺の部下が広めた噂。先に潜入してその噂を流す。そして孫策さんの行き着けのお店にも足を運び、噂を直接伝える。
そして何日かしたら俺と美花は医者と助手に変貌して、小屋を作成。そこで医者の仕事をはじめる。知識は子供の時に本を読んでいたので問題はない。そして必ず周瑜さんと一緒に訪れるであろう肉まん屋で俺の居場所を教え、後は流れ通り……
ここまで上手くいくとは恐れ入ったぜ。後は持ってきた睡眠薬を周瑜さんに飲ませ、人質を確保。そして、それを餌に……
~妄想~
「謀ったわね!! 冥琳から離れなさい!」
「オイオイオイ、立場が理解できてねぇんじゃねーか?」
「くっ……この外道!!」
「最高の褒め言葉だな! グヘヘへ……!」
「冥琳を殺すくらいなら……私を殺しなさい!!」
~終了~
完璧だ。全てにおいて完璧だな。孫策さんがまだ母の背中を見ている時期。まだ覚醒しきっていない今が狙い目なのも素晴らしい。
さぁ……目的の場所に到着だ。
「先日の医者です」
「入ってください」
これから始まるショーを楽しんでいってね!
ゆっくりと扉をあけるとそこには……
「………………」
不安そうな孫策さん。これから絶望へと変わるとも知らずに……
「今日はよろしくお願いします」
周瑜さんは覚悟を決めた顔だな。まぁ関係ないがな!
「冥琳を助けてくれるんですね? お願いします!」
何か見たこともない美しい女性からお願いされてしまった。めっさ可愛い。少し驚いたがまぁいいだろう。
「今日はよろしく頼む」
そして準備満タンで話しかけてきた
「かかかっ華佗!? ど、どうして此処に?」
「私が連れてきたんです! 彼も流れの医者なんだけど事情を話したら引き受けてくれたんです!やっぱり医者も多い方がいいかと思いまして!」
チィ! 余計なことをしてくれたな可愛い嬢ちゃん! というより本当に君誰?!
「あ、挨拶が遅れました。私は
あ、これはご丁寧に……じゃねえよ!!
マズい、非常にマズい。もちろん華佗さんのことは知っている。この人がいると本当に治してしまう。いや、そもそも、孫策さんをくっころさえすれば後で華佗さんを全力で探して教える予定だったのに……
「それにしても驚いたよ。俺自身でも診断したが、かつてないほどの病魔が潜んでいた。このままでいたら確実に魂と交わって治療が出来なくなってしまう」
「そんなに酷かったの?」
「ああ。しかも、今のまま俺の治療をしようものなら確実に後遺症が残る。だから、アンタの治療方法を聞いてから対策をしようと思ってな」
治療? んなもんしねえよ!
だが、此処まで来て「実は嘘でしたー! テヘ☆」なんて言ってみろ。首と胴体の離婚が成立してしまう。それだけは阻止せねばなるまい。
「えーっと……こ、これを使って……」
孫策さんをくっころにします。
「おお! やはり持っていたか!」
手に持っていた薬を見た途端、表情が明るくなる華佗さん。
「それは?」
「これはいわゆる仮死にさせる薬だ」
「仮死……ですか?」
「人間は眠っていても身体は動いてる。だから魂と隣接してる病魔への対処は難しいんだ。だけど、一時的にだが死に近い状態をすることで病魔に治療が行いやすくなる」
「でも、それって危険なんじゃ……」
「ああ。一般人だけじゃなく、医者も分量を間違えると本当に死んでしまう薬だ。だが、これならば死ぬことはない。流石だ」
へぇー勉強になるなー。え? 俺? 全く考えてなかったぜ!
「アンタ、多分治療方法は既にあると思う。だが、此処は俺の
「……どうぞ」
もーどうにでもなれー
「感謝する!! それじゃあ始めよう! 準備はいいかい?」
「とうに出来てます。んっ」
そして周瑜さんは俺の薬を飲み、目を瞑る。しばらくすると寝息も聞こえなくなり、頃合と見て華佗さんが針を出す。
「よし……いくぞ!! 我が身、我が鍼と一つとなり! 一鍼同体! 全力全快! 病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
すると周瑜さんの身体がかつてない光を見せる。何の光ぃ!?
だんだんと光もなくなり、先ほどと変わっていない周瑜さんの寝顔が写っていた。
「よし、治療は完了した。後は起きるのを待とう」
華佗さんの言葉を信じ、静かに待つ孫策さんと太史慈さん。此処で人質にしたいけど完全に2人が手を繋いでるから出来ない。チクセウ。
しばらくして……
「………………ん?」
「「冥琳!!」」
仮死状態から復活した周瑜さん。それに気付いて声をかける孫策さんと太史慈さん。
「大丈夫? 何処が痛む場所はある?」
「いや……むしろ今まで不快だったところがなくなってる」
「今ある病魔はなくなったからな。重い枷が取れたはずだ。だが、しばらくは無理をしないようにしてくれ」
「はい。ありがとうございます」
孫策さんと太史慈さんは涙を見せながら周瑜さんの手を強く、されど優しく握り、笑みを見せる。周瑜さんもまた、それに応えるように笑みを返す。
しばらくして孫策さんが俺と華佗さんの方に向かい、頭を下げた。
「2人とも、今回は本当にありがとう」
「礼ならばそっちの医者に言ってくれ。俺はいわばおいしいところをもっていっただけ。彼くらいの腕ならきっと治療も上手くいったさ」
「それでも、助けてくれたことには変わりはないわ。ありがとう」
華佗さんとの会話が終わり、今度は俺に顔を向ける。
「貴方には返せない恩が出来ちゃったわ。もし、あの時に会わなければと思うと……考えたくもないわ」
「………………」
「貴方でよければだけど……此処の専属の医師にならない? もちろん今回のことは上に通して、相応の地位にさせるから」
「………………」
「? あの……」
「こ……こ……これで勝ったと思うなよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そう叫んで、俺は窓から飛び降りた。
「ええ?! ま、待って! せめて名前だけでも!」
「チクショーーーーーーーー!!!」
こうして俺の作戦はまたも失敗に終わるのであった……
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