〜個室〜
「………………」
「………………」
静まり返った個室。臧覇と皇甫嵩は対面して座り、会話もしない時間が流れる。
臧覇は目の前の皇甫嵩を危険視している。空白の夜に見知らぬ女性。此処から彼女が何を言いますか待っていた。
「(焦るな臧覇……此処で昨日のことを思い出したフリさえすればいいだけだ……よし)」
覚悟を決めた臧覇は何を言われても此方に主導権を持っていこうと考えた。
しかし……
「昨日の晩は……とても激しかったですね」
「ッ!!!!??」
皇甫嵩はとんでもない爆弾を投げて来たのだ。
「(は……激しかった?! 何をしたんだ昨日の俺!! ……いやまて、これは相手の策だ。彼女は嘘を言っているに違いない)」
記憶のないとはいえ昨日の自分はどんなことをしたのか気になってしまう臧覇。
しかしすぐに頭を冷やし、こちらから反撃に出る。
「き、昨日のことは覚えていない……先ほどの貴女はそう答えたようですが?」
「確かに覚えておりません……ですが、身体は覚えております」
「……そ、そうですか」
「男の人は野獣と聞いていたけど……間違っていなかったわ」
「ン゛ン゛ン゛ッ!!!!??」
頬を赤く染めながら答える皇甫嵩。完全にペースは向こうにある。
「……外に出る」
「お供致しましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか。いってらっしゃい……アナタ」
「」
初戦は完全に皇甫嵩のペースのまま臧覇が逃げえるようにその場を去っていった。
〜城門・臧覇サイド〜
「クソッ!」
俺は門柱を強く殴り、怒りを見せる。歴戦の猛者を相手にして来た俺が一夜を相手(?)にした女なんかに遅れを取っている。
「このままヤツ言いなりになるのは御免だ……だが、どうする?」
策もなしに戻ってもどうすることも出来ん。悔しいが、向こうは頭が回る部類。無策のまま向かえば確実に婚約にもなる可能性がある。
「ヒロインよりも他の女を抱いたとなったなら……」
マズいマズい。この俺が目的も達成しないままゴールしてしまう。
何かないのか。此処のピンチを解決する策は……
その時……
「…………少しいいかしら?」
「ん?」
誰かが俺に声をかけて来た。
その声に反応して振り向くと何処かで見覚えのある女性がいた。
「確か貴様は……何太后か?」
「ええ。久しぶりね、高順さん」
皇帝での出来事で攫われていた女がこの何太后だ。
「何故貴様が此処に?」
「どっかの誰かさんが皇室やらを壊したせいで妾は曹操の子飼いとなったのよ。ま、今は不自由なく動けるから問題ないけど」
ほーん……三国志はわかんねえけどお偉いさんを子飼い出来る曹操さんってメチャクチャ凄くない?
「それよりこの後は暇かしら?」
「ん?」
「あの時のお礼がしたいのよ。このまま何もしないのは妾の趣味じゃないの」
「そんなものはいい。俺は今忙しくて……待てよ」
これは……使えるか?
「何太后、今晩付き合え」
「え?」
「俺の部屋で待つ。いいな?」
「そ、それって……」
「これから説明する」
さて、こちらも動くとしよう。ククク……此処からが俺の反撃だ!
〜夜・個室〜
「今晩は私が料理してみたの。どうかしら?」
「……うまいな」
その夜、臧覇は皇甫嵩と一緒に食事を取っていた。皇甫嵩はすっかり妻として顔をしている。
「(何も仕掛けにこない……このままイケるわ!)」
これで自分は幸せになれる。皇甫嵩は確信していた。長年国の為に働いていた自分がようやく幸せになれる。
「(ごめんなさい……貴方の素性もわからないのに……でも貴方も幸せにしてみせるわ)」
覚悟を決めた皇甫嵩。
しかしそれを黙ってみている臧覇ではない。
「(そろそろか……)」
臧覇は頃合いを見ていた。この状況を破壊できる人物を。
「皇甫嵩」
「……楼杏とお呼びください」
「呼ぶのがいいのがまずは知ってもらいたい人がいる」
「え?」
そう言うと……
「失礼するわ」
部屋に何太后が入って来た。
「……何太后様?」
「あら、誰かと思えば皇甫嵩さまじゃない」
「知り合いか?」
「顔なじみ程度には、ね」
「そうか……では改めて紹介しよう」
そして臧覇は立ち上がり、何太后に近づく。そして自分の懐に持っていき……
「私の愛人だ」
「…………え?」
愛人宣言をしたのだ。
その言葉を聞いた皇甫嵩は呆気にとられて、驚くことも出来ないでいた。
「君とは遊びだったんだよ。申し訳ないね」
「ふふっ」
「………………」
もちろんのことだが本当の愛人ではなく、これは臧覇の策である。
「(何故俺は気付かなかったのだ……別に俺自身のことで愛人を作ろうがどうしようが関係ないではないか。ならば、自分自身で修羅場を作ってしまえばいいんだ!)」
先ほど何太后と会い、思いついた策。それは自分を下衆とかし、その場を破壊する修羅場を作り出すことであった。
しかも、これで終わりではない。
「邪魔するぞ……なんだお主も来ておったのか、瑞姫」
「あら、姉様」
「なっ……何進将軍まで」
「ククク……」
何太后には姉がいる。それを知っていた臧覇はすぐさま動き、何進にも話をつけていたのだ。
「(これで俺は最低野郎だ! 罵倒なり悲観なり好きにすればいい! こんな奴と一緒にいるのも嫌な筈だ!)」
役者は揃った。これで自分は自由になれる。そう確信していた臧覇。
しかし、彼は見落としていた。ある決定的な事態に。
「……まさかこうやって出会うとは思ってもみないものですね。何進将軍、何太后様」
「そうだな。だが、強者の下には自然と人は集まる。仕方あるまい」
「ふふっ。それでどうされます? この後は?」
「私は最後で大丈夫ですよ」
「ならば余が頂こう。最近、身体の火照りを抑えるのも限界なんでな」
「………………ん?」
違和感を感じた臧覇。修羅場の流れとは無縁のほのぼのとした雰囲気である。
「おい貴様ら、どうして仲良くしている?俺は3人も愛人がいるんだぞ?」
「みたいだな。それで?」
「それでって……何かないのか? こう、俺にムカつくとか、泥棒猫! とか」
「「「………………」」」
計画通りにいかない臧覇は少し焦っていた。彼女らが何もことを起こさないことに。
しかし……
「何故そうなる? 性を満たすために余や妹を呼んだのだろ?」
「男の人が女の人を欲する……それは不思議でもなんでもありませんわ」
「愛人でも遊び相手でも私を必要としてくれているならお使い下さい」
「ば、馬鹿な!?」
彼女たちは寛大であり肉食であった。
正確に言えば、何進は欲さえ満たされれば問題ない。何太后は強い臧覇に興味を持っていたのでどのような形でもお構いなし。そして皇甫嵩は後がない。
その結果……
「なんならこの3人相手でも面白いぞ?」
「あら、姉様ったら大胆」
「でも、今後はもっと増えるかもしれないわ。その時のために経験しとかないと」
自分自身が絶体絶命のピンチとなっていた。
「(計画は完璧だった!何故だ!?)」
もちろんのことだが、臧覇の計画も人によっては完璧である。そう、人によっては。
臧覇は隠せない焦りもあり、人選を間違えてしまったのだ。それが自分自身を追い詰める結果となってしまっては意味がない。
「さぁ……」
「これから……」
「楽しみましょう……」
ジリジリと近寄ってくる3人の女性。それは飢えた獣の如く、目を光らせていた。
「く、くそったれ!!」
「「「っ!?」」」
そう言うと臧覇は懐にしまっていた煙玉を地面に叩きつけた。
そしてその煙がなくなると臧覇の姿はなかった。
「ふむ……逃げられたか」
「少し強引だったかしら?」
「そのようですね」
「むぅ……まあよい。まだ時間はある」
「ええ。長引けば長引くほど欲は溜まっていく。これから楽しくなりそうですね」
「では何進将軍、何太后様、今後とも」
「わかっておる」
「ふふっ……」
こうして3人は秘密の協定が結ばれた。
そして逃げた臧覇は……
〜飲食店・臧覇〜
「……何がダメだったんだろ?」
1人で反省会をしていた。その背中は悲しくもあり、情けなくも見えた。
〜荒野〜
何もない荒野。そんなどこにでもある荒野ではある戦いが行われていた。
大地は斬り後が残っており、所々には血痕もあった。
「ジャマッ!!」
「ハァア!!」
剣と矛のぶつかり合う音が空間を轟かせる。
最強と謳われる呂布と江東の虎の孫堅。
その戦いは1日が経っても終わりを見せていなかった。
「最高だ、最高じゃねえか!! 戦いはこうでなくてはな! そうだろ!最強!!」
「ウルサイ……ウルサイウルサイ!!」
「グッ!!」
呂布は孫堅の頭を掴み、頭突きを食らわせ、まともに受けた孫堅。
しかし……
「ククク……やはりお前はオレとそっくりだ。なぁ?」
「………………」
頭に血を流しても怯むことはなかった。それどころかその痛みさえ楽しんで見えてしまう。孫堅が根っからの戦闘狂たる由縁なのかもしれない。
「どんなに誤魔化そうが隠せない戦いの欲求。わかるんだよ……オレと同じだからな」
「恋は……お前とは違う…………」
「ふん……ハァッ!!」
「ッ!? グッ!!」
孫堅の膝が呂布の腹を狙い、呂布はそれを防ぐ。その反動で後ろに下がる呂布。
「どうした? オレとは違うんだろ? ならば……オレに勝って見せろ! 最強!!」
「…………オマエ、ウルサイ」
そして再び互いの得物がぶつかり合う。
戦いはまだ……終わらない。
遅れてすみません。風邪でした。みんなも気をつけてね!
修羅場とは一体……(哲学
ありがとうございました。