悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第19話

〜臧覇サイド〜

 

 

前回、俺は地獄の包囲網によって魔王に捕まってしまった。此処だけ見れば完全な別作品だが、安心してくれ。これは恋姫の世界だ。そして俺は彼女らの言われるがまま好き放題に……とはならなかった。

呂布さんと張遼さんが魔王を裏切るという予想外の展開が起きたのだ。何故裏切ったかは俺にもわからない。しかし、このまま引き下がる俺ではない。必ずやこの状況を打破してヒロイン共に地獄を見せてやるぜ!

そんな俺は今……

 

「いただきます」

「…………ます」

「いただきますですぞ!」

 

朝飯を食べていた。ちなみに場所はわからんが小さな小屋にいる。

 

「上手く出来たかわからんけども頑張ったで」

 

作ったのは張遼さん。朝から拉麺が出てきた。どうやって拉麺が出来たのかは謎だ。

 

「ずずー……美味いな」

「ずずずずー…………モキュモキュ」

「おう! おおきに!」

 

拉麺のすする音が部屋に響く。美味いものを食べると人は黙るというのは万国共通らしい。

しばらくして拉麺を食べ終わり、張遼さんと陳宮さんが食器を片付けて、俺と呂布さんはのんびりとしていた。

 

「………………って待てえええい!!」

「…………?」

 

俺は一体何してんねん……これじゃ、ただの日常系になってしまうわ! これは俺の極悪で残虐で非道な物語だったはずだ。

 

「なんや?どないしたん?」

「朝からうるさいですぞ高順殿」

「静かにする方が無理難題だよ! なんでマッタリしてるんだよ! というより此処は何処だ?!」

「「さあ?」」

「君たち立場わかってる?国から追われてる身なんだよ?」

「…………?」

 

あ、ダメだわ。これはみんなわかってないわ。

 

「はぁ…………頭が痛い」

「…………大丈夫?」

 

うん、君のせいだよ? そんな可愛げに聞いてもダメだからね?

 

「さて、冗談もここいらにしとこか」

「そうですぞ。そろそろ真面目な話をするのであります」

「………………ハイ」

 

もういいや。なんか疲れた。

 

「そもそもなんでお前たちは孫堅の下にいた?」

「こないだも話したと思うけど、ウチらと目的が一緒だったってのが、理由やね」

「ならそのままでよかっただろ?なんで逃げるような真似を……」

「そら、あくまで高順の確保が目的やもん。その後の問題は関係なしや」

「……問題?」

 

何かあんのか? 原作なら孫堅さんが亡くなった後に袁術さんが国を奪い、それを孫策さんが奪い返す……感じだよな? なら、孫堅が生きてる今はどうなんの?

 

「今、袁術殿と孫堅殿は袁紹殿の命を受けており、戦の途中でもあるのです」

「戦?誰と戦ってるんだ?」

「かつての劉表の部下、黄祖(こうそ)であります」

 

………………ふむ?

 

「ま、知らんのも仕方ない。アレはただの凡人やし」

「その凡人が何故、袁紹に目を付けられた?」

「ただの賊とは違うのです。規模で見たら目を逸らすのは難しいのです」

「それで袁術と孫堅を派遣させたってか?過剰すぎやしねえか?」

「…………見せしめ」

「……ああ。そういうことか」

 

自分に害をなす者は全力で潰しますよー覚悟してくださいねーって感じか。まあ国が甘くみられてたから腐った人間が増幅していったもんだし、このくらいはやっとかないとな。

 

「そんで自軍の強化の為にウチらを取り囲んで早期決着を狙っておったって話や」

「ですが、ねねたちは関係ないので抜けたのです」

「……なるほど」

 

ならばこの状況……使えるな。

 

「呂布、張遼、陳宮……俺に力を貸せ」

「………………むぅ」

 

ん? なんで呂布さん、不機嫌なの?

 

「…………恋」

「……それ、貴方の真名ですよね?」

「ん……」

 

いや……そんな早く言ってみたいな顔されてもね……

 

「よ〜〜〜く見ときねねっち。あれが“たらし”っちゅーもんや」

「恋殿を泣かしたらタダじゃおかないのです!」

 

だぁークソ !メンドくさい! 俺はヒロインには絶対に真名で呼ばないようにしてるんだよ! 仲良くなりたくないからな!

 

 

〜孫権サイド〜

 

 

「手を止めず、攻めたてろ! 相手に時間など与えるな!」

「「「うおおおおおお!!」」」

 

孫権は今、母である孫堅の命を受けて黄祖の軍の討伐を行なっている。状況は完全に孫権が優勢である。

 

「一旦下がるぞ!」

「は、はっ!!」

 

相手は分が悪くなり、これ以上の戦いは無意味とわかり、兵を退かす。

 

「誰1人とて逃すな! 此処で我が孫呉の力を……」

「なりません! 蓮華さま!」

「止めるな思春!!」

「気持ちはわかります! ですが、相手の策があることもあります! それに我が軍の疲労してる者も多いです!」

「ッ!! ………………わかったわ」

 

甘寧に言われ、渋々ながらもその場を去る孫権。それに変わるように甘寧の部下である周泰(しゅうたい)が入る。

 

「蓮華さま……最近、焦って見えますね」

「炎蓮さまや雪蓮さまが功を見せている。その中で自分だけが何も出来ていない……そう感じているはず」

「そんなことないですよ! これまでだって!」

「我々はそう思っても自分の中で納得出来ていないのもある。難しい話だが、乗り越えられるのは自分だけだ」

「そんな……わたしたちは何も役に立てないんですか?」

「………………」

 

甘寧は静かに拳を握る。自分の無力さ故か、それとも孫権の苦しみを取ることが出来ない悔みか。

そして彼女らは兵を下げ、準備にかかるのであった。

 

「……はぁ」

 

陣に戻り、1人の時間を取る孫権。その顔は疲れもあり、かなり荒れているのがわかる。

 

「私がしっかりしないと……上に立つ人間にならないと……」

 

まるで自分自信に呪いをかけるように業務に取り掛かる。プレッシャーもあり、自分への課題とも言える。

そこに遠くから覗いている謎の影……

 

「あそこに孫権がいるのか?」

「間違いないですぞ」

 

臧覇と陳宮である。

 

「それにしても恋殿と霞殿を連れてこなくて良かったのですか? 仮にも此処は敵の拠点なのですぞ?」

「いいんだよ……そもそも今は戦いに来たんじゃないしな……」

「? どういうことですか?」

「よし、まずお前には……」

 

臧覇は陳宮に今回の策を説明し、準備に移るのであった。

 

そして再び、孫権の個室。業務をこなし、今後の軍の行いを考えている。彼女は真面目な性格な為に妥協を許さない。自分でもわかるくらいな不器用さ。

そして次の業務に手をつけようとした時……

 

「お願いします! どうか!」

「助けてやりたいが無理なモノは無理だ」

「……外が騒がしいわね」

 

先ほどまで静かな夜であったが、今は外で口論をしているような声が響いている。気になって外に出る孫権。

そこには自軍の兵士とボロボロになっていた少女がいたのだ。

 

「何があったの?」

「え? ……孫権さま?! お疲れ様です!!」

 

突然現れた自軍の大将に驚きながらもしっかりと挨拶をする兵士。

 

「ええ、お疲れ。それで、何をそんなにもめてるの?」

「はっ! 実は先ほど森で賊に襲われたとこの少女が……」

「本当なので……なんです! 信じてください! 森の中にはまだ父上が!」

「……ッ!」

 

この時にまで愚賊が現れる。怒りを出さぬように唇を噛む孫権。そして冷静になり、少女に質問をする。

 

「どこらへんで襲われたかわかる?」

「えと……あそこから真っ直ぐ来たので……」

「真っ直ぐね……思春と明命は?」

「軍の調整中であります。すぐには終わらないかと……」

「そう……」

 

そして孫権はしばらく考え……

 

「すぐに動ける者を集めてちょうだい。私はすぐに向かうわ」

「え?! 孫権さま!!」

 

兵士の言葉を聞かずにすぐに森の中へと消えていく孫権。自分への焦りと愚賊に対する怒りで周りが見えなくなっていた孫権は兵も連れずに向かっていく。

 

「(…………高順殿の言う通りなのです)」

 

実はこのボロボロの少女、正体は陳宮であった。何故このような格好をして接触してきたのか?

それは臧覇の策であったのだ。

 

「(孫権殿が焦りを見せている今……辺りを見えなくなることは間違いないのです。そこを利用し、上手く誘導すれば……孫権殿は自分の愚かさに気づくのです)」

 

母親である孫堅が生きている今。必ず孫権は焦りがあると確信していた臧覇。この戦で功績を残そうと頑張っているのは必然。そして皆が疲れ切っている中で賊が現れたとなればどうなるか?彼女は必ず、1人で動く筈。そして1人になった時に襲うのが今回の策である。

ちなみに陳宮には孫権に説教をすると伝えている。意外にも、すぐに協力をもらえた。間違っても襲ってくっころをするとは言っていない。

 

「(あとはお願いするのですぞ!)」

 

こうして孫権は1人、森の奥深くへと進んでいく。

全てが完璧とも見えるこの状況……だが、ただ一つだけ臧覇はミスを犯した。

そのミスとは……

 

「くそったれえええええ!!!」

「「「ぐはああああ!!!」」」

 

謎の集団が本当にいたことであった。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

な! ん! で! 本当に人がいるんだよおおお!! こいつら誰だよおおお!!

 

「何故ここがバレた?!」

「相手は1人だ! 構わん殺せ!」

 

賊にしてはキビキビ動きやがるな。となるとこいつら……

 

「まさかアンタら……黄祖の軍とかじゃないよな?」

「やはり孫権の部下か! 生かして帰さん!」

 

当たりだよチクショウ! なんで夜遅くにこんな森の奥深くにいるんだよ! 昼間動けよ!

 

「メンドくさい……なッ!!」

 

手にしているのは剣ではなく丸太。これだけ敵が多いと1人1人斬るのは時間がかかる。幸いにも森なのですぐに丸太は確保出来る。それにしても扱いやすいな。丸太万歳。

 

「早くお前らを片付けないと……孫権が来るんだよ!」

「ッ!? 此処に孫権が!」

 

そうなんです! だからね? もう此処は一旦退いてくれませ……

 

「見つけたわ!……貴方たちは黄祖の兵か!」

 

早い……早くない?

 

「クソッ! 予定こそ狂ったが孫権は1人だ! すぐに殺せ!」

 

はぁ!? ふざけんなよ孫権さんは俺の獲物じゃい!

 

「そこの人! 申し訳ないが手を貸してくれ!」

「ええ!」

 

俺と孫権さんは背中を合わせて敵を迎え撃つ。さすがといったところか、孫権さんもかなりの武をお持ちで、相手を倒していく。

 

「せい! やあ! はあああ!!」

 

おーバッサバッサ斬ってくなー。やっぱあの娘だわ。

 

「そういうわけで、退場して貰おう……か!」

「「「がはああああ?!!」」」

 

孫権の剣と俺の丸太で敵を圧倒する。その姿に敵は既に戦意をなくしていた。

 

「ひ……退け! 退けええ!」

 

その言葉を待っていたかのように敵は武器を捨ててこの場を去っていく。

あー……疲れた。

 

「………………」

 

敵を倒したのに何故か暗い顔を見せる孫権さん。何?どったの?

 

「私は一体何してるのよ……1人で勝手に行動して……皆に合わせる顔がないわ」

 

あ、反省中でしたか。でも、こんなところで反省しても危ないよ?

だが、待てよ臧覇。これはある意味チャンスではなかろうか?こんな弱気になっている孫権さんを拉致すれば……甘寧さん辺りがくっころをしてくれるんじゃないか?

 

「…………やるか」

 

そーっとそーっと近づく俺。もう少し……もう少しで。

その時である。幾度と危機を乗り越えてきた俺の第六感がざわつき始めたのだ。

何かがくる……身を隠せ俺!

そして身を隠した瞬間、ものすごい轟音が響いた。

 

「な、なに?!」

 

その音に驚く孫権さん。音の方に振り向くと……

 

「ん? こんなところでなにをしている? 蓮華」

 

魔王、孫堅が降臨していた。あの人ってマジで人間なの?

 

「母さま?! どうして此処に!?」

「知った人間の気を辿ってきたんだが……お前がいたとはな」

 

首をコキッとならす孫堅さん。どうやら娘を見つけたことで俺の存在を消してくれたようだ。ありがとう孫権さん!

 

「それにしても珍しいな。部下を連れずに戦うなんて……」

「……見ていたのですか?」

「見てはいない。だが、これでもお前の親だ。ある程度のことはわかるもんだ」

「………………」

「まぁオレとしてはこのくらい盛んな方が好きだがな。お前の性格上、あまり得意ではないだろ?」

 

うん……どうしてあの魔王から孫権さんみたいな真面目な性格の人間が産まれるんだ? 謎だ。謎すぎる。

 

「なら、どうすればいいんですか?」

「………………」

「私は母さまや姉さまみたく強い武を持っているわけではない。シャオみたく器用に生きることも出来ない……なら、人一倍頑張るしかない」

「………………」

「でも頑張っても頑張っても……母さまみたいになれない。こんな私はどうすればいいんですか?」

 

いろいろと溜まってたんだな、孫権さん。これは原作以上に自分にコンプレックスを抱いているに違いないな。

 

「何故、オレになりたい?」

「…………え?」

 

先ほどまで黙っていた孫堅さんが口を開いた。

 

「正直に言おう……オレはお前らが羨ましい」

「……母さまが?」

「ああ。蓮華みたく真面目に物事を取り組むことが出来ない。雪蓮みたく友を大事に出来ない。シャオみたく女を磨くことが出来ない……それが孫文台という人間だ」

「…………母さま」

「オレ1人ならそこらの山賊と何も変わらん。だが……こんなオレを支えてくれる祭や粋怜、雷火たちがいる。あいつらはオレの強さに惚れ、ついてきてくれる。ならばそれに応えるのがオレの役目だ。そしてオレに出来ないことをやってくれるのが部下たちだ」

「………………」

「蓮華……王は1人で成り立つことはない。誰かが支え、それに応える。その絆が強くなり、王が誕生する。代わりを見つけることは出来ない」

「代わり……」

「そうだ……だからオレになるな、蓮華。お前はお前のやり方がある。それを曲げずに進んでいけ。そうすれば自ずと見えてくるはずだ」

 

…………仮にも国を持った王の姿か。これは強敵だな、オイ。

 

「……意外でした。母さまが私たちを羨ましく思っていたなんて」

「誰にも言うなよ?これでも恥ずかしい気持ちなんだからな」

「ふふっ、わかりました。母さまとの秘密ですね」

「ふっ……元気になりやがって」

 

家族の前ではあんな姿になるのか孫堅さん。かなーーーり、意外だった。

その時である……

 

「ッ!! 蓮華!!」

「………………え?」

 

気配もなく、死角から矢が飛んできた。その方向は孫権さん。

いち早く、反応出来た孫堅さんは娘を突き飛ばし……

 

「……がはッ!」

 

孫堅さんの横腹に刺さったのだ。

 

「か……母さまッ!!!」

 

 

それはあまりに突然で……凶悪な一撃であった。




ありがとうございました。

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