悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第17話

〜臧覇サイド〜

 

 

オッス、オラ臧覇。恋姫の世界で悪役を目指しているどこにでもいる山賊だ。目標はヒロインたちのくっころ顔を拝むこと。未だ成功はしていないがいずれは全員のくっころを見れるようになるから楽しみにしておけ!

さて、そんな俺は今……

 

「助けてくれー!」

「ここから出してくれー!」

「うるせー! 黙ってねーとぶっ殺すぞ!」

「………………」

 

別の山賊に捕まって、絶賛牢獄中でございます。

いや、待って、違うんだ。説明させてほしい。これも俺の計画の一つなんだよ。

俺は数多くのヒロインと接してきたが、どうにも悪としての性分が足りていない。だから他の山賊はどうしているか気になっていた。

最初は子分にでもなろうかとも思ったが、より悪を感じる場所は山賊に捕まった捕虜だと確信した。なので俺は適当な山賊を見つけ、適当に捕虜となり、現在に至る。

 

「お母さん……」

「大丈夫よ……大丈夫だから」

「クソ……どうすればいいんだ……」

 

それにしてもここの山賊は手当たり次第に捕まえるんだな。女、子供は当然だが、健康的な男もかなりいる。

人材不足の波がこの時代にまであるとは……。というより拉致多くない? 捕まった俺が言うのも変だけどもう少し村を襲ったりとかさ?

 

「はぁ……」

 

何か思ったより違うな。

もっとこう……

 

「やめて! 私を乱暴する気なんでしょ! エ●同人みたいに!」

 

みたいな展開が始まるのを楽しみにしていたのに。いざ見てみるとただ捕まえてどっかに売り捌くのが鉄則らしい。

 

「もう少しいてもいいが……どうすっかなー……」

 

観察するにしても絵面が地味すぎる。やはりヒロインがいないと燃えんな。

俺も悪と名乗るだけあり、こういった関係ない一般市民がどうなろうと知ったこっちゃない。基本助けているのは流れであって助けたい気持ちは一切ない。可哀想だから助けているなんてことはない。ないったらない。

そんなことを思っていると……

 

「俺たちはもうお終いだ……男は死ぬまで働かされ、女は死にたいほど犯されるんだ……」

「ッ! ……エッグ……おがあざん……」

「大丈夫よ! 心配しないで……きっと……助けが……」

 

今の状況に絶望してか、だんだんと不安な声が出てくる。こうなると心理的に希望は持たなくなるのが人間というもの。先ほどまで元気に抵抗していた男たちも絶望の色が伺える。

そこへ……

 

「み、皆さん! 大丈夫です! きっと助けは来ます!」

「そうよ! だから諦めないで頑張るのよ!」

「そうそう。みんなで頑張っていこう!」

 

謎の少女たちが皆を励まし始めた。

ん? というより真ん中の少女……見たことあるぞ?

 

「まさか……典韋(てんい)?!」

「………………え?」

 

この場所で何故か出会うと思っていなかったヒロインと出会ってしまった俺。つーか何してんの?

 

「えと……すいません。何処かでお会いしましたか?」

 

聞きたいことは山ほどあるがとりあえずこの場を誤魔化さねば!

 

「あ、いや……申し訳ありません。私はある種の情報が好きな人間でしてね?此処で大きな得物を持った小さな少女が賊退治をしていると流れで聞いたことがありまして」

 

大半は嘘だが……どうでる?

 

「あ、そうだったんですか。確かに私の武器は目立ちますから……それなら、知っているのも当然ですよね」

 

よーーしよしよし! 典韋さんがチョロくて助かった! 少しは疑いってことを覚えた方がいいぜ典韋さん?

すると服を引っ張る感覚があり、その方へ向いてみると……

 

「ねえねえねえ! 電々(でんでん)は?」

 

先ほど典韋さんと一緒に皆を励ましてた少女が俺に聞いて来たのだ。

いや……君、誰?

 

「………………申し訳ありません」

「ガーーン」

 

俺の言葉を聞いてガッカリする少女。ごめんね?

 

「仕方ないわよ電々。雷々(らいらい)たちはまだ旅を始めたばっかりじゃない」

「そうだけどさー……」

 

……多分だが、この子たちの名前は真名だな。とりあえず放置で。

 

「あ、名前を言ってなかったわね! 電々は糜竺(びじく)!」

「雷々は糜芳(びほう)だよ!」

 

あ、どうも丁寧に……じゃない! 君たちは少し落ち着いて! これから典韋さんと大切な話をするから!

 

「それにしても……何故、典韋様がこのような場所に?」

「えと……実は私、友人に呼ばれてある場所を目指していたんです。その途中で此処の山賊と遭遇して対抗してたんですけど、人数が多くて義勇軍の皆さんが捕まったことで私も……」

 

なるほど。人質を使って典韋さんを捕まえたってわけね。やるじゃん。

 

「お二人はその時一緒に戦ってくれた仲なんです」

「えっへん!」

「ふふーん!」

 

なるへそ。つまりは君たちも戦力になりえるのね。臧覇覚えた。

 

「ふむふむ……」

 

さて……どうするか?

適当に逃げようとしていたが、まさかの事態に巻き込まれていた。先は典韋さんらと組んで此処を制圧するか? いや、その流れだとくっころ展開は難しい。ではこのまま何もせずに待つか? それもダメだな。この後の展開がわからないのは苦しい。

そうなると……一つだけ方法がある。

 

「……お三方、この窮地を脱する方法があります」

「ッ! 本当ッ!?」

「お静かに。まずはですね……」

 

これ以上騒ぐと外の賊にバレてしまう。そうなる前にことを進める。

 

「………………ということです。出来ますか?」

「はい」

「雷々も行けるわ」

「電々も!」

 

よし、ならば始めるとするか。

 

「すいませーん! すいませーん!」

 

まずは糜竺さんが大声で見張りを呼ぶ。

 

「んだよ! 黙っていらねーのか!?」

「ごめんなさい! でも大変なんです! 妹が具合を悪くしちゃって……」

「ああ? んなこと知るかよ!」

 

まぁそうだろうな。そして後ろを向いた瞬間……

 

「せええええい!!」

「ヘブタ!?」

 

典韋さんが思いっきり牢獄の檻にタックルをした。典韋さんの力はかなりのモノで檻を簡単に貫通して見張りを巻き込んだ。

その空いた穴から俺と糜芳さんが飛び出して辺りを見渡す。

 

「な、なんだ?」

「何があった!?」

 

ふむ……前に3人と後ろに1人。思ったより多いな。

 

「糜芳様!」

「まっかせてー!」

 

数が多い方を俺が担当して……って待って!

 

「糜芳様!? 逆です!」

「え?」

 

なんでこの子、数が多い方へ向かってるの?

 

「………………間違えちゃった。てへっ」

 

いや……てへって。少し可愛いけど今の状況じゃないよね?

 

「くたばれッ!」

 

そして男が糜芳さんに向かって得物を向けた。

ああ! 言わんこっちゃない!

 

「しゃがん……でッッ!」

「ほい」

「ゴフッ?!」

 

糜芳さんがしゃがんだ瞬間、俺は全力で目の前を殴った。

すると気圧により空気が大砲のように賊に向かって飛んでいき、賊の腹部に命中した。

 

「おおー……すごーい!」

「な、何だ今のは?!」

 

ビックリしてるとこ悪いけど……

 

「シッ!」

「「ッッッッ?!!」」

 

すぐに賊たちに近づいて鳩尾に拳を食らわす。2人は声を出すことも許さず、倒れていった。

 

「ヒ、ヒィィィイ!!」

 

後ろにいた男は逃げるようにその場所から離れていく。

 

「あ! 逃げていくよ!」

「いや、逃しましょう。どうせこの騒ぎですからすぐにバレます」

 

ま、なるようになったから問題ない。とりあえずはこの場は大丈夫だろうな。

 

「電々! 大丈夫!?」

「大丈夫だよー!」

「お兄様も大丈夫ですか?」

 

おおー……なんか一刀君に言っていたお兄様を奪ってしまった。ごめんなさい一刀君。

 

「私も無事です。さて……時間もありませんので此処の親玉に会いに行きましょうか」

「……あの! 私も同行していいですか?」

 

………………ふむ。

 

「糜竺様、糜芳様。この場は任せてもよろしいですか?」

「これでも腕は立つの! みんなを守ってあげるわ!」

「電々に任せなさーい!」

「わかりました。なら典韋様、共に行きましょう」

「ありがとございます!」

 

ではではすぐに向かうしようか。だけど典韋さんには悪いことしてしまうな。え?何故かって?

それはね……

 

 

〜数時間後〜

 

 

「こ、この俺様が……ガクッ」

「ふん、他愛なし」

 

一瞬で終わらせてしまうからだよ。先ほどまで宴会でもしていたのだろう。あちらこちらに酒や肉が散乱している。そして今は数多くの賊たちがお眠り中である。

 

「……すごい」

 

典韋さんも俺の強さに関心している。

 

「さて……あらかた片付きましたか」

「はい! とりあえず皆さんに伝えに行きましょう!」

「そうですね……ですが、一つ残していることがあるんです」

「残していること?」

「ええ……」

 

その瞬間、俺は典韋さんの後頭部に拳をぶつけた。

 

「え…………どう……し…………て……」

 

倒れる瞬間、俺は優しく受け止め、ゆっくりと寝かした。

………………ふふ。

 

「フハハハハハハッ! ハァーッハッハッハッ!」

 

まさか此処までチョロいとは思わなかったぞ!

どうしてこの俺が同行を許可したと思う? それは典韋さんが完全に俺を信用していたからだ!

信用しているならば俺に敵意は向けてこない。それならば2人きりの場面になれば必ずチャンスは生まれる。

その結果がこれ! まさに作戦通り!

 

「さあ……まずは曹操の陣営に文を送ろう。そうすれば許褚が釣れる。そして単独では来ないから夏侯惇か夏侯淵が来るはずだ……」

 

そうすればもうこちらの勝ちだ。後は人質作戦でことを進めればいい。

そのついでだ。此処にいる奴らも人質に取っておこう。

 

「ククク……散々失敗してきた俺だがついに成功する時が来た! やはり勝つのは悪なのだ!」

 

………よし! 文も完成した! 直球でも良かったけど曹操さんだとあの雰囲気でやらなくちゃいけないノリなんだよな。とりあえずそんな感じで書いといた。

後はこれをどうやって送るかだな……

 

「どないしたん?」

「いや……この文をどう送ろうかと思ってな」

「そんならウチが送ったろか?」

「おお。すまないな張遼」

「かまへんかまへん!」

 

………………………………あれ? 俺は今、誰と喋っていた?

そして顔を横に向けると馴染みの顔があった。

 

「………………張遼ッ!?」

「? ウチやで?」

 

馬鹿な、何故貴様が此処に?!

 

「いやーアンタを探してたら名のある賊を討伐してるやん。やっぱオモロイな、アンタ」

「…………き、貴様1人か?」

「……後ろ」

 

ああ……そうだろうな。さっき気づいたが何かに見つめられている感じがしてるんだよ。振り向きたくない。

 

「……………………………見つけた」

 

見つけないでくださいお願いします。というよりどうやってこの場所に?

 

「…………匂い……した」

 

俺の脳内に話しかけてこないでくださいよ! 怖いから!

ともかくだ……典韋さんを逃すのは痛手だか……

 

「戦略的撤退!」

 

俺はすぐにその場から離れた。俺の足ならば一瞬で出口まで行ける! フハハハハ! 最後に勝つのはこの俺だ!

そう……その時までは勝利を確信していました。

 

「…………なん……………だと……?!」

 

出口から外に出た瞬間、俺はその景色に絶望してしまったのだ。

そこには……

 

「お久しぶりですね、紀霊さん? それとも……臧覇さんと呼んだ方がいいですか?」

 

かつての上司である張勲さんと……

 

「久しいな、想い人よ」

 

我が天敵にして魔王の孫堅さんが立っていたのだ。

 

「そ、そんな……まさか……!?」

 

出口かと思われた場所は地獄の入り口だった。

な、ならば此処は一旦戻って……

 

「………………………………」

「何でウチらから逃げるん? 何かしたんか?」

 

戻ろうとしたら後ろに呂布さんと張遼さんの姿あり。待て……待て! 何だ此処は!? 既に俺は地獄に入っていたのか!?

つーか何故このメンバーが手を組んでいる!?

 

「呂布の小娘から聞いたぞ。何でも国を巻き込んで面白いことをしてたみてーじゃねーか」

「ビックリしましたよ。その後、退位された話もありましたからねー……よ! この大英雄!」

「アンタを探している途中で、この人らと出会ってな? 同じ目的やし、一緒にどう? ってな感じで誘われたんよ」

 

クソ……汗が止まらん! 何処だ何処に抜け道がある!

 

「おっと」

「…………ダメ」

 

そう思った矢先、俺の両腕が孫堅さんと呂布さんに捕まる。

 

「そろそろ追うのも疲れたからな……観念しな」

「…………ずっと、一緒」

「では私たちは残りの処理でも行いましょうか」

「せやな」

 

いやいやいやいやいやいや!

俺は目指している場所があるんだ! この世界の……ヒロインたちの……くっころを!

 

「ちくしょおおおおおお!!!」

 

 

流琉(るる)サイド〜

 

 

………………………………ん?

 

「あれ……此処は?」

「流琉! 大丈夫?!」

 

あれ? 季衣?

 

「どうして……季衣がいるの?」

「どうしてって……流琉、此処がわかる?」

 

えと……あれ?

改めて辺りを見回すと見たこともない部屋が目に映った。

何処だろう?

 

「此処は私の城よ」

 

そう思っているとある威厳がありそうな女性が入ってきた。

 

「貴女が季衣の言っていた典韋ね?」

「あ、はい」

「そう……私は曹孟徳。季衣の上司にあたるわ」

 

この人が……

 

「季衣の話、本当だったんだ」

「あ! ひっどーい! 信じてなかったの?」

「だって……季衣の話、大雑把すぎて……」

「ふふっ」

 

私たちのやりとりを見て、曹操さんは笑顔を見せる。

 

「とりあえず、話は出来るのね。なら季衣、安心したなら席を外しなさい」

「はい!」

 

そう言って素直に季衣は部屋を出ていき、曹操さんと私だけになった。

 

「さて、色々と聞きたいことはあるけどまずは一つ」

「は、はい」

「貴女……どうして張遼に担がれてきたの?」

「………………え?」

 

担がれた? どういうことだろ? 私はお兄様と一緒に……あっ!

 

「お兄様は?!」

「……お兄様?」

「あの! 私の他に誰かいませんでしたか?」

「貴女の他に? そうね……双子の姉妹は貴女の様子は見にきたけどそれ以外は特にいなかったわ」

 

糜竺さんと糜芳さん、無事だったんだ。良かった……じゃなくて!

 

「……何か特徴は?」

「えと……すいません。顔を隠していたので特徴がわからないです」

「ッ!」

 

そう言った瞬間、曹操さんの眉がピクリと動いた。

 

「ふふっ……そう、そういうことね」

「……?」

「いえ……張遼と一緒にこの文が届いたの。字は読めるかしら?」

「……あまり」

「なら読むわね……“孟徳の盾、此処にあり。この地にて待つ”と」

「え?」

「憶測だけど貴女は彼の名を知らないわね?」

「はい」

「けど彼は貴女を知っていた……面白いと思わない?」

 

わからない。けど、あの時に私を気絶させたのは間違いない。あれの意味は一体……

 

「………………」

「何かあったみたいね」

「はい……」

「ならば典韋。貴女はこれから曹孟徳の盾となれるか?」

「ッ! はい!」

「では歓迎するわ。私は華琳……貴女は?」

「……流琉です!」

 

今はまだわからない。けど曹操さん……いや、華琳さまに着いていけば答えはわかる。だから……

 

「私なりに答えを見つけよう……その時は」

 

答えてください……お兄様。




曹操さんはどうしたら主人公を三下扱いするんでしょうか?
え? それどころじゃない? ちょっと何言っているかわからない(目逸らし

ありがとうございました。

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