〜個室・華琳サイド〜
「…………それは本当なの?」
今この部屋にいるのは私、そして目の前の……
「ええ。本当ですわ華琳さん」
かつての学友、麗羽である。突然、私に話があると言って現れた麗羽を個室に誘い、話を聞いている。
「今回の首謀者、張譲と趙忠を討て……これが何進将軍が出した答えですわ」
「………………」
「言いたいことはわかりますわ。わたくしも幾度かこの件について、抗議しました。ですが結果がこれです」
十常侍の反乱。自分の欲のために皇帝陛下を攫った愚行。そしてそれは皇室警護の人間によって首を斬られたと聞いていた。
「首謀者とは初耳ね。アレはごく一部の人間が勝手に行ったことではなくて?」
「わたくしもそう理解しておりました」
「なら答えは出ているように見えるけど?」
「前々から十常侍と何進将軍は対立関係でおりました。だからこそ、これが好機と見て危険分子を消すつもりなのでしょう」
その噂は嫌でも耳に入る。
……そういうことね。
「自分の邪魔者を消すつもりね。愚か過ぎるわ」
「さすがですね華琳さん」
「これで褒められても喜べないわ」
だとすれば何進も十常侍も何も変わらない。この国の象徴ですら餌にされる。世が乱れたままなのも頷ける。
天は時折、気まぐれで何かを起こすが……これは笑えないわ。
「今となっては華琳さんが羨ましく思いますわ」
「………………」
「わたくしは目の前にある道を堂々と歩くことしか出来ない。ただ歩くのではなく、その道を恥のないように、誰もが羨むような姿で歩く。けど、華琳さんはその道を嫌い、あえてその道を歩かなかった」
「誰しもが歩けば偉くなる道は支えがない。ならばいずれ崩れるのは明白。それを気付かないで歩いた結果がこれよ」
「ですね。しかし、わたくしはその道を歩かねば意味がありません。それが崩れようとも……それが名家たる由縁。延いてはわたくしの生き方ですわ」
「多くの人間が貴女を無知蒙昧と評価するわよ?」
「言わせなさい。そしてその評価した人間の上に立てばいいだけですわ。それが四代にわたって三公を生み出した名家袁一族であるわたくしの歩みですわ」
「…………何があったの?」
元々、麗羽を見下げるつもりはないが昔から家柄を威張り散らしていた。それが枷となっていることに気付いていなかったように感じていたが、今はそのような姿は見えない。
「いえ……強いていうならば、恋を致しましたわ」
「………………………………は?」
「それも殿方に」
あの麗羽が……恋? しかも、あれほど見下していた男に?
「本当になにかあるかわかりませんわね。華琳さんもどうですか?」
「…………今は間に合っているわ」
「あら、そう。ではわたくしはこれで……おーーっほっほっほ!」
あ、いつもの麗羽になった。
笑いながら部屋を出ていく麗羽を見送り、自室に戻る。
「あの変わりよう……恋だけで変われるものなの?」
桂花と稟は麗羽を王の器ではないと見定め、私のところにやってきた。だが、今の所彼女を見たらどう答えるのか。それもまた楽しめそうね。
「恋……か」
その時、私はあることを思い出す。
《必ず貴様は俺の前に屈することになる。必ずな》
かつて黄巾討伐で本当の首謀者。今までも記憶の片隅に覚えていたが、此処でこの記憶がハッキリとしてくる。
もしも、この男が動き、この腐った戦いを変えようしてるなら……私はまた……
「……まさかね」
思い違いだと自分に言い聞かせ、これからの準備の為に部屋を出る。
その前に……
「どうなろうとも私は曹孟徳……そうでしょ?」
誰もいない部屋に一言掛け、今度こそ部屋を出る。
~王室・詠サイド~
「それはどういうことよ!!」
ボクと月の目の前で叫ぶ皇帝陛下。
「趙忠は私の為に頑張ってくれたわ! それなのにどうして極刑されなきゃいけないのよ!」
「「………………」」
十常侍が起こした反乱。皇帝陛下両名にも危害を加えたとして実行犯はもちろんその関係者も処罰の対象となる。そして十常侍もその対象となったのだ。
「何進が判断したんでしょう? なら話をすれば収まるじゃない」
「……そういうわけにはいきません」
「なんでよ!」
「趙忠様が率いる十常侍……これは陛下に服従は絶対です。ですが乱を起こし、あまつさえ陛下に逆らってしまったのです」
「そうなると十常侍の意味がなくなり、乱すだけの存在になります。それでは陛下の身が危ないと判断されたのでしょう」
ボクと月で今起こっている現状を話す。最早、皇帝の話でどうにか出来る問題ではない。事は進み過ぎた。
「張譲はどこよ? 彼と話がしたいわ」
「張譲様は行方がわかっておりません」
「ならどうすればいいのよ! 朕は皇帝なのよ!」
これが周りが見えていない者の末路。理解できず、自分の思い通りにならないと駄々を言えば解決すると思っている。
「陛下……」
「待ってなさい趙忠。こんな馬鹿な話、すぐに」
「もう大丈夫です」
「……え?」
今までずっと黙っていた趙忠が口を開き、霊帝を止める。
「私が出ればこの騒動は少しは収まります。それが私に出来る最後の恩返しです」
「ダメ……ダメよそんなこと! そんなの絶対に認めないから!」
この陛下に恩返し……多分だけどこの趙忠は陛下に絶対なのね。本来ならそれが十常侍のあり方なはずなのに珍しく思えてしまう。
「…………詠ちゃん」
「ダメよ……と言いたいけど、向こうも此処にいることがわかってると思う。どう転んだって共犯者扱いなのは目に見えてるわ」
「………………ごめんね」
「月は悪くない。だから謝らなくていいの」
月は優しいから協力してあげたいと言うと思った。しかし、今回はこちらが後手過ぎるからどちらにしてもこんな結果になっていたはず。ならばそれをどうにかするのがボクの役目になる。
「陛下、趙忠様。私たちも出来うる限りで協力致します」
「ホントッ!?」
「はい」
「本当によろしいのですか? この戦いは……」
「負け戦になるのはわかっています。けどボクとてこのまま引き下がるわけにはいきませんので」
「……ありがとうございます」
「朕も感謝してるわ!」
2人から感謝を受ける。それにしても……
「……神様ってのはボクたちが嫌いみたいね」
こんなことに月を巻き込むなんて……絶対に許さないから!
袁紹は自分の愚を認めながら軍を集め、董卓は己を犠牲にして対立を決める。
どちらもまた、傷を負いながら導かれる道を歩き続ける。どちらが正しく、どちらが悪いこともない。それがこの戦いの“運命”なのかもしれない……
〜???・臧覇サイド〜
「兄貴! 準備が出来やした!」
「御苦労……」
随分と手間がかかった。だが、これでようやく実行に移せる。今までは焦りや予想外が重なり、失敗していたが今回こそは成功する!
「これが成功すれば俺は……フフフ」
ヤバい……込み上げてくる笑いを抑えられない。いや! 抑えるな俺!
「ハァーッハッハッハ!! ハァーッハッハッハ!!」
そう! これこそ悪の笑いだ! これで俺は大悪党、間違いなしだ!!
そんな高笑いをしている臧覇の後ろには影が四つ。
「なんやえっらい楽しそうやね」
「………………かわいい」
彼と共に同行していた張遼と呂布。
そして……
「して、わらわたちは何をすればよい?」
「借りた恩は返さないとね……ふふっ」
「そうだな。何でもするぞ?」
褐色の女性と妖艶な女性の2人。褐色の女性は何進。妖艶な女性の名は何太后。
本来ならば対立関係であろう両者が何故集まっているのか? 2人が言う恩返しとは? 彼らの目的とは一体なんなのか?
その答えは、目の前の男のみぞ知る。
「ハァーッハッハッハ!! ハァーッハッハッハ!! ハァッ……ゴフッ!? ゴフッ!?」
「兄貴! 水です!」
“運命”の戦いに抗う者あり……
たくさんのコメントありがとうございます。皆さんの期待に応えられるように頑張ります。
そして私から一言……
主人公のくっころ展開の声……多くないですかね?(困惑
それでは!