悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第13話

〜森・臧覇サイド〜

 

 

袁紹さんの陣営から離れた俺は部下たちと合流した。どうやら皆、頑張っていたらしく20もいかなかった集団がいつのまにか100を超えていた。ええ……。それと美花の姿がないが、部下の話では何処かの陣営で潜入中らしい。

とりあえずそんな大人数と行動するとかえって目立ってしまうので部隊を分け、別々に行動するように指示を出す。

そして俺たちは……

 

「「「ヒャッハー!!」」」

「た、助けてくれー!!」

 

商人を襲っていた。もちろん向こう側も護衛を雇ってはいるが、俺らに刃向かうことなく即座に逃げていった。料金を渋ったなこりゃ。

さて、何故俺は商人を襲っているのか? 幾度も恋姫のヒロインをくっころしようとしたが失敗に終わっている俺は考えた。そして一つの答えが出た。

 

「そうか……俺はまだ悪として未熟だったのか!」

 

まだ恋姫のヒロインをくっころするのは早すぎる。そう運命が俺に告げていた……気がする。

なので俺は山賊の原点ともいえる襲撃をやっていたのだ。

 

「おら! 大人しくしやがれ!」

「手間を掛けさせんな」

「次暴れると……首が飛んじゃうかも」

「命だけは……命だけはお助けを!!」

 

いつもの部下3人が商人に脅しをかける。そんな脅しが出来るなら早くやろうよ。

 

「安心しろ。奪うのは品だけだ」

「そ、そんな……これがなければ私は!」

「なら今すぐ死ぬか?」

「ッ!!?」

 

それなりの気をぶつけると商人は黙ってしまう。いや、喋れないとでも言った方がいいだろう。というよりそれなりに大きい馬車なんだから護衛の金をケチんなよ。こうなるだろ?

 

「兄貴! ちょいと来てくだせえ!」

 

部下その1に呼ばれたのでそちらに向かう。するとそこには大きな袋があった。

 

「金や物資の他に怪しい物がありやして……なんか異様に柔らかくて」

「………………」

 

かなり大きいな。肉類……にしては袋が汚い。

 

「おい商人。これはなんだ?」

「い、いえ……これはお客様から預かっているモノでして……金払いも良かったもんですからそのまま受け取った形です」

 

なんだそりゃ? 怪しさ満点じゃねーか。

 

「とりあえず袋を開けるぞ」

「ヘイ!」

 

そして袋の封を開けて中身を出す。

そこには……

 

「なッ!?」

「ええ?!」

「………………」

 

意識のない少女ら2人が現れたのだ。

 

「……オイ」

「ち、違います!! 私は断じて人身売買など行っておりません!」

「ふざけてんじゃねえ! ならこれはどういうことだ!」

「本当なんです! 信じてください!」

 

本当に知らないとなるとそれこそ問題なのは気づいていないのか? だとすればこの商人は捨て駒……

そう思った瞬間、俺の顔に矢が飛んで来た。当たる寸前で矢をキャッチする。

 

「兄貴!?」

「ひ、ヒィー!!」

 

オイオイ……とんだ荒事に巻き込まれたな。まあいい。今やることは一つだからな。

 

「てめえら! ここは引き上げるぞ!」

「兄貴! コイツはどうしやすか?」

「連れてけ。てめえもそれでいいな?」

「は、はい!」

 

俺たちは森からの脱出を試みる。その間にも無数の矢が飛んでくるが部下たちは全て対処する。凄くね?

しばらくして森を抜けて俺たちの拠点に戻ってきた。謎の集団は拠点まで追いかけてこようともせずに退却していった。

 

「……ふう。とりあえずは安心だ」

 

俺の言葉を聞いて安堵のため息をつく部下たちと商人。

 

「とりあえずだ。あの小娘たちが何者かがわからん限り始まらん。起こして此処に連れてこい」

「ヘイ!」

 

あれほどの集団だ。きっとかなりの地位の娘さんに違いない。まぁ恋姫のヒロイン以外は興味がない俺だが、悪を目指すには必要なことなんだろ。上手くやってやるぜ!

 

 

臧覇らは謎の少女を手に入れていた同じ時、ある場所で大陸を揺るがす大事件が起こっていたのだ。

 

 

〜個室・詠サイド〜

 

 

「……本当なのですか?」

「はい……」

 

今、ボクと月、そして霞が目の前の客人の対応をしている。その客人の名は趙忠(ちょうちゅう)。霊帝に仕える宦官。その中でも十常侍という無駄に権力が高い集団の2番手でもある。まぁ、この趙忠は政はからっきしなのでほぼ侍女に近いが皇帝陛下の信頼は一番と言ってもいい。

そんな彼女がボクたちに話があると言ってやってきたのだが、彼女から出た言葉はとんでもないことだった。

 

「十常侍の一部が謀反。皇帝陛下両名を拉致していきました」

 

馬鹿を超えると人は何をしでかすかわからない。正に無能極まりだわ。

 

「今の今までも好き勝手やっとるのに……まだ足りひんか。救えん阿呆やな」

「返す言葉もございません」

 

全くよ。ただでさえ朝廷に不満が多いってのに。

 

「この件に関して、知っている方々は?」

何進(かしん)将軍と何太后(かたいごう)様は十常侍の対処を行っております。ですが、事は大きく出来ないので……」

 

つまりはボクたちだけでどうにかしろってことね。だけど恋も華雄も各々の任務に行かせているから難しいわ。

 

「……私なんかが頭を下げても役には立たないことは承知しております。ですが、今の私に出来ることはこれくらいしか出来ません」

 

そう言って深く頭を下げる趙忠。本来ならあり得ないことだけど事情も事情。

 

「頭を上げてください趙忠様。この件につきましては私たちも協力します」

「…………ありがとうございます」

 

本当に月は優しい。だからこそ、守って上げたい。

 

「ともかく、ウチはどうすればええんや?」

「余り大事には出来ないから……少数で悪いけど、十常侍の息のかかった商人から調べてちょうだい」

「商人を?」

「十常侍はなるべくバレないようにことを進めたかった。なら近くに置くのではなく、一旦離れた場所まで持っていき、安全を確保した状態にしたかったはずよ」

「なるほど……ま、片っ端からやってみるさかい、少し待っててな!」

 

そういって霞は部屋を後にする。しかし、こうなるとボクたちもどう動くのも難しい。とりあえずは霞の結果待ちしかない。

 

 

〜拠点・臧覇サイド〜

 

 

「………………へいかさま?」

「うむ」

「そうよ!」

 

眠っていた少女たちが目を覚ました。怪我も具合も問題ないので話を聞くととんでもないことを言い出していた。自らを皇帝だと言っているのだ。

 

「朕たちは皇帝なるぞ! こ、皇帝……なんだもんね!」

 

身体にあっていない服の少女が涙目になりながら俺たちに訴える。最初こそお偉い言葉で話していたのに段々と幼くなっているのは今の状況が怖いからだろう。

 

「お腹すいたわね……なんか食べ物はないかしら?」

 

君はもう少し状況を理解しようよ。

 

「………………」

「あ、兄貴? この娘らの話は本当なんですかね?」

 

嘘だと思いたい。しかし、自分たちが皇帝と名乗れば極刑は確実。しかも、あの集団はかなりの腕だった。となるとこれは本物の可能性は高い。

モブかと思ったらこの国のトップでした。メチャクチャじゃねーか!

 

「…………しかしこれは」

 

俺はある意味、とてつもないチャンスを手にしたのかもしれん。これが成功すれば俺は天下に轟く大悪党になれる。大悪党となれば恋姫のヒロインたちを……グフフ。

 

「おい商人」

「ははは、はい!!」

「お前を目的地に送ってやる。そうすれば命は助けてやる」

「はい! はい!」

 

何度も頷く商人。さて……作戦を実行する!

 

「はい玉子汁。その場で作ったから余り上手く出来なかったわ」

「そんなことないもん! 美味しいんだもん!」

「趙忠よりは劣るけど……これはこれで美味しいわ」

 

………………大丈夫、大丈夫だ!!

 

〜霞サイド〜

 

 

「ここやな」

「はい」

 

詠の読みは当たりやった。しかもご丁寧に全く事情も知らん商人を使ってるとは……そこまで考える知恵があるんなら馬鹿な真似せんでもええんちゃうか? ま、自分の欲のためなら何でもする奴らやからな。

そんでウチは今、少数の部下を引き連れて、皇帝様が乗ってくる商人を待ち伏せしてる。十常侍の側近を脅したらすぐ口を割ったから楽やったわ。

 

「………………アレか」

 

確かにそこら辺の馬車ではない。しっかりと周りを護衛が付いとるし、デカい取引がしやすい感じや。

 

「それにしても……」

 

あの護衛ら、めっさ柄が悪い。まるで賊のようやな。金でもケチったんか?

そうしてると中から小太りの男と顔を隠した男が降りてきた。

ん? あの男……

 

「あれは……高順様?!」

「ってアイツ、なにしんてんねん!!」

 

アレは間違いなく高順やん! 何でこないな場所におんねん!

っと、落ち着け。今は皇帝様が最優先や。すると、商人の向かいから男が現れた。

 

「随分と遅かったですね……」

「申し訳ありません。実は賊と遭遇してしまいまして……優秀な護衛で商品には傷はついておりませんので安心を」

「……フン、まあいいでしょう。それでは馬車を預かりますので」

 

そういって男は馬車を預かる。そろそろか? いや、高順の動きも気になる。此処は少し様子見をせんと。

 

「その前に一つよろしいでしょうか?」

 

そう思った瞬間、高順が動いた。

 

「なんですか? 私は忙しい身ですので」

「いえ……皇帝様を扱うには雑ではありませんか?」

「……貴様」

 

男は手を上げる。するとどこからともなく、謎の集団が現れおった。なるほど、そういうことかいな。なら、ウチは……

 

「ウチは高順に味方する! アンタらは皇帝様の確保に専念せえ! ええな!」

「「「ハッ!!」」」

 

 

~臧覇サイド~

 

 

「いえ……皇帝様を扱うには雑ではありませんか?」

「……貴様」

 

男が手を上げると周りから先ほどの集団が現れた。やはり、この商人は捨て駒だったか。

 

「貴様らが手を組んでいることなぞ知っているわ。そのまま引き渡せばよかったものを……」

「元々殺すつもりだったのに何言ってんだ? ああ……それを考えられないからこんな馬鹿なことをやっているのか」

「……殺せ!!」

 

一斉に襲い掛かってくる集団。そろそろかな?

 

「「「ウオオオオ!!!」」」

「ッ! な、何だ?!」

「オラ! どいたどいた!!」

「貴様は……張遼!?」

 

ほう、来たのは張遼さんだったか。狙いとしては華雄さん辺りだったが……まぁどちらでも構わないが。

 

「何故、張遼が此処に!?」

「むしろなんでウチが動かんと思ったん? やっぱ阿呆やな」

「クッ! しかし、この暗殺集団が貴様の首を」

「ごめん、もう死んでるよ?」

「はぁ?!」

 

君たちが仲良く会話してるときに俺が全員斬ったからね。うん、ごめんね?

 

「馬鹿な……私は……いずれッ!」

 

何か言いたそうであったがその前に張遼が首を刎ねる。

 

「アンタは生きても毒にしかならん。大人しくくたばっとけ」

 

何アレかっこいい……お、俺だって本気出せばいけるし!

そんなことをしていると向こうから喝采の声が上がる。どうやら暗殺集団をやっつけたらしい。

 

「……あんがとな。また、助けられたわ」

 

ニカッと笑う張遼さん。関係ない話だけど姉御肌のお姉さんキャラが時々見せる女の顔ってずるくない? まぁそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

助けた? 馬鹿を申すな! 此処からが本番だ!

皇帝様には俺の部下たちがいる。これを利用し、張遼さんに脅しをかける!そうすれば嫌でもくっころ展開に持っていける!

 

「ククク……呑気なもんだな。張遼さんよ?」

「ん? どないしたん?」

 

完全にこちらを信頼してるな。その信頼を叩き折る!

 

「こちらには皇帝s」

「あ、兄貴ィィィ!!!」

 

決め台詞を言おうとした瞬間に割り込む部下その1。

チィ! これから脅しをかけるって時に邪魔をするな!

 

「何だ! これから俺は大切な」

「………………見つけた」

 

………………嘘だろ?

俺はこの声を知っている。俺の心を叩き折った人物。

 

「り、りょりょりょりょ呂布?!」

 

アイエエエエエエ!? リョフ=サン!? リョフ=サンナンデ!?

 

「お、恋か。どないしたん?」

「………………高順、探してた」

「なら、ちょうどええわ。ウチも義理返さんと気がすまんし」

 

お、落ち着け俺! まだこちらには切り札が!

 

「張遼様、お二人とも無事に保護しました」

「さよか」

 

はあ?!

 

「お、俺の部下たちは!?」

「すんません兄貴……皆、呂布が現れた瞬間に気絶しちゃいまして……」

 

お、おう……そうか。怪我もしてないならいいけど。

いやよくない! せっかくの状況を無駄にしてはダメだ !こうなれば俺が直接……

 

「やっぱり神様だ!」

 

………………俺のことを神様と言ってくる人は3人知っている。

ギギギと壊れたロボットのような動きで後ろを振り向くと……

 

「民には飽き足らず皇帝様もお救いになるなんて……」

「流石です神様! ちぃたち感動しました!」

 

張三姉妹(ハイライトオフ)の姿がありました。コワイ!

え? 何してんの君たち? ゴメン、俺の脳みそが全然追いついてない。

 

「実は私たちも多くの民を救ってきたのですが……こちらの呂布さんがどうしても神様に会いたいとお願いされたので……」

「いや、どうやって俺の場所を把握したの?」

「………………キキタイデスカ?」

「遠慮します!」

 

そんなやり取りをやっていると後ろの腰部分から衝撃が伝わる。そちらに目線を向けると皇帝様の妹さんが抱きついていた。

 

「助けてくれて……ありがとうだもん!」

 

すんごい笑顔で感謝される。しかもご丁寧に剣が抜けない感じの抱きつき方だ。怪我するよ?

………………状況確認。

前方に呂布さん、張遼さん。後方に張三姉妹。そして腰に皇帝様。更に部下たちは気絶中。……詰んでね?

 

「とりあえずこんな場所にいても仕方ないし、一旦戻ろか」

「………………うん」

 

ガシッと俺の腕を掴む張遼さんと呂布さん。待て、話し合いをしよう。

 

「私たちもご一緒しても?」

「…………大丈夫」

「ま、恋が言うんやから問題なしや! ほな、いこか!」

 

ズルズルと引っ張るお二人。待ってお願い! こんなの望んでない!

 

「チクショオオオオオオオ!!!」

 

 

こうして悪を目指す臧覇は皇帝を救うという前代未聞の活躍を見せた。しかし、この救出劇は単なる序章に過ぎないのであった……




うーん……同じパターンになってマンネリ化してるような気がします。
次回あたりで少し変えていきたい思いはあります。思いだけです。

ありがとうございました。

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