悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第12話

「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ!」

「………………」

 

………………………………はぁ。

 

「袁紹さまー!」

「おめでとうございます袁紹さまー!」

「おーーっほっほっほっ!」

 

今日は袁紹さんの誕生日らしくパレードみたいな感じで街を歩いている。民から祝福を受ける袁紹さん。その姿はまるで名君のようである。

そんなおめでたい日に横に俺がいるのは何故だろうか?

 

「いやーめでたいっすね麗羽(れいは)さま!」

「本当に……立派になられましたね……うぅ」

「やはり私の目は正しかったのよ! 麗羽さまこそ王者の器を持つ君主!」

 

ああ……文醜(ぶんしゅう)さんと顔良(がんりょう)さんも祝福ムードになってらっしゃる。それとそこの眼鏡さん、出来ればこの人を止めて下さい。

 

「おーーーっほっほっほっ!」

 

さっきから笑っているけど肺活量すごいっすね。まぁ今の俺にはそんなツッコミを入れる気力もないが。とりあえずこの状況を壊してくれる人はいないですか?

 

「顔をあげなさい(りゅう)さん!このような祝いの席でそのような態度ではいけません!」

「ハイ、モウシワケアリマセンエンショウサマ」

「もう、わたくしのことは麗羽でいいと言っているのに……」

 

………………どうしてこうなった?

 

 

何故、臧覇は袁紹の陣営にいて、このような流れになっているのか。

それは彼が董卓の陣営から離れた時の出来事であった……。

 

 

〜荒野・臧覇サイド〜

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

クソ……思った以上にダメージを受けているな。ここまで身体が重いのは初めてかもしれん。

やはり、休みなくがむしゃらに走ったのはいけなかったか。

 

「もう……ダメ…………だ……」

 

こんな荒野で寝るのは自殺行為だが、脳も働かない。それに意識も朦朧し始めた。

そして俺は前のめりに倒れ、そのまま意識を手放した。

 

「………………」

「……あら?」

「麗羽さま? どうしたんすか?」

「いえ、そこに何かあるのが気になりましてね……」

「……って、人が倒れていますよ!」

「え? お、ホントだ。おーい! こんなとこで寝てると風邪引くぞー!」

「そうじゃないでしょ文ちゃん……どうされますか麗羽さま?」

「本来なら庶人に構う時間などありませんが……今日は気分がよろしくてよ。連れて帰りなさい」

「「はい!」」

「この袁本初に助けて貰えるなんて……末代までの誇りとなさい! おーっほっほっほっ!」

 

 

〜???・臧覇サイド〜

 

 

臧覇よ……聞こえますか? 貴方に伝えなければならないことがあります。

実は……ハン●ー×ハン●ーが最終回を迎えました。

 

「マジかよ!」

 

布団から飛び上がるように起きた俺。

 

「………………夢か」

 

夢でもいいからその最終回見たかったな。

つーか俺、荒野のど真ん中で寝てたような気がするんだけど……ここどこ?

そんなことを思っていると……

 

「失礼しまー……あ! 目が覚めたんですね!」

 

おかっぱの女性が部屋に入ってきた。

というよりこの人……

 

「………………顔良さん?」

「え? ……何処かで会ったことありましたっけ?」

 

やっぱりそうだったってマズい! 思ったことをそのまま口にしてしまった! ええい! とりあえず誤魔化すしかない!

 

「い、いえ、かの袁一族に所属している二枚看板の顔良様を知らない方が珍しいかと」

「ああー……そういえば私たちって有名なんでしたっけ?」

「もちろん」

「う〜〜ん……麗羽さまはともかく、私と文ちゃんってなんか実感が出てこないんですよね」

 

あーうん、何となくわかる。周りが凄いと思っていても当事者からすればそんなことないよっていう感じ。わかるわかる。

 

「えーっと……私を助けて下さいましてありがとうございます」

「いえいえ。礼なら麗羽さまに言って下さい。ホントに珍しいことなんで」

「珍しい?」

「麗羽さまは基本的にこういったことはしないんですけど……あの時は気分がいいと言って助けた感じですので」

 

ふむ……気分で助けてくれたというわけね。まぁ運が悪ければ死んでいたかもしれんしな。それは礼を言う必要がある。

 

「とりあえず礼を言わなくてはなりませんね……お会いする許可等は必要ですか?」

「そうですね……一通り確認してきますのでお待ちになって頂けますか?」

「了解しました」

 

そして顔良さんは部屋から出ていった。

さてと……

 

「礼を言った後は逃げるとしようそうしよう」

 

くっころはどうしたって? そんな状況じゃねーんだよちくしょう!

この時期の袁紹さんって最ッッ高に波に乗ってる時期なはず。俺のプランとしては曹操さんに負けて1番弱い時を狙う筈だった。

しかも、俺の調子といえば最ッッ高に悪い。身体は動くがそれだけ。戦うことはまず無理だ。

最後に今いる場所は袁紹さんの懐。これまで懐に入って成功した試しがない。今回も失敗する可能性大と見てもいい。

以上のことがあるのでまずは戦略的撤退を行う。異論は認めん。

 

「こ、今回は貴様の勝ちだ袁紹。しかし、必ずやお前のくっころを拝んでみせるぞ!」

 

三下っぽい感じを見せた瞬間、扉のノック音が聞こえた。

そして顔良さんが顔を見せた。

 

「麗羽さまが会ってもいいそうなので案内をしますね。準備などは大丈夫ですか?」

「ええ、もう準備は出来てますのでよろしくお願いします」

「わかりました」

 

さてと……袁紹さんに会いに行きますか。

 

 

〜王座の間〜

 

 

「おーっほっほっほっ!」

 

開幕早々飛ばしてますね袁紹さん。

そんな袁紹さんの隣には文醜さんと……なんか眼鏡をかけた女性がいる。誰ですかい?

気にはなるがとりあえず礼を言わなくては……

 

「此度は助けて頂き、ありがとうございます」

「気にすんなよ!」

 

文醜さんが答える。

 

「アンタは黙ってて! ……失礼」

 

それにツッコミをいれる眼鏡さん。あの人、絶対苦労人だ。

 

「ま、猪々子(いいしぇ)さんも言っていますが気にしなくて結構。この袁本初に助けて貰えたなんて……庶人にとっては死んでも返せない恩ではなくて?」

 

気にしなくていいのか、気にしたほうがいいのかどっちなんだよ。

ダメだ……今の状態でこの人をどうこう出来る問題じゃない。早く撤退しよう。

 

「袁紹様の御恩、末代までの家宝とさせて頂きます。それでは私はこれで……」

「お待ちなさい」

 

もう少しで撤退出来た所で袁紹さんのちょっと待ったコール。え? 何? 選択肢間違えた?

 

「な、何か私に?」

「いえ、せっかく助けたのにこのまま終わるのは何かつまらなくて?」

「わ、私如きが袁紹様とお話しするのも無礼かと……」

「そんなことは私が決めることですわ!」

 

この理不尽さ……正に袁家ですねわかります。

 

「……貴方、名は?」

「えと……その……劉と申します」

 

流石に本名は使っちゃマズいからね。適当に言っておこう。

 

「では劉さん。しばらくはこの袁本初の付き人としてさしあげますわ! 感謝しなさい!」

 

………………は?

 

「そ、それこそ私には身に余ることです! 御恩は必ずや返します故にどうか!」

「ならばその恩を返す時は今ですわ!猪々子さん、斗詩(とし)さん、真直(まぁち)さん、問題は?」

「「「ありません!」」」

 

あれよ! 顔を隠した男だぞ! 怪しいだろが!

 

「さあ! まずはわたくしの街を見せてあげますわ! 準備なさい!」

「い、いえ! ですから! 待って! お願い!」

 

なんでこの人イケイケなんだよ! 庶民に興味ないんじゃないの!? ねえ!

 

 

さて、此処までで疑問に思う所はある。何故、袁紹はこれほど臧覇を連れ回したがっているのか?

もちろん、この時点で臧覇に何かあったわけでもない。

実はこの時、袁紹にある変化が訪れていた。

 

袁紹。原作では身勝手で何かすると誰かを巻き込む厄介者として扱われている。もちろん此処でもその根本は変わっていない。

しかし、ある日を境に袁紹が変わるキッカケとなる出来事があった。それは……

 

「麗羽お姉さま!」

「まぁ美羽さん! よくいらっしゃいましたわ!」

 

袁術である。袁術は基本的に袁紹を苦手としている。しかし、美花の教育で様々なことを学び、成長していった。その成長の中で袁紹との関係も少しずつ変わっていき、今では本当の姉妹のような関係になっていた。

そんな開花する袁術を見て、袁紹は……

 

「美羽さんに負けてはいられませんわ!」

 

妹には負けたくないという気持ちになり、自身もまた様々なことを学ぶようになったのだ。元々、曹操と同じ私塾で好成績を収めていた程の才能。必然的に成長していった。

そんな中で、袁紹はあることに気付く。

 

「………………これ、わたくしが行う必要があるのかしら?」

 

今までは自分がやらないと気が済まない性格だったので率先して物事に突撃し、勝手に自爆する流れだった。しかし、自分を見れるようになった袁紹は自身にとって必要不要がわかるようになる。

 

「真直さん。この案件は全て貴女に任せます。重要な情報以外は貴女で判断しなさい」

「わ……わかりました!」

 

その為に大体のことは田豊(でんほう)に任せるようになる。

この時、田豊は……

 

「麗羽さまが……私を頼ってくださった! 必ず結果を出す!」

 

今まで話すら聞いてもらえなかった袁紹が自分を頼りにしてくれる。それだけで田豊はやる気に満ちていた。

こうしたこともあり、袁紹の陣営は着々と力をつけていく。

しかし、此処で別の問題が発生する。

 

「………………暇ですわね」

 

暴走していた分の時間が手に入ったのだ。仕事は部下が全部行うのでより暇な時間がある。

そして気分転換にと散歩をしていたら……

 

「………………」

「……あら?」

 

臧覇を発見したのである。

様々な出来事が重なり、結果として袁紹と出会うことになった。今の袁紹は時間が有り余っている。

つまりは……

 

「何か面白そうですわね……しばらくはわたくしのお供と致しましょう」

 

暇つぶしなのである。

 

しかしそれだけでは真名を許すことにはならない。もちろん、そうなった理由がある。

そうなった理由は……

 

「このままではマズい……どうにかして逃げなければ!」

 

臧覇である。

この男、普通ならば何もしなければ済む問題を焦ってしまい……

 

「……そうか! 嫌われ者になればいいんだ! ならばくだらないイタズラで困らせてやる!」

 

率先して首を突っ込んでいったのである。

さて、お気付きの方も多いかと思うが、この男は神様からチートを授かっているが運には全く好かれていない。

袁紹が持つ豪運と臧覇が持つ凶運……二つが交わった時、どうなるのか?

ご覧頂きましょう。

 

 

〜回想その1・臧覇サイド〜

 

 

「袁紹様、こちらが美味しいと評判の肉まんです」

「まぁ!ありがたく頂きますわ!」

 

ククク……その中には激辛唐辛子が入っているのだ! さぁ! 悶え苦しめ!

 

「モグモグ………ホントに美味しいですわね!」

 

………………あれ?

 

「えと……袁紹様?」

「なんですの劉さん?ああ、貴方も食べたいのですね。よくってよ」

 

そういって食べていた肉まんを差し出す袁紹さん。もしかしたら入れ忘れた?

そう思い肉まんを食べると……

 

「………………かっれえええええ!!?!」

「劉さん?!」

 

待って! シャレになってない! 辛いというか痛い!

 

「ま、まさか……わたくしを守る為に……見事ですわ!」

 

違う! 違うよ袁紹さん! つーかマジで痛い!

 

 

〜回想その2〜

 

 

よし……例の場所に誘導すれば罠が発動して、落とし穴に落ちるはずだ。

 

「こちらで素敵な景色を見れますよ袁紹様」

「おーっほっほっほっ!」

 

そのまま……そのまま……3、2、1!

 

「………………」

 

あと一歩のところで足を止める袁紹さん。

 

「どうされましたか?」

「………………」

「袁紹様?」

「…………ハ、ハクション!」

 

どうやらくしゃみをしたかったようで止まったようだ。

さあ、くしゃみが済んだら……

 

「今日は随分と冷えますのね。戻りましょうか」

「え?! え、袁紹さッ!?」

 

クルリと回り、帰ろうとする袁紹さんを止める俺。その時、足首を捻ってしまい、地面に手が付く。

その瞬間……

 

「おわあああああ!!?」

「劉さん!?」

 

落とし穴に落ちてしまったのだ。

 

「身を投じてまでわたくしを護ろうと……さすがですわ!」

 

………………次こそは。

 

 

〜回想終了〜

 

 

それから何度も嫌われようと頑張ってきた臧覇。しかし、事あるごとに失敗してしまい、袁紹の株が上がっていった。

そして……

 

「劉さん。わたくしのことは麗羽と呼ぶように」

「」

 

袁紹の真名を許されたのだ。

もう一度言うが臧覇は決してワザとやっているわけではない。どうにかして嫌われようと罠やイタズラを行なった。しかし、袁紹の豪運と臧覇の凶運が重なり合い、このような結果が生まれたのだ。

真名を許された臧覇に対しての評価は……

 

「なんか麗羽さまが楽しそうだから問題ないっしょ!」

「劉さんがいると麗羽さまも大人しいので……出来れば……そのまま……」

「犠牲はつきものよ」

 

受け入れられていた。

もちろん脱走しようとも考えた。そして夜遅くに決行しようとしたら……

 

「劉さん、少しお茶でもよろしいかしら?」

「……ハイ」

 

絶妙のタイミングで袁紹が邪魔をしてきたのだ。それも決行しようとした直前にやってくる。まるで逃がさないかのようにやってくるのだ。

 

以上のこともあり、街の誕生パレードは死んだ魚のような目をしている臧覇である。

 

 

〜深夜・臧覇サイド〜

 

 

パレードが終わり、静けさを取り戻した街。そんな日の深夜……

 

「………………」

「素敵な夜ですこと」

 

俺は袁紹さんと共に深夜の街を歩いていた。

 

「これもわたくしの威光で発展していった街ですわ。どう思います?」

「……素晴らしいことかと」

 

俺は既に心が折れかかっていた。この人はどう頑張ってもくっころに出来ない。もうムリポ。

 

「……この先は誰も追ってはこないでしょう」

「……?」

「あら? 逃げたかったのではなくて?」

「………………いつからお気づきで?」

「それは秘密ですわ」

 

え? この人ってこんなにカッコよかったっけ? もっとこう……失礼だけど馬鹿っぽい感じじゃなかったっけ?

 

「このまま貴方を手にしたい。それは変わりませんわ。ですが……今のわたくしはやる事が多い。出来ることでしたら全てが終わった暁に貴方を迎え入れる方が魅力かと思いましてね」

「………………」

「昔のわたくしでしたらこんなこと思いもしないでしょうね。きっと既に家柄を威張り散らして終わっておりますわ」

 

んん? 俺は今、袁紹さんと話しているよね? 袁紹さんの皮を被った曹操さんとかじゃないよね?

 

「しかし、このままお別れもまた寂しいですわね。……劉さん」

「………………え?」

 

その瞬間、袁紹さんは俺を抱きしめた。優しくも強い抱擁だ。

 

「次に会うときは……本当の貴方に出逢いたいものですわ」

 

そういって袁紹さんは優雅に去っていく。その後ろ姿は見たことがない王者の姿である。

1人となった俺は地面に膝を付き、四つん這いのような姿になる。

 

「また負けた……手も足も出来ないまま……負けた……」

 

これが……圧倒的敗北!

 

「……落ち込むな臧覇。今は立ち上がるのだ」

 

このままで終わらせてはならん! 必ず……必ず復活を遂げ、貴様のくっころを!

 

「袁紹……次に会うときは絶望の世界だ!!」

 

勢いよく立ち上がり、街を後にする。まずは部下たちと合流しなくては……

 

 

〜麗羽サイド〜

 

 

「ふふっ」

 

まさかこのわたくしが殿方に惚れるなんて……夢でも見ているようですわ。劉さんも罪なお人。

 

「しかし! 最後に笑うのはこの袁本初! 必ずや劉さんを手に入れますわ!」

 

おーーーっほっほっほっ! おーーーっほっほっほっ!

 

 

こうして臧覇は袁紹の下を去り、再び荒野へと走り出したのだ。




袁術……配下の謀反を許すほどの優しさを手に入れた慈悲深き王。
袁紹……己の技量を見極め、着実に力を蓄える時代の王。
……袁一族が強くなっているような気がします(汗

ありがとうございました。

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