悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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今回は主人公ではなく周りにスポットを当てました。
番外編っぽい感じではありますが、しっかりと物語に繋がるような話です。
それと、いつもの部下3人に名前が付きます。


第11話

〜部下サイド〜

 

 

「全員! 整列!」

 

彼らは臧覇の部下たちである。彼らが臧覇を慕う理由は様々である。ある者は助けられた恩。ある者は強さに惚れた者。そしてある者は一目惚れ……。

そんな彼らは今、荒野のど真ん中で集まっていた。

 

「兄貴の行方が分からない今……」

「俺たちに出来ることは何だ?」

「ただ兄貴を待つだけなのかしら?」

「「「否! 否! 否!」」」

 

まるで軍隊のような統一感。しかし、彼らは自分たちは山賊だと思い込んでいる。

 

「孫の姉御に頭を下げ、俺たちだけで行動をする……つまりは! 誰からも力を借りずに行動しなければならない!」

「残念ながら俺たちは兄貴がいなければ何も出来ない集団だ」

「けど今回は好機よ。これが上手くいけばアタシたちはもっと兄貴の力になるんですもの」

「「「うおおおおお!!!」」」

 

いつもの部下3人が皆を奮い立たせる。それに応えるように皆も叫ぶ。

 

「常々兄貴は言っていた“悪のために行動しろ”……この意味は何だ?」

「古今東西、どこもかしこも己の欲しか考えない連中だらけだ」

「そんな中で兄貴は悪になろうとしている……これにアタシたちはある答えにたどり着いたわ」

 

いつも以上に気合が入っている部下たち。その姿は歴戦の猛者のようである。

 

「時代に逆らう悪……すなわち! 兄貴は天下に勝負を挑もうとしてるのだ!!」

「「「な、何だってーッ!!!」」」

 

もちろん臧覇は普通に悪役になりたいだけであってそんなことは一切考えていない。

 

「その偉業を行う前に俺たちが足手まといになっては兄貴の名前に泥を塗ってしまう……ゆえに! 俺たちはこの部隊の強化に目をつけた!」

「「「おおー……」」」

「まずは部隊を三つに分ける。第一部隊は各地で活躍する賊の鎮圧。第二部隊は使える奴の勧誘。第三部隊は入ってきた新人の訓練。以上を行うことでより兄貴の力になるはずだ」

「何か質問があればすぐに聞いてちょうだいね。あと、分かってると思うけど女子供は手を出さないように」

「「「ヒャッハーーー!!!」」」

 

何度も言うが彼らは山賊です。臧覇は普通に悪役になりたいのです。そんな意図も気にせずに彼らは臧覇の為にと思って頑張ります。

 

 

「この廖化(りょうか)……兄貴の役に立って見せやす!」

董公仁(とうこうじん)、必ずや兄貴の力となります!」

「兄貴の為に……呂岱(りょたい)、奮起するわ!」

 

 

後に彼らは各地で賊退治に力を入れ、村や町に希望を与える存在となるようだが、それはまた別のお話である……

 

 

桃香(とうか)サイド〜

 

 

「名無しの救世主?」

「はい」

 

私の名は劉備(りゅうび)。この世の平和を求めて、みんなと頑張っています。

そんな中、軍師である朱里(しゅり)ちゃんがある噂を持ち出した。

 

「ここ最近の話ですが、賊の退治や村への手助けを行っている人たちのことです」

「神出鬼没であり、少量の物資のみを貰い、突如として消える……民の間では“天の使者”とも言われてます」

 

朱里ちゃんと同じ軍師である雛里(ひなり)ちゃんもまた噂の話をする。

 

名無しの救世主。

村や町の至る場所で噂を聞く。何でも賊や悪事を行なっていた貴族にも天誅を下し、颯爽と消え去る謎の人物。

 

「確かに最近はその話を聞きますね。実際に助けられた人もいるようですし……」

鈴々(りんりん)もさっきその話を聞いたのだ!」

 

愛紗(あいしゃ)ちゃんも鈴々ちゃんもその噂に食いつく。確かにこの噂は私自身も気になる。

 

「非力な民に手助けをする……まるで桃香様と同じ志を持つお方がいるのでしょう」

「うん……そうだといいよね」

「そうに違いないのだ!きっと鈴々たちと一緒でみんなの平和を願っているのだ!」

「その可能性はあるかと思います。しかし、この噂が目立てば目立つほど、上はいい顔はしないでしょう」

 

朱里ちゃんの言う通り、この噂は民の答えと言っていい。それほど今の情勢に不満があることなんだよね。それを直して、平和な時代を作りたいのが私たちが戦う理由。

 

「出来れば会ってみたいけど……今は自分たちのことでいっぱいだから難しいかな」

 

たとえ会ったとしても今の私に出来ることは少ない……だったら少しでも強くなって一緒に平和の為に話し合いたいな。

 

「……きっと素晴らしい方に違いありません」

「そうなのだ! 桃香お姉ちゃんのような優しい人に違いないのだ!」

「……うん! そうだね!」

 

よし! みんなと一緒に頑張っていこう!

すると扉から音がなり、1人の女性が入っていきた。

 

「失礼します。お茶が入りましたので少し休まれてはいかがでしょうか?」

「あ……そういえば随分と時間がたっていましたね」

「それじゃあ少し休もっか」

 

無理して身体を壊しても意味がないしね。

 

「ありがと、美花ちゃん!」

「いえ……これも皆様の為です」

 

 

~炎蓮サイド~

 

 

「………………」

 

オレは今、自室でとある客人を目の前にしている。想い人と離れ、自国に帰ってすぐの客人だ。

 

「いやー孫堅さんが帰ってくる日に出会えてよかったですよー」

 

コイツは袁術の腰巾着の張勲……だったな。何でもオレの国と同盟を結びたいと雷火が言っていたようだが……どうも腹の中が見えんな。

 

「オレはまどろっこしいことは嫌いなんでな。出来れば早めに案件を言ってくれると助かる」

「……では、話させて頂きますね」

 

常に笑顔を絶やさない……なるほど。雷火が気を付けろと言っていた意味がわかる。

 

「美羽さまはあるお方を探しています。その人物を一緒に探してほしいのです」

「………………」

 

もっと馬鹿っぽい案件が飛んでくると思ったが……それだけならオレに言う必要もないはずだ。なら、何故コイツはオレに直接言ってきた?

 

「何故オレに言う? それだけならオレの配下にでも言えばいいだろう」

「それはそうなんですけどね……どうもその人物、貴女が追いかけている人と一緒みたいなんですよ」

 

その言葉にオレは反応した。オレが追っている人間はこの世でただ1人だからだ。

 

「何処の情報だ?」

「さぁ? 風で流れてきた情報なので不安でしたけど、どうやら当たりみたいですね」

「ふん……どの口が言う」

 

だからオレに直接会いにきたのか……コイツも物好きな奴だ。

 

「それでどうでしょうか?もし、協力してくれましたら情報の共有は約束しますので」

「……理由を聞こうか」

「理由……ですか?」

「そうだ。その分ならオレに会うのも危険な賭けだったはず。なのに貴様はその橋を渡った。そこまでする理由は袁術の為か?」

「………………」

 

コイツの袁術好きは知っている。だが、それだけならこんな賭けには出ない。そこまでする理由が知りたかった。

 

「もちろん美羽さまの為でもあります……しかし、同時に私の為でもあるんですよ」

「ほう……」

 

今まで笑顔だった顔が真剣な目になった。これは覚悟の目か? いや、少し違うか。

 

「私は全身全霊で美羽さまを愛しています。しかしですね……そんな私が一瞬……そう、その一瞬です。その人を私のモノにしたいと思ったのです。最初は自分でも理解出来なかったです。しかし、それは私なりの“恋”と知った時に理解出来ました」

「………………」

「無論美羽さまが欲しいと言えば差し上げます。ですが……“いつ”“どのように”渡すかは存じ上げておりませんので……後は、わかりますよね?」

 

……コイツもオレと同じか。どんな場面があったか知らないが不器用なやり方しか愛せない人間だ。

 

「だが、そうなるとオレは敵対する立場のようだが?」

「ええ。ですが、今の孫呉とは同盟国でもありますので……立場上は協力しないといけませんよ?」

「……これを知って同盟を結んだのか?」

「今回は本当に偶然でしたよー。でも、共同作業もまた、楽しみではありませんか?」

 

ふっ……やはり戻ってきて正解だった。こんな楽しい状況になっているなんてな。これも想い人のお蔭だ。

 

「そういう理由なら協力してやろう。猛者は多くの色を好むはずだからな。オレとしても大歓迎だ」

「ありがとうございます。では、一つ情報を差し上げます」

 

……情報?

 

 

「彼の名は臧覇。各地を騒がせている“名無しの救世主”です」

 

 

〜人和サイド〜

 

 

「名無しの救世主様……これって神様よね?」

「ええ。顔を隠しているのが特徴と言っていたからまず間違いないわね」

 

私たちは今、ある町で食事をしている。神様が言っていた人を導く為に多くの信者集めを行なっている。これもいつかは神様の役に立つ日がくる。

そんな中でちぃ姉さんが言っていた“名無しの救世主”。これは間違いなく神様だ。きっとこの世の人々を救おうとしているようだ。

 

「こんな時こそ、ちぃたちも神様の役に立ちたいのに……」

「仕方ないわ。世間では黄巾の残党がいるから迂闊に出れば私たちが疑われるわ」

 

そうなってしまっては確実に極刑。そんなことをすれば私たちは天の国へ行けない。非常に不本意だが、此処は耐え忍ぶしかない。

 

「そんなことより天和姉さんは?」

「まだ買い物じゃない?」

 

全く……昔から買い物が長いのは変わらないわね。だけど、私たちの中で1番頑張っているのもまた天和姉さんのも事実。その為の息抜きも必要よね。

そんなことを思っていると……

 

「そこのお二人。少しよろしいですか?」

 

とても小さい女の子が私たちに話しかけてきたのだ。

 

「……もしかしてちぃたち?」

「もしかしなくともお前たちなのです」

「えと、何か?」

 

すると女の子は私たちに近づき……。

 

「(出来ればついてきて欲しいのです……張宝殿に張梁殿)」

「「ッ!?」」

 

私たちの本当の名で呼んできた。その名は黄巾討伐時に捨てているので知ってるのは神様とごく一部の人間のみである。しかし、大声を出さない様子を見ると、向こうも何かあるようだ。

そうなると選択肢は一つのみ……。

 

「わかったわ。ちぃ姉さんもいい?」

「ええ」

「有り難いのです」

 

私たちはこの女の子の後についていく。しばらく歩いていると目の前にボロボロの小屋が見えた。そこで女の子は止まる。

私たちは黙ってその小屋の扉を開ける。

そこには……。

 

「モキュモキュ……」

「はぁ〜ん……か、可愛い」

 

天和姉さんと謎の女性が仲良く肉まんを食べていた。

 

「ち、ちょっと!」

「ん? ……ああ! 2人とも!」

「2人ともじゃないわよ! 一体なんなのこの状況は!?」

 

私もちぃ姉さんも流石に戸惑ってしまう。まるで意味がわからないからだ。

 

「れ、恋殿? それはもしやねねの肉まんでは?」

「…………ごめん」

「恋殿ーーー!?」

 

こっちもこっちで慌てているようだ。とりあえずお互いが落ち着き、話し合いの場を作ることは出来た。

 

「それで天和姉さん……この人は一体誰なの?」

「うん。実はね〜……誰だっけ?」

 

……うん、気にしないでおこう。

 

「と、とりあえずねねが説明しますぞ」

「あ、よろしくお願いします」

「ねねは陳宮です。そしてそして……」

「…………恋は呂布」

「「…………ええっ?!」」

 

呂布って、黄巾討伐で3万の賊を1人でやっつけたっていうあの?

だとすればこの場にいる私たちは危ないはずだが……

 

「…………恋、何もしない」

 

こちらの気持ちを読んだのか、捕らえる気は無いらしい。だとすれば此処に呼ばれた理由は?

 

「お前たちが黄巾党の長の張角たちなのは把握済みなのです。しかし、既に首謀者の偽者は討たれたのでお前たちを捕らえる気はさらさらないのです」

「……それなら此処に呼ばれた理由を教えて頂けないでしょうか?」

「実は……お前たちからある匂いがするらしいのです」

「匂い?」

「ええ! ちぃ臭いの?!」

「…………違う」

 

どうやら呂布さんがその匂いを感じ取っているらしい。しかし、そんな匂いらしきものは感じないが……。

 

「……優しい……匂い…………する」

「優しい?」

 

ますますわからなくなってきた。

 

「違うよ2人とも。呂布ちゃんは神様のことを言ってるんだよ」

 

そんな中、天和姉さんは呂布さんの気持ちを理解している。しかも、その匂いとは神様のことらしい。

 

「どうやらね、呂布ちゃんたちは神様に恩返しをしたいみたいなの」

「恩返し?」

「そうなのです! 高順殿は我が君主の命の恩人! ですが、何も言わずに去ってしまったのです!」

 

……多分だが、天和姉さんもちぃ姉さんも同じことを考えている。

 

「さっすが神様! ちぃたちだけじゃなくていろんな人を救っているなんて……素敵!」

「うんうん!」

 

神様の活躍を耳に入ると自分のように嬉しく思う。同時にまだまだ精進が足らないと自分に活を入れる。

 

「それで……呂布さんは神様に会いたいのですか?」

「………………ん」

 

深く縦に首を振る呂布さん。

言葉こそ少ないがしっかりと意志を伝えてくるので理解は出来る。

 

「けど、ごめんなさい。今の私たちは表に出れない状況でして……」

「………………?」

「えと……私たちは黄巾党の真の首謀者です。なので誰かにバレてしまう可能性があります」

「もう少しでこの騒ぎも落ち着くからちぃたちも自由に活動出来るのよねー……」

「それまで、我慢してるんだ〜」

 

そう……未だに黄巾を語る愚族が暴れている。本当に困ったものだ。

 

「…………ねね」

「了解なのです!」

 

そう言って、陳宮さんが前に出てくる。

 

「お前たちについて行けば高順殿に会える可能性があるということになるのです! ならば、このねねと恋殿が協力してあげるのです!」

「「え?」」

 

陳宮さんの提案に驚く私とちぃ姉さん。それもそのはず。私たちは黄巾党の首謀者なのだ。それがバレて協力していたとなると、彼女の立場は危なくなってしまうのではないか。

 

「けど、本当にいいの? もし、バレたら……」

「…………いい」

「命を救って下さった人を何もしない方がねねたちにとっては大問題なのです!」

 

どうやらこの人たちも神様の導きで此処に来たのだろう。

ならば、私たちは…………

 

「それではよろしくお願いします。呂布さんに陳宮さん」

 

それを受け入れていこう。これが私たちの出来る神様への恩返しだから……

 

 

こうして様々を動きを見せた陣営。その中心には必ず、臧覇の存在があった。

そんな臧覇は今……。

 

 

〜???・臧覇サイド〜

 

 

「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ!」

「………………」

 

金色に輝く謎の女性と一緒に歩く臧覇の姿があった。

その目は………………全てを諦めた目であった。




部下3人の名前は覚えなくても問題ありません。今後、名前が出てくることはないとおもいますので。

ありがとうございました。

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