物語の執筆者 作:カボチャッキ―
アルテラとネロの睨み合いが続く。キスが終わり顔を上げたアルテラは勝ち誇った顔をしてネロを鼻で笑った。それを見たネロは瞳の中の光を消して無言で剣を構えた。
「ちょっと、落ち着こう。これから共に戦う仲間なんだからさ」
仲裁に入る夏目を無視して二人は剣を構える。
「余はこやつと結婚していた。その余から奪うとは些か礼儀を知らぬようだな」
「私も結婚していた。それよりもいきなり結婚式を挙げるほうが礼儀を知らないと思うぞ」
夏目は心の中で‘こいつらが礼儀を語る日が来るとは世も末だな’と考えていた。
「……そなたも結婚していたのは理解した。ではここはこやつに選んでもらおう。えーと、今の名前は何だ?」
「…夏目春樹です」
「そうか。では選んでくれ。もちろん余だと思うがな」
「何を言っている。私たちはどんな時でも一緒にいると約束した。勝つのは私だ」
二人に見つめられ黙る夏目。どちらを選んでも碌なことにならないと分かっていた。それにもう一つ理由があった。
「優柔不断だと思うけど二人とも選べないよ。俺は前世、君たちと一緒に生きたときに本気で君たちを愛した。だから結婚したんだ。だから今回、本気で愛している君たちのどちらかを選ばないなんて俺にはできない。ごめん」
頭を下げるのを少し気まずげに思う二人。本気で愛してくれているのに選べなんておかしいではないか。そもそもすでに選ばれた後なのにどうして再び選ばれる必要があるのだろうかと考える。
「すまぬ、余が間違っていた」
「私もだ。今は非常事態なのに少し焦っていたのかもしれない」
「余もだ。少しアルテラと話がしたいいいか?」
「いいよ」
ネロはアルテラを呼ぶ。不思議に思いながらアルテラはずっとお姫様抱っこしていた夏目を降ろしてネロに近づいた。
ネロの言葉にアルテラが頷く。そして握手した。あれは何かしらの契約が成立したのかもしれない。そしてもう少し話すと夏目にネロが問いかけた。
「春樹よ、おぬしはどれほどの女性と結婚した?」
この質問は何だろうか? それに浮気を一回もしたことがなく純愛を貫いてきたのに不倫をしたような気持ちだと夏目は思った。
「……数えてないです」
「告白された回数は?」
「……数えてないです」
「結婚してはいないが好きだったやつはいたか?」
「……いたと思います」
「今は好きな人がいるのか?」
「いないです」
すぐに返答したことにふむと頷くネロ。数回の会話で理解したのは、1つ目、夏目を好きな者がたくさんいること。2つ目、現代でまだ相手を決めていないこと。そして3つめは前世で結婚していた相手をまだ、憎からず思っていること。
ネロはこの考えを1秒で完結させた。彼女は前世、夏目を獲得するために裏であれこれやっていたのだ。彼が自分を好きになるように積極的にイベントに誘ったり、邪魔な女がいれば人知れずご退場してもらったりと。ローマの皇帝、謀略の中で生きてきた彼女の力を見せるときが来た!
「なあ、夏目よ」
「はい」
「余はな、今もあなたが好きなのだ。ここにいるアルテラも」
「理解しています」
「そんなあなたがな別の女性と一緒にいるのは妻として見ていたくないのだ」
「……うん」
「しかしだ。余もアルテラもあなたの事情を理解している。たくさんの人生を頑張ってきたあなただ。好きな人がたくさんいることは当然だと思う」
「うん」
「あなたは一人を愛すると決めたら本気で愛してくれる。あなたはいってくれたな‘ネロが美しくなくても一生愛するよ。俺は外見じゃなくて中身も外見もすべて合わせて君が好きになった’と」
「はい」
顔を赤らめて下を見る夏目。その姿にときめきを覚えた二人。
「今回は過去の英雄が集まるのだ。あなたと結婚していた者が呼ばれるかもしれない。余も含めてその者たちがな、昔のような関係でいられないのは辛いのだ。本気で愛した者が目の前にいるのに愛せないのは」
「うん」
「だから、余たちを前世のように愛してくれないか。もちろん、無理なことはせぬ。だが、一人だけ選ぶなんてことはしないでくれ。本気で余たちを愛してくれ!」
「……」
ネロの言葉を聞いて夏目は黙って考えた。夏目自身本気で何度も泣いた。ずっと一緒にいたいと思っていたのに突然の別れに。そんな彼女たちと再会したのだ。彼女たちがまた愛し合いたいと言っている。自分は受け入れるべきじゃないかと。
夏目はアルテラとネロを見た不安そうな顔でこちらを見ている。もし自分が断れば彼女たちに再び辛い思いをさせてしまう。それだけはできない!
夏目は彼女たちと向かい合った。
「うん。俺は君たちと共にまた笑い合いたい。今は世界の危機だから結婚とか大層なことはできないけど、昔みたいにみんなといたい。でも、俺は不器用だからさ。迷惑かけると思うけど、こちらこそよろしく!」
「余は嬉しい!」
「私もお前が好きだ!」
その言葉にパァ、と顔を輝かせて二人は抱き着いた。夏目はそんな二人を抱きしめ返したのだった。
夏目はその時ネロの顔を見ていなかった。よってネロが何を考えているのか読めなかった。ネロがこう考えていたと。
(計画通り)
とてもいい笑みをしていることに。
唯一、ネロの顔を見てしまったロムルスは震える手でワインを飲んで呟いた。
「これもローマだ」