物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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プロローグ
第一話


 俺はある日、寿命で死んだ。幸せなことに長生きして、家族に見守られながら死ぬことが出来た。次の人生なんて考えたこともなかったし、転生なんぞ起こるはずもないと思っていた。実際に小説家であった俺は小説家でありながら、いや、小説家であるからこそファンタジーのようなことは起きないと信じていた。

 

 しかし、『事実は小説よりも奇なり』とはよく言った物だ。まさか、本当に存在していたとは。

 

 これは俺が死んですぐのこと、名前の分からない何かに出会った。まぁ定義するなら『神』という存在なのだろう。

 

 神様が言うには俺の書いた小説を気にいってくれたらしい。小説家冥利に尽きるとはこのことである。散々褒めちぎってくれたあとに相談事を持ち掛けてきた。

 

『過去に面白い物語いっぱいあるよね』

 

「ありますね」

 

『実はあれってほとんど実話なんだよ。結構編集されてるけど』

 

「へぇー」

 

『その感じ信じてないね。けど仕方ないか、いきなり魔法があるやら、なんやら言われても信じられないしね』

 

「そうですよね」

 

『まあ、そんなことは別にいいんだ。僕が言いたいのはね、君にそれらの物語の執筆者になって欲しいんだよ』

 

「? まあ、話を読んで自分風に書けばいい感じですかね?」

 

『いいや違う、君が、見て、感じて、そして書くんだ。過去の偉人の物語を!』

 

「いやいや、無理ですって! もう死んでますし」

 

『もちろん蘇らせてあげるさ、しかも君は何度でも転生させてあげる。君が生きるのはまさしく物語の中さ!』

 

 これは、まずい。転生させるのは物語の中。こいつとの会話が真実なら自分が信じていなかったことが実際に起こる世界である。つまりドラゴンやら怪物やらがいる世界に連れて行かれるということだろうか。

 

「あのー、それは、ちょっと、困りますというか」

 

『では、行ってらっしゃい!!』

 

 神様のような存在が言った瞬間身体が透け始めた。

 

「せめて、会話して下さいよー!!」

 

 叫ぶと同時に俺の意識は消えた。

 

 

 

 そこからは何度も人生を繰り返し、真実を物語にしていった。

 

 ある時は、

 

「エルキドゥはギルガメッシュと会話をする中で『わかるとも』と言うが実は何も理解してなかった。……あっはっはっはっはっは! 書いてて笑ったけど絶対に理解してないわあいつ。この前、適当な名前の人を美人って褒めた時に『分かるとも』って言ってたけど、俺が言ってたの男だったし!」

 

 俺の中でやつは知ったかの地位にいる。

 

「それとギルガメッシュは獅子と戯れていたが、よく見ると襲われていただけだったっと。いつもの笑顔浮かべてたけど、冷や汗大量にかいてたしな。こう見ると二人とも馬鹿だろ。後世の人が馬鹿だと思うように書いておこう!」

 

「……なぁ、エルキドゥ」

 

「なんだい、ギル」

 

「これから、この男がどうなるか分かるか?」

 

「ああ、分かるとも」

 

「はっ?」

 

 友人二人から襲撃され執筆作業を邪魔され。

 

 

 また、ある時は、

 

「アルゴー号のメンバーは脳筋だらけ。メディアは危険度やばい、ヘラクレスは筋肉が人間の皮を被ってる、アタランテは攻撃がアタランテ。……日本ならこのダジャレ受けたかな」

 

「困りますよ、こんなこと書かれたら」

 

「うわ、メディア様!? いつからそこに?」

 

「初めからいましたよ、うふふふふふ」

 

「これは、えっと」

 

「私とイアソン様が両思いだと書いといて下さい」

 

「……イエス、マム」

 

「すまん、イアソン様。あなたの妻はメディア様になってしまった。……これ絶対に未来で後悔するだろあの人」

 

 この時代は書くこと多いなぁ。

 

 

 また、ある時は、

 

「アーサー王貧乳で食いしん坊だった。円卓の騎士は人妻好きが大変多かった。モードレッドは兜をいつもとらないが、この前、俺ってイケメンじゃねって言ってたからたぶんイケメンだろうっと」

 

「兄上、少しお話が」

 

「ん? 後ろから胸が貧相そうな声が」

 

「死にたいようですね、兄上」

 

「落ち着けアーサー王、あなたはいつ見てもかっこいいですね」

 

「……ありがとうございます。しかし、これとそれとは話が別です」

 

「oh」

 

 ビームを食らって気絶したり。

 

 

 また、ある時は、

 

「スカサハはよく男に襲いかかったと。これだけ見たらメイヴと同じだな。あんな恰好してるし、案外あの人も……後ろから嫌な予感」

 

 俺が先ほど座った場所に槍が刺さっていた。

 

「私に喧嘩を売ってきたことは評価しよう。そして死ね」

 

「ちょ、っまって!」

 

 槍を片手に追いかけ回された。

 

 

 そうやって、忙しい人生を送って来た俺が再び転生したのは西暦も2000年ほど進んだ日本であった。一番初めの人生と同じ時代、同じ国ということもあり平和に暮らせるだろうと考え過ごしていた。

 

 だが、神様が言っていた(初めの奴な)ことを忘れていた。俺は物語から抜け出せないということを。

 

 今度の人生では、考古学者兼小説家という一風変わった職業についていた。考古学者になった経緯は昔の未解読の文字を読めたのがきっかけで、付けられたなんちゃっての職業である。

 

 読めた理由は、俺が書いたからですけどね!! そして読めることをいいことに少しあいつらの恥ずかしいエピソードを広めてやった。

 

 例えば、アーサー王は女装趣味の変態になったし、ギルガメッシュは葉っぱ一枚で歩き回る裸族へとこの世界でジョブ変更した。

 

 そうやって、自由気ままに過ごしていた俺だが、ある日、人理保障機関カルデアという国連承認の機関からスカウトが来た。スカウトの理由は、人理を守るためには過去に行くことがある、よって今の時代で過去のことに詳しい俺から過去の人の生活などの情報を教えてほしいという理由だった。

 

 しかし、過去の経験からこれは面倒事であると気付き断ろうとしたが、さすがは国連全ての逃げ道を封鎖され俺は泣く泣くカルデアに所属した。

 

 ちなみに、カルデアは簡単に言えば未来を守ろうという集団だった。

 

 

 その後、とんとん拍子で進んでいきカルデアに移動した俺は魔術師たちに知識を授けながらのんびりと過ごした。

 

 カルデアにいたロマニ・アーキマンという男と仲良くなった俺は暇な時は彼とよく話していた。俺も過去にあったことがあるような気がしてついつい話しすぎた。もしかしたら誰かの生まれ変わりなのかもしれない。

 

 ある日、ロマン(ロマニのあだ名)から「ソロモン王についてどう思う?」と聞かれたから、「無趣味っぽい人でダビデの息子だから、たぶん今の日本にいたらドルオタになってると思う」と言ったら驚いた顔をしていたのが印象的だった。

 

 また、ロマニとの会話でどうやって未来を守るのかを聞いたところ、驚く事実が発生した。

 

 何と、過去の英霊を呼び共に戦ってもらうのだとか。これを聞いた瞬間辞めたくなったが、まあ、生まれ変わってるし、バレナイことを祈ろう。

 

 もしばれたら何をされるか分からないからだ。

 

 そうやってばれないことを祈りながらついに人理修復するためにレイシフトという違う時代に行く準備が整い出発することになった。

 

 俺が彼らが帰ってきたら誰か連れてくるだろうなと思いながら部屋で寝ていると警報が鳴った。

 


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