物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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第十八話

 レイシフトが無事に成功して周りを見てみるとどこかの小高い丘であった。俺自身、どこか懐かしいと感じている。これは魂が覚えているのだろう。

 

 後ろではマシュちゃんが古代ローマの新鮮な空気に感動している。

 

「ふむ、やはりあの光る輪はあるようだな」

 

 ヴラドの声に従うように上を見てみるとフランスと同じようにあの輪っかが存在している。あれが何か不思議に思っているとサポートのロマニから通信が入った。

 

『そこはローマの首都じゃないのかい?』

「ここは丘陵地だと思いますよ」

『おかしいな。どうして失敗したんだろう。時代はあっているんだけどなぁ』

「そういえば古代ローマのどの時代なの?」

『それはネロ・クラウディウスが統治する時代だよ』

 

 え?

 

「ちょ、ちょっと待って。そんな話聞いてんないけど?」

『言ってなかったかい? それなら謝るよ』

「すまん、藤丸君。俺は頭痛が痛くなってきたし、腹痛も痛くなってきた。ここらへんで人理修復するまで居ておくから頑張ってきてくれ」

 

 嫌だ、帰りたい、おうち帰るー。

 

「ちょ、夏目さん。言っていることがめちゃくちゃになってますよ。それにまだ何もやってないじゃないっすか。ほら頑張りましょう!」

「それだけは勘弁を!」

 

 そんな会話をしていると遠くから戦闘をしている音が聞こえてきた。

 

「どこからか大規模な戦闘をしている音が聞こえてきますドクター」

『戦闘? おかしいなこの時代はそんな大きな戦闘なんてなかったはずなんだけどな』

「つまり、何かの異常ですね。行くよマシュ」

「はい!」

 

 走っていく藤丸チームを見送る俺。

 

「何やってんのよ! ほら私たちも行くわよ」

「ちょっと待って」

「行かなくていいのか?」

「調子が悪いもので」

「何言ってんのよ。ほら、行くわよ!」

「ちょ、お願い引きずるのはやめてください」

 

 藤丸君を追うように走り出す俺のチーム。ちなみに俺はマルタに引きずられながら向かった。

 

 

 現場に着いたら大部隊と小部隊が戦闘をしていた。そして小部隊を指揮しているのはジャンヌやアルにそっくりな女性であった。

 

「あの女性を助けようみんな!」

 

 そう言って飛び出す藤丸君の後ろで俺は震えていた。

 

「やっぱり、あの人だ。怖いよー。捕まるよー」

「あんた、さっきから嫌がってると思ったらあの女性に会いたくなかったのね」

「あの女性とどのような関係なの?」

「そんなこと聞くなオルタ! トラウマが蘇るだろう!」

「え? すみません」

「そんなことより、あやつらに加勢するぞ。敵は人間のようだし手加減もするように」

 

 そう言うとヴラドが先行しその後にマルタとオルタが着いていった。

 

 戦闘は見事なものでヴラドやオルタは大活躍した。オルタは炎による攻撃が得意だったので手加減は大丈夫かなと思ったら、いつも持っている旗で人を吹っ飛ばしていた。俺の知っている旗の使い方と違うな。そして何よりも凄かったのはマルタであった。前回は祈りによる不思議な攻撃をしていたのに今回は祈りと殴りのコラボレーションであった。

 

 敵が拳によって吹っ飛んでいくのは悲惨な光景であった。

 

 そんなこんなで戦闘がひと段落すると、小部隊を指揮していた女性が近づいてきた。

 

「援軍感謝する、そなたたちは首都から来たのか?」

「ええ、そんなところです」

 

 できるだけ視線を合わせないようにしている俺の代わりに藤丸君が会話をしてくれている。

 

「か弱そうな少女や屈強な男性が混ざって戦うとはなんとも素晴らしいものだな。気に入った。余と共に戦うことを許そう」

「あ、ありがとうございます」

 

 一緒に戦うという言葉に俺の震えが増していく。これは逃げられないかもしれない。

 

 俺が絶望している中、コミュニケーション力EXの藤丸君が円滑に話を進めてくれたらしく王都に行くことになった。

 

 

 王都に向かう途中にネロ帝の叔父であり、サーヴァントでもあるカリギュラとの軽い戦闘以外は問題なく進めて、無事に王都に到着した。

 

 王都は非常に活気に満ちており、ローマの首都といっても過言ではなかった。人々は笑いあい、今が戦争中であると思わせる要素がなかった。

 

 いろいろなところを見ているとネロ帝が近くの店で林檎をもらってきた。

 

「どうだ、お前たちもひとつ。甘いものは疲れに効果的だぞ」

「私はいいです」

「じゃあ、俺はもらいます」

 

 そう言ってみんなに配るネロ帝とそれを受け取るサーヴァントたち。

 

「うむうむ、是非味わってくれ。それでもう一人の男性は」

「いりませぬ」

「本当に良いのか?」

「はい」

「本当に良いのか?」

「はい」

「本当か?」

「はい」

「……食え!」

「……承知しました」

 

 圧力に負けて貰ってしまった。

 

「え、ええと皇帝は夏目さんのことを気に入っているようですね」

「うむ、どうしてだろうな。少し懐かしい奴を思い出してな。放っておけなかったのだ」

 

 俺は過去に勝てないのかぁ。

 

 こうしてみんなが興味津々に周りを見ていると遂に城についてしまった。終わった……。いや、待て、そうだ。俺は夏目春樹であってこの時代に生きた●●●ではない。そうだよ、俺は何故、過去に縛られていたんだ。人理修復したらこの時代とも別れる。

 

 ああ、なんだか心が軽くなってきた。もう何も怖くない!

 

 俺が一人、悟りを開いていると広間に到着。今、ローマに起こっている現状について確認しようかというところで問題が発生した。どうやら敵の大部隊が責めてきたようだ。ネロ帝は俺たちにその部隊を撃退するように命令してきた。

 

「一息ついたら、宴会を開くぞ!」

 

 その言葉を聞いてやる気を出すみんな。ローマは温泉など豪勢な文化であった。よって食事も大変美味物が多い。当時の俺も結構気に入って食べていたものだ。

 

 敵がいるであろう首都の外に出ると大勢いた。そこで俺は閃いてしまった。ネロ帝との食事にトラウマがある俺としては宴会に参加したくない。ならばじっくりやればいいじゃないか。

 

「全員、敵はどうやら人間らしい。手加減をするようにな」

「了解」

 

 返事をして飛び出すサーヴァントたち。宴会がつぶれることを祈る俺。しかし、俺は忘れていたのだ。神様が俺の敵であったこと。

 

 敵部隊との戦闘が始まって一時間。敵部隊は壊滅した。

 

 そりゃ、そうだよね。だってこっちはサーヴァントだしぃ。

 

 ヴラドやジャンヌ、ジークフリートが武器を振ったら、敵が吹っ飛んでいくし。オルタと清姫ちゃんが火炎攻撃したらみんな逃げていくし。空から亀の怪獣が落ちてきたら逃げるし、当然だよね。

 

 見てて不憫だったもん、敵の兵士が。亀が落ちてくるの見て笑って、あばよとか言ってるやつ居たし。

 

 まぁ、そんなこんなで敵をあっさり全滅させた俺たちは城に戻ってきた。そして宴会前にロマニや所長を交えての情報交換を行った。情報をまとめると……。

 

 何故か急に自称皇帝が複数現れた。それを連合ローマ帝国というらしい。そしてその皇帝たちの首都は不明。よって協力関係を結ぼう。ついでにレフ教授がいたら俺たちが倒したいから前線に入れてね。たぶんこんな感じ。情報交換も終わったので宴を始めた。

 

 みんなは美味しそうに食事をする中、俺はなかなか手を付けられていなかった。

 

「どうした、食事が口に合わなかったのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが、あまりにも美味しそうなのでどれから食べていいのか迷っているのです」

 

 急かさないでください、お願いします。

 

「それならば仕方ないな。だが、安心するがよい。ここの食事は全て美味であるからな。どれから食べても満足できるであろう」

「ははは」

 

 心の中で念話を送る。

 

『ねぇ、食べ物の中に毒とか入ってないよね? 主に睡眠薬』

『そんなもの、入っているわけなかろう』

『あんた、さっきから挙動不審だけど何かあったの? あの皇帝様と』

『いろいろ、あったんですよ。はは』

『あなたも不憫ねぇ』

 

 取り敢えず大丈夫そうなので恐る恐る食事をする俺。その横では藤丸君とネロ帝の話が盛り上がっていた。

 

「ほう、そなたは未来では学生だったのか」

「そうなんですよ」

 

 楽しそうだなぁ。

 

「ちなみにそなたは何をしていたのだ?」

「私は小説……話を書いていたのですよ」

「ほう、それは興味深いな。どのような話だ?」

 

 分からない話をしてもつまらないだろうとネロ帝が知っている話をチョイスする。

 

「いろいろ、ありますよ。例えばギリシャの神話であったりなどしていました」

「なるほど、興味深いな。少し聞かせてくれぬか」

「いいですよ」

 

 そして俺はギリシャ神話(実体験)を話した。ここで気付くべきだった。俺のミスに。

 

「素晴らしい話であったな! 褒めて遣わすぞ!」

「ありがとうございます」

「まるで●●●のようであったな」

 

 ネロ帝が呟いた名前にビクッとする俺。それは俺の当時の名前である。

 

「それはどなたですか?」

 

 興味を持ったマシュちゃんが尋ねた。

 

「うむ、余が気に入っていた劇作家である。とても面白い話を聞かせてくれる奴でな」

「へぇ」

「そして、何よりも余を心配もしてくれた。皇帝である余に対しても気さくでな、よく劇について話し合ったのだ」

 

 そう語るネロ帝はそれはもう幸せそうな顔であった。

 

「そうなんですか! それでその方はどちらに?」

 

 あかん! それ聞いたらあかんやつや!

 

 それを聞いたネロ帝は目をどす黒く曇らせて呟いた。

 

「逃げられたのだ」

「え?」

「余が幽閉して共にずっと暮らそうとしたのにあやつは直前で逃げだしたのだ。ふふふふ、だが大丈夫だ、何があっても見つけてみせるからな」

 

「えっと、その、頑張ってください」

「うむ、絶対に逃がさない」

 

 怪しく笑うネロ帝を無視して俺は心を無にして食事を続けた。ちなみにある種勘のいいサーヴァントたちはその幽閉されかけた人物が俺と分かったらしく同情的な視線を送ってくる。

 

 

 当時を思い返してもよく俺は逃げ出せたものだ。いくつもの皇帝と友人やらなんやらと関係を持っていた俺はネロ帝に対しても軽い友人関係であった。

 

 しかし、彼女が皇帝として頑張っている姿を見て、彼女がつらそうな日は励ました。彼女が嬉しそうな日には一緒に笑った。そんな日を送っていたら彼女は俺が欲しいと言うようになった。

 

 俺は断ったのだがそれが悪かった。彼女は俺を手に入れるために本気になった。普段よりも会う回数を増やしたりなどいろいろしてきた彼女だが、俺は変わらずにかわし続けた。

 

 そんなある日、彼女が話しているのを聞いてしまった。

 

「この薬を飲めばあやつは寝る。その間に、ふふふふふふふふ。これでずっと一緒に暮らせるぞ」

 

 恐怖した俺は逃げ出そうとしたが、逃げ出す方法が思いつかずそのままずるずるとネロ帝との飲み会に参加した。そして……

 

「おい。この酒を飲め」

「え、いや、自分の分がありますので」

「飲め」

「だから」

「飲まなければ、余、泣くぞ」

 

 潤んだ目にやられて飲んだ俺はすぐに眠気に負けて眠ってしまった。そして目を覚ませば豪華な部屋で寝ていた。

 

 しかし、目を覚ました時にはネロ帝はいなかった。自分の身に何かが迫っていると感じた俺は運がいいことに施錠を忘れていたドアから逃げ出したのだ。ネロ帝には新たな劇の題材を探しに行きますとの手紙を残して。

 

 

 どうやら、俺は軟禁される手前だったらしい。あの時の勘を信じてよかった。しかし、当時の俺は逃げきっているらしい。頑張れよ、俺。

 

 そうこうしているとダークサイドから帰ってきたネロ帝はみんなと大いに盛り上がり楽しんだのだった。そして宴会が終わり各自の部屋に案内された。そして俺が案内された部屋は例の部屋だった。

 

「ここでのんびりしてくれ夏目」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 特に違和感は感じなかったのでこの部屋に案内されたのは偶然だと信じたい。


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