物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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第十六話

 

 二人の召喚が終わり各々が自分の部屋へと帰っていくなかロマニ、ダ・ヴィンチ、オルガマリーは残っていた。

 

「やはり彼は何度も人生を送っているみたいだね」

 

 今まで嘘だと思っていたことが真実であったことに驚きを隠せない三人。

 

「本当にそんなことがありえるの? サーヴァントたちが言っていたから嘘だとは思わないけど信じられないわ」

 

「……普通ならありえない。前世がある人間ならまだ可能性がある。けれども、春樹はその数が異常だ」

 

「……ふむ、確かに異常であると言わずにはいられないね。すでに5回以上人生を繰り返している。おそらくだけどもっと多いだろう」

 

 ダ・ヴィンチが言い切ったところで全員が黙る。ありえない真実だ。しかし実際に起きているのだから信じるしかない。

 

「私のような人間からみたら運命なんて信じるつもりはないけど彼がマスターになったのは運命なのかもしれないね」

 

「そうね」

 

「そういえば彼が冬木で言ったセリフを覚えているかい? 藤丸君が英雄だといっていたやつ」

 

「ああ、モニター越しから見ていたが今でもしっかりと覚えているよ。それがどうしたんだい?」

 

 この時オルガマリーは半死だったのであまり覚えていない。

 

「なに、初めて聞いたときは粋のある言葉だと思っていたけど今ならこう思える‘藤丸君が主人公の物語’が本当に始まっていたということがさ」

 

「……この物語の結末はどうなるのかしら?」

 

 不安そうな顔のオルガマリーにダ・ヴィンチが言った。

 

「分からないさ。ハッピーエンドで終わる物語もあればバッドエンドで終わる物語もあるのだから」

 

「そうですよ所長。結末は分からない。しかし、勝つ可能性があるなら前を向いて戦いましょう。物語の登場人物はみんなそうしてきたんですから」

 

 ロマンの言葉にオルガマリーも戦わなければならないと思い始める。

 

「そうね。直接は戦えないけど彼らを支えましょう。そして未来を取り戻しましょう!」

 

「はい!」

 

 ロマニが大きく返事をして。ダ・ヴィンチが笑った。まさしくそれは絵のモナリザだった。

 

 

 司令塔三人が話しているころ藤丸立花は清姫から逃げ切り無事に自室へと帰っていた。

 

「無事に戻ってこれたようだなマスター」

 

「うん」

 

 疲れ切った顔でベッドに座った藤丸へエミヤは紅茶を入れる。

 

「私の勘だが君には女難の相が出ているよ」

 

「うん、自覚した」

 

「しかし、もう一人のマスターに比べたらマシだがね。君は清姫のたぶん勘違いで追いかけられているが彼はリアルで前世から追いかけられているからな」

 

「あー」

 

 思い出すのはもう一人のマスターでありいろいろ教えてくれる夏目のことだ。藤丸から見た夏目は‘達観し過ぎている人’だ。フランスでの戦争、そこで人の死を初めて見た藤丸だった。あまりの光景に気持ち悪くなった。しかし、夏目はその光景に対していつも通りだった。そこに驚いたのを覚えている。

 

 他にも不気味な雰囲気を出すレフに対して啖呵を切っていたのもかっこいいと思ってしまった。

 

「なあエミヤ、俺は英雄になれると思う?」

 

「ん? 急にどうしたんだ?」

 

 あまり藤丸らしくない質問に目を丸くするエミヤ。

 

「夏目さんに言われたんだ。俺が人理を修復して英雄になるって」

 

「なるほど。確かにやり遂げたのなら君は英雄と呼ばれるのに相応しい人間になるだろう。君はどう思う?」

 

「俺は……分からない。正直サーヴァント同士の戦いも怖かったし、戦争も怖かったからさ。こんなビビりの俺には無理かもしれないって。夏目さんならできるかもしれないけど」

 

「どうしてだ?」

 

「だって、サーヴァントたちともあんなに仲がいいし戦闘でも特に変化なかったからさ。他にも話を聞いたら何度も人生を繰り返しているっていうしなんか世界が違うよ」

 

「……これは私の意見だが恐れないことが英雄の条件ではないだろう。そしてサーヴァントたちとならこれからいくらでも仲良くなれる」

 

「けど……」  

 

 反論しようとする藤丸に‘最後まで聞くんだ’と言い続ける。

 

「君はフランスでは恐れながらも立ち上がり戦った。そして現地ではサーヴァントたちが君に協力してくれただろう?」

 

 藤丸はフランスで出会ったマリーアントワネットやモーツァルトたちを思い出した。

 

「歴史に名を残すような彼らが君のために戦うと言ってくれたんだ。それは凄いことだ。そしてそんな彼らと共に特異点を修復をしたんだ。自信を持ってもいいと私は思うね」

 

「……うん、そうだね。俺頑張るよ! ありがとうエミヤ」

 

 エミヤに感謝の言葉を告げた藤丸はベッドから立ち上がった。

 

「元気が出たしちょっと体を動かしてくるよ」

 

「ああ、頑張りたまえ」

 

 藤丸は嬉しそうに笑い出て行った。それを見送ったエミヤは過去の自分を思い出し笑った。こうして自分が助言する側になると思っていなかった。

 

 そして紅茶を楽しんでいると藤丸の悲鳴が聞こえた。その後、清姫の声も聞こえた。どうやらサーヴァントと仲良くしているようだ。

 

 

 召喚が終わった後、部屋に戻ろうとしたところ何故かジャンヌが俺についてきた。

 

「ここには俺の部屋しかないよ」

 

 言外にあっちに行けと伝える。

 

「そんなこと言わないで下さい。召喚されたばかりなのだから親交を深めましょう」

 

 ヘッドバットしてきた女性が言う言葉ではないと思います。

 

「それもいいと思うけど一先ず休ませてくれよ。こう見えても召喚って体力使うんだよ」

 

「確かにそうですね。なら明日にしましょう」

 

 部屋に入ろうとしたら違うやつが来た。

 

「どうしたのオルタ?」

 

「え、いや。初めての場所ですから、その、それに自分の部屋も分かりませんし」

 

 まるで借りてきた猫のようにしおらしくなるオルタ。何故だ保護欲がそそられる。

 

「そこらへんの空いてる部屋を使っていいよ。いろいろあってほとんど空いてるし」

 

「あなたの隣の部屋は空いてますか?」

 

「ごめん。アル…アーサー王とクー・フーリンに取られてるわ」

 

「そうですか…」

 

 そんな泣きそうな顔をしないで。

 

「あーその。せっかくだし話するか」

 

「はい!」

 

 そして俺はオルタを部屋に入れて日本が誇るサブカルチャーを教えてあげるのだった。

 

 

「私は追い返したのにオルタを入れるなんて……許しません!」

 

「貴様は何をやっているのだ?」

 

 追い返されたジャンヌが柱の陰から二人を睨みつけ、それを見たヴラドは思わずため息を吐いたのだった。

 


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