物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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第十二話

 

「あんた、いろいろ面白いことを知っているって言ったわね?」

 

 部屋で横になっていると勢いよくドアが開けられ黒ジャンヌが入って来た。

 

「言ったけど、それが?」

 

「そう、それならちょうどいいわ」

 

「何が?」

 

「私は今からあいつらを皆殺しに行きます。けれどもあんたは生かしておいてあげる。他の二人も気に入っているようだし」

 

「うんそれは分かったけど、なんでちょうどいいの?」

 

「私があいつらを殺してフランスを滅ぼした後は暇になるでしょ。だからあんたは私に面白いことを教えなさい! いいわね!」

 

「あ、ああいいけど」

 

「よっし。じゃあ私は行ってきます!」

 

 そう言ってジャンヌは再びドアを勢いよく開けて飛び出していった。

 

 昔のやんちゃな時のジャンヌみたいだな。

 

 しかし、いまいち情報が入ってこないせいでよくわからないが、どうやら黒ジャンヌは新たなサーヴァントと共に再び出撃したらしい。

 

 この間に脱出しようと部屋を出たのはいいが道が分からない。どうしたものかと悩んでいると昔の姿とはかけ離れた懐かしい顔に遭遇した。

 

「おや、あなたは確かジャンヌが連れて来た……」

 

「……お前、ジルか?」

 

 昔よりも主に目が変わってしまった彼はジル・ド・レェ。フランスの指揮を担っていた男である。

 

「私の名前を知っているとは、あなたは何者ですか?」

 

「ただの捕虜だよ」

 

「ただの捕虜が勝手に歩き回るのはどうかと思いますがね」

 

「捕虜にだってトイレに行くぐらいの人権は欲しいものだ」

 

「おっと、確かにあなたの言っていることは正しい。ではお連れしましょう」

 

「これは親切にどうも」

 

 さて、まさかこんなところでジルとエンカウントするとは思っていなかった。これでは脱出することは不可能だろう。ここは大人しくしておけということだな。

 

 ジルに連れられてトイレに向かう途中、ジルはひたすらジャンヌの素晴らしさを語ってきた。

 

 そうだね、可憐だね。とてきとうに返しているとジルは悲しそうに呟いた。

 

「あの時は、楽しかった。私とジャンヌと彼でいつも夢を語り合っていました」

 

「……どんな夢だったんですか?」

 

「ふふ、何の変哲もない夢ですよ。私はこのまま国を守りたいと、ジャンヌは田舎に帰り親とのんびり過ごしたいと、彼は小説家になりたいと語っていました」

 

 懐かしい話だ。そして……。

 

「叶わない夢ですね」

 

「ええ、フランスが! 神が! 彼女を裏切らなければ! こんなことにはならなかったのに! ジャンヌも彼と結婚して幸せになっていたかもしれないのに!」

 

 ん?

 

「ジャンヌさんは彼のことが好きだったのですか?」

 

「ええ、彼は鈍感で気付いていませんでしたがジャンヌはあきらかに彼を意識していました」

 

 マジで!? 全く気付いてなかった。どうしよジャンヌと再会した時ちょっときまずい。

 

「しかし、あなたはジャンヌを大切に思っている。ならば結婚には反対なのでは?」

 

「いいえ、私はジャンヌを大切に思っているからこそ結婚して幸せになって欲しかった。残念ながら叶わない夢ですけどね」

 

「……」

 

 何も返答できなかった。

 

 その後、俺にとっても懐かしい話が部屋に帰るまで続いた。

 

「案内してくれてありがとう」

 

「いえ、私もあなたと話せてよかったです。あなたは彼と似ていますね」

 

「あったことない人と似ていると言われても変な気分ですけどね」

 

「それもそうですね」

 

 ジルは満足したように部屋から出ていった。

 

 さて、状況を整理するにやはり脱出は不可能だ。ということは助けが来るのを待つべきだ。果報は寝て待てとも言うしな。

 

 

 

 少し寝ると外が騒がしくなってきた。不思議に思っていると二人の人物が中に入って来た。

 

「こんな状態でも寝てられるあんたが羨ましいわ」

 

「全くだな」

 

 入って来たのはマルタとヴラドであった。

 

「どうしたの?」

 

 聞きながら、彼女たちの顔を見てどんな返答が返ってくるのかは分かっていた。

 

「これから最後の戦いになりそうだからお別れを言いに来たのよ」

 

「余も同じだ」

 

「……うん。そんな気がしてた」

 

 そんな顔してたら分かるよ。

 

「そんな顔しないの。これが永遠の別れって訳じゃないでしょ。こうやって縁が出来たのだしまた召喚なさい」

 

「余のことも頼むぞ。この槍は今度は国ではなくお前を守るために振るわさせてくれ」

 

「……運が良かったらな」

 

「なら、安心ね。私はこういう時は運が良くなるのよ」

 

「余の場合は不安だな」

 

「安心しろ、俺も頑張って召喚するから」

 

 ‘なら、安心だ’。そう言って二人は出ていった。死ぬことが分かっているのだろう。物語の中で自分たちが悪役になっていることを知っているのだろう。

 

 しかし、俺が願うことができるのは再会できることである。

 

 

 彼らが出ていってしばらくすると城の中がうるさくなってきた。不思議に思って部屋から顔を出すと目の前にワイバーンがいた。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!」

 

 意味不明な叫び声をあげているとワイバーンの首が切断された。

 

「兄さん、無事ですか?」

 

「おう、探したぜ相棒。生きてるか?」

 

「死ぬ直前だったけど生きてるよ」

 

「よかった。攫われてから心配してませんでしたけどね」

 

「無事でよかったぜ。これっぽっちも心配してなかったがな」

 

 仲間からの信頼が辛い。

 

 泣きそうになりながら今までの話を聞くと、リヨンにいたのはジークフリートだったらしく、彼を仲間に入れてからは快進撃だったらしい。そして今は残った黒ジャンヌとジルを追い詰めているのだとか。

 

「結末を見に行こう」

 

 彼らを連れて居そうな場所に行くとジルが膝をついているところだった。

 

「やはり、あの私はあなたが作った者だったのですね」

 

「勘の鋭い方だ」

 

 どういうことか分からずに首をかしげていると後ろから誰かが来た。

 

「待ちなさいよ! ってあんた誰?」

 

「いきなり逃げ出すとは……あなたは誰でしょう?」

 

「誘拐されていたもう一人のマスターです」

 

 俺たちのように部屋に合流した二人の女性サーヴァント。この着物着た子ってヤンデレの標本みたいな子じゃなかったけ?

 

 昔を思い出しびびっているとジルが語った。

 

 彼女は、黒ジャンヌはジルの思いにより聖杯の力で作られた存在だったらしい。通りで彼女は俺に対して『会ったことがあるような気がする』という風に考えていた訳だ。

 

 ジルが俺に対して懐かしいと、俺たち三人の想い出を大切にして作ったジャンヌなのだから。

 

 国を憎むジルと国を憎まないジャンヌ。結局、彼らは戦うことになった。

 

 そして、藤丸君に援護をしてもらったジャンヌが勝利したのだった。

 

 悲しそうな顔をしながらジャンヌがジルに近づく。

 

「ジル、今までありがとう。だから安らかに眠って下さい」

 

「ええ、そうさせてもらいましょう。……ジャンヌ、地獄に行くのは私だけで」

 

 ジルがジャンヌを見て、そして俺を見て微笑んだ気がした。

 

 ジルは笑いながら死んだ。そこに救いはあったのだろう。どのような人でも笑いながら死ぬことができれば幸せだろう。

 

 そしてジルの手元にあった聖杯が藤丸君の手元に行く。

 

『聖杯の回収が完了した! 時代の修正が始まるぞ!』

 

 身体が薄れていく中で藤丸君はここで出会ったサーヴァントたちにお別れを言っている。

 

「しっかし、お前さんは今回何もしてねぇな」

 

「ちゃんとお姫様役やっただろ」

 

「兄さんがお姫様だなんて笑えませんね」

 

「笑いながら言っても説得力無いぞ」

 

 この物語の主人公は藤丸君なのだ。だったら俺が活躍しすぎることは駄目なのだろう。そうして話していると綺麗な、生きているジルが入って来た。

 

「ジャンヌ、あなたは生きていたのですか!?」

 

「……ジル、ここでお別れです」

 

「!? やはり死んで……なのに死してなお国のために。許してほしい。私たちがあなたを裏切ったことを」

 

「大丈夫ですよジル。せめて笑顔で別れましょう」

 

 泣きそうな顔で懺悔するジルとそれを許すジャンヌ。そんな二人を見て俺も言わなければいけないと思った。

 

「ジル! ちゃんと周りを見てくれ! お前がジャンヌを大切にしていたのと同じぐらい周りの奴もお前を大切にしていたんだ! そのことを忘れないでくれ!」

 

 俺の言葉に驚いた顔を見せるジルと、藤丸君たちと話していたジャンヌが驚いた顔でこちらを見てくる。

 

「あなたは……まさか……」

 

 そんな声が聞こえる中、俺たちは15世紀のフランスから帰還するのだった。

 


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