人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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大変お待たせしました。
引っ越しに伴い、使っていたWi-Fiを別のに切り替えたのが原因で電波が付いたり切れたりを繰り返して書くのが大幅に遅れましました。
そんなこんなで北口奇襲班との戦いに入ります。


記録百拾玖

SIDE労鬼

 それは突然だった。

 奇襲によって逃亡する魔化魍を1匹残らずに討伐する任務を任された私たちを出迎えたのは、一発の砲弾だった。

 

「「「「っ!!」」」」

 

 突然の攻撃に反応できたのは労鬼と騒鬼、天狗2人の4人だけだった。

 反応できなかった2人の天狗の内、ひとりは砲弾の直撃で身体が吹き飛び、もう1人は砲弾の爆風に飛ばされ岩に身体を打ちつけ変な方向に腰から曲がっているもはや死体と変わらない。

 

「危なかった」

 

「今の魔化魍の攻撃か!?」

 

「しかし、今のは砲弾でしたよ。魔化魍が人間の武器を使うとは」

 

「いやツクモガミ種の魔化魍かもしれねえ」

 

【正解だ】

 

 そう言って奥から現れたのは脚の先に着いたキャタピラで移動する体の各所に装甲を纏い、肩に大砲を載せたアルマジロの魔化魍(不動)だった。

 騒鬼の言った通り、おそらくツクモガミ種で、しかも異常種だろう。

 数多く存在するツクモガミ種の異常種は大元となった道具の特徴がその身体に表れていることが多く、そこからその異常種を特定するのがツクモガミ種の異常種の魔化魍の判断方法だ。

 そして、キャタピラの脚と装甲、そして肩部の大砲からして戦車のツクモガミだというのは間違いない。そして、戦車のツクモガミの異常種は一種しかいない–––

  

「(ゴグマゴグ)……くっ!」

 

 戦車や戦闘機、潜水艦などの兵器のツクモガミが進化することで産まれる異常種だ。

 兵器から産まれたツクモガミ種の特徴としては好戦的で凶悪凶暴なものが多く、本能の赴くままに戦いを楽しみ、あたりを焼け野原にかえる。おまけに数あるツクモガミ異常種の中でもゴグマゴグは極めて戦闘能力が高く、その強さは5本の指に入るほどだ。

 そして、戦車のゴグマゴグは大砲による高い攻撃力、キャタピラの脚による高速移動と不整地走破、そして身体の装甲とアルマジロ特有の背甲を合わせた極めて高い防御力が特徴だ。

 

「騒鬼!! 貴方ならゴグマゴグの装甲など関係なく内部に音撃を極めれば勝てます。貴方はゴグマゴグの相手を!!」

 

「確かに硬いのが取り柄の魔化魍なら俺向きだな!!」

 

 騒鬼は肩に担いだ音撃弦 騒々(そうぞう)を下ろして、ゴグマゴグに向かって駆ける。

 

「ちょ、連携を!! ああ、もう!」

 

 あの人は、独断専行しやすく傍に誰かが居ないといけない。それが原因で何度も危機に陥っている。

 そんな騒鬼を援護するべく音撃管 社逐(しゃちく)をゴグマゴグに向けて構えようとした時、地面に映る何かの影に気付き私は横っ飛びで回避に移る。

 

拳牙

【ありゃ、気付かれた? まあいっか】

 

唐傘

【ダメですよ。でもその方が楽しいのかな?】

 

 私のいた所には拳を振り下ろしている魔化魍と地面に突き刺さっている苦無を投げた魔化魍が飛んでいた。

 あれま、マジですか。『水武虎』がいるなんて。

 

 『水武虎』、正確にはスイコという魔化魍だった筈ですが、この個体は今の魔化魍の王の前に先代の王であるシュテンドウジに仕えていた魔化魍だ。

 もう1体はどのような魔化魍か知らないが外見から考えてツクモガミ種の異常種(?)の魔化魍だろう。

 

「魔化魍覚悟!!」

 

 私の撃った空気弾が『水武虎』に当たって『水武虎』の身体には幾つもの穴が空く。

 だが、『水武虎』は何事もなかったかのように歩き出し始める。すると『水武虎』の身体に空いた穴が消えていく。数秒経てば穴も無い綺麗な身体になっていた。そして『水武虎』は拳を握りしめると私に向かって駆ける。

 

 私は社逐で『水武虎』を撃つも『水武虎』は握った拳で空気弾を弾いて徐々に距離を詰めてくる。

 それに対して私は社逐を地面に向けて撃つ。撃たれた地面はパラパラと土埃を巻き上げて、『水武虎』の動きを止める。

 

拳牙

【はあ!!】

 

 『水武虎』が勢いよく腕を振るうと、それによって発生した風が土埃を吹き飛ばし、体勢を立て直そうとした労鬼の姿が見えてくる。

 

カラカラカラカラ

 

 労鬼を捉えた唐傘は口から糸を吐き出す。

 

「うわっと、危な!」

 

 労鬼は吐き出された糸をディスクアニマルのディスクで防いでそのまま捨てる。そのまま流れるように音撃管を唐傘に向けて撃つ。

 

カラカラカラカラ

 

 だが、撃たれた空気弾は唐傘が自身を高速回転させて弾き飛ばして霧散させる。

 労鬼はツクモガミ異常種(?)をゴグマゴグ並に厄介な相手と判断して再び音撃管を構えた。

 

SIDEOUT

 

SIDE不動

 一方、労鬼から少し離れた森の中。

 こちらは労鬼の話を聞いて不動に突撃した騒鬼のほうでは、激しい爆発音が響いていた。

 

「おっと、危ねえな!!」

 

 そう言いながら走るのは音撃弦 騒々を持った鬼、騒鬼だ。

 そんな鬼を攻撃するのは、脚のキャタピラを使って縦横に動き回る不動だ。

 

「ちょこまか、うぜえなあ!!」

 

 音撃弦を振り回しながら迫る騒鬼に向けて大砲を構えるも–––

 

「むっ、おらあああああ!!」

 

 騒鬼は音撃弦で土を持ち上げて、雑に不動に投げつける。

 

【っ!!】

 

 不動は土を見ると、構えを解いてキャタピラで横にズレるように土を躱す。

 

「そらあああ!!」

 

 そして、土を投げつけると同時に迫る騒鬼。

 そんな騒鬼から距離を取るために不動は騒鬼の足元に向けて先程の砲弾を撃ち、響く爆発音と共に地面の砂は巻き上げられた砂が辺りを覆う。

 そして、それを確認した不動はキャタピラで後退する。

 

不動

【装填までもう少しか】

 

 不動の砲弾は体内に溜め込んだ屑鉄と自身が喰らった人間の血肉から抽出した鉄分、そして火薬を混ぜ込んで作られる。

 それらを体内で混ぜ合わせて、弾種を決め、肩部の大砲に装填されるのに30秒掛かる。

 

「おらああああ!!」

 

 騒鬼は音撃弦を回転させて風を起こして、打ち上げられた砂を払っていく。

 それを見た不動は装甲の一部を剥ぎ握りつぶして、細かくなった装甲の破片を勢いよく投げつける。

 

 騒鬼は音撃弦を地面に突き刺すと、柄を握りしめて自分の身体を宙に浮かして迫る破片の散弾を避ける。

 騒鬼は体勢を空中で立て直して地面に降りて走り出す。

 

 不動は走る騒鬼に向けて、装填の済んだ砲弾を放つ。

 自身に迫る砲弾を見た騒鬼は、その場で止まると音撃弦を構える。

 

「うおしゃああああ!!」

 

不動

【なっ!?】

 

 不動は驚愕する。なんと騒鬼は、飛んできた砲弾を音撃弦の峰で受け止めて、そのまま野球の球のように不動に向けて打ち返した。

 打ち返された砲弾は不動の足元に着弾して爆発する。

 

不動

【むう!】

 

「ここだあああ!!」

 

 砲弾を撃ち返すと同時に駆けた騒鬼が不動に向かって真っ直ぐと音撃弦 騒々で突き刺す。

 

不動

【はっ!】

 

「バカな!!」

 

 だが今度は騒鬼が驚愕する。

 伸ばした音撃弦の先に不動はおらず、上を見上げれば宙に飛び跳ねた不動がいた。戦車は鈍重という認識を持っていた騒鬼は油断した。そして、上から落ちてきた不動が着地したのは騒鬼の両脚の上だった

 

「があああああああああ!!」

 

 上から降ってきた不動に両脚を踏み潰された騒鬼は音撃弦を振り回して不動を攻撃するも、不動は装甲をうまく使って攻撃を防ぐ。

 そして騒鬼の攻勢が緩まった次の瞬間、不動の脚のキャタピラが勢いよく回転して潰した騒鬼の両脚を抉るように滅茶苦茶にする。

 

 騒鬼の絶叫が響き、数秒後には不動は勢いよく飛び跳ねて騒鬼から離れる。踏み潰されキャタピラに轢かれた騒鬼の両脚はズタボロでほぼ原型を留めていない。痛みで呼吸は滅茶苦茶、まともに立つことも出来ない。

 戦うこともその場から逃げることもできない騒鬼は手にある音撃弦 騒々を握りしめる。だが、騒鬼はそんな状況の中–––

 

「へへ、来いよ魔化魍。俺はまだ死んでねぞ!! まだ動けるんだ、テメエの喉元にこれを突き刺してやるよ!!」

 

 面の下で笑った。

 既にマトモに戦えないと思った鬼が、脚もまともに動かせない筈の鬼に気押される。不動は知らぬ間に騒鬼から離れるように脚を一歩後ずさってしまう。

 今まで感じたこともないそんな感情を押し隠すように不動は大砲に焼夷弾を装填し、騒鬼に照準を合わせる。

 

 それを見た騒鬼は脚を動かせないと分かっている。騒鬼は手にある音撃弦を見る。

 不動の肩の大砲はゆっくりと動き、騒鬼に照準を合わせる。

 

 それを見て騒鬼は手にある音撃弦 騒々を見ると、不動に向かって槍投げのように音撃弦を投げる。

 そして、それは丁度、砲弾を装填し発射しようとしたタイミングで投げられた音撃弦は不動の大砲の中にある砲弾に接触し、そのまま大爆発する。

 

不動

【ぐうううううう!!】

 

 鬼が自分の武器を利用してダメージを与えるとは予想だにしなかった不動は内側から吹き飛んで身体の色々なところに刺さった肩部の大砲の破片と音撃弦の破片によって動きが止まってしまう。

 そして、それは騒鬼のチャンスだった。

 

「死ね魔化魍うううううう!!」

 

 潰れた脚ではなく、両腕を使って這って近付く騒鬼。不動は迎撃のために自身の装甲を剥ぐも間近で受けた大爆発で感覚が狂っていた不動は装甲を落としてしまう。迎撃できないことを知った騒鬼はこれ幸いと言わんばかりに不動に向かって飛び掛かる。

 騒鬼の腕を見れば爪が伸びている。鬼の使う鬼闘術(きとうじゅつ) 鬼爪(おにつめ)によって伸びた爪を先の爆発によって剥き出しになっている装甲の下の肉に突き刺さろうとしたその時–––

 

【やらせない!!】

 

 突然、現れた腕が不動に飛び掛かった騒鬼の動きを止め、不動から引き剥がす。不動は現れたものに驚きの声をあげる。

 

不動

【焼腕か!?】

 

 そこに現れたのは焼腕だった。

 

焼腕

【ああ、何か胸騒ぎを感じて、向こうを樹裂に任せて俺がこっちにきた】

 

「魔化魍め、邪魔をしやがって!!」

 

 焼腕に掴まれている騒鬼は爪を振り回して暴れるが、焼腕は騒鬼の腕に力を込めて腕は握り潰す。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

焼腕

【黙れ!】

 

「がぶふ、ごぷっ……」

 

 腕を潰されて悲鳴を上げる騒鬼を頭から地面に思い切り叩きつけた。

 頭を守ることも出来ずに叩きつけられた頭から多量の血を撒き散らして騒鬼は死んだ。

 

不動

【鬼にしてやられるとは、助かった焼腕】

 

焼腕

【……良かった………俺は仲間を、いや家族を今度こそ、守れた】

 

不動

【焼腕?】

 

 突然、涙を流す焼腕にギョッとする不動。

 

 何故、焼腕が涙を流したのかその理由を教えよう。

 焼腕は『鳥獣蟲同盟』が猛士中部地方支部の最初の奇襲を受けた時、同盟メンバーの食糧調達のために外出していた。

 食糧調達を終えて戻ってきた際に見た光景に愕然とした。同盟メンバーの全員がどこかに怪我を作っていた。そして、いる筈の魔化魍がふたり居ないことを尋ねれば、何があったのかを聞かされて内容に焼腕は放心して倒れた。

 目を覚ました時、改めて仲間が居ないことを受け止めた焼腕は同じことを起きないようにと仲間の警護をするようになった。

 だが、猛士中部地方支部の2度目の奇襲の際に陽動を使って仲間から引き離された焼腕が陽動を蹴散らして、仲間の元に向かえば今度はさんにんも仲間を失った。唯一の救いは奇襲で狙われた幻笛を助けられたこと。仲間が身を挺して作った時間によって幻笛はその場から逃げて焼腕に保護された。

 そんな焼腕は間に合った。ピンチだった不動を助けて仲間を守ることが出来た。

 

 不動は焼腕の涙の理由は知らない。だが、かつて戦車だった頃、自分に乗っていた男が仲間の死に泣いていたことを覚えていた不動はなんとなく察し、何も言わずに焼腕の涙が止まるのを待った。

 

焼腕

【すまん。情けないところを見せた】

 

不動

【……そうか。では戻るとしよう】

 

 こうして騒鬼を仕留めた2体の魔化魍は家族の元へ移動するのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE労鬼

 2体の魔化魍との戦いで気づけば、いつの間にか騒鬼が何処にも居なかった。

 おそらく、騒鬼と戦っていたゴグマゴグによって分断されたのだろう。

 

 耳を澄ませば、物凄い音が奥の森から断続的に聞こえてくるから騒鬼はまだ生きてるのだろう。

 だが、助けに行きたいのは山々だが今は無理だ。その理由は–––

 

拳牙

【ほらほら、どんどんいくよ!!】

 

 目の前の『水武虎』が原因だ。

 音撃管などの管系の武器を持つ鬼は総じて、近接戦闘が苦手な者が多い。それは私も例外じゃ無い。

 

 水を纏った『水武虎』の拳の連続攻撃に私は手も足も出ない。

 なんとか鬼闘術 鬼爪で生やした爪で相手の拳に対抗して隙を見て距離を取ろうとした瞬間には–––

 

カラカラカラカラ

 

 ツクモガミ異常種(?)の魔化魍が糸や苦無を使って私の移動を妨害して脚が止まった瞬間に『水武虎』が接近して攻撃を仕掛けてくる。

 おまけに『水武虎』は酔拳を得意とする為か、攻撃の軌道が不規則でこちらの隙に捩じ込むように拳を出す。

 

 そんな攻防で既に鬼闘術 鬼爪で生やした爪もほぼ無く、鎧の一部も砕けている。

 戦闘で邪魔になると思った音撃管は腰にぶら下がってるが、油断も隙もない『水武虎』には当たらないだろう。

 しかし、ただやられてるばかりじゃ無い。

 

「すうーーーーー」

 

 『水武虎』の攻撃をなんと防ぎながら息を大きく吸い込む。すると面の口元が開き、そこから猛烈な勢いの風が噴き出る。

 それは魔化魍たちの使う術の鬼版こと鬼幻術(きげんじゅつ) 鬼風(おにかぜ)が拳牙を吹き飛ばそうと吹き(すさ)ぶ。

 

拳牙

【うぐ、ああああ!】

 

カラカラカラカラ!

 

 しばらくは風に耐えていた拳牙はやがて身体が浮いて、宙に浮かぶ唐傘にぶつかり2体揃って地面に落ちる。

 労鬼はそれと同時に地面に落ちた魔化魍たちに向けて音撃管の空気弾をばら撒くように撃ち続ける。そうして時間を稼ぐように撃ち続けた音撃管の攻撃を止めて、忘れていた存在に声を掛ける。

 

「さよ! 拝!! 2人とも逃げなさい!!」

 

 労鬼が声掛けをしたのはゴグマゴグの攻撃を避けた天狗の2人だ。

 なんとか生き残った2人の天狗が心配だった労鬼は声を掛けたが、反応がないことに労鬼は声を荒げる。

 

「2人とも早く逃げ、な……」

 

 天狗の2人から返答は無く、労鬼が顔を向けれた。

 しかしそこで労鬼が目にしたのは–––

 

樹裂

【こいつらにようか?】

 

 樹裂の鋏の先には天狗の片腕が挟まれ、その下には身体を両断され片腕の無い女の天狗と切断されて首の無い男の天狗が転がっていた。

 

 そう2人の天狗は死んでいた。

 騒鬼が不動に攻撃を仕掛け、労鬼が拳牙と唐傘の攻撃を受けた時、2人はそれぞれ戦う騒鬼と労鬼の援護に入ろうとしたが、その場に乱入するように現れた樹裂が2人の天狗の邪魔をした。

 天狗は早急に目の前の魔化魍を倒して2人の援護に向かおうとしたが、戦闘手段である戦輪獣を破壊されて抵抗も虚しく天狗の2人は樹裂の餌食となった。

 

「クソ!!!」

 

 労鬼は音撃管 社逐を樹裂に向けて撃つも、樹裂は肩にある毬栗をばら撒いて空気弾を防ぐ。

 

拳牙

【隙だらけですよ!!】

 

カラカラカラカラ

 

 拳を振り抜く拳牙と迫る唐傘に気付いた労鬼は身体を屈めて、ふたつの攻撃を避ける。

 

拳牙、唐傘

【【っ!?】】

 

 その行動に驚いて固まる拳牙の腕を掴み、労鬼は唐傘を巻き込むように2体を遠くに投げ飛ばす。

 

「これでどうです!!」

 

 投げ飛ばした先に向けて、社逐を突き出し、空気弾ではなく鬼石の弾丸を撃ち込む。

 さっき、『水武虎』は身体を液体化させて弾丸を避けたが、今の状況では絶対『水武虎』は弾丸を避けれない。

 

拳牙

【ぐうう!】

 

唐傘

【拳牙!!】

 

 そう。液体化したら一緒に投げ飛ばしたツクモガミ異常種(?)に鬼石が当たるからだ。

 それに『水武虎』は話によると自身の怪我に対しては頓着しないが味方の怪我は嫌がるという話を聞いたことがある。もしやと思ってやったら、まさかあの話が本当だったとは。

 これならまとめて倒せる!!

 

音撃射(おんげきしゃ) 怒釈迦鳴(どっしゃかめい)

 

 音撃管から放たれた水色の音撃が『水武虎』とカラカサオバケに当たる。

 

拳牙

【ぐうううううう!!】

 

唐傘

【ああああああああ!!】

 

 労鬼の放つ音撃射 怒釈迦鳴は対象となる魔化魍の身体にある鬼石を中心に周りにいる魔化魍も巻き込んでまとめて清めることの出来る音撃だ。北海道で戦った松竹梅兄弟の梅鬼も似た音撃をしたがアレは地脈を利用した音撃で、労鬼の場合は鬼石を起点にしたという違いがあるだろう。

 こんなことが出来るのは、労鬼が自らカスタマイズした音撃管に理由がある。

 労鬼は元々、音撃武器の開発を担う銀だったのだが、実弟の初代労鬼が魔化魍との戦いで相打ちになり、継承する者が居なかったことと亡き実弟の形見と思い、労鬼の力を引き継いだ。

 しかし、労鬼は遅くに鬼になった為に正規の鬼の修行もままならない状態で鬼の力を継承した。そして労鬼は攻撃が下手で特に音撃の出来が酷かった。

 鬼としては致命的な弱点に当初、周りは『鬼の力を別の者に継承させるべき』と言ったが労鬼はその声に耳を貸すことなく自身の欠点をどう補うかと考えた。そして、銀だった頃の知識や経験を使って、音撃管を自分専用にカスタマイズした。

 その結果出来上がったのが、攻撃の自動照準補正と音撃補助システム、そして音撃を吸収して周囲に拡散させる特殊な鬼石を組み込んだカスタム音撃管……それが社逐だ。これによって攻撃が下手な労鬼の攻撃は当たるようになり、初めて挑んだ実戦では苦もなく魔化魍を清めることに成功した。

 拳牙も唐傘もその音撃によって身体の至るところに罅が入っていき、頭を抑えながら地面に崩れ落ちる。

 労鬼は息をさらに送り込み、威力を上げていく。

 

拳牙

【いい加減にしてください!!】

 

 拳牙が勢いよく腕を振るうとそこから何かが飛んでくる。

 音撃を中断し、労鬼は回避すると飛んできた何かは樹の幹にめり込む。

 

拳牙

【はあーーー。はあーーー】

 

 荒い呼吸をする拳牙に警戒しながら飛んできたものを確認すると労鬼がそれを見て驚く。

 そこにあったのは先程、拳牙の身体に打ち込んだ鬼石だった。何故、鬼石が拳牙の身体から出たのか、それは彼女の能力が関係してる。

 彼女ことスイコ種の魔化魍は液体化という能力を持ってるのはご存知だろう。身体を液体に出来るのは何も全身だけではない身体の一部や体内のみの液体化なども出来る。つまり皮膚に留まる鬼石の周りを液体に変えて体内を経由して腕に持っていき、タイミングを図って腕を振るい、体外に排出したのだ。地面に崩れ落ちたのは、音撃を発生させる鬼石を体内で移動させたのが予想よりもダメージがあったからだ。

 

拳牙

【はあーー、唐傘、今です!!】

 

「なっ!!」

 

カラカラカラカラ

 

 荒い呼吸を吐く、『水武虎』の指示に驚き、周りを確認するといつの間にか宙を飛んでいたツクモガミ異常種(?)が翼先から苦無を放ってくる。苦無を落とすよりも早く苦無は私の腕に深々と刺さり、その痛みで私は音撃管 社逐を落としてしまう。急いで拾おうとするが–––

 

「…か、身体が動かない………」

 

 カラカサオバケの放った苦無に付いた毒に神経がやられたのだろう。腕どころか身体すら動かせなくなりその場に倒れる。

 まともに動かせるのは頭だけ。そんな頭を少しあげれば罅が入った箇所を抑えながら『水武虎』が近づいてくる。とどめを刺すためだろう。

 『水武虎』が私の頭を潰せるほどにまで近付く。そして、私のことをジロジロと品定めをするかのように見てくる。

 

拳牙

【…………惜しいですね】

 

 は? 今、なんて言った?

 

拳牙

【ふむ。やはり惜しいですね。鍛えればもっと強くなりそうだけど…………あ、そうだ連れて行きましょう!!】

 

 何を言ってるのですかこの魔化魍は!?

 

拳牙

【ということでしばらく寝ててください】

 

 そんな言葉を言った『水武虎』の手刀によって私の意識は真っ暗になった。




如何でしたでしょうか?
北口奇襲班は捕虜として労鬼を捕らえました。まあ、生存させた理由は神のみぞ知る(サイコロの目)って奴です。
最近知ったサイコロWEBアプリを使って1〜3、5〜6が出たら労鬼は騒鬼を庇って死亡する。4が出たら生存という感じで振ったら4が出ました。
因みにゴグマゴグは兵器がツクモガミ化して進化した魔化魍ですので、某機動戦士のようなモビルスーツやモビルアーマーもゴグマゴグへと変化することが出来ますが。ですが最低でも50年〜100年以上形を残した機体じゃない限りツクモガミ化しません。あれ、そういえば某火星の機体や厄災戦の天使って300年位前の機体だったような?
まあ、次回は東口での戦闘回です。

ーおまけー
迷家
【なんか、しばらくぶり〜って感じするけど………ま、いっか。
 ということでおまけコーナーはっ、じまるよ〜! ………まあ今日はゲストいないけど】


【で、なんであっしらがここにいるんでやすか?】

迷家
【さあ? 変な人が急に現れてここに連れてきたから】

常闇
【私は気付けばここに居た】

サーティセブン
【私もだ】

ドクター
【診察中だというのに、はあー】

「いや〜ゴメンゴメン」

迷家たち
【【【【【っ!!?】】】】】

「こういうの初めてでね〜」

迷家
【………誰かと思ったら、何のようで僕たちを呼んだの変な人】

「うん。本題に入る前にちょっと相談なんだけどね。いい加減、変な人という名前に少々飽きてきたからね。新しい名前にしようと思うけど何かないかな?」


【知らんでやすよ。にしても迷家やサーティセブンから聞かされていやしたが、ホントに変な姿でやすね】

常闇
【ふむ。ただ変というわけではないな。認識阻害干渉阻害幻術ルーン魔術、他にも様々な術を使って姿を誤魔化してるな】

「流石は影の国の女王に鍛えられたことはあるね。分かっちゃう?」

常闇
【まあ、師匠ならそれ程の腕を持つのなら是非とも戦いたいと言いそうだな】

「あ〜そういえばそんなこと言ってたな。戦いたくないからひたすら逃げたけど」

常闇
【っ!! 師匠から逃げただと!!】

「そう。いや〜ホント大変だったよ。ルーンが飛び交うは、ゲイ・ボルクが迫るは、オマケに弟子の彼や名だたるケルト英雄だけじゃなく、他の戦闘狂な英霊も来るはで、生きた心地がしなかったよ〜」

常闇
【それは確かに生きた心地がしないだろうな】

「あん時はマスターちゃんのおかげでね。何とか助かったけどさ〜、それでも一回だけ付き合ったら。再戦したくて狙われて、はあー。まあ、そんなことは置いていて、なんか思い浮かんだ?」


【正直、あっしらにそんなことを聞くのはどうかと思いやすが、まあ言うだけならタダでやすし、じゃあ、ノーネーム】

「う〜ん。変な人よりはマシだけど何でそれ?」


【いや、なぜか分かりやせんが頭にポッと浮かびやして】

「………保留で、じゃあ常闇ちゃんは?」

常闇
【ちゃ、ちゃんだと!!】

「ありゃ、ダメだった?」

常闇
【いや。ダメというわけでは無いが、う、うーん。呼ばれ慣れないせいか身体がむず痒い。
 それはさておき、ふむ………………ナイトメアは?】

サーティセブン
【悪夢ですか? では私からはルナティックと】

ドクター
【私からはトリックスター】

「ええ〜と、私って、そんなにヤバく見える」


【ヤバく見える。じゃないでやすよ!!】

サーティセブン
【正直に申しますと、あなたはそういう名前が多いじゃないですか】

ドクター
【私たちはあなたの正体に薄々気付いてるんですよ】

常闇
【もし、お前が古の魔化魍たちが語った存在(・・・・・)だとするのならば色々と納得出来るものがある】

「へえ〜。私って有名人?」


【ええ有名人でやす………………ありゃ、そういや迷家はなにをしてるんでやすか?】

迷家
【………………ナイちゃん】


【ん? なんでやすか?】

迷家
【だから、ナイちゃん!】

「へ?」


【もしかして名前考えていたんでやすか?】

迷家
【うん。みんなどうしたの? そんな深刻な顔して】

ドクター
【少し色々とありまして】

「いやいや、それよりも何で、そんな名前にしたの!?」

迷家
【え? だって変な人、顔は無いし、姿はボヤけて見えないし、名前もないし、だから無い無いだらけのナイちゃん!】

「ナイちゃん………………気に入りました」

跳たち(迷家除く)
【【【【はああ!!】】】】

「迷家の名前、ありがたく使わさせてもらいます。今日から変な人改め、ナイちゃんで宜しくネ!」

   跳
ボソッ【どう思いやすか?】

   サーティセブン
ボソッ【気に入ってのでしたら良いのでは?】

   ドクター
ボソッ【しかし、ナイちゃんですか】

   常闇
ボソッ【迷家の偶然か、かの者の気まぐれか、真名を掠りかけた(・・・・・・・・)名前をヨシとするとは】

迷家
【じゃあ、今日はここまでバイバイ、ん? あ本題は!!】

「あ!?」

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