人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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こんばんは〜。
大変お待たせ致しました。
今回は、葉栄班と北口襲撃班との戦闘回の予定でしたが、あまりにも葉栄班が長くなりそうなので、葉栄班オンリーです。
では、どうぞ!


記録百拾捌

SIDE葉栄

 幽冥の家族と狼鬼率いる過激派との戦いの場からかなり離れた場所、そこに7人の男女がいた。

 

「支部長! 北口奇襲班から魔化魍に奇襲されたと報告が!!」 

 

「支部長!! 西奇襲班からの連絡が途絶えました!!」

 

「チッ! 東奇襲班から掃鬼さんと噴鬼さんが魔化魍と戦闘開始!」

 

 側にいる錫鴉からの連絡を聞いた天狗たちの報告が耳に入る。

 しかもこの報告は同時に入った。つまり奇襲は失敗。これは此方が向こうを甘く見ていたことが原因だろう。先ずは–––

 

「東と西、北口で攻撃待機していた同志たちが攻撃を受けました。敵はこちらの動きを把握してたようです!!」

 

 手に持った狼鬼さんに繋がる錫鴉に天狗たちから聞いた情報を報告する。

 だが、報告が返ってこないところからすると、向こうも襲撃にあったのだろう。

 

「支部長!! これは作戦予想外です!! 早く撤退を!」

 

「馬鹿か! これ程の名持ちや名持ちに匹敵する力の魔化魍の情報を収集し総本部にこの情報を送らねばならない。

 最悪の場合は、支部長だけでも逃がさればいい。俺たちで足止めするだけだ!!」

 

 そう言って抜鬼は腕に嵌めた音撃擦弦(バイオリン)の本体から弓刀を引き抜くと同時に、弓刀を振るう。

 風で構成された音の斬撃が近くの茂みへ飛んでいく。

 

 茂みが斬られる瞬間に茂みから複数の影が飛び上がり、影たちは抜鬼たちの前に姿を現す。

 

 刺々しい針が無数に生えた特徴的な仙人掌の頭を持った人型 ジュボッコ(命樹)

 

 手に小豆らしきものを入れた笊を持つ作務衣を着こなした『呪術蛙』という二つ名を持つ蛙の人型 アズキアライ()

 

 背中に翼の生えた甲冑を身に纏い両手に長槍と長刀を持った馬の人型 ペガサス()

 

 捻れた一本角に前脚に装甲を纏った白馬 ユニコーン(刺馬)

 

 全体的に椿の装飾や飾りが目立った和装の女、おそらく植物系の妖姫でも長寿と言われるフルツバキの妖姫()

 

 妖姫と同じように全身に椿を生やし蔦が集まって球状の頭の『椿人』いや最近『老椿人』という二つ名に変わった人型 フルツバキ(古樹)

 

 苔の生えた背中に半透明な全身をもつ2大変水魔化魍であり『酒臭魚』という二つ名を持つ山椒魚 シュチュウ()

 

 正常な人間の胃のような色合いをして背に幾つもの触手を生やす虫の幼虫 ヒダルガミ()

 

 中部地方で暴れる二つ名持ちだけでなく他地方でもその名が挙がる二つ名持ちの魔化魍も混じった一団を見た一部の天狗は絶望に顔を青褪める。

 この作戦に参加する天狗の中で、この葉栄のいる班の逃亡を担当する天狗たちは普段、戦輪獣を使って物資運搬を担う運び屋のような裏方職の天狗だ。そういった天狗のほとんどは実戦経験が無い。

 

 実戦を経験したことのある抜鬼や戦闘担当の天狗、情報収集のために魔化魍のいる地に出ることの多い葉栄は経験から追撃に来る魔化魍は少ない(・・・)と予想し、いずれ戦いの場に出るかもしれない天狗たちに実戦の雰囲気を経験させようと連れてきたのだが、それが裏目に出てしまった。

 予想の数よりも明らかに多い魔化魍の数に、戦闘可能な者が2人しか居ないこの班に送り込むとは想定外だった。

 

「支部長。ここは我らが殿を務める。直ぐにこの場からお逃げを!!」

 

「さあ、お前らの相手はこっちだ!!」

 

 戦闘担当の天狗が背に担いだ3枚の円盤を投げ、天狗笛を吹くと円盤形態から戦闘モードへと変わる。

 天狗が出したのは黄檗盾の改良型の黄檗大盾、素早い攻撃に特化したディスクアニマル 青鍬形をベースにした戦輪獣 青大顎とディスクアニマル 山吹蛸をベースにした山吹長腕の3体の戦輪獣と抜鬼が魔化魍たちに仕掛ける。

 

 抜鬼はペガサスと戦いを始め、3体の戦輪獣は他の魔化魍たちに攻撃を始める。

 その流れに乗じて私は震えてる天狗たちに声を掛ける。

 

「抜鬼たちが戦ってる間に私たちは逃げますよ!!」

 

「でも、支部長。抜鬼さんや先輩を置いて……」

 

 甘いことを言おうとした天狗の頬をひっぱたく。

 

「何のために彼らが身を張ってると思ってるの!! 私だけじゃなく貴方たちのことを守るために彼らは戦っているのよ!!

 彼らの覚悟を無駄にするつもり!!」

 

 私の言葉にハッとしたのか天狗たちは背中の戦輪獣を下ろし、茜羽へと変え、その背に天狗たちは乗る。

 

「支部長此方に!!」

 

【逃がすと思うか?】

 

 茜羽の上から私に手を伸ばす天狗の首元にいつの間にか付いていたヒダルガミ()が天狗の首に触手をピトリと当てる。

 

「がああああああああ!!!」

 

 天狗の身体は急激に干からびていき、茜羽から転げ落ち、落ちた衝撃で彼の脚は折れ、左手首の先が砕ける。だが–––

 

「し、しぶひょ、う、ををたにょ……」

 

 天狗はそう言うと懐からあるディスクアニマルを取り出し、起動する。何を出したのかが見えた天狗のひとりが私を引っ張り茜羽の上に乗せて、宙へと羽ばたいた。

 それと同時に天狗の身体は首のヒダルガミ()を巻き込んで突然爆発する。

 

「……橙蟻」

 

 そう。自爆機能を持った唯一のディスクアニマル。

 自身の死を悟った天狗が魔化魍を道連れにと、自爆したのだ。

 

 1人の天狗の犠牲によって魔化魍が減ったことで逃げやすくなったと考えながら、葉栄を乗せた茜羽は遠くを飛ぶ。

 

SIDEOUT

 

SIDE劔

 突然の爆発に俺たちは動きを一瞬だが止めてしまい、その隙をついて目の前の鬼が俺の首めがけ弓刀を振るう。

 

「ちっ! 貴様」

 

 攻撃を防がれたことに苛立つ鬼の言葉を無視しながら、爆発のあった場所を見る。

 

【まさか自爆するとはな、けほっ】

 

 爆発の煙から出て来た乾の身体は背中の触手の幾つかが千切れ煤けているが大きな怪我はないようだ。

 

【無事か!?】

 

【無事とはいえ…、ちっ!】

 

 背後の何かに気付いた乾はその場から跳ねて、背後からの攻撃を避ける。

 

「ちっ! 潰れなかったか!」

 

 乾が見ると、そこには天狗の操る山吹長腕が乾のいた場所に触腕を振り下ろしていた。

 その背後で悔しがる天狗をどうにかしようと思うが、戦輪獣を操る天狗の位置が遠いことと目の前で攻撃する鬼が邪魔で近付けない。しかし、このままじゃ埒が明かねえ。

 

 劔が背中の翼を大きく広げて抜鬼に向けて翼を羽ばたかせると、強風が吹き、抜鬼を遠くへ飛ばす。

 

【こっちでやろうじゃねえか!】

 

 劔は吹き飛んだ抜鬼を追いかけて、宙で飛ばされる抜鬼に長刀を振り下ろす。

 

「舐めるなああああ!!」

 

 抜鬼も弓刀を前に出して、振り下ろされた長刀の力を利用して地面に降り、劔に向かって突撃する。

 

 鬼が勢いよく迫り、俺は長刀で防ぐ。だが、鬼は防がれると弓刀による連撃を繰り出す。

 だんだん弓刀を振るう速度が上がり、俺は長刀だけじゃなく、長槍も使って交互に振るい攻撃の軌道を逸らす。

 そうして打ち合っていると、僅かながらの鬼の隙を見つける。

 

 劔は抜鬼が弓刀を振るう際の一瞬の隙を突いて、長刀で弓刀を弾き飛ばす。

 

【覚悟しなっ!! なっ!!】

 

 だが、劔が目にしたのは音撃擦弦(バイオリン)を自身の身体に向けて突き刺そうとする抜鬼の姿だった。

 そう。劔が隙と思っていたのは抜鬼が撒いた罠だった。迫る撃擦弦(バイオリン)のバンカーに対して、劔が取った行動は–––

 

【(やるしかねえ)】

 

 そう。もう一つの武器である長槍を撃擦弦(バイオリン)に向けて突き出した。

 音撃擦弦(バイオリン)に仕込まれたバンカーと劔の長槍が互いにぶつかり合うと、2つの衝撃がぶつかり合い、衝撃波となってふたりを吹き飛ばす。

 

 ……ってて。

 くそ、脚も、翼が動かねえ。打ち所が悪かったのか? おまけに武器が無い。衝撃でどっかに落としたんだろう。顔を動かせば、木の幹にぶつかってた鬼が立ち上がろうとしてる。

 せめて、長槍さえあれば………ん? これは。へっ、ついてるじゃねえか。目の前にある物を拾って背に隠す。

 向こうも完全に立ち上がって、変身音叉を取り出していた。音叉は無骨な音叉刀に変わる。さっき俺が弾いたのが原因で弓刀が無いからな。

 音叉刀を持った鬼がゆっくり近付いてくる。俺に確実なとどめを刺すためにだ。だが、コレは予想してなかっただろう。

 

「さあ、往生だ!!」

 

 目の前に立つ鬼は武器の無い俺を完全に下に見ているのは、目に見えて分かる。

 俺に音叉刀を向け、俺の心臓位置に狙いを定めて、音叉刀を突き出す。

 

【そりゃ、テメエの方だ!!】

 

 俺は鬼から見えないように持っていたコレ(・・)を鬼に突き刺す。

 

「がはっ、な、ナゼ魔化魍が、俺の弓、と……」

 

 まさか、俺がコレ(・・)を使うとは思わなかったのだろう。吹き飛ばされた先にたまたま落ちていた弓刀(・・)

 深々と刺さる自分の武器を見た、鬼は面の下で目を見開いてることだろう。

 そのまま引き抜くと、多量の血が噴き出て、弓刀や俺の身体を赤く染めながら、地面に倒れる。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ち、ちくしょ、う」

 

 そのまま奴は俺の手にある弓刀に手を伸ばすも、伸ばした手は地面に落ち、奴は力尽きた。

 

【貴様には必要がなさそうだからな。俺が貰うぞ】

 

 劔はそう言って、抜鬼の腕に嵌る音撃擦弦(バイオリン)を持ち上げると音撃擦弦(バイオリン)を壊れないように抜鬼の腕から外して、弓刀を音撃擦弦(バイオリン)の中に戻し、動けるようになった翼を使って、天狗と戦う家族の援護に向かうのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE跳

 劔が鬼を吹き飛ばしたのを確認したあっしは術を使って乾を救出した。

 

【大丈夫でやすか?】

 

【お陰でな。だが、俺は戦輪獣とは相性が悪い】

 

 そりゃそうでやす。

 触れたものの水分または栄養を奪うといっても、それは生物に対して通じる能力でやす。天狗相手ではなく無機物な機械で動くディスクアニマルや戦輪獣には全く通じないもの。

 

【そこで休んでるんでやす。あっしらが奴らを相手しやす】

 

【すまねえ。俺は傷を治してるよ】

 

 すると、乾の身体を黄緑色の光が覆う。すると、ゆっくりだが千切れていた触手が少しずつ再生していく様子に跳は感嘆する。

 

 回復手段を持ってるとは以外でやすね。あの様子でやしたら暫くは戦闘に参加しないでやすね。

 じゃあ、早速でやすが–––

 

【こいつをくらえでやす!!】

 

 跳が掌に水分を集めて生み出した水球を遠くで指示を出す天狗に投げつける。

 

「むっ!」

 

 だが、天狗もそれを黙ってみてるわけではなかった。天狗のそばに控えていた黄檗大楯が腕を突き出して水球から自分の身を守った。

 

「不意打ちか? だが俺には通じんぞ!!」

 

 天狗が笛を吹けば、黄檗大楯はその図体から思えない速度で動き、跳の首を落とそうと鋏を突き出す。だが–––

 

【させるかっ!!】

 

【邪魔じゃの!!】

 

 地面から突き出た拳と脚が黄檗大楯の体勢を崩し、跳の首を狙った鋏は見当違いな方向へ向けられた。

 

「魔化魍め、いつの間に!!」

 

 天狗は地面から飛び出る拳と脚の持ち主である魔化魍に黄檗大楯を差し向ける。

 そして、地面をぶち破って現れたのは、再び黄檗大楯の身体を殴りつける命樹と蹴りとばす古樹だった。

 

命樹

【いや、隙だらけだったしな】

 

古樹

【そうじゃの】

 

 黄檗大楯の装甲は多少凹んだくらいで動きに問題はなく。

 天狗を守るように立ちはだかる。すると–––

 

【いやーーーーーー!!】

 

 盃の悲鳴が辺りに響く。

 盃の悲鳴を聞いて、天狗は嬉しそうに顔を歪める。

 

「おいおい。仲間の心配をしないで良いのか?」

 

 行かせる気は無いくせにと、内心毒付く跳に命樹は口を開く。

 

命樹

【此処は任せろ。お前は盃のところに行け】

 

【しかし!!】

 

古樹

【いってこい。この程度でやられる程、柔じゃない】

 

【………分かったでやす】

 

 2人の言葉を聞いた跳はそのまま盃の元へ向かおうとすると–––

 

「行かせると思うか!!」

 

 黄檗大楯が跳の背後を狙って鋏を突き出す。

 

SIDEOUT

 

SIDE命樹

命樹

【邪魔するな!!】

 

ユラユラ、ユラユラ

 

 命樹は頭の棘を抜き、その隣の古樹は身体に生える椿の花弁を抜いて目の前の黄檗大楯に投げる。

 棘と花弁は黄檗大楯の鋏の可動部分に突き刺さり、動きを止める。

 

「ちっ!! 黄檗大楯、とっととその魔化魍どもを片付けろ!!」

 

 天狗はそう言いうと、命樹たちに背を向けて何処かへ走り出した。

 黄檗大楯は天狗の指示を受けて、命樹と古樹へ向かって鋏を振り下ろす。

 

 命樹は再び、棘を抜いて黄檗大楯に投げる。

 しかし、黄檗大楯は鋏を振るって棘を弾き飛ばして、命樹に鋏を振るう。

 

命樹

【っ!?】

 

 弾き飛ばされたことに一瞬驚くも、命樹は振られた鋏の上に手を置いて、自身の身体を持ち上げて攻撃を避ける。

 

古樹

【ふむ。ならこれはどうだ!!】

 

 古樹が4枚の花弁を合わせて十字手裏剣のようにして、黄檗大楯の鋏にではなく、センサーとなる眼に向かって投げる。

 黄檗大楯は鋏で振り払おうとするも、鋏をすり抜けて、センサーに突き刺さる。

 

 片方のセンサーがやられて動きがぎこちなくなった黄檗大楯に2人は攻め込む。

 古樹は先ほどと同じ花弁の十字手裏剣を無数に生み出し、黄檗大楯の残ったセンサーや、脚の関節部分に向けて投げ続ける。黄檗大楯はセンサーは守ろうと、鋏で残ったセンサーを守るが、その間に脚の関節には花弁十字手裏剣は1つ、また1つと刺さっていく。

 

 その間に命樹は古樹の後ろで両腕を地面に突き刺す。数秒経つと同時に両腕を地面から引き抜いた。引き抜かれた両腕は肥大化して腕全体が棘で覆われた巨腕に変化する。

 

 そして、古樹はそれを確認すると、今度は古樹が地面に手を当てる。

 

古樹

蔓樹縛

 

 術名を云うと、黄檗大楯の四方の地面から植物の蔓が飛び出し、黄檗大楯の身体に巻き付いていく。

 黄檗大楯は身体を激しく動かし、蔓樹縛から逃れようとするが、古樹が黄檗大楯の脚の関節に無数に突き刺さした花弁十字手裏剣が阻害して、動きはひどく鈍重になっており、いつの間にか鋏も蔓で縛られて、黄檗大楯はその動きを完全に封じられた。

 

命樹

【さて、屑鉄に変えてやるよ】

 

 巨腕になった腕を構えて命樹は黄檗大楯に飛び掛かる。そして、その装甲に向けて巨腕な拳を連続で殴り始める。

 装甲に覆われている黄檗大楯の身体から装甲を砕く音とそれに付随して中の機械も滅茶苦茶になる音が響く。そして、装甲が割れて、中が剥き出しになった黄檗大楯に向かって命樹は巨大な右腕を掲げる。

 すると、左腕が少しずつ萎んでいくと同時に右腕が更に肥大化していき、黄檗大楯と同等ほどの大きさになった腕を黄檗大楯の身体に向けて横凪に振るう。

 

命樹

棘棘式投げ縄打ち(ニードル・ラリアット)!!】

 

 肥大化した右腕の一撃は剥き出しの中身を晒す黄檗大楯の身体に食い込む。

 

命樹

【ぬぬぬ!! うおらあああああああ!!】

 

 命樹の叫びと共に黄檗大楯の身体がメキメキと砕けていき、その身体は上下に両断される。

 両断され砕けた機械の破片が雨のように降ってくる中、命樹と古樹は拳を突き合わせる。

 

命樹

【さて、跳と盃も心配だし、探すか】

 

古樹

【ああ、私は向こうを、命樹は反対の方を頼む】

 

命樹

【おお】

 

 そう言って2人は盃と跳を探すために別れるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE跳

 一方、盃の悲鳴の元へ向かった跳が見たのは–––

 

【しつこいんだけどおおおお!!】

 

 顎に挟まれまいと小さな身体で逃げる盃の姿だった。

 

【この、盃から離れるでやす】

 

 跳は盃を追いかける青大顎の身体目掛けて、一条の電流を撃つ。

 盃を追いかけていた青大顎はそれを目視すると、蜻蛉返りのようにその場で回転し、跳の術を避けて、盃を挟もうと迫る。

 

【離れろと言ったはずでやす!!】

 

 跳は両手から術で作り出した無数の氷柱を撃つ。氷柱は背を向けた青大顎を突き刺そうと飛んでいく。

 

「青大顎後ろだ!!」

 

 突然の怒号に反応した青大顎は盃から離れて、飛んでくる氷柱を顎を左右に振って砕いていく。

 

【っ!?】

 

 跳は怒号の方に顔を向ければ、そこには先ほど、命樹と古樹の前から消えた天狗が立っていた。

 

「ちっ!! 魔化魍どもめ、さっさと死ね!!」

 

 天狗笛を吹くと、戦輪獣は狙いを盃からあっしに替えた。

 戦輪獣は顎を大きく開いて、あっしの身体を挟む。は、早い!

 

【いつの間に!! て、離せでやす!!】

 

「ははははっはは、どうだ。青大顎は戦輪獣の中で1、2を争うスピードを持ってるんだ。

 そのまま、その腹裂いてやる。やれ!!」

 

 あっしを挟む戦輪獣の顎がどんどん閉まっていくにつれて、腹のあたりから嫌な音が聞こえてくるでやす。

 

【がああああああああ!!】

 

 跳の身体を挟む青大顎は前肢を使って跳の腕を抑えているため、跳は腕を使って顎を掴むことも出来ない。徐々に閉まる顎に跳は苦悶の声を上げ、跳の作務衣に赤い染みが滲みだす。

 

「たっぷり苦しんで死ね魔化魍!!」

 

【誰かを忘れてないかな!!】

 

「!!?」

 

 突然の声に天狗は辺りを見回すが、誰もいない。

 だが、跳を挟んでいた青大顎の顎が徐々に開いていく、そんな指示を出すはずもないと天狗が見ると、小さな手で顎を開いていく盃がいた。

 

「なんだと!!」

 

【むむむ、小さいからって、みくびってもらっちゃ困るよ!】

 

 盃が青大顎の顎を開いたことで隙間ができた跳は青大顎の下部に蹴りあげて、青大顎の前肢の拘束から逃れる。

 

【助かったでやす。ありがとうございやす盃】

 

【気にしないで、さっき追いかけられた仕返しみたいなもんだから】

 

「コケにしやがって! 青大顎、スピードで撹乱しながら攻撃するんだ!! 来い山吹長腕!!」

 

 見た目は完全に小さな山椒魚の姿である盃によって青大顎の顎が外されるとは思わなかった天狗は盃を睨むが、盃は気にせず目の前の青大顎に集中していた。

 天狗笛を吹いて、青大顎に指示を飛ばした天狗は山吹長腕を側に呼び寄せる。すると天狗は山吹長腕に向けて不思議な旋律を天狗笛で吹き始める。

 

「(魔化魍どもめ今に見てろ!!)」

 

 そんな天狗の行動を知らず、跳と盃は青大顎のスピードを活かした攻撃に苦戦していた。

 術を飛ばしても当たらず、機械に対して能力は通じないと、相性も有るのだろうがとにかく2人は苦戦していた。

 

【撃っても当たらないんじゃ、意味がないでやすね】

 

 そう言いながらも青大顎を近づけさせないために跳は術を撃ち続ける。

 だが、向こうはこっちの攻撃を軽々避けて、いつでもこちらの頸を落とせると言わんばかり、ギリギリまで近付いて、こちらの身体に切り傷を幾つも作っていく。

 以前、春詠から聞かされやしたが、戦輪獣にはディスクアニマルの時よりも高性能なパーツをいくつも使用しており、天狗笛からの指示がなくともある程度は、自己判断出来ると言ってやした。その自己判断の設定は所有している天狗が設定出来るみたいなんでやすが、よっぽど陰湿な天狗なんでやす。

 

【嗚呼、もう!! 跳、広範囲に水を出せる?】

 

【出せやすが、何をするんでやす?】

 

【避けられるのなら、避けられることのない量で対抗するのよ】

 

【………なるほど。そういうことでやすね。分かりやした、タイミングはあっしが?】

 

【ええ。水系の術なら大抵は分かるから、いつでも良いよ】

 

【じゃ、早速!! 拡散水礫

 

 ひとつ、ひとつがバスケットボール大ほどの水の塊が散らばるように放たれ青大顎に迫る。

 

 戦輪獣は隙間を見抜いてギザギザ移動で飛びながらあっしに近付いてくる。でやすが–––

 

【残念でやすね。そっちは囮でやす、本命はこっちでやすよ】

 

 先ほどの盃との会話は、あの戦輪獣を油断させるためにわざと大きめの声で言ったのだ。

 あっしは指先から水流を出して、頸を狙って迫る戦輪獣に命中させる。水流の勢いで戦輪獣は地面に堕ちる。あっしの出した水流でずぶ濡れになった戦輪獣は距離をとろうと背中の羽根を動かしてあっしから離れようとする。

 

【おっと、逃がさないよ】

 

 青大顎の背にいつの間にか飛び乗った盃が青大顎の身体にかかった水流の水に触れる。

 すると、無味無臭のはずだった水流の水が一気にアルコールの匂いへと変わり、周囲に充満する。

 

【さあ、やっちゃって!!】

 

 盃は青大顎の身体からあっしの近くに飛び降りると同時にあっしの手から放たれた火炎が青大顎の身体に命中する。

 

【即席火焔地獄でやす!!】

 

 青大顎の身体は盃の力で発火性の高い酒に変えられた術の水で全身を濡らしている。そんな状態に炎を浴びせたらどうなるのか。

 言うまでもない、液体に炎が着火し、どんどん炎は広がる。

 

 やがて青大顎の身体を橙に染まった炎が包み込む。

 

ギイイイ、ギイ、ギ・・・

 

 機械故に苦しむはずのない戦輪獣は奇声のような機械音を上げながら、のたうちまわり、その機能を停止した。

 

 青大顎から視線を外した跳は残った戦輪獣と天狗を見る。だが此処で跳は長年の戦闘経験による直感が働く。

 何かが起きると、その直感に従い、跳は下にいる盃を抱えるとその場から急いで離脱する。そして、跳の直感は正しかった。

 

「発射あああ!!」

 

 天狗の掛け声と共に山吹長腕の攻撃に使う4本の触腕から衝撃が跳と盃のいた場所を通過する。

 通過した場所の地面は軽く抉れていてが、跳はそんな事よりも気になることがあった。

 

 今の攻撃に見覚え、いや既視感(デジャヴ)を感じたからだ。いや、コレは跳だけじゃなく盃も同じように感じた。

 

 そして、山吹長腕から放たれたものの正体に気付いた跳と抱えられた盃は驚愕の表情を浮かべる。

 そう。それの正体は、全ての魔化魍の共通の弱点である『清めの音』つまり、音撃を放ったのだ。

 

【馬鹿な、音撃を放つ戦輪獣でやすか!!】

 

【嘘…でしょ】

 

 戦輪獣 山吹長腕。山吹蛸というディスクアニマルを元に生み出されたこの戦輪獣は他の戦輪獣には無い機構が搭載されていた。それが『音撃機構』。

 それは鬼が音撃を放つ際に使用する音撃武器全てに搭載されている特殊機構で、それを大型化し、初めて搭載されたのがこの山吹長腕だ。

 つまりこの戦輪獣は、『音撃機構』搭載の次世代形戦輪獣なのである。山吹長腕はそのプロトタイプとして開発された戦輪獣だ。

 攻撃として使う四つの腕に音撃管などの管型音撃武器と同じ『音撃機構』が組み付けられ、背面に存在する空気孔から空気を取り込み、その空気を腕にある機構に送り、音撃を放つ。

 プロトタイプ故か、オリジナルの音撃とは異なり、その威力はオリジナルの音撃の半分程の威力だが、それを触腕の数でカバーし、オリジナルに近い威力にすることに成功した。

 今のところは管系の音撃しか撃てないが、音撃棒や音撃弦、後々には特殊な音撃武器の音撃を撃つ戦輪獣を猛士は開発しようとしている。

 

「どうだ驚いたか魔化魍共! 猛士は日々お前たち魔化魍を滅ぼすための武器を開発してる。

 コレはそんな武器の初期型さ。今にコイツよりも高性能の戦輪獣が次々と産み出され、俺たち天狗がお前ら滅ぼせるようになる!!」

 

【(まさか、ここまでの物を作り出したとは、思いもしやせんでした。ですが–––)】

 

 だが、跳は思った。

 それがどうしたと、鬼と戦う魔化魍は常に音撃に警戒している。その対象が鬼の他に戦輪獣というものが増えただけだ。

 跳は盃を地面に下ろして、単身で天狗と山吹長腕の元へ歩き出す。

 

【確かにその戦輪獣が音撃を放てるようになったのは脅威でやす】

 

「そうだろう。コイツを使って俺は…」

 

【でやすが】

 

「ああ?」

 

【使っている者が愚かじゃ、その高性能さはただの肥やしでやすね】

 

「なんだと!!」

 

 跳は盛大に煽った。

 分かりやすいほどに煽った。

 

「じゃあ、そんな俺にヤラレたらお前は肥やし以下って訳だ!!」

 

 天狗はそう叫ぶと山吹長腕の触腕を跳に向け、音撃を放つ。

 一直線に放たれる音撃は跳のみを狙う。滅茶苦茶に撃つ、音撃を涼しい顔で避け、なんなら更に煽るかのように笊を持って小豆を研ぎ始める。

 

ショキ、ショキ、ショキ、ショキ

 

 小豆を研ぎながら戦う跳の姿に、天狗は更に激昂する。

 

「キサマ、真面目に戦え!!」

 

ぽあ(じゃあ)ぽっくら(ちょっくら)酔いましょうか!!】

 

「しまった! ぐうう」

 

 跳のみに集中していた天狗は近くまで来ていた盃の存在に気付かず盃の口から吐き出された煙をモロに浴びてしまう。

 

「おにょれ、みゃかもう!」

 

 そこには呂律の回らない舌で喋る天狗がいた。

 盃ことシュチュウはあらゆる液体を酒に変えるにそうあらゆる液体を、それが例え、自身の口元に溜まったヨダレだろうと、盃は跳に下ろして貰った後に天狗への攻撃のために、口の中に多量のヨダレを溜めた。

 跳が盛大に天狗を煽り、天狗が跳だけを注視してる間に溜めたヨダレを酒に変え、さらに気化させて天狗の隙を窺う。

 そして、隙を見せた天狗に酔いどれブレスを噴き出した。

 

 結果、天狗は急性アルコール中毒による酩酊状態になったのだ。

 そして、盃が天狗から離れたの確認した跳は宙へと飛び上がる。

 

多攻呪術(たこうじゅじゅつ)参型(さんのかた) 四面楚歌(しめんそか)

 

 宙にいる跳が手を合わせると、その周りを様々な術が浮かび、術が完成すると天狗に向かって飛んでいく。

 術が次々と生み出されては、天狗に向かって飛んでいき、また生み出すを繰り返している。しかも生み出される術の属性はランダムなのに、色は全て統一され対応した術だと思い攻撃すれば、さっきの術とは正反対の属性の術に天狗は困惑する。

 

 天狗も負けじと狼鬼から持たされた量産型音撃管で術を撃ち落とし、操る山吹長腕を使って触腕先から音撃を放つが、それでも次から次へと放たれる術によってことごとくかき消されていき、オマケに先程、多量に浴びせられた盃の酔いどれブレスが天狗の五感を乱し、酩酊状態にされたこともあり、次第に空気弾や音撃をすり抜けて幾つもの術が天狗と山吹長腕に迫る。

 

 天狗は避けるも酩酊してる状態でいつまでも避けれる筈はなかった。脚をもつれさせて、その場に倒れる。倒れた拍子に音撃管も天狗笛も落としてしまい、天狗はなす術もなかった。

 

「しにゅみゃえに、ちゅたえときゃよかったなあ」

 

 自身の死を悟った天狗はそんなことを呂律の回っていない口で言い、跳の放ったそれぞれの属性を持った幾つもの術が天狗に降り注ぎ、地面を砕きながら辺り一面に土埃が舞う。

 

【終わりやした】

 

 そう言った跳の先には、ガラクタの塊と化した山吹超腕と肉塊と化した天狗が残っていた。

 この場にいないのは、逃げた天狗たちを追いかけてる2人と鬼と戦っている劔でやすね。

 

【おい。無事か!!】

 

 おっと、噂をすれば影とやらでやすね。まあ、あの2人の心配は必要なさそうでやすね。

 耳をすませば、聞こえてくる落雷の音に跳は歪んだ笑みを浮かべるのだった。

 

SIDEOUT

 

SIDE緑

 抜鬼と天狗が劔たちと戦っている最中–––

 乱雑に生えた樹々を避けながら飛行する3つの影。

 

 1人の天狗の自爆によって、逃げられた葉栄と3人の天狗の操る茜羽だ。

 

「後井さん。くそ」

 

 天狗の1人が自爆した天狗の名を言いながら涙を流すが、それでも茜羽を操れているのは流石としか言えないだろう。

 しかし、彼らは悲しんでる暇はなかった。急いでこの場から離脱して、葉栄を総本部に送らなければならないのだから。

 

ヒヒィィィィィン

 

 だが、そんな彼らの耳に追っ手の魔化魍の鳴き声が聞こえくる。

 声の向きに顔を向ければ、蹄から電気を迸らせながら駆ける刺馬の姿が見えた。そして、刺馬が角を此方へ向けると、角先から電撃を放ってくる。

 

「「「っ!!」」」

 

 此方へ放たれた電撃を天狗たちは各々の判断で躱す。それを見た刺馬も駆けながら電撃を放ち続ける。

 

「っ! 見たところ電撃は真っ直ぐしかいかないようだ。あれに注意すれ「逃がすわけないでしょ」!!」

 

 いきなり天狗の真横から現れたのは、近くの樹の太い枝を踏みながら跳ぶ緑だった。

 そして、緑は手提げ袋から十手を取り出し、茜羽の上の天狗に振り下ろす。

 

「うお!!」

 

 天狗は茜羽を傾かせて、緑の十手を避けると、茜羽を動かして翼の羽ばたきを緑にぶつけて、上へ飛ぶ。

 

 茜羽によって上から落ちてくる緑の下には刺馬が立っており、緑が近くまで来ると緑を乗せるように後ろ脚を出した。

 刺馬の行動を理解した緑は刺馬の脚を踏み台にして再び宙に舞い戻り、少し離れた位置で飛ぶ2体の茜羽を視界に収めると、十手の持ち手の巻いた紐を緩め、緩めた紐を指に通して十手を右側に飛ぶ茜羽に向けて飛ばす。

 

「なっ!!」

 

 飛ばされた十手は茜羽の身体に深く刺さり、それを起点にして緑は紐を握りしめて某野生児のように宙を振り子のように移動すると十手が突き刺さっていない葉栄を乗せた茜羽の近くまで移動するとその茜羽の翼を勢いよく蹴りつける。

 勢いを合わせられた蹴りによって茜羽の翼は真ん中から砕かれ、その衝撃で葉栄は空中に放り出され、天狗は茜羽と共に森の奥に落下した。

 

「支部長!! え?」

 

 十手の突き刺さった茜羽に乗った天狗は落ちていく葉栄を助けようとするが、いつの間にか茜羽の上に置かれていたものに理解できず、その一瞬の間によって天狗は茜羽の上に置かれていた爆弾で吹き飛ばされ、千切れ飛ぶ腕と砕けた破片が落ちていった。

 そんな爆風の中から飛び出た緑は落ちていく葉栄の姿を確認すると近くの幹へと着地する。

 

「うわああああああああ!!」

 

 そして、空中に放り出された葉栄はそのまま地面の染みになろうとした瞬間–––

 

「支部長!! 手を!!」

 

 攻撃から逃れた最後の茜羽に乗った天狗が落ちる葉栄の手を掴んで、地面ギリギリの場所から拾い上げる。

 

「しっかり捕まってください!!」

 

 葉栄を背に寄せた天狗は天狗笛を吹く。茜羽は笛の音に応えるようにその翼を大きく羽ばたかせて森の奥へと消える。

 緑は逃げる茜羽に十手を当てようとしたが、すでに射程距離外にいる茜羽に当てることは出来ず、刺馬の側に降りてくる。

 

「逃げられた!!」

 

 緑は悔しいそうに顔を歪めて、葉栄を乗せた茜羽の消えた森の奥を睨む。

 すると、隣にいた刺馬が緑に話し掛ける。

 

刺馬

【私の背中に乗って】

 

「え? 背中って、貴女確か認めた者以外背には乗せないって」

 

刺馬

【今はそんなことにこだわってる場合じゃありません。このまま逃げられてしまえば私たちのこれからの戦いが不利になります。なんとしてもあの情報をもった人間を片付けませんと】

 

 ユニコーン種の魔化魍は総じて誇り高い種族である。

 自分の背に乗せる相手を見極め、その誇りに見合った者を乗せる。そんな種族としての誇りを捨て、緑を乗せようとする刺馬の覚悟を理解した緑もその覚悟に応える。

 

「分かりました」

 

 そして、緑は刺馬の上に乗ると刺馬が口を開く。

 

刺馬

【私の上から落ちないように身体を固定してもらえますか】

 

「分かりました」

 

 言われた通りに緑は刺馬の身体から落ちないように腕の一部を本来の姿である妖姫の腕に戻し、身体に腕を巻きつけ身体を固定した瞬間–––

 

刺馬

(いかづち)よ!!】

 

 刺馬の声に反応し、晴天だった空が急に暗雲に変わり、その暗雲から幾つもの雷が刺馬の角先に落ちる。角は雷を吸収していき徐々に輝きを持ち始め、それと同時に刺馬の身体も山吹色に発光する。

 やがて雷を落とす暗雲は消え、雷の力をその身に宿した刺馬が逃走する最後の茜羽に乗る葉栄と天狗の姿を捉える。

 

刺馬

【振り落とされないようにしてください】

 

 その言葉と共に音が響く。

 まるで地面に雷が落ちたような轟音が響くと緑と刺馬の姿は消え、重く踏み抜かれて陥没した地面だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、葉栄を茜羽に乗せた天狗は後方を気にかけながらも守るべき存在の安否を確認する。

 

「支部長。大丈夫ですか?」

 

「たたた、お陰様でね。もう少し優しく拾い上げて欲しかったよ」

 

 苦言をこぼすも支部長の無事を確認した天狗は、茜羽の飛翔速度を上げる。

 だが、天狗の耳に何か音が聞こえてくる。

 

ヒヒィィィィィン

 

 蹄が大地を削りながら駆ける刺馬とその背に跨って十手を構えた緑の姿が天狗と葉栄の目に入る。

 あれほど離れたのにと天狗は内心で思いながら、隣の葉栄を見る。このままでは追いつかれると思った天狗は手に持つ天狗笛を葉栄に渡す。

 

「支部長、天狗笛の使い方分かりますよね?」

 

「え? 多少は吹けるけど」

 

「じゃあ、俺が時間を稼ぎます。その間に支部長は逃げてください!!」

 

 天狗の顔を見て葉栄は彼が何をしようとするかの察する。

 

「酒井くん!?」

 

「支部長! 情報を必ず持ち帰ってください!!」

 

 葉栄にもう少しと追いつく瞬間、茜羽から天狗が飛び降り、手を大きく広げて刺馬の前に立ちはだかる。

 葉栄を守るために僅かな時間でも足止めをと言わんばかりの覚悟を決めた天狗。だが現実は無情にも電気を迸らせた刺馬の捻れた角が眼前の天狗の腹を貫く。

 

「ぐがあああ!!」

 

 天狗が腹を貫かれると同時に角に溜め込め込まれた電気が天狗の体内で解放され、内側から天狗の身体を焼く。

 

 天狗の身体はものの数秒で黒焦げの死体へと変わり、刺馬がぶるりと首を振るうと炭化した死体の身体が崩れて、まるで死体など無かったかのようにそこには何も無かった。

 邪魔するものがない刺馬は更に加速し、刺馬に乗る緑もその加速に耐えながら、目前の茜羽に十手の照準を合わせる。

 

「ハッ!!」

 

 十手は緑の手を離れ茜羽の翼を貫き、緑は茜羽に飛び移ると同時に茜羽のボディに蹴りつける。やがて茜羽の身体を中心にひび割れていき、空中で茜羽は無惨に砕け散り、乗っていた葉栄は地面に転がり、緑は側の樹の幹を足場にして地面に着地する。

 そして、転がり落ちた葉栄に緑は十手を構えながら近付く。

 

「舐めるなああああ!! ぐぶっ………があ、ああ」

 

 最後の反抗かその手には砕けた茜羽の翼片が握られ、緑の首筋に突き刺さろうとする。

 

「これで、お仕舞い」

 

 だが油断のしていない緑は十手で翼片を砕き、そのまま流れるように葉栄の腹に深々と十手を突き刺す。

 

「ん?」

 

 刹那、何故か違和感を感じた緑だったが、そのまま十手を引き抜くと、引き抜かれた腹から大量の血を流しながら葉栄はその場に倒れ、痙攣を始める。

 

「葉栄支部長!!」

 

 声の方向を見れば、先程叩き落とした筈の天狗がいた。だが、さっきの攻撃で乗っている戦輪獣の翼は歪に曲がりまともな飛行が出来ていない。

 だが、天狗は背にある戦輪獣の円盤を緑たちに投げつける。

 

「はっ!」

 

 緑は飛んでくる円盤のひとつを明後日の方向に蹴り飛ばし、もうひとつに容赦なく十手を振り下ろした。

 十手を叩き込まれた円盤は一部は欠けるも、そのまま変形し緑大拳となる。

 

「よくも葉栄支部長を!!」

 

 怒りでわなわなと震える天狗はそのまま天狗笛を吹いて、戦輪獣に攻撃の指示を送る。

 しかし、葉栄を殺した緑にばかり目を向けた天狗は、自分に迫る影に気付かなかった。

 

ヒヒィィィィィン

 

 刺馬の鳴き声に呼応するかの如く、角は強烈な光を放ち、辺りを光に包み込む。

 

「がああああ!! くそ! 目が! 己、魔化魍ぶち殺してやるぅ!!」

 

 無論それを直視した天狗の目は焼かれ、失明した天狗は目を抑えながら、緑大拳で辺りを無茶苦茶に殴りつける。見当違いな方角を殴り続けて樹を叩き折り、地面を陥没させる緑大拳に脅威を感じない刺馬はそのまま角を天狗に向ける。

 すると刺馬の角に電気が迸り、角の先端に球状になにかが作らられていく。

 

刺馬

電磁捻角砲(パルスキャノン)!!】

 

 角の先端に集まった電気エネルギーの塊は真っ直ぐ、天狗に放たれる。

 それは天狗の身体を貫いて、遥か彼方へと消えた。

 

「がふっ……、なにが…」

 

 目が見えないために自分の身体に何が起きたのか理解できない天狗は腹に空いた穴を確かめることもなく倒れ、そのまま事切れた。

 

刺馬

【緑、見つかりましたか?】

 

「いえ、まだ探しています。ん? これですね」

 

 そう言って緑が痙攣も止まり既に死んでいる葉栄の身体を弄って、服の下に隠されたディスクを見つける。

 緑が手に取ったのは竜胆蝙蝠のディスクだった。そのディスクを手提げ袋に仕舞い、緑は踵を返そうとすると–––

 

刺馬

【コレをどうしますか?】

 

 刺馬に呼び止められる。

 コレと言うのは、おそらくこの支部長と天狗の死体のことだろう。普段なら持ち帰ると言いたいところなのだが–––

 

「放置でいいでしょう。私たちは空間倉庫の術習得していませんし、それにその内、土に還ります。さあ、戻りましょう」

 

 緑の言葉に納得した刺馬は、緑の側に寄って服を噛み、緑の動きを止める。

 

「何でしょうか?」

 

刺馬

【歩くよりも私に乗ったほうが早く帰れます】

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 そう言う刺馬の言葉に甘えて、緑は刺馬の背に跨り、そのまま緑と刺馬は家族の元へ駆けるのだった。




如何でしたでしょうか?
灯子班だけ戦力過剰だったのは予言の予知内容でこの班のことを聞いたからです。家族を大事に思う幽冥は未来でのもしもを考えて、たった7人に対して、過剰な戦力で灯子たちにぶつけました。まあ、そりゃ情報を持って逃げようとしたら、それは潰さないといけませんよね。情報ほど怖いものはありませんからね。今の世の中もそうですけど。
因みに劔が抜鬼の音撃擦弦(バイオリン)を奪ったのは、捕虜の突鬼に渡して、万全の状態で戦いたいという理由です。
次回は北口襲撃班の話です。ではおまけコーナーに続きます。

〜おまけ〜
迷家
【イエーーーーイ! おまけコーナーの時間だよ♪】

舞(櫛)
【………何処?】

迷家
【お、来た来た。今回のゲストはマイクビの舞の櫛ちゃんだよ〜】

舞(櫛)
【………姉様たちは?】

迷家
【うんとね。変な人に頼んで君だけ此処に来て貰ったから居ないよ】

舞(櫛)
【………此処は?】

迷家
【おまけコーナーの特別空間。僕が君に質問する場所だよ】

舞(櫛)
【………質問?】

迷家
【そ! じゃあ、早速質問ね。君のその櫛って生前使ってた物なの?】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【へえ〜。誰かからのプレゼント?】

舞(櫛)
【………母様が】

迷家
【お母さんが?】

舞(櫛)
【………誕生日に】

迷家
【そっか、じゃあ他の簪ちゃんも、鏡ちゃんもプレゼントなの?】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【因みにどっちが長女なの?】

舞(櫛)
【………簪の姉様】

迷家
【へえ〜。じゃあ、鏡ちゃんが次女で櫛ちゃんが三女ってことか】

舞(櫛)
【………そう】

迷家
【なるほどね。おっと、そろそろお別れの時間だね。
 じゃ、また次のおまけコーナーでバイバイ!!】

舞(櫛)
【………さようなら】

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